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2019映画批評#3 天気の子

公開からだいぶ時間が経っているのだがやっと 天気の子の映画を観てきた。

素晴らしい素晴らしくない、好き嫌いなどの感情は観た人が決めれば良いのだと思うけれども、今の時代を美しく描写する作品にとても心を奪われた。

いくか風化されてしまうのであろう今の東京、震災が続き異常気象というフレーズを耳にする2019年においてこの映画が伝えたかったものは何だったのだろうか考えている。

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小説版

前回の君の名は。でもそうであったのだが、今回も映画と小説を並行して作成していたそうだ。どうやら、君の名は。の際には製作委員会の方からのお願い(大人の事情)で乗り気でなかったようであるが、この並行制作の中で相乗効果があったことを実感していたそう。そのため、今回でも同じような制作スタイルを用いたということだった。

君の名は。の映画を観たあとに小説を読んだ際には、映画がそのまま文章になっているように感じたのだが、今回は小説にしかない描写が多いように感じた。それについては小説版あとがきにて語られており、小説と映画というメディアの特性上小説では描かないと補完できない表現があるということで、音の効果がない文章というコンテンツの中で読者の心を動かせる表現が多く取り入れられることになったのではないかと思う。

また、あとがきで語られている音楽担当をされたRADWIMPS野田洋次郎さんとの関わりについて語られている。君の名は。からわずかの期間で作り上げた台本を野田さんに送りその三ヶ月後に送られてきたデモテープには「愛にできることはまだあるかい」「大丈夫」が録音されていた。最終的に物語のエンディングは「大丈夫」の歌詞からインスピレーションを受け作成されたことも明かされており、歌詞と比べて物語を読み直すと、素晴らしく美しく同じ描写がされていた。

野田洋次郎さんの解説も興味深くプロデューサーの川村元気さんと三人でキャラクター心理を決定したことや、「大丈夫」の歌詞がエンディングにそのまま描写されることになった責任の重さ(変更を何回も申し出たらしい)について書かれていた。きっと想定していなかったことなのだろうけれども、信頼する深海誠さんが言うのであれば…ということで自分の作った曲であるのに、「大丈夫」の歌の意味を新海さんから教えてもらえたと語っている。

今回も君の名は。と同じく、映画を観てから細かい描写の意味合いを探し求めて衝動的に小説を買いに走り、一気に読み切った。小説にしか書かれていない描写が多く、映画の補足理解につながったのでとても楽しく、この世界観を違う方法で2回楽しめたのは最高に幸せな体験であった。

問題を抱えた子供達

天気の子では子供達が次々に法を犯していくさまが描かれている。これに対して万引き家族を連想する人も多く居たようである。

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これは本人からもインタビューで語られている。

万引き家族』はすごく社会的な映画だと思いました。『天気の子』は貧困問題に正面から取り組んだ作品では全くなく、アプローチが全然違っています。僕の映画では、ただ単純にどういう状況であっても楽しそうに生きてる少年少女を描いてみたかった。

食材を買うお金がこれしかなくてこういう食材しか手に入らなくても、その中でササッと鮮やかに美味しそうなものをつくってくれるみたいな。

ラストシーンもそうなんですが、どういう状況であったとしてもそれでも笑顔を見せるような姿をみて、自分自身が励まされたいという気持ちがあったと思います。

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万引き家族でも同じように、社会的に認められない家族達が楽しそうな日常を過ごす姿が描かれていたことから同じ印象を感じる人が多かったのかもしれない。

天気の子で描かれていた若者たちのどこか無鉄砲で衝動的に突き進む姿というのは、大人になりどこかに置き去りにしてしまった懐かしい感情にあるように思う。

その対比として、大人と子供の間にいる夏美、大人になってしまった須賀の発言や言動が描かれているところも様々な人の感情に訴えかけている部分なのではと感じた。

変わりゆく東京の今の景色

映画の中には隈研吾さん設計の国立競技場を始め、六本木ヒルズスカイデッキやレインボーブリッジなど今の東京を色濃く、かつ繊細に描写されている。

どこかのインタビューで語られていた記憶があるのだが、変わりゆく町並みを描くということを大切にしているそうだ。

オリンピックに向けて着々とまちづくりは進み、渋谷もさらなる開発が進んでいるが、その以前の姿というのはどこかに綺麗に残されておいても良いと思う。東京に住む人々にとってこの作品はよりリアルであるし、地方や海外から来た人たちにとってはこれが映画で描かれていた今の東京か、と思える景色。

時に写真ではないかと見違えるほど繊細な表現で描かれた今の東京は映画の中でとても印象的であった。 

夏美の存在

主人公である帆高と陽菜はとても印象的であるのだが、個人的にとても印象深かったのは夏美という存在である。

就職活動を行い、社会人という大人のスーツをかぶってしまう前の存在。どこか大人にならなければ行けないという思いの中、やりたいことも分からない。

実は須賀の仕事である取材を大いに助ける、人の話に疑いもなく興味を持ち話を引き出し、周囲を幸せにでき、繊細な感情に気がつけるという、かけがえのない才能の持ち主であることを本人は気づいても居ない。

