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カフェから時代は創られる | 飯田美樹 (著) | 2025年書評26

今やSNSが人々の溜まり場として機能してスマホに釘付けの世の中、田舎に行くと公民館や駅前の謎の大型スペースに人が溜まっている様子なども目にします。カフェは人が集まる場所の一つであり、本書ではカフェはがどのような役割を演じていたのか紹介していきます。

少し大げさなタイトルであるかもと思うのですが、特にフランスのカフェは時代を創りだすハブとして存在していたという歴史がありました。安く暖を取れる場所であり、人と交流できる場所。カフェという場所を通じて多くの文学者や芸術家が活動していた背景を知ると重要な役割をしていた事を知ることができます。

著者は飯田美樹さんでYoutube活動もされています。

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フランスといえばオー・シャンゼリゼが思い浮かぶぐらいの浅いフランス知識しか無いのですが本書を読むと、どのカフェがパリの芸術活動を支えている場になっていたのか知ることができ、パリ旅行の前などに読んでみるのも良いと思いました。

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📒 Summary + Notes | まとめノート

パリのカフェ歴史

パリのカフェの歴史のスタートはカフェブロコープという1686年に開かれたカフェです。

https://maps.app.goo.gl/tQaUG5KDHf2usUeK7

このカフェには、ヴォルテールディドロ、ルソー、ダントン、マラー、カミーユ・デムーラン、ロベスピエール、ベンジェミンフランクリンなどが通い、フランス革命啓蒙思想が議論されていたようです。

1870年代後半になるとカフェの中心はパリの北部、モンマルトルに移りヌーベルアテヌには印象派と呼ばれる絵を描くモネ、ルノワールゴーギャンセザンヌなどが集い議論を行いました。

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貧乏芸術家がセーヌ川右岸のモンマルトルにいたのですが、1910年代になるとセーヌ川左岸のモンパルナスのカフェが発展し始めます。モンマルトルの共同アトリエ「洗濯船」に住んでいたピカソら若き芸術家たちはモンパルナスへと通いつめていたと言います。モンパルナスのカフェロトンドは多くの有名芸術家が通い、モディリアーニ、藤田 嗣治、キスリング、ピカソレーニンなどが居ました。

https://maps.app.goo.gl/JQ2hc47QtARPSu2P9

ロトンドの向かいにはカフェドームがあり、他にもクーポールなどのカフェがあります。

https://maps.app.goo.gl/2MbfiaYgtkKUUh1W8

カフェに通った人々

ボーヴォワール

ボーヴォワールサルトルと連れ添った哲学者です。サンジェルマン・デ・プレ周辺のカフェに通いました。その影響となったのは従兄弟のジァークであり、彼に認められるべく文学に勤しみました。20年後ばったりと出会ったときジァークと浮浪者のようになっていてボーヴォワールと結婚しなかった事を後悔していたようです。

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藤田 嗣治

日本人でパリと言えば藤田嗣治の存在があります。藤田 嗣治は世界的な画家になりたいという野心でパリにわたり、同じパリに夢を抱いて渡った画家たちとはつるまずに過ごし、パリのカフェで世界中から集まってきた芸術家と交流をしました。

藤田 嗣治の妻とみへ送った手紙の内容が所々書かれているのですが、ある意味イタイタしい内容も多く、パリ渡航初日からカフェに行きなんて自由の国なのだと感動していることや、女性たちの振る舞いの違いなどを書いていました。

藤田はカフェでピカソと出会い、2番目の妻のフェルナンドバレーとも出会います。ロトンドのギャルソンの婚約者の肖像画を描くことお金を得たり、とロトンドというカフェを通じて様々な活動を行いました。

パリのカフェ

サードプレイスという表現が一時期日本でも流行りましたが、著者がパリのカフェの特徴としているのはインフォーマルパブリックライフという表現です。路面に面しており、テラス席も外を向いている事が特徴のパリのカフェ。

コーヒー代を出しさえすれば居続けてよい空間であり、また表現の自由も認められていました。それぞれは平等に扱われ、交流も行われていたため多くの人にとって避難所としての役割も持っています。

カフェの主人やギャルソンと仲良くなることでネットワークがうまれ、交流範囲が拡がっていきました。

シルノヴァーノアリエティの創造力では創造性が生まれる場所の特徴として9つ挙げられているがパリのカフェとの共通性を著者は見出しています。

  1. 文化的な手段の利用可能性
  2. 文化的刺激に対して開かれていること
  3. ただあることではなくて、なることへの強制
  4. 差別なしにあらゆる市民が文化メディアに自由に接近できる
  5. 厳しい抑圧とか絶対的な排斥の後の自由、さらにはある程度の差別の存在すらが、創造性発生への誘因
  6. 異なった、ときには反対の文化刺激に身をさらす
  7. 多様な見方への包容力と興味
  8. 主だった人たちの相互作用
  9. 誘因と報償を促進すること

カフェマップ

モンマルトル界隈

サンジェルマン・デ・プレ、モンパルナス界隈

感想

クルミド出版のカフェ本ということでとても面白く読みました。著者の飯田さんは最近新書を出されておりこちらも面白そうです。(https://amzn.to/3EUm7VN)また最近出版されたカフェの世界史(https://amzn.to/4kqUCDJ)もとても気になる本になります。第一次世界大戦前後のフランスのカフェについての物語が多くあるのですが、当時のパリに多くの芸術家が惹きつけられて生活していたという背景はとても興味深く思います。

