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アフターデジタル2 UXと自由 | 体験至上主義による未来へのガイド | 2020年書評#17

全書アフターデジタルが反響を呼び2作目となったビービットの藤井さんが書くアフターデジタル2。

藤井さんは上海生活を通じてオンラインとオフラインの繋がりやUXの洗練されたDXの世界を体験しアフターデジタルというワードを使い体験を重視したデジタルの活用を訴えているように思います。

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アフターデジタル2 UXと自由

アフターデジタル2 UXと自由

  • 作者:藤井 保文
  • 発売日: 2020/07/23
  • メディア: 単行本
 

 

キーワード

アフターデジタルを語る上でいくつか大切なキーワードがあります。

DX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル変異)は最近政治の世界でもよく使われる言葉になってきました。

UX(ユーザーエクスペリエンス:顧客体験)は何かを通じて使用者が体験する時の様子を表す言葉です。例えば、キャッシュレス決済が進み携帯端末での支払い体験は今までの現金支払と比べ、銀行ATMでお金を引き出す必要も、小銭を数えることも、おつりに気を配ることも必要とせずに多くの体験を快適にしました。また、消費者がかかわらないところではATMへのお金の補充・集金の必要も減り、それに伴う集金コストやお金の配送コストも無くなります。

OMO(Online Marges with Offline)はオンラインとオフラインの境界線を曖昧に考えるような思考のことです。言葉の生みの親はKai-Fu Leeで、曖昧な表現でOMOを説明すると、DXによる新しいUXにより今までになかった快適さが得られる、というところでしょうか。

ohtanao.hatenablog.com

OMOの例としては、上海では、①カレンダーに予定が書き込まれてあると地図アプリで予定の場所に行くためには何時に出発してどういうルートで行ってください、②友達とご飯を食べるレストランでは机に張ってあるQRコードを読み取り注文から支払いまで自分の携帯端末で済ませます③違う場所に移動したい時はバイクシェアアプリで近くの空いてる自転車を探し一回数十円でレンタルし乗り捨て、④コーヒーショップでは事前に注文しておき待ち時間無しで受け取り⑤晩御飯の食材は無人スーパーで食べたい鮮度の良い水槽にある魚を選び、水槽前にあるQRコードをスキャンした献立から家に無い調味料を一緒に購入、⑤深夜に少し食べたいものがあれば宅配アプリで注文し部屋まで届けてもらう。

このようにオンラインのサービスを使っているのですが限りなくオフラインに溶け込む使用のされ方がしています。

OMOをするために手段としてDXを使い、その設計にUXを追求する、という事がこの本のメインテーマだと思いました。

アフターデジタルの世界

アフターデジタルの世界では、今まで重視していた属性データよりも行動データを重視します。上に書いたOMOの例では、「20代後半の社会人女性で新しいデジタル機能に慣れている属性」などといったマーケティングはされていないのがすぐにわかります。

より多くの人の行動、そのシステムを使った時に「いかに便利か、楽か、使いやすいか、楽しいか」と言った点により重点されます。

物理的な商品であれば、その製品を窓口とした顧客への体験価値提供が大事になり、サービスや製品を接点とした会話のようなものです。

中国が徹底的に顧客の行動データに注目しサービスを作る中、その他地域でもGrabなど配車サービスから始まり宅配、金融などに領域を広げるアプリ(スーパーアプリ)もあります。Grabは「人やモノが移動する」ことに関わるすべてを担う、というのがコア価値で最近では金銭の移動のGrabpayと言われるモバイルペイメントも出てきています。

Grabの配車サービスを例に上げると、①働き手はより効率の良い道がアプリで示され、何時間働けばおおよそいくら稼げるかの指標がわかり、②使い手は行き先までの時間・費用が事前にわかり、現金の受け渡しも無し、③Grabのタクシー運転手へ融資したい層へは過去の働き方によりどのくらいの融資をすれば良いのか分かる、どの方向へも価値を生み出しています。

さらには利用者がそれぞれレビューをできるので、真面目に働いていたドライバーに対しては評価という信頼が可視化され非常に透明性が高くなります。

海外に言った際にタクシーの利用に戸惑っていたビフォーデジタルの世界はドライバーがどういう人かわからない、到着時間も一般的な費用も分からない。「メーター使わずに思ったより高い気がするけど文句言うと怖いから」と言って不明瞭な費用を支払うこともなくなっていくでしょう。

