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タルピオット イスラエル式エリート養成プログラム | 石倉洋子 (著), ナアマ・ルベンチック (著), トメル・シュスマン (監修) | 2022年書評#5

デジタル庁就任で話題の石倉洋子さん著のタルピオット、イスラエル式エリート育成プログラムを読みました。

 

📒 Impression and Review | 感想

イスラエルはスタートアップネーションとして多くの注目を集めています。昔エルサレムを訪問した印象はとても綺麗でキレイなトラムが走る新市街地と雑多な旧市街地のギャップが印象的である一方、壁で隔てられた地区やイスラム教徒の祈る姿が記憶に残ります。

日本のように自国にそれなりに大きな市場があり、生活が殆ど日本語、日本教育、日本人で完結してしまい、仕事環境も多様性のかけらも無いので、日本で生きている限り想像しにくいですが、イスラエルのように移民の国、紛争は生活と隣合わせといったような環境から多くのイノベーションが生まれているということに興味がありました。

国防軍のエリートプログラム、タルピオットという集団を媒介にしてイスラエルのスタートアップ文化について知れる本だったように思います。

📒 Summary + Notes | まとめノート

スタートアップネーション、イスラエル

複雑な歴史を持つイスラエルという国家はその背景から軍を持たざるを得ない国家の一つです。一方で、中東という困難の多い地域において生活する中で灌漑システムに代表されるようにイノベーションが必要とされる地域です。さらにはユダヤ人であるけれども、世界中バラバラに生活していた民族が集結して生活を構築していくというゼロベースで多様な人々が集まり国家を作り上げていく、世界でも稀な種類の国家です。

その中で最近注目されているのはスタートアップの数です。スタートアップネーションと呼ばれニューヨーク市場では米国を除けば、中国とイスラエルの企業が海外勢としては大部分です。

Israeli smart energy tech firm SolarEdge to list on S&P 500 index

有名なところではMonday.comやSimilarWebなど2021年に上場しております。

本書ではスタートアップネーションと呼ばれる所以を、毎年50人しか選ばれないイスラエル軍のエリート部隊タルピオットから紐解こうという内容になります。デジタル庁就任が話題であった石倉さんと、イスラエル大使館ナアマさんという企業文化とイスラエル文化に精通した方々による著書です。

イスラエルスタートアップに関するデータ

2021年のスタートアップエコシステムランキングではイスラエルのテルアビブが7位に位置しております。アジアでは北京(4位)、上海(8位)、東京(9位)などがあります。

Top Global Ecosystems - Best startup cities - Startups Rankings

経済成長率は2018年にて、3.4%と日本(0.8%)、アメリカ(2.9%)を上回り、イスラエル輸出のIT企業の割合は2017年にて10.8%と10年間で8ポイント増加しています。経済成長率も高く、その中でIT企業の割合が目立ちます。

人口900万人ほどの小国ながらも、ベンチャーキャピタル投資額は人口1人あたりベースで世界一。また、2003年をベースにした平均賃金も2016年では140%になり、ハイテク産業では157%にもなり、ハイテク産業への人材流入も含め、ハイテク市場が活性化しています。

またエコシステムとして、多くの企業がR&Dを置くようになってきており、GoogleイスラエルではGoogleサジェストGoogleトレンドなど多くのシステムがイスラエルの開発拠点から生まれたものになるそうです。

イノベーションの土壌

イスラエルユダヤ人の悲しい歴史が背景にある一方で、戦争やソ連崩壊に伴い優秀な人材がイスラエルに集まったと言います。医者や科学者、エンジニアなど博士号を所有する人材も多く居たそうで、移民たちは雇用を生み出す必要もありました。

「自分を貫け」と言われる文化もあり、教えられたことが違うと思ったときには質問することを恐れず、ルールに対しても疑問を持つ人も多くいるようです。

確かに、戦争中は急に悪者にされ隣人たちが掌返し、渡り歩いて生きるための手段を考えた背景を考えるとハングリー精神も含めルールに対して疑問を持つというのは自然のことなのかもしれません。日本の島国生活からは少し想像はしにくいですが世界には様々な環境があると感じます。

また、イスラエルでは兵役があります。緊迫した国境を持つため18歳にして実践に参加する緊迫感を味わうことになります。軍では様々な状況下での対応が求められるため、「黙って言われたことだけをやれ」という育成は絶対にしないそうです。また、若くから責任が必要なリーダーになるものもいます。

タルピオットとは

タルピオットはイスラエル国防軍のエリートプログラムです。アラブ側の奇襲に多くの犠牲者を出したイスラエル軍を見たヘブライ大学の教授2人が軍に進言して1979年にテクノロジーリーダー育成プログラムが始まりました。ミサイルシステムやドローン、自動運転やサイバーセキュリティなど多くの分野においてタルピオット卒業生の功績があります。

3年の兵役期間にて軍の訓練を受け、ヘブライ大学の授業を受け数学や物理の学位を取得します。1/4が脱落しますが卒業後イスラエル国防軍の8200を含む様々な舞台に配属されます。

タルピオットでは7つの力を身に着けるよう様々な課題に取り組みます。

  1. 課題を見つけ、解決法を生み出すクリエイティブ思考
  2. 組織の中でも外でもイノベーションを生む力
  3. 現場の声に耳を傾ける「顧客視点」
  4. 協力し、迅速に成果を上げるチームワーク
  5. 失敗を恐れずに困難に挑戦する前向きさ
  6. 粘り強く任務を遂行する精神力と時間管理能力
  7. 仲間意識、ネットワーク

イスラエル視点の日本

イスラエルは文化的にも0→1が強く、1→10には日本にも理があると見る人も多いようです。そのため日本の高品質に大量生産する能力を欲しい企業は多いようで、一方日本企業の視察文化には落胆することもあるようです。

日本企業とあっても質問も無ければ反応も無く、あっても時間の無駄となることが多く、具体的な協業目標もなく訪問するケースが多いと言われます。足りない本気度や、一歩目の速さ、また値踏みするような大企業殿様姿勢などもイスラエルには無い文化であるため、スピード感の無い日本企業への価値を低く感じてきていることもあるようです。

また、日本にある忖度文化や空気を読みことも不思議に思われるようで、違和感に敏感なイスラエル人にとって物足りなさを感じる部分であると言います。

面白かったのは、日本の開発はアジャイルではなく、ウォーターフォール型。最初に計画を立て、ゴールの姿を決めてから動き出す。出来上がる頃には最初のゴールは陳腐化し、途中での方向転換は困難。描いたゴールが間違っていてもピボットできない。これは日本企業によく見られる文化、呪縛のように思いますね。

「違和感に敏感」になり、「やめること」を探し時間を確保することが日本に必要と言います。また、日本村の単一民族での組織形成なども自由な発想を制限しています。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://en.wikipedia.org/wiki/Talpiot_program
  2. https://web.archive.org/web/20070928191637/http://800ceoread.com/excerpts/archives/cat_spies_inc_by_stacy_perman.html
  3. https://www.quora.com/What-is-it-like-to-graduate-from-Israels-Talpiot-program
  4. https://amzn.to/3raf1C2「乳と蜜の流れる地」から 非日常の国イスラエルの日常生活 (スマートブックス) Kindle
  5. https://ja.wikipedia.org/wiki/ワイツマン科学研究所
  6. https://amzn.to/3tlxCxt アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?――イノベーションが次々に生まれる秘密 Kindle