ライフイズビューティフル

訪問記/書評/勉強日記(TOEIC930/IELTS6.0/HSK5級/Python)

1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊 | マイケル・ルイス (著), 小林啓倫 (翻訳) | 2024年書評65

仮想通貨で最大規模の破綻劇を起こしたFTXの物語をマイケル・ルイスがまとめ上げるということで面白い事間違いなしでした。今のところ今年ベストなインパクトでした。 FTXの破綻は突如として起こり、さらには現在創業者のSBFには多くの罪が認められる状態となりました。

wired.jp

ただし、本書を読んでみると彼の関係者や彼の生い立ち、効果的利他主義の考えなどからどこまで悪さの意識があったのか考えさせられるものでした。

本書でも登場するFTXのPR担当をしていたNatalie TienのインタビューではSBFに対して悪いことをしようとする意識は無かったと証言しています。

nypost.com

https://www.axios.com/2023/11/06/sam-bankman-fried-ftx-assistant-natalie-tien-guilt-tells

What was your view of Sam as a boss?

Every time a witness or one of the prosecutors talked about Sam like he was a robot with no emotion, or that he was ruthless, I didn't agree. He worked hard and was super-approachable.

Other CEOs have preferences, like they want to have this hotel or this car. Sam wasn't like that.

So when the prosecution said in their closing argument to the effect of: "Sam lied, he stole, he was greedy," I thought: "Lie? Yes. Steal? Yes." But he wasn't greedy. I genuinely still believe that he wasn't in it to make himself a fortune.

top21.blocktempo.com

引用:Natalie Tien - 台灣區塊鏈產業最有影響力的21人

www.washingtonpost.com

もっと儲けようと貪欲になれば儲けられ、もっと横領しようと思えば横領できた環境であった彼がFTX破綻の悲劇まで何が起きていたのかとても面白かったです。

ファッション業界のアナ・ウィンターとのインタビューでSBFはゲームをしながら受け答えをしており目がキョロキョロと動きながら何があっても相槌をしてNatalie TienはPRとしてドキドキしながら様子を見届けていおり、期待値をあげてイベントの参加を最終的に断り、ファッション業界からFTXを追放されるといった様子も書かれています。

nypost.com

SBFは巨額の費用を抱えておりファッション業界としてもスポンサーを引っ張り出そうという考えからアナ・ウィンターが近づいてきて勝手に多くの期待をして、そこにファッションもアナ・ウィンターも大金を抱えた若者があまり意味が無いと判断して断った流れであり、不義理ではあるものの行為として納得感があるのも確かです。

まず、人は一緒にいる相手を外見で決める。そのせいで、宗教や食べ物などすべてについて間違った選択をしてしまう。それじゃあ、自分が誰になるかをサイコロで決めてしまうようなものだ

僕が道徳的に強く反対するビジネスはほとんどないけど、彼女のビジネスはそのひとつだ。実際、僕はファッションを軽蔑している。身体的な魅力の重要性自体を軽蔑してるんだ。ファッションへの軽蔑もそこから来ている。

複雑で誰もまとめていなかった組織図が表紙裏にまとめられています。

引用:https://www.marketwatch.com/story/michael-lewis-on-the-outrage-over-his-sam-bankman-fried-portrayal-it-sells-the-book-b7fce4ca

さて、それでは本書の内容を見ていきましょう。

📒 Summary + Notes | まとめノート

生い立ち

サムは周りの子どもと会話が合わない生活をしていました。大人と話す方が簡単だと感じており、それが得意でした。サンタクロース信仰などを友だちと話す中でばかばかしいと感じます。

集団妄想というのは、結局のところ、世界で普遍的に見られる現象なんだ。それについては為す術がないことを受け入れなければならなかった。他の子どもたちにサンタクロース信仰に反論しても意味はない

特段優秀では無かったものの、他人が理解できたことが自分には理解し難いことも多く、前提を疑問に思い努力して学ぶ必要がありました。他の人々の行動に対して感情的な反応を示すよう期待される意味もわからず、反応をでっちあげるかわりに、表情とは何であるのか?と自身に問います。