自信の体験としても10年前の中国に行った際にはタクシー代も言われるがまま、何かものを買う時は値段交渉をして、現金でしか変えないから予備の現金も持ち歩く、なんてことをしていましたが、2019年の中国はまったく違う世界でした。

地下鉄の改札には顔認証が導入されはじめ、ほぼすべてのものは携帯のQRコードを使用し買い物、友達へのお金の送金もWechatPayで行い、タクシーを配車した際にはあと何分で迎えに来ます!とメッセージが来るため、それに合わせて待ち合わせ場所へ移動。様々な国へ出張や旅行をする機会がありましたが中国の生活体験が圧倒的に未来を感じさせました。

インドにおいてはGaaSと呼ばれるガバメント(政府)がデジタルインフラを整備し署名、認証、決済、書類などをデジタル化しているそうです。

アメリカで起きている流れはD2C(ダイレクトtoカスタマー)と呼ばれます。GAFAなどの窓口や広告を頼りにしすぎず、ダイレクトに顧客とつながり世界観や会話をする風潮になってきています。

こういったようにアフターデジタルの世界では、体験提供型への大きなシフトが起こっていると言っていいでしょう。

日本での変化の兆し

日本でもモバイルペイメントが始まりアフターデジタルの兆しが見えました。政府もDXを推進しはじめています。

アフターデジタルでまとめられている中国ではなぜこんなにも早いDXへの以降があったのかということについては中国がブラックリスト方式でやってはいけない事、はありますがそれ以外は自由であとは市場原理に任せるスタイルだったからです。一方日本はホワイトリスト方式でやっていい事を決めてそれ以外はNGというようなスタンスなのでホワイトリスト内に入れなかった場合には何もできなく市場原理にまかせていないため顧客体験重視というよりもホワイトリストとして採用されるかどうか、という部分に重きがありました。

結果としてUXに重きを置かないデジタル化へ踏み切っているため、利用者側としても「やっぱDXなんてバズワードでしょう」程度の体験価値しか届かない現状があります。

中国での例

NIO

中国にNIOという電気自動車スタートアップがあります。電気自動車界で唯一のテスラーキラーと呼ばれる会社です。NIOは自動車を購入した人に対して様々なDX活用サービスを提供しています。NIOはNIO Houseと呼ばれる会員制施設を提供しており、そこではユーザー同士で繋がれるようなNIOコミュニティーを形成しています。自動車を購入したことにより「移動できる」という従来価値以外に、NIOを持つことでできる様々な体験を顧客へ提供しています。

これは単に顧客だけのメリットだけではなく、そこから多くのフィードバックを得て購入後もリアルタイムなシステムアップデートができるようになっています。

ZiRoom

ズールー(ZiRoom)は賃貸サービスの会社です。中国ではルームシェアをして代表者が賃貸支払いをするという文化がありました。そうすると賃貸支払い者が費用の徴収や時に建て替えをしなければ行けないという事が起きます。

そういった点に目をつけたズールーは部屋ごとの貸し出しを行い、個別でのペイメントを実現。またホームケアの定期サービスを商品として持ち、旅行時には旅行先のZiRoomの部屋を割安で借りられるなどAirbnbのような商品もあります。またZiRoomが管理するアパートにはコミュニティスペースがあるため、他の利用者とも交流を持つことが可能です。

日本の不動産の多くは、契約することがゴールですが、ZiRoomの場合は居心地の良いZiRoomの使用体験が重要で、そこにある金銭的・経験価値のメリットがあるからこそ引き続きZiRoomを利用するというファンを作り出しています。

衆安保険

衆安保険はこのアフターデジタルの潮流のサービサーへのアプローチを行った保険会社です。DXを提供する企業に対してアプローチします。DXサービス利用のカスタマージャーニーから起こりうるリスクを考え、そのリスクに対しての保険制度を作成することで、サービサーが抱える悩みと利用者がケアしたいリスクを解決しています。

スターバックスコーヒー

レガシーな企業であるスターバックスはDXに乗り遅れた後に挽回した好例です。DXを躊躇しラッキンコーヒーと呼ばれる、すべてオンラインで注文し店舗で受け取りだけするというようなDX重視のコーヒーショップに対してかなり遅れをとっていました。

