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フラット化する世界 | グローバル化する未来にどう備えるのか | 2020年書評#19, 20, 21

グローバリゼーションについて多く語るトーマス・フリードマンですが、以前にも書評にしたレクサスとオリーブの木ではグローバル化の波により世界がどのように変わっていくのだろうかという示唆に富んだ提言をしていました。

ohtanao.hatenablog.com

世界は時代によって変わるもので、グローバル化というのはここ数十年のキーワードでした。アウトソーシング先は国内から国外へと移動し、国内で支払っていた賃金は国外の低賃金の労働力が得られる地域へと向かいます。

途上国への資金の流入は、現地の人々の生活を変え様々なチャンスをもたらしていました。

フラット化する世界ではレクサスとオリーブの木からさらに時を経て2008年に出版されたものになります。2000年から2008年に実際に起きたケースを上げながらグローバル化により変わった物事を理解するのにはとても良いです。

一方、フラット化するというのはバズワードとして様々な使われ方をしているのですが、言葉だけが先立った理解をするよりはどういった事象があり「フラット化」という言葉が出てきたのか知るのもいいかと思いました。

フラット化する世界〔普及版〕中

フラット化する世界〔普及版〕中

 

フラット化の要因

トーマス・フリードマンはフラット化の要因として10個の事象を言います。

  1. ベルリンの壁の崩壊と、創造性の新時代
  2. インターネットの普及と、接続の新時代
  3. 共同作業を可能にした新しいソフトウェア
  4. アップローディング:コミュニティの力を利用する
  5. アウトソーシングY2Kとインドの目覚め
  6. オフショアリング:中国のWTO加盟
  7. サプライチェーンウォルマートはなぜ強いのか
  8. インソーシング:UPSの新しいビジネス
  9. インフォーミング:知りたいことはグーグルに聞け
  10. ステロイド:新テクノロジーがさらに加速する

フラット化の流れで大きな起点はベルリンの壁崩壊でした。今の時代からは考えにくいですが、壁で物理的に人々の居住・移動を仕切り、制限していた時代です。

ベルリンの壁崩壊により、ソ連内にとどまっていた知恵・人材など解き放たれます。様々な物事は標準化の流れで最適なものへと整備されていき、そこには世界にあるベストプラクティスを採用するケースが増えていきます。

分断された世界を意識する必要は減り、最も良い選択ができるようになると、良いものが出来上がっていくのは自明だと思います。

その流れに拍車をかけたのはインターネットでした。物理的な移動は壁が無くなっても限界がありますが、人々は情報をデジタル化し、光ファイバーに乗せて物理的には何時間もかけなければ行けない距離をほんの僅かな時間で移動させる技術を作り出しました。

インターネットを利用するインフラとして世界標準のシステムやソフトウェアが開発され、世界中どこからでも強力して制作されます。

それにより実現されたのはアメリカの企業がインドへ仕事をアウトソースする事でインドが注目されます。こう考えると、同じ言語を話せるというのはとてつもなく大きなチャンスをはらんでいますね。

今度は協力な人材数を誇る中国が開かれ多くの企業が中国へ物理的な工場を建てはじめ中国の成長が加速します。

遠くの地域でものを安く作る事ができると今度はその流通システム、サプライチェーンを構築していく企業が成功しはじめます。Amazonもその一つです。

今度はインターネット上に溢れかえった情報を整理するGoogleは人々が検索しやすいようにシステムを作り、ナップスターは個人間でのデータ転送をできるシステムを作ります。

物事を知りたい時に、昔はその人の元へ赴き、聞き出しそれを持ち帰る、という時間の流れでしたが、知りたいことは検索し、誰かに聞きたければワイアレスの情報伝達システムを使っていつでもコミュニケーションできる。そうなれば物事の進むスピードは加速します。

2020年の今、あまりに自然になったテクノロジーの活用をすると想像しにくい部分はありますが、時代の変化や新しい物事、グローバル化に対応する能力(言語、テクノロジースキル)に対応することでどれほどの経済的な恩恵を受けるか左右されていたように思います。

アメリカとフラット化する世界

フラット化する世界を読むと、グローバル化による恩恵を多く受け取るのは途上国でアメリカの労働者側の立場からすると、おいおい、となるように思います。

トランプ大統領が言っていた「労働を奪うメキシコ人を追い出し…」みたいな話はまさにこのことを言っているように思います。

今までアメリカ人が行っていた仕事がメキシコへと移され、また多くの移民がアメリカ人よりも安い賃金でアメリカ国内でも仕事をしているのは問題だと語ります。

ネットスケープの共同創業者のマーク・アンドリーセンは「きょう欲求に見えるものは明日の需要になり、パイを大きくなり続ける」「人間の欲求とニーズは無限だと思う」「生まれる産業も、始めるビジネスも、やる仕事も無限にある。人間の想像力だけがそれを成約している。世界はフラット化すると同時に上昇している」と言います。

