ライフイズビューティフル

訪問記/書評/勉強日記(TOEIC930/IELTS6.0/HSK5級/Python)

NETFLIXの最強人事戦略~自由と責任の文化を築く | パティ・マッコード (著), 櫻井 祐子 (翻訳) | 2023年書評#12

Netflixの最強人事戦略を読みました。

Patty McCordさんはNetflixの急成長期に携わった人事メンバーであり、多くのスタートアップでの人事を務められています。

話題となったNetflix Culture Deckをまとめられたものが本書になりますが、スタートアップのマッチョイズムが感じられる内容でした。

www.slideshare.net

www.slideshare.net

最高の人材を獲得する、最高水準の給与を出す、定着率をKPIにしない、人事考課制度を廃止、など果敢な戦略を遂行する、というような日本の人事に属する人に無いような改革意識・向上意識フル稼働でかつその方向性がセルフィッシュではなく会社の成長を見据えている、というようなすさまじい内容でした。

www.ted.com

 

📒 Summary + Notes | まとめノート

従業員を大人として扱う

既存の人事制度を真っ向から見直し、会社の成功へと突き進むべき文化を作る基盤となるのは従業員をしっかり大人として見ることから始まります。

著者のパティは人事制度に関してNETFLIXの製品開発プロセスから多くを学んだと言います。A/Bテストや実験による検証、オープンな議論で廃止や方向転換などです。

承認システムの見直しをしてフラットな組織へとするために、有給休暇制度を廃止し、適宜上司と相談して休みをするシステムへと変更。従業員を信頼し、責任を持って時間を管理してもらうことが開始されました。

同様に旅費規定も廃止し、適切に判断して会社のお金を使ってもらうようへ移行します。

実験を繰り返しダメだったら元に戻せば良い。製品開発の思考を人事や会社制度にも反映させていきました。

全従業員に対して事業の理解を深めてもらうこともNETFLIXのカルチャーにあります。欧米企業では一般的になりつつある「〜大学」と呼ぶ新入社員研修や社内研修システムにおいて、CEOのReed氏がプレゼンし質疑応答を受ける際にウィンドウィング(コンテンツが劇場→ホテル→DVDなどのように展開されるしきたり)に対して疑問を投げかけると今では一般的となった全シリーズ一気出しのスタイルでも問題が無いことの気づきへとなりました。事業内容を全従業員が理解することで、しきたりなどの見直しができたのです。

バカだと思いこむのはよそう。誰かがバカなことをしているというのなら、それは情報を与えられていないか、誤った情報を与えられたせいだ。

オフサイトミーティングなどの交流目的のイベントもなくし、ハリウッドへ映画監督、映画技師、映画編集者へ話を聞きに行き、参加者が発表をする真剣な討論を企画する場を作ることへ変更していきます。

徹底的に正直になる

正直さはNETFLIXのカルチャーの重要な柱になっています。何か問題が会ったときに人事へと相談する社員に対して「で、それって本人には言ったの?」と聞き返す事で当人同士の話し合いを促したそうです。そうすることで陰口や陰湿な社内政治を極力排除できることに繋がりました。

また批判を受けることにもオープンな文化が築き上げられたため、適切で迅速なフィードバックも従業員間で行われます。問題になるのはフィードバックすることではなくて、フィードバックの与え方。性格描写ではなく、行動に関するフィードバックを与えることで、相手が具体的に理解できるようにするようアドバイスしたそうです。

デロイトの調査によると、「業績を損なうおそれのある問題について黙っていたことがある」従業員は70%ほどに登るそうで、このような問題の抱え込みも少なくなったそうです。

オープンにすることでまた自分の発言にも責任を持つようになることもわかり、面と向かってのフィードバックを重要視していました。

ただし、意見や議論する場合には根拠に基づくものにするべきという方針であり、根拠をはっきりと示すことを重要としています。面白かったのは、データそのものは何も語らないために、最後には直感で決断をする必要があるという点です。

主観的な判断を下す責任を回避するために、データが利用されることがあるというのだ。定量データをもとにした意思決定が好まれるのは、決定がまちがっていたことが判明したときに、データに責任を転嫁できるからでもある。

