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2020年書評#5 | レクサスとオリーブの木 グローバリゼーションの正体 上| グローバル化の真っ只中に居た過去の記録

まえがき

ごく当たり前に感じる話なのですが、様々な製造業で賃金や土地代の安い途上国で部品が作られ最後の組み立てだけ消費国で実施しています。

自動車産業などは良い例です。企画・設計は日本で行い、各種部品サプライヤーはその規格に見合った部品を海外で生産し船上コンテナで輸送して日本に送ります。

また、衣類なども顕著です。ハイブランドなどのデザイナーが製造現場に近い組織ですと全て消費国で行われる事が多いですが、ユニクロは東南アジアで縫製を行います。

ソフトウェア開発などもそうです。日本で寝ている時間は欧州で開発を進め、欧州が寝ている時間では日本で開発を実施することも少なくありません。一つの国で実施すれば8時間しか得られなかったプロジェクト割当の労働時間が24時間活用しきることも可能になりました。

いわゆるグローバル経済です。

1998年のアメリカでこのグローバル化へと進む世界を見ながら、グローバルゼーションとは何かトーマスフリードマンは考えていました。トーマスフリードマンNYタイムズの記者をしており、幸いにしてこの時代では稀有な世界中を飛び回る記者でした。

彼がまだグローバル化していない当時に、世界中の変化を見る中で世界はどのようになっていくのか、レクサスをグローバル化の象徴、オリーブの木をビフォーグローバルの象徴とし記録した本がレクサスとオリーブの木になります。

グローバル化システムを知る

1900年代、世界は何に夢中であったかというと前半は専ら戦争です。オリーブの木を誰が所有するかで奪い合い、奪われた人たちはアイデンティティや居場所を失われます。オリーブの木を奪われないよう他社を排除し同部族の領土を拡大していきました。

その後戦争は終戦し、冷戦が始まりますがベルリンの壁を崩壊を機に冷戦が終わりを告げます。冷戦直後はオリーブの木を奪いあう活動は少なからず中東やバルカン半島で残りましたが、よりよい豊かな生活(きのうと同じ生活を維持し、同時にきのうより進歩し、繁栄し、近代化に向かう生活)を求める国々が生まれてきます。つまりレクサスを求める人々です。

オリーブの木を求めるか、レクサスを求めるのか、というのは冷戦後の象徴になります。 日本はオリーブの木を求める活動からは身を引きレクサスを求めます。グローバル化システムの中で躍起になり経済を合理化し、民営化を進め国際社会において自国の価値を上げる事でアイデンティティを求めます。台湾なども代表的なレクサス側です。

もう少し引いた視点を持つとレクサス側が経済成長できた背景は時代の流れもあります。通信方法の変化、投資方法の変化、世界の動きを知る方法の変化、という3つの根本的な変化です。この変化を加速度的にもたらしたのはインターネットというインフラです。 

ビフォーインターネットを考えると、通信方法が無いことにより情報がより限られたものになっていました。その世界では情報は人の移動や物理的な手紙などの移動によりもたらされますが、世界は壁を作られているため活発な情報取得が難しい時代。

しかしインターネットがあることにより物理的な壁は意味を持たなくなります。衛星放送により他国の情報もテレビで見れるようになり情報の民主化が加速度的に進みます。

技術の民主化により通信技術は携帯電話、パソコン、ケーブル放送と多義に及び、それによりどこからでも株や債権が変える金融の民主化も加速します。

一昔まえはアメリカ株を書いたくても買う手段が限られていたのですが、今ではインターネットを通じて注文が可能になりました。株を買うための情報も現地の人たちにアクセスするまでもなく情報がインターネット上に数多くあり、情報収集はまだ格差はあるものの昔を比べると遥かにフラット化されました。

金融の民主化により途上国の金融商品が山程作られ、資金が流入過多になりバブルが起きれば弾ける。

大企業は賃金の安い国々へ工場を作っては移したり、パートナー提携し世界中に製造ラインを持つことも可能である。

1990年代は飛躍的にグローバル化が進んだ時代であった。

グローバル化システムに接続する

グローバル化により国々の規模は重要でなくなります。国境の意味合いは薄れ国の質が問われるようになります。

トーマスフリードマンは様々な地域を取材する中で腐敗した政治システムから、電脳投資家集団(資本流入)に対応できない国々も目にします。

世界の民主化は進み、社会主義国家の数は年々減少。資本主義国家が増え金融の民主化が進むと、各国は電脳投資家集団の資金が重要になり、ムーディーズの格付けなどにより査定されます。質の良い金融システムを持つために国家のオペレーションシステムの構築が行われる中で、投資家の重要視するのは6項目。

投資家の重要視する6項目

透明性:不透明なシステムでは公平な取引が行われず信頼した売買ができない

基準:国際基準に則らないクレジットカードや株売買の金融システム

汚職:数多くの投資先がある中で汚職のある国は対象に選ばれない

報道の自由:不合理で異常な環境下で信頼した取引は行われない

債券市場:債券が無いと資金は銀行に貯蓄され、企業が頼る先の大部分が銀行になる

民主化民主化は柔軟性、合法性、持続可能性を持つ

つまり、信頼できる金融システムが存在しないとその国々を投資対象として見られないために資金流入、そして経済成長が行えないということなのでしょう。

以前に実際に行われたフロントランニングを題材にして書かれたフラッシュ・ボーイズの書評しましたが、相場に信頼が無いと投資のシステムとして成り立たなくなってしまいます。

ohtanao.hatenablog.com

さて、ここでトーマス・フリードマンはあなたの国家が大丈夫か考える8つの指標をリストします。

あなたの国家はどのくらい接続しているか?