スターバックスはデリバリーサービスを後発ではじめましたが、自社専属の宅配ドライバーを儲けることで、高いけど良い品質のものを提供する、というすでにブランド力のある企業ならではの方法でDXを通したUXの提供に成功し始めています。

利便性はコピー可能である一方、ブランドは模倣が難しいということを改めてわからせた点でもありました。

フーマー

フーマーはアリババが運営するスーパーなのですが、オンラインの活用がとても素晴らしいです。フーマーは基本的にキャッシュレス店舗なのですが、そこには鮮度の良い魚を食べるために生簀がありその場で食べられるイートインスペースもあります。

また、オンラインの注文を配達員が集めそのまま宅配するといったような宅配サービスも行っております。販売する食品の横にはQRコードがありそれをスキャンするとその食材を活用したレシピまで提供してくれます。

ohtanao.hatenablog.com

これら、中国の例は人接点(ハイタッチ)から人・場所接点(ロータッチ)、デジタル接点(テックタッチ)が含まれ便利、楽、お得→心地よさ、楽しさ、嬉しさ、感動・信頼というタッチポイントがとてもよく作られています。

中国の事例は便利さやお得さが起点となりその体験の楽しさや心地よさが乗っかり、感動するほど新鮮な未来体験をもたらせてくれます。

アフターデジタル2で書かれているとても興味深い点の一つにデータは活用しなければ価値にならないという点です。今データは新たな石油として捉えられています。ただし、データを牛耳るだけでは意味はなく、そのデータがソリューションまで結びついていないと意味をなしてきません。

ソリューションというと、ユーザー側の体験向上やビジネスプロセス側の効率向上、双方における付加価値などです。データを使ったレコメンデーションや配車ドライバーのスコアアップによる報酬調整などがそれにあたります。

UXの重要性

中国の例に分かるように、ここでポイントになるのは顧客体験であり、サービサーの利益です。データとUXを密接に分析し、ビジネス利益につなげていくという作業が重要になっていきます。

顧客体験価値を生み出すために、何のデータが必要でどう分析していくのか、そしてそれがビジネスの利益としてどれほどインパクトを与えるのかという順にビジネス設計していく事が大事になります。

カスタマージャーニーにより顧客の体験を想定し、使用してもらう過程でどのような不自由な点がありそれを解消していくのか、というのはとても大切な視点です。

メルカリなどは本でも取り上げられているようにとても素晴らしい仕組みが作られています。メルカリ教室を呼ばれるオフラインのイベントがあります。メルカリが抱えている不自由な点は「出品するものは手元にあるけどどう出品したらいいか分からない、出品が面倒だ」でした。

メルカリ教室では出品の方法や梱包の方法を教えることにより実際に販売する流れを体験してもらいます。人によってはその場ですぐに売れることもあるそうです。こうして不自由だった点が以外と面倒でなかった、また交流の場になってことや、参加者がインフルエンサーとして他の人達に伝える役目を担ってくれます。シニア層にとっては「メルカリが使えるようになった」「デジタルな作業もできる」という嬉しさも与えられメルカリの利用幅が広がる事にも貢献しています。

メルカリは他にもローソンなどに宅配ポストを設置しレジに並ぶ事なく手軽に発送の手続きを行えるなど、ユーザーの不自由を徹底的に減らしています。

さいごに・どんな人におすすめか

中国の事例を知らない人にとってはとても貴重な内容なのではないでしょうか。

UX/DXという点に関しては世界中どこよりも中国、特に上海などの都市部では進んでいます。中国語が使えないとその恩恵を受けにくいところは多少あり、その点はこれから改善されていくであろう部分ではあります。

こういった最先端の活用事例を知り、またその根底にある顧客体験とデータ活用を1体に考えるというマインドセットはDX推進をしていく上で非常に参考になるのではないかと思いました。

日本もキャッシュレス決済の普及やDXへの注目度が上がっています。またコロナによるよりオンラインでの購買活動が増えたり、店舗を持つ意味合いが変わりつつある中でどのような変化をするのか楽しみでなりません。

未来の体験を作るために何が大切かを知るためには非常に良い本だったと思います。