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2019年 書評#7 HELLO, DESIGN 日本人とデザイン

IDEO Tokyoを卒業された石川俊祐のデザイン思考に関する本を読んだ。

本の大枠の内容としてはクリエイティブ・マインドセット(英書名Creative Confidence)を優しく読みやすくしたものという印象でした。

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法

 

第一章は、デザイン思考とは何であるかという話を、"Design"(課題の発見とその解決のための設計)と「デザイン」(ビジュアルを整えること)の英語と日本語での一般的に持たれている印象の違いについて、日英双方で暮らしたことのある石川さんの視点から語られている。

自身も外資系メーカーで働くにあたり、"Design"というと設計、仕組みづくりというニュアンスで使われていることが多いことに最初慣れなく勘違いすることも多かった。製品開発部もProduct Design Developmentと言われており、"Design"という意味合いが日本と違うのは本にかかれていた内容そのままであった。

つまり、なにか解決が必要な物事に対して、「問いを設定し、その問いを解決する人たち」のことをデザイナーと総称するというのが英語での"Design"という意味合いであると書かれている。

第二章ではデザイン思考のマインドセットについて書かれており、一つだけあげる「デザイナーになれる」条件に「自分の主観に自信を持っていること」と挙げられています。

自分の「おもしろい!」「つまらない」「素敵だなあ」「なんでだろう?」「おかしくない?」「引っかかる」「気になる」に蓋をせず、大切にできる人。それをもとにしたアイデアを、臆さず相手に伝えられる人です。

主観を大切にするということでよく感じるのは外国人は臆せず自分の考えを言いたがることが多い印象があります。それを美徳と思っている部分も感じ、それをリスペクトし合う印象です。日本的な文化ですと、「みんなが思う正解について綺麗に合致したコメント」を求められることが多く、主観というよりも、暗黙的に想像している正解を言った方が良いというような感覚が大きい。そうすると、その正解に合致していない想像しかできないと発言しない方が良いのでは…というブレーキをかける。

こうすると主観を大切にできる機会がどんどん失われてしまい閉塞感を感じるということがあるのではと感じている。

この本で論じられているクリエイティブコンフィデンスを持つためのマインドセットは4種類あり、①曖昧な状況でも楽観的でいること、②旅行者/初心者の気分でいること③常に助け合える状態をつくること④クリエイティブな行動を信じること。これらは先に述べたクリエイティブ・マインドセットにおいても同じことが書かれていたと思います。

その中で2つの約束事をして筆者が付け加えている点が日本人として意識しておくべき良い点のように感じました。

まず、自分は創造的ではないとか、自分のアイデアなんて高が知れているという考えが頭の片隅にでもあるとしたら、その思い込みを捨てること。いきなり自信を持つことはむずかしいかもしれません。でも、まずは両手に抱えた「不信」を手放してみましょう。そしてもうひとつが、自信を持つ前であっても、むりやり「クリエイティブな行動」を取ってしまうこと。

自分の感覚を大事に(同時に相手の主観もリスペクト)するということが文化的に広まると、個々が発言しやすい文化になるのではと思います。

自分自身が通ったイギリス大学院の授業ではじめに行ったことは批評の授業で驚いた経験がある。当時の課題は、授業をする教授の最初にパブリッシュされた論文について批評してくださいということで、授業前に論文を読みこの部分がおかしいのでは?というようなことを話し合う授業であった。

この際に教官側もいわば素人にコメントされる事をリスペクトし、相手の発言が明確でない場合はどういった意図でそう言っているのか引き出したり、時には腹を立てても仕方がないような発言にもユーモアに変えて受け答えする。生徒側も相手をリスペクトしながら自分の意図を伝えるためにまず感情的な部分で「あなたの人間性はとても好きだけど…」のような会話の始め方をするなどとても面白い経験であった。

日本の授業では体験したことのなかった経験であり、英語的にも未熟だったので対応しきれなかったのであるが、その現場を見れたことは今の自分の財産であると思う。(語学が流暢であることの大事さも痛感した)