英語の授業でも本についてエッセイを書くことに対して疑問を持ちます。

主観なのに客観のふりをしている。採点はすべて恣意的だし、どう採点しているのかすらわからない。いい成績の背後にある暗黙の要求に反対したんだ

良い成績でない理由を説明したくない先生たちは次第に彼にAの成績をつけました。

彼は芸術の前にしても何を感じなかった。宗教は不条理と感じ。右翼も左翼も政治的な意見はばかばかしく、思想というより仲間のアイデンティティで決まると考えていました。

その中で彼の心を射止めたのはマジック・ザ・ギャザリングMTG)。複雑なカードゲームのMTGは設計者も最善の手が固定しないようにと予測できない事態に対して戦略を変え続ける楽しみを意図して作られたものでした。

12歳のころ政治的な意識も芽生え始め、功利主義的な考えを指示していきます。

すごく親しい人がさほど多くなかったために、特定の誰かではなく、すべての人々に関心を持つことが自然になった。大事でない人などいない、だから誰のことも同じように気にかけよう、というのが僕のデフォルトの考え方だった

彼が記憶に残る楽しんだイベントに数学キャンプがあります。そこで人生で初めてその場にいるいちばん賢い人ではなくなる経験をします。

MITへ進学したSBFは物理学を選考しましたが他の多くの学生と同様に興味を失い、HFT業者へのインターンをします。サスケハナ、ウルヴァリン、ジェーンストリートのHFT業者からインターンシップの面接に参加できることになり、ジェーンストリートの面接は彼が聞いたこともない楽しいものでした。

期待値の考えは後の彼の人生でも多く登場するキーワードでありますが、ジェーンストリートの面接でも登場します。

このゲームは、情報への対応の仕方をテストしていると彼は感じた。つまり、いつ情報を求めるか、それをどう探すか、見つかった情報に応じて自分の考えをどう更新するか、である。

それぞれのゲームで最も難しかったのは、それが何であるかを性格に見極めることだ。

「明確に言い表すのは難しい、とても重要な何かを、正しく試されていると感じた」

www.efinancialcareers.com

newrepublic.com

大学3年生のはじめに重要な出来事がありました。オックスフォード大学のウィルクラウチという25歳の哲学講師が彼にアプローチしてきます。サムが功利主義に関する考えをWebサイトで書いていたであろうからコンタクトしてきたと思われ、その哲学講師は後にマッカスキルと改名しました。

wired.jp

ピーター・シンガーの名前を出されるとSBFは興味を持ちます。シンガーは寄付するために稼ぐという考え(名付けはマッカスキル)の代表であり、効果的利他主義の起点となる人物でした。

マッカスキルがサムへコンタクトした理由に、ジェーンストリートで効果的利他主義者であるマットウェイジへの紹介でもありました。

数奇な運命でジェーンストリートのインターンシップに参加したサムはインターンシップ生の誰よりも優秀であり、正社員としての採用がすぐに決まります。

ジェーンストリートではETFの取引が会社の強みでもあり、ETFの中身と商品の価格差を見つけ出し60対40で表が出るコインに対して投資を続けることでした。サムが見ていた視点は投げるコインを探すこと。新しいコインを探して後はコンピューターでプログラムしてコインを投げてもらう。

最も価値を感じたのは、まだ自動化されていないが、自動化できる可能性のある作業を見つけ出したときだ。それは人間よりも優れていた。なぜなら、人間はそうした作業をすごい速さで行わなくちゃならないからだ

市場での統計パターンを分析しつづけて、多くの洞察が得られました。ワールドカップでブラジルが試合に勝つたびに同国の株式市場は急落していたため、ブラジルの試合予想をしたり、アメリカ大統領選挙でトランプが有利とわかると市場が下がる反応をしていたために各州の勝敗予想をいち早くつかめる情報ソースを見つけそれに対してベッドする。

ただし、大統領選挙ではトランプが勝利し株価も結局は上昇したために損失をもたらしてしまいます。その時のジェーンストリートの文化にサムは影響を受けます。

誰も罰せられたり、詰問されたりしなかった。この会社がプロセスと結果を区別していることに関心した。良い結果が出たのは誰かが正しいことをしたからではない。同様に、悪い結果が出たのは誰かが悪いことをしたからではない。

彼らは「誰か指示に反する行動をとったか?」と質問する。答えが「いいえ」なら、CEOでも同じことをしたかもしれない、という話になるんだ

ジェーンストリートは誰かを解雇することもなく、その文化も影響を受けていました。

ただしSBFの報酬系はこの仕事でも満たされず、稼いだお金の多くをオックスフォードの哲学者たちが認定した3つの慈善団体に寄付していました。地球上の幸福を最大化することに人生を捧げていましたが、自身の寄付がまだまだ満足ではないと思いさらに稼ぐ事ができると思われた、超成長業界の仮想通貨に足を踏み入れます。