著者のパティが行うコンサルティングにおいて、離職率が問題とされていた時に「本当にそうでしょうか?」と訪ね、**対象の課題にもともと強い関心をもち、何かに長期間とりくんだ実績や適性のある人材を採用する方がずっとよく、多くの場合、ニーズはずっと短期で、課題が完了した時点で新しい仕事を探してもらった方が、会社にとっても本人にとってもためになる。**と考えました。

正直であることの重要性に、一度間違いとわかったときの切り替えも結びついてきます。どんなに説得力のある説明で決断された物事も、うまく行かないとわかった時に見直すことが必要になります。

日本式でよくあるのは一度決断したらやりきらないと、ということはありますが切り替えることの勇気はもつべきでしょう。

未来の理想からチームを考える

NETFLIXは急激な成長をしたために、人材をただ確保するのではなく、「最高の」人材を確保するという努力をします。そのために、何が必要で何が課題であるのかを明確にし、今のチームにノスタルジーを感じてテコ入れをしないのではなく、必要な物事に対して最高な人材を集めました。

アメリカのインターネットトラフィックの1/3がNetflixが占有することになると分かったときには既存のチームではどうしようもできないとのことで、経験豊富な人材を確保しました。

本書のとても共感する内容に**「会社はチームであって家族ではない」**というフレーズがあります。スポーツチームは成績を出すために監督の解任やスタープレーヤーのトレード、名物選手に対しても厳しい判断が必要になります。どれもチームとして最高の結果を出すために必要なものです。また、結果を出す選手へ成功年俸を出すことも、同じフィールドで戦う選手の給与差が大きくあることも仕方のないことです。

ノスタルジアは危険な兆候であるのだとパティは言います。

どの仕事へも優秀な人材を確保する

Netflixの人材管理基本方針は3つあります。

  1. 優れた人材の採用と従業員の解雇は主にマネジャーの責任である
  2. すべての職務にまずまずの人材ではなく、最高な人材を採用するよう務めること
  3. どんなに優れた人材でも、会社が必要とする職務にスキルが合っていないと判断すれば進んで解雇すること

Netflixにて人材管理方法を学んだJohnはCouseraにて移籍し人材採用の方針を語りました。

review.firstround.com

実力主義にとってはどれももってこいの人事制度であるために、会社の報酬は底なしであり業界最高水準であることも厭わないことになっていました。

また、給与格差についても従業員が周知しており、その理由もある程度透明性を持って伝えているために「Aさんはこの点で会社に貢献しているためにこの年収である」というような説明もされていたようです。

チームである以上、円満な解雇についても方策が考えられており、時にはアップルの人事へ紹介して働き口を探した上で本人の適切な居場所をアドバイスするということもしたと言います。

感想

Netflix の人事戦略は多くの所で語られており、有給休暇の廃止や青天井の給与報酬などどこかキャッチーに広まっています。

その根底にある文化は最高の結果を残すチームづくりということで、プロスポーツチームのような組織づくりに関する内容がまとめられていました。

常勝軍団であり、優秀な人材が絶え間なく流動している限りこのスタイルが理想的であると思いますし、そういう場に身をおいて過ごしたいと思う一方で、どうしてもプロスポーツのような組織ではなくて、地元に根付いてCSRを重視しながら緩やかに家族のような組織の方が母数をしては多いと思うので、実践に関してかなり組織を選ぶかなという印象です。

ただし、その中でも現状制度に対して疑問を持ちよりよいものに変えていく意思であったり、意思決定に正直になり方向転換をしやすい仕組みを持っておくことなど、THE日本企業にも今すぐ導入したほうがよい考えが多くありました。

日本語圏だけで不思議なほど大きな経済圏が確立されている村文化が多く残る日本企業にも少しずつこのようなマインドが広がることを楽しみにしています。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/40KFF5n グレートゲーム・オブ・ビジネス―社員の能力をフルに引き出す最強のマネジメント 単行本 – 2002/6/1 ジャック スタック (著), Jack Stack (原名), 楡井 浩一 (翻訳)
  2. https://review.firstround.com/this-is-how-coursera-competes-against-google-and-facebook-for-the-best-talent This is How Coursera Competes Against Google and Facebook for the Best Talent