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何もない空間が価値を生む AI時代の哲学 | アイリス・チュウ (著), オードリー・タン 語り | 2022年書評#34

何冊か読んだことのあるオードリータンさんの新刊が出たということで、彼女の新刊を読んでみました。
古典や哲学から多くの考え方を学び、小さい頃は独学で多くの経験を積んできた彼女自身が考える多様性や誰一人取り残さない政策への考えの根本が感じられる内容でした。

ohtanao.hatenablog.com

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経験する

  • 道徳経には、「粘土をこねて器を作る。そこに空洞があるから、器としての役目を果たす」とあります。…つまり、価値を生み出すのは中の空洞であるということです。そこで老子は、一見無駄に思える空間があってこそ、有用なものが生まれると結論づけています。
  • 老子の説く人生の指針には、「三宝」という言葉があり、「一に慈悲、二に倹約、三にあえて世間で一番にならないこと」とあります。
  • 人の価値は蓄財の多さではなく、その財産をどれだけ人に分け与えたかにあると思うようになりました。
  • 物心ついた時から、私の人生は長期にわたって不確定な状態にあったのです。長い間この症状と付き合った結果、大人になってからは、そうではなくなりました。‥寝る前にネット上に全てを公開した途端、気持ちが落ち着き、人生に悔いが残らなくなりました。これは今でも続く習慣になっています。
  • 旅の次の目的地は、たいていの場合、いま私を受け入れてくれている人が、次は誰のところへ行くべきかと考えたところです。‥思っても見なかったところに行くという修行をしたのです。

学ぶ

  • 教育を重視するときには「学校が何を教えるか」には焦点が当たりますよね。それよりも、「生徒がどのように学ぶか」に焦点を当てるべきだということです。
  • こうした若い世代の学習は、テキストを一方的に受け取るのではなく、積極的に対話している状態なのです。これが従来の学習者とは異なる。
  • 私は本を読むとき、小説を除いて、1ページずつめくりながら読むことはほとんどありません。私は主に電子書籍を読んでいますが、まず1ページ0.2秒のスピードでタッチペンを使って読み、キーワードや概念のつながりをメモし、その後、必要になったときに再び全文検索を使い、元の場所に戻って詳細を読み返します。電子書籍の最大の利点は、テキスト全体を検索できるところです。
  • 私にとって「読書」とは本を読むことではなく、自分の興味のあるキーワードを理解することなのです。本は、あるキーワードを描写している媒体なのです。
  • 今の世の中で問題に直面にした際、一人の力だけで解決することは非常に難しく、多くは異なる専門知識、異なる文化背景を持った人に頼って解決しなければなりません。ですから、これからの十年間で私たちが最も力を入れて育成すべきコアコンピタンスは、「自発」「相互」「協働」だと考えています。
  • 私は昔から独学で勉強してきたので、もし独学で一番難しいスキルは何かと聞かれたら「聴く力」と言います。
  • 人間の脳も同じで、時間に追われていたり、エネルギーが不足しているときは、新しいことを学ぶのは容易ではなく、以前と同じパターンの思考を繰り返すことになります。新しいことを本当に自分の長期的な記憶と習慣にしたいのであれば、非常に注意深くて聴いて学ぶことと、十分な休息が必要です。そうすることでようやく何かを学べるのです。これは私自身の経験でもあります。

働く

  • コンピューターサイエンスの世界では、「早すぎる最適解は諸悪の根源」という言葉があります。私たちは往々にして、細部を良くすること、つまり早すぎる最適化に固執しており、その結果、全体のクオリティが犠牲にされてしまう、という意味です。
  • 共通メモとして最もよく使われるソフトはおそらくGoogleドキュメント、Googleスプレッドシートです。‥皆の頭脳を刺激し、ブレインストーミングをしたい場合は、Miroのデジタルホワイトボード、マインドマップを使った共通メモを検討することができますし、Google Meetを使ってオンラインミーティングを行う場合でも、Jamboardという共同作業用のデジタルホワイトボードを使って、アイデアを交換しながらチャットすることができます。
  • 「政府を開放する」「アナキズムを啓蒙する」は常に私の主張です。私が入閣した当初の条件は、①命令はしないし、されないこと、②私が切り取った会議や私に会いに来た人についてはその後、資料をインターネットで公開すること、③どこで仕事をしても仕事を見なすこと、の三つでした。
  • 打ち合わせをするなら、時間を無駄にしないようにするのが一番です。人々を不快にさせるのは会議そのものではなく、会議が会議を生む状況です。前回の会議で決定したことが、次の会議で覆ることもあります。この構造が人を不快にさせるのです。
  • 会議における議長の在り方は、二つに分けられます。一つは、あらかじめ会議の前に出しておいた結論をみんなに納得してもらおうとするやり方で、これはちょっとした人心操作です。もう一つは、ガイド役となって議論を促進し、最終的に結論を出す方法です。後者の場合、、会議では①まず自分が見た事実を述べ、②自分が感じたことに焦点を当て、③共通の価値を集結し、④最後に行動のための解決策を見出すというORID討論法を適用できれば、コンセンサスが得られる可能性が高くなるでしょう。
  • ファシリテーションスキルとは、会議に参加している全員が何かを収穫をえるような会議を進行させる能力です。重訳スキルとは、人生経験や学習スタイルが異なる人とコミュニケーションを図るときに、より相手がわかりやすい方法で伝える能力です。
  • 空間の構成方法には、「どこで」と「どのようにつなぐか」という二つの要素があります。さらに、人と場所の新しい繋ぎ方を考えることで、新しい空間が生まれます。
  • イノベーションの最大の鍵は「判断しない」ことなのです。全く判断せずに読んだり聞いたりして、全ての情報を素材として捉え、それらを雑多な情報とは思わないことがコツだと思います。
  • 対立している中でコミュニケーションをとるときには、必ず相手の話を聴く余裕を持たなければなりません。話すだけで聴かない人は、放言しているだけです。まず聴いて、自分で準備します。自分で経験したことがなくても人の経験に耳を傾ければ、一歩進んだ共通認識へと向かうことができます。

