ライフイズビューティフル

訪問記/書評/勉強日記(TOEIC930/IELTS6.0/HSK5級/Python)

AI 2041 人工知能が変える20年後の未来 | カイフー・リー(李開復) (著), チェン・チウファン(陳楸帆) (著), 中原 尚哉 (翻訳) | 2023年書評#37

前著AI Superpowersが大ヒットしたカイフーリーの新著を読みましたがとても面白い本で今年のベストブックになりそうな本でした。

ohtanao.hatenablog.com

今回のAI2041は、前著にてAIについて優しい言葉遣いをすることでAIの理解の裾野を広げようとし成功したことから、今回はAI技術をSF小説にて届けようという試みです。そこにタッグを組んだのは元Googlerの中国で有名なSF小説作家であるチェンチウファン。AI技術面をカイフーリーがまとめ、ストーリーをベストセラー作家が描くという抜群のシナジーです。

10の章に分かれておりそれぞれに近い未来を描いたSF小説Netflixのブラックミラーなどのように現実と見分けがつかないような没入体験をする登場人物が描かれています。

物語からどんな事が実現可能になるのかを知り、各章の間に挟まれている技術解説により理解を深める事ができる。教育という観点にもとても面白いアプローチでAIの理解が世の中に広がりそうです。

また、よく描かれるディストピア的な視点だけでなくポジティブサイドも描かれております。

 

www.youtube.com

www.youtube.com

 

📒 Summary + Notes | まとめノート

チェンチウファンの言葉

最後に一つだけ。SFの価値は答えを出すことではなく、疑問を提示することにあると思っている。この本を閉じたときに、頭に新しい疑問が多く浮かんでいてほしい。たとえば、次の世界的パンデミックの発生を根源から絶つことをAIは助けてくれるだろうか?あらゆる職業が消えていく未来に人間はどう立ち向かうのか?機会が優勢になった世界でどのように文化的多様性を維持すればいいのか?人間と機械が共生する社会で生きるすべてを子どもたちにどう教えるべきか?読者がかかえこんだ疑問がやがて幸福で明るい未来をかたちづくる一助となってくれることを期待してやまない。

恋占い

最初に描かれている物語はインドの恋物語です。気になるクラスメイトについてアプリの恋占で占ってもらう。アプリには「データ不足です!」と公開データが少なく占い費が返金されましたとのメッセージ。

一人の女の子の家族はガネーシャ保険と呼ばれる家族みんなで入れる最適化された保険にはいり、保険料はリスクに応じて常時変化します。空気が悪ければマスクをすすめる通知、渋滞があれば予め教えてくれる。スマートストリームのデータを用いて美容や服のクーポンが届きます。

家族の食生活が悪いと保険料は上がってしまうために、糖質と脂肪があまりにも多い食生活には警告とともに料金のアップが始まります。

好きな男の子サヘジへのSNSでライクするごとに不思議と保険料は上がるようになっていることにも気が付きます。サヘジは名字を隠していましたが実はカースト制度の下位に位置する出身でありナヤナの家族にとってはリスクとされていました。

物語はナヤナがひっきりなしに届くアプリ通知を無視してサヘジが住むスラム街を歩くところで終わります。

AIはスマートフォンやアプリを通じて個人情報を収集しその人にとって最適な情報を届け、嗜好に沿った提案などをしてくれます。物語に出てくるほどスマートではないものの、AI保険アプリはすで世の中にありますし、今後物語にあるように形が変わるかもしれません。

AIはマッチングやカスタマイズの分野はとても得意であり人間の脳よりも正確な判断をします。最近話題のChatGPTもそうですし、膨大な学習データから限りなく正解に近いレスポンスをしてくれます。

コンタクトレスラブ

この本で最も面白かったストーリーがコンタクトレスラブでした。パンデミックでの隔離生活から着想を得た物語で、遠距離、オンライン上で出会った男女がパンデミックのリスクを顧みずに直接会いに行くという物語です。

ブラジル在住のガルシアと上海に住む陳。二人はオンライン上で出会い数多くのゲームを一緒にプレイしました。ある日ガルシアが会いたいと言うと陳は準備ができていないと言います。

その会話の後いつもすぐに返事が来るガルシアから返事が止まります。心配になった陳は本当は会いたいと言うメッセージを送るものの返事がありません。ある日突然陳の家へ防護スーツに身を包んだ男が「ガルシアの知り合いですか?」と訪れます。