帆高の東京生活を大いに助けた存在である彼女の描写は、とても現実的であり、悩みの多かった年頃の感情と大いにリンクする部分があった。 

僕たちだけが知る秘密

晴れ女になった陽菜は人柱にならなければならないという運命を背負ってしまう。人柱になれば天気は元通りになり、ならなければ異常気象は続き、東京を別の姿に変えてしまう。

物語は高校を卒業した帆高が東京に戻ってくるという所から始まるのだが、モノローグで語られるこの物語のキーワード「僕たちだけが知る秘密」というのは、陽菜が人柱にならないという選択であった。

この秘密というのは、物語の中では時に誰もが知っている(異常気象が解けた時に少女が天に昇っていく夢を誰もが見た)ことのようにも描かれているし、須賀は帆高の意思で世界が変わってしまったなんて自惚れるなと言う。

そういった中で映画を観終わった際に、秘密はこのことなのだっけ?と思ってしまった。どこか現実味のあることしか言わない須賀の感覚が自分にあるのか・大人になってしまったからそう思ってしまうのか、などと思ってしまった。

ソフトバンクのお父さん犬

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事前にCMを観たことがあったのでうっすらと認識していたのだが、映画を観る際には物語に惹き込まれすぎて少しもソフトバンクのお父さん犬の存在に気が付かなかった。

どうやら2回出てくるのでもし次観ることがあれば探したい。 

他にも、君の名は。の登場人物が続々と登場しており全てに気がつけなかった。こういった散りばめられた宝探しを楽しみに何回も観に行く人も多いのではないかと思った。

RADWIMPSの曲

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劇的に映画に彩りを加えているのがRADWIMPSの曲。グランドエスケープを歌う三浦透子さんの透明感・力量のある歌声も印象的であった。

小説版やインタビューで明かされた物語の内容自体に大きな影響を与えた素晴らしい曲達がとても良かった。

映画を観終わったあとに無限ループで曲を聴いては歌詞を読んで、映画の場面を思い出すという事を繰り返している。

良い映像にいい音楽はつきものである。現に君の名は。といえば前前前世が頭に流れ、スパークルを聴くと彗星を思い浮かべる。

いつか未来に「愛にできることはまだあるかい」を聴くと、天気の子を思い出し、あの日の映画館を思い起こし、衝動に駆られて小説を買いに走ったことやブログに忘れないように感情を吐き出した今を思い起こすのだろうと思う。

代々木会館

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六本木で天気の子を観てすぐに代々木に向かった。映画の中で晴れ女になった舞台である代々木会館は映画の中そのまま残っていた。8月に取り壊しが始まるということでバリケードで囲われていた。代々木駅から驚くほど近くにあり、時代が取り残されたような建物である。建物を見て映画の世界に入ったようにドキドキとしていたのだが、周りを歩く人達はまるで興味のないように過ぎていくそのコントラストが東京に来た頃の感覚にそっくりだった。

小説版天気の子

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君の名は。のときには少しがっかり感のあった小説版であったけど天気の子はとても良かった気がする。

帆高の家で理由がきっと父親の締め付けや島暮らしの閉塞感から逃げ出したかったこと、須賀の奥さんの死因が人柱でなく突然の事故であったであろうこと、その後に間違いを犯し親権を義母が取ったことなどが分かった。

また、三葉や滝の登場シーンがより詳細に描かれていた。映像と違い文章は過ぎ去らないのでじっくり文字を終え場面を理解しながら世界を体験できたのは小説というコンテンツならではだったからであろう。

何よりもあとがきや解説で語られた物語の制作過程も知ることができたのは嬉しかった。

須賀圭介の妻について

小説の第6章にて

天気の巫女だの晴れ女だの信じていない

と書かれていることから奥さんを晴れ女の人柱として失ったとは考えにくい文章があった。

そのほかにも夏美と陽菜の会話にて

何年か前に事故でなくなっちゃった

とあることからも、晴れ女だったという予想は違うのではと思われる。

天気の子飯

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ジブリ飯などもそうであるが、物語に出てくるご飯というのはとても美味しく見える。

いつか再現したい。

感想

これだけ評価されている作品を好き嫌いで表すのはもったいないほど素晴らしい映画だったと思う。

確かに君の名は。のように狙った感の強い構成により毛嫌いする人はいるのかもしれない。そういった人にはインタビュー記事などだけでも良いので読んでみると良い気がする。

素晴らしい作品を作り出してくれた新海誠さんや関係者各位に改めて感謝したい。

インタビュー記事

news.yahoo.co.jp

eiga.com

www.cinematoday.jp

www.sanspo.com

www.excite.co.jp

kai-you.net

ddnavi.com

www.animatetimes.com

www.oricon.co.jp

www.huffingtonpost.jp

veryweb.jp

www.nhk.or.jp

その他記事

realsound.jp

realsound.jp

spice.eplus.jp

小説 天気の子 (角川文庫)

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