学生時代に「 僕は君たちに武器を配りたい」を読んでから色々なところで名前を拝見していた瀧本哲史さんの最新刊を読みました。
この本の内容は2012年6月30日に行われた講義内容をまとめたものになります。
本のタイトルにもある通り、2012年の講義内で「2020年6月30日にまたここで会いましょう」と締めくくられました。
それは、この講義を聞きに来た人や瀧本さんがどれだけ日本を変えることができたのかまた集まり答え合わせをしましょうという意図で言われました。
そして今年2020年を迎えたわけですが、結局答え合わせの場を設けることは実現しませんでした。
というのも瀧本哲史が2019年8月10日にこの世から姿を消してしまったからです。
セクハラ行為なんて、すぐばれるし、一発アウト退場に決まっているのに、世の中には軽率な人がいなくならない者だな。
— 瀧本哲史bot (@ttakimoto) August 8, 2019
最後のツイートからわずか二日後でした。 人を含め生命というのは儚いものであると感じます。
カリスマとバイブルと猿
瀧本哲史がどの本でもメッセージとして掲げるのは「人間になろう」ということです。
自分で考えることができない人の形をした大人のことを猿のようなものとしています。
社会人となって色々な人に出会う中で「自分で考える」人はとても少ない割合で自分の人生の決定も誰か他の人が言う「適当なアドバイス」に委ねる人は少なくないです。
どの時代でもそうですが、人はカリスマに頼ろうとします。
また、正解が書いてある(とされる)バイブルにすがります。
オバマさんが「change」を掲げ活動しましたが振り返ってみると意外と何も変わらず、カリスマ政治活動家であった若き元画家であったヒトラーはドイツを戦争に導いてしまっています。
この世の身も蓋もない残酷な事実は「カリスマもバイブルも、正解なんて無い」ということです。
「正解が無い」は資本主義の原則でもあり、様々なアイデアを「市場が判定する」ということが資本主義というものです。
人は「自分で考えて自分で決め」なければいけません。
思考と言葉という武器
残酷なことではありますが、自分で考えなければならない世の中で大事なのは「思考」することです。
人にすがらないことはとても辛く、自分に責任を持つのはとても苦しいです。
また、正解を自身で導くのはとても根気が要ります。
思考を磨くためには歴史を学ぶことや教養を学び、「他の見方・考え方があり得る」ことを知ることが大切です。本書の中でも紹介されているアメリカンマインドの終焉という本でそう問われています。
学問や学びというのは、先人たちの思考や研究を通して「新しい視点」を手に入れることですから、何か物事を学ぶ時に歴史や原則を勉強するというのはとても大切です。
また、教養の中で最も大切なのは「言葉」だと言います。
「言葉」を磨くことで認識の精度が上がります。また先述したオバマさんは言葉により支持を得て、多くの仲間を獲得しました。
人は一人でできることが限られています。
「言葉」を磨く事により物事の認識を深め、より多くの力を得ることはとても大切なことです。
パラダイム・シフトと交渉術
「世の中を変える」ことや「科学革命」を起こすには今までの常識を覆さなければいけません。パラダイム・シフトという言葉はトーマス・クーンが科学革命の構造の中で使い始めた言葉なのですが、パラダイム・シフトに必要であった残酷な真実は世代交代でした。
地動説はロジックが認められたのではなく、権威あるメンバーが入れ替わり天動説は覆されました。
一方、私達が注意しないと行けないのは、パラダイム・シフトが起きる時世代交代に伴う混乱が生じ、都市伝説的な言説も増えていきます。こういった物事を判断し正しい選択をしていくことがわたしたち個人には必要です。
逆に言えば「世代さえ交代すればパラダイム・シフトは起こりうる」ということです。
世代を交代させるためには先程述べた「言葉」がとても重要になり、多くの人を巻き込む「交渉」がキーになります。
交渉で大事なのは相手の利害関係を理解するために情報を多く集め、お互いの利害の最適解を見つけることです。
本書の中で紹介されている例としてサイボウズがシステムを導入したいが、システム導入による初歩的な質問の増加を嫌うITチームのために、機能は劣るが誰でも使用ができる製品の開発をしたということが挙げられています。
システムの導入を決める決定者はITチーム側の人間なのでITチームの利害関係を徹底的に探った上での開発でした。
最もしてはいけないことは「可愛そうだからなんとかして作戦」です。自分たちの利害だけを全面に押し出し相手の言葉の背景を探らないでは、お互いの利害の最適解を見つけることとは程遠いですね。
船員になるか・船長になるか
世の中を変えるには大きく2パターンあります。
自分でやるか(船長になるか)。誰かやる人を応援するか(船員になるか)。
どちらのパターンにしろ物事を変えるためには大きな力が必要です。「志を持った熱意のある人間」が居る組織がどの時代にも変化を与えてきました。
船長になる人は何かしら人生や経験から誰にも代替できない必要性を持っています。自分がそうであれば船長になるために仲間を集めましょう。
船長になれなくても、船長には船員が必ず必要です。きっと「世の中の当たり前」を変えるのは難しく失敗することもあるかもしれませんが、船長となれるリーダーがいると思ったら応援する船員になりましょう。
船員になるときの注意点は自身で正しい選択をすることです。間違ったリーダーについていっては間違った未来ができてしまいます。
あと、グループを作るときは多様性のあり、分散性の高いグループを作ることがとても大切になります。リチャード・フロリダの研究では多様性のある都市のほうがイノベーションが生み出されていると言います。国レベルの話であればアメリカなんてまさにその典型例です。
また、分散性の高い組織はヒトデのように分裂しても生き続けることができます。組織の衰退が起こりにくい強い組織です。
さいごに
瀧本哲史さんの本は昔読んだ時にとても印象深く「自分の頭で考える」ことの大切さを教えてもらえた本でした。
世の中は「ラクをしたい」に溢れています。特に日本人的な感覚で現状維持バイアスはとてつもなく強いですし、民族としての多様性の欠如は日本に居るととても認識しにくいです。
自分の人生に責任を持つためには、歴史や原則など先人の知恵から学び、理解を深めたり仲間を集めるために言葉(表現)を磨かなければいけない。
きっと知らずしらずのうちに目を背けている理解するための努力は、積み重なり習慣となって「何も変わりたくない」人間に変化していくのかなと思います。
残酷な真実を「日本を良くしたい」という気持ち一心でこういった本を出版してくれている人がいるという事に感謝したいです。
また、こういったとても貴重な人間がこの世を去るという命の儚さを感じ日々を大切にして少しでも日本が、世界がよくなる選択をしていきたいと思いました。