その男はガルシアが空港にてCOVIDの新種に感染したと判明しており病院で危篤状態にあると言います。医療データを見せられ陳もその状態を理解し、3年以上外に出ていなかった街へ出ます。

ワクチンを打っていない陳は公共交通機関は使えず、タクシーも黒車しか乗れません。そこに偶然にも黒車が通りかかり、この街で一人だけ防護服に身をまとう陳に何か緊急のことがあると感じ取ったドライバーが彼女に事情を聞きます。

街の反対の病院まで向かうためにタクシーが必要であるが公共交通機関は使えないことを理解しタクシードライバーは法を犯しても助ける必要があると思い彼女を乗せて病院へ向かいます。病院へ入るためには健康トラッカーの緑パッチ(非感染証明)が必要であるため、途中で偽装パッチを作成。

病院へついた陳は偽装パッチによって空いたゲートをくぐり抜け、偽装を見抜いたゲートシステムのアラームが鳴り響くなか警備ロボットをくぐり抜けガルシアの居る病室へ。

そこに居たのは患者姿ではあるものの思っていたよりも元気そうなガルシア。事情を聞くとガルリアが仕掛けたゲームであったことを知ります。陳が家で通知を受けてから病院へ行くまでの物語はゲームであり、そこに出てきた登場人物はガルシアのゲームフレンド。陳がゲームをすすめるために嗜好を分析し程よい困難と緊迫感を用意しました。

今の時代でもオンライン上に居る人達をまるで近所の住人のような感覚でコミュニケーションすることができます。日々Instagramで良いねやメッセージをやりとりする人たち、Twitterでメンションし合う仲の人たちは実際に近所で生活するよりも物事を共有し、意思疎通しています。

良いか悪いかというよりもコミュニケーションの形が近所だけでなくてオンライン上にも近所が存在するというのはとても面白い時代であると思います。

昔は近所や学校、会社で起こることが全てであったのに今ではアプリを通じて世界中とご近所さんになれます。それが男女の出会いであったり、仕事仲間、趣味仲間であったり何でも良いとは思いますが選択肢が増えたというのは喜ぶべきことかなと感じます。

感想

個々に沿ったゲームストーリから自身が好きだったアイドルがバーチャル上で死んでしまうというような体験をできたり、遠隔から被災地・危険地での被害者を助けるゴーストドライバー。AIが置き換える仕事が多発することによる大転職時代の物語。

Love And Compassion Will Save Us When AI Takes Our Jobs

(AIが得意な仕事領域)

幸せの価値観についてベーシックインカム貨幣論などを含めた物語など、どのストーリーも面白くかなり没入感のあるモノでした。

個人的に変化に対しては寛容でありたいと思うものの、変化のスピードが早すぎたり、何かストレス(仕事や生活が変化しすぎる、今までの経験が活かせなくなる)が多すぎたりすると躊躇する部分はあります。

一方でChatGPTの登場のように、世界が変わるような瞬間にもこれからさらに多く立ち会うのかと思うと高揚感を感じる部分もあります。

その世界で自分が何を大事にするべきなのか、何を感じて生きていくべきなのか、変わりゆく日々で自身の考えも柔軟に変えながらその時々の最適解をできるような心持ちで居たいと思いました。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/40SxlQA 荒潮 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) Kindle版 陳 楸帆 (著), 中原 尚哉 (翻訳) 形式: Kindle
  2. https://amzn.to/3Kjq4lS バガヴァッド・ギーター 単行本 – 2013/3/1 熊澤 教眞 (翻訳)
  3. https://amzn.to/43dHqJE 知と愛(新潮文庫Kindleヘルマン・ヘッセ (著), 高橋 健二 (翻訳)
  4. https://amzn.to/43dSZk3 論語 (岩波文庫) Kindle版 金谷 治 (著)
  5. https://amzn.to/3mi1Dxi テンペストシェイクスピア全集〈8〉 (ちくま文庫) 文庫 – 2000/6/7 ウィリアム シェイクスピア (著), William Shakespeare (原名), 松岡 和子 (翻訳)
  6. https://amzn.to/3Ko9Jwt 千夜一夜物語(全11巻セット)―バートン版 (ちくま文庫) 文庫 – 2004/8/1 大場正史 (著)
  7. https://amzn.to/3nQGNp3 21 Lessons ; 21世紀の人類のための21の思考 (河出文庫) 文庫 – 2021/11/5 ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 柴田 裕之 (翻訳)