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生物はなぜ死ぬのか | 田中 道昭 (著) | 2022年書評#29

本を読んではいるもののなかなか書評に書けずいましたが、また再開できたらなと思います。

さて、今回は生物はなぜ死ぬのかを読みました。

 

 

📒 Summary + Notes | まとめノート

コロナやウクライナ戦争、はたまた安倍元首相の銃殺など人の死というものは価値観に対して大きな影響を与えるように思います。

身内の死は人生で体験する大きなストレスの一つとされており、何故「死」という物事に向き合わなければいけないのか。

誰もが避けられない「死ぬこと」について生物学的視点から考えることにより受け止め方が変わるのではないでしょうか。

 

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生物はなぜ誕生したのか

本書の始まりは天文学者になりたかった著者による、宇宙の成り立ちからの話になります。

138億年前にビッグバンにより宇宙の起源があり、宇宙が始まりました。

太陽系ができたのは46億年まえになります。

46億年前の地球の表面は高温であり、時間の経過とともに核酸蛋白質、脂質などの細胞の材料となる有機物が蓄積され、そこからRNAとくっつき自己複製や分解を防いだりという働きを持ち始めます。RNAはその後アミノ酸を繋ぎ合わせてタンパク質を作るリボソームへと変貌し細胞の中に存在することでタンパク質を作ります。

この生命誕生の確率は25メートルプールの中にバラバラに分解した腕時計の部品を沈め、ぐるぐるかき混ぜていたら自然に腕時計が完成し、しかも動き出す確率に等しい、という超低確率のようです。

誕生した生命は効率的に増えるものが生き残り、死んだものが材料となる「正のスパイラル」によって生命が発展していきます。本書でもキーワードとなる「ターンオーバー」と呼びれる、常に新しいものと入れ替わることを常時繰り返しながら生命が現在まで存在しています。

生物はなぜ絶滅するのか

地球誕生から現在まで、多くの生物は絶滅してきました。過去には生物種の95%が絶滅する出来事などを重ねながらもその時々で生き延びた生命により、今の人間などが存在します。

恐竜と呼ばれる大型の生命が小型の生命を捕食することで生き延びていた時代から、隕石の衝突により大型の生命は自身の生命を維持するエネルギーが大きすぎるが故に食べ物不足などから死ぬことになります。

一方で、それまで食料とされていた小型の生命は、効率よく生き延びれるために死骸をエネルギー源や隠れ蓑として生命活動を続けることができました。

このように生命の多様性があることにより環境の変化に対応できた生命が後の時代へと生きることができました。

人間の祖先とされる生命も、元は樹上で生活しながら大型の生命から身を守っていた所、環境の変化に適応するために地上へ降りる判断をしたものが始まりと言います。

地上での大型の生命体から身を守るために生き延びながら知恵を使い繁殖していきました。こう考えると、恐竜が絶滅しなければ人類は誕生していなかった可能性があり、大量絶滅が人類にとって悪いことではなかったとも言えます。

絶滅と進化は表裏一体のようなものであり、環境の変化により生命は多様化していき、変化するということは選択するということでもありました。

生物はどのように死ぬのか

さて、生物はどのように死ぬのでしょうか。主に2つあり、1つは食べられたり、病気をしたり、餓えたりとアクシデントによるものです。もう1つは寿命によるものです。

大型の動物は寿命死が多く、小型の動物はアクシデント、つまり被食による死が多くなります。

食べられないようにする工夫として、昆虫が葉っぱのように擬態するもの、そもそも食べられることを前提に大量の卵を産むものなど進化が見られます。また、昆虫によっては生殖により死ぬ生命や、子供の栄養となるために子供に食べられて死ぬ生命もあります。

一方で寿命死する生き物として象や長寿命のネズミとしてハダカデバネズミがいます。これらの中には人のような老化時代を長く過ごすものが少ないケースもあり、本書ではピンピンコロリと死ぬと表現されるように、現役状態からあっさりと死を迎える生命もあります。

ヒトはどのように死ぬのか

人の寿命はこの100年でほぼ二倍へとなっていますが、江戸時代には38歳、室町時代は16歳とサルやチンパンジーに近いものでした。これにらの時代には「いくさ」による影響が大きいですが、もともとの能力としては霊長類で近しいものがありそうです。

人間の主な死は老化に関わる病気で、細胞レベルで起こる不可逆的な生理現象で細胞の機能が低下し死に至ります。死因としては機能不全と分類されるものになります。

日本人の死因はがん、心疾患、老衰であり、老化に関わり発生する病気であり、死因の多くは老化にかかわるものと認識して良さそうです。

私たちの細胞は日々新しい細胞へと作り替えられています。一方で体細胞の分裂は約50回までであり、回数に到達するとやがて分裂を辞めてしまい、死んでいきます。死んだ細胞を分解して体内から除去する能力を持ちますが、老化によりその機能は低下していきます。こうした残留細胞はサイトカインという物質をばら撒き結果として臓器機能を低下させるなど、糖尿病、がん、動脈硬化などの原因となります。

老化ということがなぜ必要かと思うかもしれませんが、細胞が常時生まれ変わり入れ替わることでがんなどの病気を防げておりました。ただし、限界年齢として55歳ほどでゲノムの傷の蓄積量が限界値を超え始め、病気のリスクが大きく高まります。

細胞の生まれ変わり機能は進化のために必要であった一方で、一定回数をこえると進化は老化へと形を変えます。

生物はなぜ死ぬのか

これまでの話から「進化により生き物が作られた」や「進化により生き物が死ぬこと」がわかってきました。

本書では生物が死ななければいけない理由は主に2つあるといいます。1つは食料や生活空間の不足、2つ目は多様性のためです。そして生物学的な意味として強いのは2つ目の多様性のためといいます。

生き物が生き残る仕組みは「変化と選択」です。多様性を確保するためにプログラムされたものとも言えるでしょう。ここで著者の主張として興味深いのは多様性を確保するために死ぬ必要があるというのはヒトに対しても同様であり、親は死ぬという選択により変化を加速させるといいます。

子供の方が親よりも多様性に満ちており、生物界においてはより価値がある、つまり生き残る可能性が高い優秀な存在です。

あくまで倫理的な話ではなく、生物学的な話でありますが、生命のプログラムとして親は死ぬものであり、仮に自身が親であれば死ぬことにより多様性を育むことになります。

さて、アンチエイジングという発想は古来からあり、真の始皇帝アンチエイジングの薬を作らせて飲んだところ寿命が短くなったという話があるように、人類の長年のテーマでもあります。

寿命を延ばす研究は多くされており、メトホルミンやラパマイシンなどの効果が観測されている一方で、人間の寿命と近しい動物での実験などは長年の時間がかかることなどから研究に対して多くの課題もあります。他の生命から学ぶことなどはできますが、短命の人の寿命を長明の人に近ずけることはできてもさらに寿命を伸ばすことは難しいようにも見えます。

生き物は偶然生まれてきましたが、必然的に死んできました。進化のために死は必要なものであるということは認識しておくべき事実なのかもしれませんね。