まったく同じ事をするのであれば確かにフラット化により、仕事が奪われているという見解はYesなのですが、奪われた仕事よりもさらに必要な物事を見つけそれをすれば良いという見解です。

jp.techcrunch.com

インフォシスのCEOナンダンニレカニがいうフラットな世界には「代替可能な仕事と代替不可能な仕事の2つ」あると言います。

代替不可能な仕事は「かけがえのない、もしくは特化した」人々、「地元に密着した」人々とトーマス・フリードマンは言います。考えてみれば、その地域のことをよく理解したツアーコンダクターは変える事のできない存在ですし、地域の教育やインフラに携わる人間も必要なのはいつでも変わりないはずです。

水平な仕事移管であれば仕事は奪われると思いますし、仕事がなくなった人間が垂直に移動すればより新しい事ができるという考えになります。フラット化する世界においては、移動してしまった仕事に執着するのではなく、新しいニーズを探して適応していく力が重要になるでしょう。

もちろん、トランプ大統領が選ばれた事実を考えると、アメリカの中にも沢山の人材がフラット化に適応できていないのがわかります。

また、中国、インド、アイルランドなどグローバル時代に適応して多くの富を得た国もあることから、実際に資本がフラット化することにより引き上げられた国がいるのも事実です。

一方で、アメリカの国力が落ちたかというと、今でも多くのイノベーションアメリカの企業から起こり、S&P500やナスダックは変わらず世界で最も大きな株式市場です。

フラット化の両面を理解して適応していくこと、それが個人にできる最大限のことでしょう。

フラット化を抑制するもの

フラット化する世界が書かれた時点でトーマス・フリードマンはフラット化していない物事はさらにフラット化するであろうと予測しており、実際にそのようになっていると思います。

ただし、フラット化を止める要素も同時に挙げています。

パンデミック

フラット化した世界での流通システムは世界中へものを届けることを可能にしました。この本で書かれている事象としては、COVID-19のような人の移動というよりものの移動を意図されているように思います。

パンデミックが広がればグローバルに開かれた壁を再構築して人々、物事の流通を制限させなければいけません。

2020年9月現時点においてパンデミックグローバル化の大きなブレーキになっているかと言われるとなっていないように思います。確かに人々の移動は制限されましたがものの移動制限は限りなくCOVID-19以前に近いです。

テロリズム

フラット化により開かれた市場へ新しい文化が運ばれてくる事があります。自身たちの古くからの文化でのみ生活できたいたことから、新しい生活様式や習慣、また観光客による様々な変化を受け入れられない人々は自尊心が削られます。

9.11などのような大きなテロ行為が起こると人々の移動を制限し壁を再構築しなければいけません。

今振り返ると、9.11直後は多くの制限やイスラム文化への懸念が挙げられたのは事実だと思いますが、テロ行為とイスラム文化の関連性というよりも、イスラム文化に属する組織による行為という視点が広まり、テロリズムによる大幅なグローバル化の衰退は見られていないように思います。

国政

今の米中摩擦などが一つの例だと思いますが、国による制限があまりに多いと、双方の個人や企業の間には擬似的な壁ができてしまい、フラット化を目指す企業において大きな制限になってしまいます。

米中摩擦の落としどころはまだ見つかっていないように思いますが、あまりにも無理な国政が長く続くとアメリカは中国のマーケットにすがる必要は無いと思いますしその逆も同じです。国政がグローバル化に大きく影響するのは自明で、今後もより開かれたものであることを願います。

環境問題

どの抑制要因も大きな問題だと思いますが、最も顕著で置き去りにされているのは環境問題のように思います。中国では自転車レーンが多くあった町並みから自転車レーンは消え去り車利用が増え、どんよりと曇った空に覆われました。

SDGsの試みは2020年から活発化しているように思いますが、マーケティング要素の多いパフォーマンスである部分が拭いきれません。経済発展の裏腹に環境破壊が隠れており、よりサステイナブルな思想を個々で構築しない限り、とめどなく環境は破壊されていくように思います。

環境問題によりグローバル化が制限されるということは経済発展を追う以上無いと思いますが、グローバル化を抑制しないと破壊される自然は取り返しのつかないものになるように思います。

実際にいくつかの観光地では人の出入りを抑制し、小さな壁を築いています。テクノロジーにより解決策が出てくることを願うばかりです。

さいごに・どんな人におすすめか

フラット化する世界で何が必要なのか?

トーマス・フリードマンはこの回答として「イマジネーション」の重要性を言います。

世界をフラット化するのは抑えられない波であり、市場は開かれ、労働者は世界中から集める事ができ、情報は誰でも見られる。こういった世界で競争相手よりも早く駆け抜けなければいけません。

ただし、多く勘違いされることは、競争相手は隣にいる・どこかにいる誰かではなくて、自分自身であるということです。

自分のイマジネーションをめいいっぱい利用して、それによって行動し、つねに反映するように、とフリードマンは締めくくります。

 

競争相手を他者にすることは簡単です。しかしながら、見えてる他者を抑制しても見えていない他者が無数にいるはずです。無限にいる競争相手へ憎悪を振りかざしてもきっと、自分の世界は変えられないと思います。

フラット化の両側面を認識しながら、イマジネーションを働かせる訓練を積み重ねる。

当たり前のようで忘れがちなことを再認識できる良い本だったと感じました。