カフェ賛美感は否めないものの当時のエッジの聞いた人たちがパリのカフェに集い芸術活動に勤しんでいたのはそうだったのであろうと思います。確かにカフェの敷居はコーヒー一杯さえ飲めば越えられますし、当時スマホなどなかった頃には交流のために出かけて暇つぶしするのも理解できます。情報が集まり最新の物事を知るためにはカフェに言って誰かとおしゃべりして変えるという行為が創造的な事だったのだろうと考えられます。

藤田が他の日本人とはつるまないで、カフェに入れ込んで通いつつも、他の人に自分の絵の手法を知られるのが嫌でカフェでは絵を描かなかったなどくすっとなるエピソードも多く描かれています。本書を読むまで彼の存在は知らなかったのですが日本人の芸術家ではトップクラスの評判であるようですが、フランスに行くまでは日本で全く評価されず、芸大の卒業時も挑戦的な絵を描いては評価されていませんでした。パリに言ってからは結婚と離婚を繰り返していたり、世界大戦に伴い日本からの送金が途絶え活路を見出すために絵を売り瞬く間に個展を開くなどのシンデレラストーリーもあります。

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パリという街の文化についてとても興味を持てる本であり、パリで生活してカフェに通い詰めたくなる思いになりました。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/4bf1e3J 日はまた昇る (岩波文庫 赤 326-1) 文庫 – 1958/9/25 E. ヘミングウェー (著), 谷口 陸男 (翻訳)
  2. https://amzn.to/4k8P0O7 移動祝祭日 (新潮文庫) 文庫 – 2009/1/28 アーネスト ヘミングウェイ (著), Ernest Hemingway (原名), 高見 浩 (翻訳)
  3. https://amzn.to/3Xfnx3D ワールド・カフェ~カフェ的会話が未来を創る~ 単行本(ソフトカバー) – 2007/9/28 アニータ ブラウン / デイビッド アイザックス / ワールド・カフェ・コミュニティ (著), 香取 一昭 / 川口 大輔 (翻訳)
  4. https://amzn.to/4k8jj7v 新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く 単行本 – 2002/12/26 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳)
  5. https://amzn.to/3EQSQeG マネの想い出 ペーパーバック – 1983/1/1 アントナン プルースト (著), 野村 太郎 (翻訳)
  6. https://amzn.to/4k8PbJhシュールレアリスム運動の歴史 単行本 – 1966/1/1 アンドレ・ブルトン (著)
  7. https://amzn.to/4h2EXYk アンドレ・ブルトン集成〈5〉 (1970年) シュルレアリスム宣言・他 単行本
  8. https://amzn.to/4h2EZzq ナジャ (岩波文庫 赤 590-2) 文庫 – 2003/7/17 アンドレ・ブルトン (著), 巖谷 國士 (翻訳)
  9. https://amzn.to/4hMWSDp シュールレアリスム (文庫クセジュ 345) 単行本 – 1963/5/1 イヴ デュプレシス (著), 稲田 三吉 (翻訳)
  10. https://amzn.to/4hP6z47 芸術家の運命 (1964年) (美術選書) - イリヤ・エレンブルグ (著), 小笠原 豊樹 (翻訳)
  11. https://amzn.to/3Xecxn8 わが回想〈第1巻〉―人間・歳月・生活 (1968年) - イリヤ・エレンブルグ (著), 木村 浩 (翻訳)
  12. https://amzn.to/3XcO9C0 祝祭と狂乱の日々: 1920年代パリ 単行本 – 1986/5/1 ウィリアム ワイザー (著), 岩崎 力 (翻訳)
  13. https://amzn.to/4hMXUzp ヨーロッパのサロン: 消滅した女性文化の頂点 (りぶらりあ選書) 単行本 – 1998/3/1 ヴェレーナ・フォン・デア ハイデン‐リンシュ (著), Verena von der Heyden‐Rynsch (原名), 石丸 昭二 (翻訳)
  14. https://amzn.to/3XgfT8S カフェハウスの文化史 単行本 – 1991/3/1 ヴォルフガング ユンガー (著), 小川 悟 (翻訳)
  15. https://amzn.to/4gRYV7P 自由からの逃走 新版 単行本 – 1952/1/1 エーリッヒ・フロム (著), 日高 六郎 (翻訳)
  16. https://amzn.to/3EO03fk 知識人とは何か (平凡社ライブラリー) 文庫 – 1998/3/11 エドワード・W. サイード (著), Edward W. Said (原名), 大橋 洋一 (翻訳)
  17. https://amzn.to/4iaDMa5 クチコミはこうしてつくられる: おもしろさが伝染するバズ・マーケティング 単行本 – 2002/1/1 エマニュエル ローゼン (著), 濱岡 豊 (翻訳)
  18. https://amzn.to/4gPYNWw 芸術家伝説 単行本 – 1989/6/1 エルンスト クリス (著), オットー クルツ (著), 大西 廣 (翻訳)
  19. https://amzn.to/43a5M9x 天才の心理学 (岩波文庫 青 658-1) 文庫 – 1982/1/16 E.クレッチュマー (著), 内村 祐之 (翻訳)
  20. https://amzn.to/4ic2xTq パリ フランス: 個人的回想 ペーパーバック – 1977/1/1 ガートルード・スタイン (著), Gertrude Stein (原名), 和田 旦 (翻訳), 本間 満男 (翻訳)