アラメダリサーチとFTX

後にアラメダリサーチの代表となるキャロラインとはジェーンストリートでインターンをしていた際にサムの元で働きます。自信が無く普通の生活を求めていたキャロラインはサムに惹かれておりアラメダリサーチに入社します。

アラメダリサーチには効果的利他主義者たちが集まり20人ほど採用されていただ何をするか決まっておらず暗号通貨の取引を行う組織ということのみが決まっていました。

サムと数学キャンプで出会ったゲイリーワンは一人でほぼすべてのプログラミングを書きます。

当時2017年ごろの暗号通貨は世界中で価格差があり裁定取引で多くの利益が稼ぐ事ができました。韓国でビットコインが20%割高に売られていたらアメリカで買って韓国で売るという取引をします。規制もあり次第に取引が制限されますが、そこでも規制対象でない他の暗号通貨と併せた裁量取引を実施。ある時400万ドル相当のリップルの消息が不明になり、当時のアラメダリサーチの資産規模でも大きな学ではあったがサムは気にせず「いつか見つかるよ」などと言っていました。

そのようなサムの様子に戸惑い離職する人たちも多く居ました。

2018年の終わりにサムは市場が変化しスプレッドが小さくなる環境下で、取引所を行う考えを持ち香港へと飛び立ちます。ゲイリーワンに取引所のプログラミングを書くことを依頼しわずか一ヶ月で書き上げます。当時は取引所では他の金融市場ほど多くの機能を持つ取引所は存在せず、市場ニーズを満たす仕組みを設計します。2019年に出会ったバイナンスのCZからも応援を受けてFTXを開始。

バイナンスは当時規制なんてくそくらえという考えがあったようで、各国が規制でバイナンスを規制することのリスクは低いと考えて法規に乗っ取らない側面もありましたが、FTXはクリーンである必要があると考え香港で開始されます。FTXは認可の取得と法令遵守を優先する唯一の暗号通貨取引所としてシェアを拡大します。

効果的利他主義であることなどから多額の資金も獲得し、信頼を得るために有名なベンチャーキャピタルからも出資を得ながら規模を拡大。アラメダリサーチとFTXの関係は曖昧であることが多く、後にこの関係性が事件を招く要因でもありました。

次第に中国の仮想通貨の取り締まりの影響を考え拠点の移転を考えます。多くの東アジア系の社員たちの事も考え、たどり着いたのはバハマでした。

破綻にも関わる出来事が次第に置き始めます。2020年3月にビットコインに期待される決済手段としての最大の弱点を解決するためにソラーナの開発が行われ、評価できると考えられたためFTXはソラナに多く資金を投入。1年半後にアラメダはソラナの15%も所有することになりました。サムのドラゴンの巣(算定価値が難しい資産)にはソラナ以外にもFTTと呼ばれるFTXの株式のようなトークンもありました。

バイナンスのCZとFTXは最初に良好だった関係は悪化し始めます。バイナンスが行うウォッシュトレードを見つけ道理的にも納得のいかなかったサムはそのボットトレードの隙を見つけアラメダがボロ儲けできる取引を行います。そうするとバイナンスはそれを見つけ、CZがツイートして反応。CZはFTXを脅威として認識するようになった事件でもありました。

アメリカ市場で暗号通貨の取引所をしていなかったFTXはアメリカ市場へ参入します。PRには無頓着でその意味も無いと感じていたサムでしたがFTXはコインベースというアメリカ最大規模の会社に対抗するべく、アメリカ市場で多くの広告を実施。アメリカ内でも多くのシェアを獲得します。

いくつかサムの考えに触れる文章も面白いものでした。

何人かの大人を雇ってみたけど、何もしてくれなかった。彼らがしたのは心配することだけ。新しい心配事を出して、それまでの心配事から注意をそらすしかなかった

破綻へ

バハマを留守にしていたマイケル・ルイスが突然の知らせで、FTXの殆どのメンバーがバハマから逃げ出していると知ります。バハマにたどり着くとFTXのメンバナタリーが空港まで迎えに行き状況を確認していきます。