マイクロソフトは世界の市場能力を「世帯あたりのパソコン台数」で評価しどの市場は停滞・成長しているか測っていました。その後尺度は変化し、”接続度”つまり帯域幅の広さにより接続度を調査することで、情報の伝達量の多さから市場を評価します。

台湾は高い接続度を示していたため、もし台湾が株式なら買い。市場として発展する可能性が高いとみられていました。他に接続度が高い国らは、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、イスラエルの一部、イタリア、シンガポール、インド。中国もものすごいスピードで成長し、フィンランド、また日本と韓国はネットワークへの投資が薄く、ドイツは遅れを取り戻し、フランスは目覚めたばかりだったようです。

あなたの国は、どのくらい高速か?

ダボスフォーラム創設者のクラウスシュワップは「大きい者が小さい者を食う世界から、高速の者が低速の者を食う世界へ行こうしている」と述べたそうです。新技術開発、製造、販売の速度を早めるために、政府は承認、取引、投資、製造の速度を上げるために、経済の再構築が都度必要になります。国の仕事は、国民や起業家に速度を上げる能力を与えることです。

面白いことに、日本で高速化が機能していないと本書では指摘しており、北イタリア、テルアビブ、上海、韓国、ベイルートバンガロールなどは高速化した地域であると述べられている。

あなたの国は、自国の知識を収穫しているか?

富を得る鍵が、国がどのように領土を獲得して、所有し、搾取するかである世界から、国または企業がどのように知識を蓄積して、共有し、収穫するかである世界へと移行していると言います。

アメリカのシェブロン石油は、石油採掘が難化した際に、今までの石油採掘で得た知識を本社に集め、分析し、分類。そのおかげで、どんな場所でも、どんな採掘場でも対応できる知識学習ができた。そうすることで技術が無い国々に呼ばれ解決法を提示できる。

サイプレスセミコンダクターの設立者、TJロジャースは「この情報時代で、勝者と敗者を分けるのは頭脳集団だろう」と語っている。

あなたの国の重さは、どのくらいか?

重いものが軽いものを食う時代から、軽いものが重いものを食う世界へと移行している。これは、輸出コンテナの重量のことです。

今までは石炭などの重量のあるものを輸出している国の価値が高かったのですが、情報化時代はマイクロチップのように重量が軽いものをどれだけ多く出荷しているか、つまり情報技術に対する成熟度がどれだけあるのか見ています。

アップルⅡの開発時では、重さ=価値をされる文化があり、重量を後からつけようと話が出たという笑い話があります。小型化することでより価値がコンパクトになり、人々はより賢くなりました。

あなたの国は、公開する勇気があるか?

モンサントのロバート・シャピロは「秘密にした方が良いこともある、しかし、システムの仕組みについて知っていることを全て話し、それでもまだ、これを作る頭脳はわれわれの方が優っている、という方がずっといい」と言います。独占情報に頼ることは長続きしません。

完全に開かれたレースでより優れた競技者になり、学習することが大事とされています。

また、国が関税により多国籍企業の定着を阻止すれば、世界最高峰の技術の流入の妨げになり結果として衰退する。

あなたの国は、どのくらい友人づくりが上手か?

何もかも一社で行う垂直統合システムから、たくさんの味方がいないと生き残れない世界に変化している。

航空業界のスターアライアンスなどは良い提携の例であり、98年時点にある事業提携のうち3/4は国境を越えた提携だったようです。

あなたの国の運営者は、理解しているか?

インテルのクレイグバレッド社長は「アイルランドが事業に極めて好意的で、きわめて協力な教育インフラがあり、国内外へのものの持ち出しが簡単で、政府との連携も簡単であった」と語ります。一方で、インテルの新製品を売り込むためにフランスの展示市に参加しようとした時には、暗号化技術が利用できないためクレジットカードでの取引ができず、実演のために政府からの申請を得る必要があったようです。

最新技術に対する理解が無いと、最新技術の流入も遅くなります。

あなたの国のブランドは、どのくらいよいか?

マッキンゼーの調査によると、ブランドがあることにより顧客のロイヤリティが上がり、プレミアム価格を支払おうという意欲が増大します。

本の中でも述べられていますが、イタリアはこの良い例のようです。

 

グローバル化するシステムの中では自分がどこにいるのかは重要でなくなり、自分が何であるかであるとトーマス・フリードマンは言います。

この本はどんな人におすすめか

2020年の現時点で読んでも大きな感覚の違いが無い所を見ると、トーマス・フリードマンの先見性と分析能力の高さが伺えます。

また、グローバル化に対する日本の悪い、旧態依然のシステム、汚職問題などについても書かれており、グローバル化(特にIT化)の遅れがなぜ起きたのかが見えてきます。

フラット化する世界でもグローバリゼーションについて書かれていますが、社会が変わろうとする中(グローバル化)する先駆けにこれだけ的確にまとめられていたのは驚きです。3つの民主化、投資家の重要視する6項目、国家判断の8つの問い、というのは今現在でも良い評価軸と言えると思います。

グローバル化という物事を海外の視点、特に先駆者であるアメリカの視点や例を元に書かれているので、この30年の世界の動き、また今後のさらなるグローバル化について知りたい人にとってはとても良い本だと思いました。