ネット上を生きる

  • どうすれば日常生活の中でハッカー精神を発揮できるのでしょうか。‥まず、新しいアイデアを思いついたらできるだけネット上に投稿してください。投稿は自分の問題だけでなく、他の多くの人の問題を解決するかもしれません。‥第二に、権威ある説明に満足しないことです。
  • 私自身がデジタルツールを使いこなす秘訣に「三国無双」があります。「三」とは、重要なデータをバックアップするためには、三つの異なる場所を選ぶということ。‥「国」は、できるだけ台湾やその友好国のネットワーク危機で仕事するということです。‥「無」は閲覧した履歴を残さないことを意味します。「双」は使用しているパスワードについてです。できるだけ二つの要素を認証手段として使います。

AI時代の哲学

  • 今後、AIが産業界にもたらす最大の変化は、わたしたちがもう二度と苦労を糧と捉えなくなること、非合理的な仕事をより越えるべき試練とはとらえなくなることだと考えています。

  • 私にとって、楽しさにはいくつかの種類があります。Fun(ファン、その時その場限りの楽しさ)、Happiness(ハピネス、その日限りの楽しさ)、Eudaimonia(ユーダイモニア、幸福)です。

  • 「私たちは互いに転生である」のイメージは、こんな感じですね。だから、私が誰かとコミュニケーションを図る時、私はすでに相手の視点から私を見ているし、相手もすでに私の視点から自分自身を見ている。というようなことが起こります。

  • 道徳経に示された「宇宙は一つの生命体」という考え方と、インターネットの在り方には、本当に共通するところがあるかもしれません。

  • 道徳経の内容を解釈してくれる本はいろいろありますが、アメリカの作家ルグウィン氏が翻訳したバージョンは、私が一番よく引用してきました。彼女の翻訳はとても詩的だからです。ルグウィン氏が「雌」を「a bird with its nestlings」と英訳するのはなかなか詩的だと思います。

    https://terebess.hu/english/tao/LeGuin.pdf

     

  • 「生きている価値がない」人生などは内容に私には思えます。

  • 1.逃げずに、2.困難を認め、3.行動したら、4.手放す(生厳法師)

感想

古きから学び、新しい時代に合わせて考え方をアップデートしていくという姿勢はなかなか身につきにくいように思います。

その点ハッカー文化は比較的新しいマインドでもあり、ここから学ぶべき考え方は多くあるのだなと感じました。コラボレーションに対する考え方や早すぎる最適解への到達を良いとしないことなど、オープンで権威が関係ないコミュニティはその中の最たる例に思います。

学習の仕方についても、キーワードに紐づけて本を読んだり、書籍内を検索するという新しい方法はデジタルの良さを最大限活用した方法に思います。

仕事の仕方についても、コンセンサスは共有メモから初め、会話の履歴をアーカイブにするなど、オープンで透明性のあり時間を無駄にしないさまざまな方法が記されています。

こういった内容を最も学ぶべきは、日本の大企業や政治の現場であるのでしょうが、台湾で彼女が実行したように新しいスタイルが徐々に浸透していくのを楽しみにしたいところです。

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  1. https://amzn.to/3LsxlAa 道徳経 Kindle老子 (著)
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  3. https://amzn.to/3eXrQ00 Networks of Outrage and Hope: Social Movements in the Internet Age (English Edition) 2nd 版, Kindle版 英語版 Manuel Castells (著)