FTX社内で保管されているはずの資金がアラメダリサーチに移行しており、その80億ドルがどうなっているか知っている人間がおらず、コインデスクの記事により多くの人から取り付け騒ぎが起きていました。

ことの発端はCZとサムとのツイッター上での小競り合いでした。コインデスクの記事をきっかけにCZが公にバイナンスが所有する多くのFTTを売却する意思を表明します。FTXには顧客資産が150億ドルあったために当初は問題なく取り付け騒ぎに対応していましたが、毎日2億ドルの流出が11月1日から5日まで始まりそれが6日には20億ドル、40億ドル、50億ドルと膨れ上がりました。残り100億ドルあったと思われたFTXの資産には素早く現金に換金できないものも多く含まれており70億ドルが必要とされ資金調達に動き出すものの払い手が見つかりません。

そこでCZが声を挙げます。しかしその期待は後に彼がツイートした内容で成功しなかった事が世界に伝わります。

結局アラメダリサーチ、FTXは破産手続きを開始する結末となります。

お金はどこへ?

FTXは十分な売上もあり資産もありましたがなぜ取り付け騒ぎに対応できなかったのかという疑問が残ります。

破綻後もマイケル・ルイスは彼らの動向を追っており、管財人とも資産整理の様子を見ていました。複雑になっていたアラメダリサーチとFTXとの口座を紐解き、ドラゴンの巣にある資産も計算して整理していきます。そこにはロックアップされていた暗号通貨がそのまま残っていたり、サムが購入したツイッターの株式なども含めて十分な資産が残っている事が徐々に分かっていきます。

キャロラインは取り調べの中で検察が暗に示した取引をすべて受け入れ、ゲイリーやニシャドたちも同様にしましたが、サムは否定を続けています。

幹部であったニシャド、キャロライン、ゲイリーの三人も金融関係者らしい行動(資産所有)は行っておらず、ゲイリーはFTXのほうが価値が高かったにもかかわらずアラメダリサーチの株式の一部、ニシャドはFTXの大きな部分でアラメダリサーチは所有せず、キャロラインはアラメダリサーチを経営していたがFTXの資産のみしか所有していませんでした。

サムは詐欺をする意図は無かったものの、アメリカの検察システムの勝率はものすごく高いものであり、そこの中で他の三人が有罪を認める発言をしてしまっている事もサムの裁判に大きな影響を与えてしまっております。

感想

FTXの多くの社員はFTXに資産を預けており破綻と同時に過去先延ばしにしていた報酬もすべて消え去るような形となってしまい、取引所を利用していたHFT業者や一般投資家含め多くの不幸を生み出してしまいました。

債権整理の状況がポストされておりますがそこでも返済できそうな事が分かります。

sambf.substack.com

SBFの裁判所での質疑応答もまとめられています。

blog.bitmex.com

そもそも仮想通貨の世界は現代世界の仕組みに疑問を呈している姿勢が少なからずあると思っています。通貨は政府が発行するべきではなく、分散して管理されるべきものであり、発行量も政府のさじ加減で決めるものでもないことなど設計思想にも組み込まれています。

SBFが影響を受けている効果的利他主義の考えは宗教的な人気を誇っており現にビル・ゲイツなど実践している人たちも居ます。

それとFTXの社内システムの不整理具合やアラメダとの曖昧な口座管理が認められるのかというとそうでは無いと思うのですが、本書を呼んでいる限り性善説的に居すぎたために一時的な危機に耐えきれず破滅へと進んでしまったように思います。

FTXがクリーンな取引所を目指していたことや彼のビジョンに宗教的に熱狂したのも理解できる気がします。それを裏付ける彼の活動もあります。

forum.effectivealtruism.org

寄付するために稼ぎ、政治含め多くの場で寄付を実施してきているのも事実です。悪巧みがあり口座を移動させていたというのがあまりにも辻褄が合わない行動ですが、無罪を主張しきるほどには根拠も薄く、他の幹部の発言との一貫性も減るためにアメリカ司法が折れない案件でもあるでしょう。

coinpost.jp

coinpost.jp

誰も悪気は無かったというような印象であり、SBFの人気の秘密もどこか理解できるとてもおもしろい本でした。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/3zxhj65 The Precipice: Existential Risk and the Future of Humanity (English Edition) Kindle版 英語版 Toby Ord (著)