ジョーカーの撮影監督ローレンスシャーが語る色にまつわる話がとても興味深かった。
以前はカラリストによるテクニカルな話を見ましたが、今回はより感性的な話になります。
色についての科学
映画の世界で色については感情を引き立たせるための表現技法の一つです。
画面の中の色が変われば、そのシーンから想起される感情も変わっていきます。
例えば、下の2つのシーンは色味が変わっただけで、スクリーンに写っているものは全て同じです。どちらが正解ということは無いと思いますが、ポイントは人は色の違いにより異なる受け止め方をしやすいという事でしょう。
撮影時の注意点
動画撮影時にLOG撮影というものがあります。技術的に正確性を持った理解ができていないので詳しい説明は省きますが、LOG撮影をしておけば、幅広い階調を持った記録ができ、編集時のカラーグレーディングの自由度が上がります。
LOG撮影した生のデータは下のような白っぽい映像になります。
良く使われるのはティールオレンジと呼ばれるもので、肌の影部分にオレンジの色合いをもたせ、背景部分に補色であるティール(青緑)を使用することで印象的なルックにします。
撮影監督はどのように配色を決めるのか
映画監督は色の三要素をシーンによって使い分け、より印象的なシーンを作り出します。
配色決定を語る上でシャーさんはストラーロは外すことの伝説だと言います。
女と男の観覧車
カフェ・ソサエティ
エクソシスト・ビギニング
色から想像する印象はあくまで主観的なものになりますが、大きな傾向があります。
緑:緊張感、嫉妬心、登場人物の変化
オレンジ、黄色:温かな色味であり、心地よさ、家庭、愛情、穏やかさ
色表現は撮影監督の感覚が問われるとても重要な表現技法です。限られた色で表現するのも一つの手段です。
シャーさんが意識するのは、シーン内の色の対比によりどのように感情が引き出されるかと語ります。
例えば、Garden Stateの始まりのシーンは色がありません。なぜならば、彼の人生が無色だったからです。途中まで色味の無い配色が続きますが、ストーリーの変化と共に色合いが鮮やかになります。
ハングオーバーの屋上撮影シーンでは、限られた光環境の中においてシアンと赤の光を用意し補色を使用している。
宇宙人ポールという映画においても、黄色のライトと青みかかった光との対比で描かれている。
色味は色温度によっても作られます。室内の光ではとてもケアが必要で、蛍光灯の下では自然光が緑がかって見えます。
また、色の明暗による表現もあります。
アンセル・アダムスは明暗を測定するゾーンシステムというものを使っていたようです。明暗を意識することで深みが出ます。
この深みについては明暗だけでなく、色味を加える事でより深みを与えることができます。ジョーカーのシーンではシアンブルーとオレンジの補色を使い、明暗も分ける事で特徴的なルックにしています。
また、マジックアワーと呼ばれる夜明け、夕焼けを用いるのも印象的な仕上げを作り上げる手段です。
ジョーカーでは夕焼け時に対比でレストランの光やナトリウム灯の光を用いました。
裏舞台では印象の強いオレンジや赤の色を多く使い、舞台では観客を見えないようにライティングしながらも、アーサーにくすんだ光を与える演出。
最後にシャーさんはこれはあくまで感覚的な話であることを強調します。
大雑把な話ですと、色味、明暗の対比を加える事でよりシーンの深みがますような印象です。その対比をもたらす手法として撮影条件、時間、光の種類、環境などを鑑みて仕上げるのは、かなりセンスが問われそうな気がします。
この感覚的な話をサポートする技術スタッフもとても重要で、色のセオリーやその色合いを出す方法については一度しっかり勉強したいように思います。
色合いについて
type-r.hatenablog.com
色合いについて調べていたら、面白い話を見つけました。
千と千尋が映画上映時にはなかった赤みがかった色がDVD発売時に見つかっていたようです。真実はわかりませんが、話を追う限りDVDへデータ移行時に色味がずれる癖があり、DVDの作品だけ赤みがましたルックになったようです。
邦画ですと、色味の薄い映画が多い印象で、黒レベルも少し白味を増やしたものが多い気がします。映画のカラーパレットを見て再現するなんていうのも面白いかもしれませんね。