日本ではDXという言葉がバズワードとして広がりを見せており、中国のDX/UX事情について紹介されたのがアフターデジタルでした。
今回読んだのはWiston Ma著の中国人でかつアメリカでの教育経験を持つ人から目線の中国ITビジネスに関する本です。
データのより効率的な活用のためには多くのデータを分析しながら、うまくいく分析・いかない分析を見分けてトライアンドエラーで活用していくものですが、中国は14億人という人口の利に加え、多くの人がスマートフォンを活用している事で、ITの実利用について学べる事が多いように思います。
アフターデジタル2はあくまで日本人の目線で書かれており、Wiston Maのように中国、アメリカ双方の事情に精通している人の視点で物事を語られた本を読むのはとても興味深いものでした。
アルファ碁のインパクト
アルファ碁が世界一の棋士を破ったのは2016年。2015年にはまだプロ棋士に負けるようなこともあったAIソフトは急激な成長を見せました。2017年にはプロとの早指し戦で60勝0敗と圧倒的な姿を見せ、人間との対局から引退し実活用へ集中する運びとなりました。
この急激な進化に多くの人は衝撃を受けます。
特に中国の市場では、急激に進化を遂げるAIを活用して躍進するか、さもなくば衰退し潰されるのか、という2択を迫られるようになったと言います。
アリババ、テンセント、バイドゥ、は多くのデータを持つためAIのさらなる活用に力を入れる一方で、「4大ドラゴン」と称されるベンチャーも登場します。
メグビー(Megvii)
センスタイム(SenseTime)
イートゥテクノロジー(YITU technology)
クラウドウォーク(Cloud walk)
中国は国として「次世代人口知能の技術発展計画」を掲げ、2030年までにAIを文句なしの世界一に押し上げるなどのターゲット掲げ教育や事業サポートに取り組んでいます。
ポストBATの時代へ
企業の意識の変化と政府のサポートと土台が揃ってきている中国ではBATと呼ばれるバイドゥ、アリババ、テンセントに次ぐ企業が多く出てきています。
ハードウェアではファーウェイ、シャオミ、オッポがスマートフォン市場でシェアを伸ばしています。
そのスマートフォンを利用するモバイルコマース、モバイルペイメント、交通系の配車、シェアバイクレンタルの活用する企業が台頭しています。
TMDと呼ばれる、トウティアオ(今日頭条)、メイトゥアン・ディエンピン(美団点評)、ディディ(滴滴出行)はユニコーンを文字ったデカコーンと呼ばれ、中国人が日常的に使うサービスです。
OMOはアフターデジタルでも重点的に語られていましたが、本書でも紹介されています。現行のEコマースだけでは体験価値として高くないために、オンラインとオフラインの統合はデータの収集しやすさという企業側のメリットとともに、少し手に取りたい・試したいという顧客側のメリットがある双方に良いです。
また、最近では映画の制作段階でクラウドファウンディングや制作のフィードバックを行える一種のファンビジネスも増えてきているようです。
このファン経済で最もうまく行っているものはTik Tokです。利用者の視聴傾向をAIアルゴリズムで判断し好きな動画を連続的に流し、最も中毒性のあるアプリとも言われています。なんでも無かった個人が面白い動画で人気を得た後に、商品紹介などのEコマースと組合わさり個人が広告媒体として機能しています。
Tik Tokの素晴らしい点はコンテンツを作る側の人間が手軽に良い動画を作れる機能があり、すぐに発信・フィードバックを得られます。コンテンツが増える仕組みができており、視聴者を楽しませ、広告含め経済が回り、個人として自立できる夢がある。
数々のイノベーション企業
中国のイノベーション企業を見ると、革新的モデルから革新的技術、オンラインプラットフォーム構築からデジタル技術研究へと移り変わりつつあります。
模倣していた立場から模倣される立場になろう、というのは政府も意識しているようです。
ドローンのDJIなどはドローン市場で多くのシェアを獲得し、また農業用のドローンではXAGという広州拠点の企業。電気自動車ではNIOなど、世界的にも技術力が負けていない企業が続々と出てきています。
シリコンバレーを猛追する形でユニコーン企業の数が増える、とても良いエコシステムがあります。
ただし、AIの論文をみたところアメリカは企業が多く発表している一方で中国は大学や研究機関にとどまっており、企業のAI研究にはまだ課題があるようです。
プライバシーへの意識
最後に触れられているのはプライバシーへの意識です。中国ではプライバシー情報の収集に関する規制がゆるくアプリを通して多くのプライバシー情報を企業が収集していました。
最近では、過剰なユーザーデーターの収集に対して中国消費者協会が多くのアプリを評価しどのようなデータが収集されているのかを公表しています。報告書によると100個のアプリを調べた中で91個のアプリが過剰にユーザーデータを収集しているとされ、その中にはWechat、微博、滴滴なども含まれていました。
一方で、タクシー配車アプリ滴滴にてドライバーと利用者間でトラブルがあった際に、どこまで企業がデータを提供できるのか、というような問題も浮かび上がっています。
世界基準であってもフェイスブックやアップルはプライバシーを意識した取り組みが増えてきており、新しい仕組みの中でどう個人を守っていくのかという点はこれから整備されていくでしょう。
さいごに・どんな人におすすめか
以前読んだアフターデジタルよりもより細かく中国の事例について書かれています。アフターデジタルは中国で起こっていることを日本へ適用するためにはどうすればよいのか、という点が多く語られていた一方で、こちらの本はより解像度高く中国で何が起きているか知れると思います。
著者もアメリカの事情、中国の事情どちらにも精通しているため中立的な視点が多く、その中でもAIデータを活用するためには人口の利や、モバイル・インターネットユーザーが多いためにデータが集まり安い環境が作られている中国が有利である点を理解することができます。
モバイルベースのビジネスが多いことやグローバル展開は依然としてハードウェア企業が多い中、Tik Tokなど世界で使われるアプリが誕生したことはとても興味深いことです。
いつかはアメリカのケースをローカライズして日本に適用することで成功していた事例があったように、中国のケースをローカライズして日本に適用することで成功していくなども増えていくのでしょうか。
アフターデジタルを読んでさらに中国の事情を詳しく知りたい人にとってとても良い本だと思いました。