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それでもなぜ、トランプは支持されるのか―アメリカ地殻変動の思想史 | 会田 弘継 (著) | 2025年書評90

最近では少し落ち着いてきたトランプ大統領の発言を巡る騒動。当初はあまりに取り上げられすぎていた気もしますが変化も一段落ついてきたのかなと思います。

一度こりたと思ったトランプ政権も結局帰ってきたわけですが、それはなぜだったのかをアメリカの思想に精通した会田さんの本を読みました。

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📒 Summary + Notes | まとめノート

トランプ政権誕生の思想史

トランプ現象の思想として重要なスタートになったのはジェームズ・パーナムとサミュエル・フランシス。フランシスが1992年ごろ、共和党大統領候補選びにあたり、ブキャナンを支援し①貿易保護主義、②移民排撃、③アメリカ第一の孤立主義的外交、と今のトランプ政権の核となる思想がありました。

バーナムが説いたのは、テクノクラート支配であり、共産主義国であれ資本主義国であれ、これからはエリートテクノクラートが権力を握って支配する世界となると言いました。

「歴史の終わり」を著したフランシス・フクヤマは「腐敗して自己利益しか考えない体制に対し立ち上がり、その浄化を求めて過激なアウトサイダーのもとに向かった」と共和党のトランプ化、民主党のサンダース現象をコメントしました。トランプ現象で顕著なのは、「政治的正しさ(ポリティカル・コレクトネス)」をまったく意に介さない発言が繰り返されました。

アメリカの潮流

アメリカの思想の根源にあった社会状況がいくつか挙げられています。

  1. 民主党の変容と経済格差の侵攻 よく言われていることですがトップ10%の経済格差が拡大しています
  2. 社会主義への意識 格差が拡大していると、平等への関心が高まり、社会主義への考えが少しながらポジティブなものになります。特にソ連を知らない若い世代が中心です。

考かんがえてみると、社会格差に不満を持つ中間層が多くいることが分かります。グローバル化などに関する不満も同様で自分たちの仕事が他の国の誰かに奪われたという考えにたどり着くのも自然に思います。

ニューヨーク・タイムズで起きたキャンセルカルチャー、ニューヨーク・タイムズの歴史歪曲「1619プロジェクト」によりBLM運動が推奨されたことなどは、トランプのキャンペーンにピッタリのネタになってしまいました。

ラッセル・カーク

本書の後半はラッセル・カークの話になります。ラッセルカークはアメリカ保守思想家であり「保守主義の精神」は約70年前に出版されました。レーガン政策の原点にあるともされており、グローバル経済や、ネオコン民主化拡大路線を批判しました。

まず第一は、超越的秩序・自然法への信頼である。すなわち侵攻の重要性だ。第二は、人間存在の多様性および神秘への愛。第三に、文明は身分秩序(階級)を必要とすること。第四に、自由と財産は不可避であるとの理解。第五は、古くから伝わる定めを信頼し、抽象的な「設計主義」を否定すること。第六は、社会を保持するには深慮に基づく変革が必要だと理解すること。

現代では受け入れがたいことも多くあるのですが、カークの精神では、資本主義、産業主義など批判の対象であり、移動も否定し生地から近い母方の祖母の地で生涯を終えました。

感想

アメリカ保守思想の起源ラッセル・カークの解説及び、最近のトランプの躍進に関する解説をした本で、その中でも「思想」を中心みていく本です。思想系の知識が少なすぎて紹介されていく思想家の前提知識が不足していることから中々入ってこない部分もありました。

個人的には思想家と政治・社会現象の結びつきはあるものの、単純化してその結びつき=その社会現象につながったとは言い切れないために中々結びつきを解説するのは難しいとは感じるものの、アメリカ社会でどのような思想が各年代で注目されていたのかというのはとても勉強になります。

今の日本社会の起きている事もそうですが、今言われていることを記録しておいて数年後に確認してみるということでした結びつきの確認はできないように思いますしそれでも結論に至るものではないとの認識です。

ただし、政治活動に及び時代を見て、相手を見て自分たちの主張を唱えて人々に響く主張に整えていくという行為は行われているわけで、保守が民主化し民主が保守化するようなことが起きている振り子のような状況になるのだろうと思います。労働層を大切にしていたと思われていた民主党はいつの間にか都市のさらにはIT産業系の層に支持され、工場労働層は昔のイメージとは全く変わり共和党へ支持をしていく様子が見られました。

個人的には、白人労働層が共和党により救われるとは思えないためにこの4年の中で彼らの支持がどのように変化していくのか興味深いものです。バーニー・サンダース的な社会主義的な価値観の広がりも興味深いものです。

アメリカ政治の面白いところは問題を表面化させ、その問題が一定を越えると政権が変わることで新しい挑戦が生まれることに思います。問題が顕在化するのを防ぎつつ実験的な取り組みも無いある種変化が無く安定した日本の政治と比べると、政権を担える政党が2つ以上あることが羨ましく感じます。

知り合いの政府機関で働くアメリカ人と話していると、DOGE政策によりある一定の役職層が一気に居なくなり、若手の人材もカット対象となり絶賛大混乱していたが、今は少しずつ出戻りで雇なおしがあるようでした。会社の同僚などに聞くと、白人労働者層の悲鳴は理解できるのだが、彼らは学び直しが必要であり新しい業種へ就くための努力がみられないところが本当は問題であり、仕事は奪われているのではなく資本主義の原理に基づいて単純に採算性の良いところでものづくりをした結果であるとも聞きます。アメリカで買う服を見るとメイドインチャイナだけではなく、中南米の工場で縫製されたものが多くみられ、中国にすべて奪われているというわけでも無いでしょう。さらには、中国の強固なサプライチェーン基盤がある中でアメリカの消費量に耐えうる同様のサプライチェーンを国内に戻すというのも考えづらいため、今後の流れも楽しみにしていきたいと思います。

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