第三章ではデザイン思考のプロセスについて書かれている。

4つのプロセスで構成されており、①デザイン・リサーチ(観察/インタビュー)②シンセシス/問いの設定③ブレスト&コンセプトづくり④プロトタイピング&ストーリーテリング

事例や実践的なコツが数多く紹介されていてとてもおもしろい章であった(時間が無い人はこの章だけ読むのでも良い気がする)。

まず、物事に対して観察眼を身につけること(快不快に注目するとやりやすい)。そして、問いが曖昧になりすぎなく、程よいスケール感の「正しい問い」を設定する。③のブレストの際にはさらに7つのルールと2つのマジックワードを儲けている。①トピックに忠実であれ②ぶっ飛んでよし③すぐに判断/否定するなかれ④会話は一人ずつ⑤質より量⑥描け、視覚的であれ⑦他者のアイデアを広げよという7つのルールを意識すると質の高いブレストになると説明されている。またマジックワードは「How Might We?」「Yes, and...」だそうだ。

意見だしというブレストの場では楽観的にポジティブに発言してまずアイデアを人数最大限的に拡散させることが大事なので、他者を否定せず、気軽なアイデアをリスペクトし、多少ずれていた場合は「Yes, and...」と言って肯定的により正解に違い表現をフォローしていくということのように思う。

4つめのプロトタイプフェーズでは「Build to Think, Think to Build」という「つくっては考え、考えてはつくる」という瞬発的なフィードバック・実行サイクルの大切さを語られている。

この章で語られていることに、IDEOで大事にされているのは「人間中心」という考え方(これも日本語での受け取りに難しい表現のような気もする)もあった。

第四章では組織について書かれている。

本書で問われていることにデザイン思考は組織出ないとできない、さらにその組織は各分野のプロである必要があるということがある。IDEOの仕事を取りまとめた論文が言うに、IDEOの働き方の特徴としてチーム無いの役職が上の人ではなく、フラットな組織で他チームにヘルプする・されるという特徴があるようだ。コラボレーション文化があることで一人に対する精神的な負担が軽くなり、心地よく働けることに繋がる。

また各個人がある分野のプロになるために、正しくミーハーさを持って専門性を広めていける人材の大切さがまとめられている。

パッションの大切さも語られており、「世の中を変えるのはパッションだけだと信じている」と書かれている。(Why-How-What)パッションを持っている人は当事者意識を持ち、熱量をチームにもたらします。パッションが無いと適切な意思決定ができないという可能性が高い、というのは日々の仕事の中でとても共感できる説になります。

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パッションが無い中でも意思決定は、役員が決定したことにフォローしたい(自分の評判が落ちないように…)などを導いてしまうということが往々にして見られます。当事者意識が無い役員が影にいるととても大変です。

IDEOの採用で重視されている、プロフェッショナル意識のあり、情熱的な、ミーハーである人という点は良い組織づくりにとても重要であると感じる。

第五章では、日本人がいかにデザイン思考と相性が良い可能性があるかを語られている。本来日本人の繊細さや細かさは、よく観察し相手が何を欲しているのかを繊細に感じ取り、それを実行するということをしてきました。豊臣秀吉の出世話にもそういったストーリーがあります。

あとがきに筆者が日本再興に読み書きそろばん+デザインという教育が大事なのではと書かれています。それぞれ個々が持つ美的感覚を語り合える場が日本では少ないのでそういった考え方にはとても賛同できます。

「デザイン思考家は、本棚の整理方法から仕事の説明の仕方まで、1回1回、意識的に新しい選択をする」

というIDEO創業者のデビットケリーが語っています。

日常に起こる細かい快・不快に目を向け、観察し、正解をゼロベースで考えるという作業を意図的にすることがとても大事なように感じます。その日起きた快・不快リストなどを作ってみるトレーニングなど面白そうな気がするのでまたいつか実行してみたいと思います。

デザイン思考という言葉先行ではなくて、デザイン思考という言葉にある背景の文化(観察眼を持ち、パッションベースで仕事をしていく)が広まる世の中が楽しみになる一冊であった。

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HELLO,DESIGN 日本人とデザイン (NewsPicks Book)