润日と呼ばれるいわば中国から抜け出している人々。今まで他の国に行っていたところ最近では日本がスイートスポットになっており、最近のトレンドは日本への移住が行われています。
最近言われる「外資に支配される」「水源が買われている」「都心のマンションが中国人に買われている」などありますがどの話も誰が言っているのか分からないような物語です。著者の舛友さんは日本へ移り住む多くの中国人に取材し、アングラな文化までも目で見たことを本書にまとめられています。
本書で「中国人が日本にどんどん押し寄せている」と書かれている紹介が多いのですが、本書でキーと成る物語はAkidと呼ばれる中国人リベラル派であった女性が日本で餓死した物語が最初と最後、そして様々な所で語られています。
個人的には、著者である舛友さんが中国人の取材で最初に出会った彼女の死というものに突き動かされて出会った数々の来日物語をまとめたというイメージの本でした。
この10年コロナの期間を除くと毎年3〜5回ほど上海へ仕事へ行く自分からしても中国人の行動様式についてとても良くまとめられており、同僚の中国人や友人たちから聞く価値観と同じ物語が書かれています。特には教育に疲れ切り、高校受験に失敗した際の最後の手段として日本への教育留学を視野に入れている人たちも多く接してきました。
最近では政治文脈であまりに移民の話が出過ぎていますがこういったそれぞれの人、家族が何故日本に来ているのか個々の事例を知れるとても良い本に思います。
📒 Summary + Notes | まとめノート
ルン
著者がとある日成田空港で眺めていたのはメキシコ行きの飛行機にチェックインする人々。全体の10%ほど、日本人よりも多くの人達がアエロメヒコの飛行機へと向かいます。これはいわばそこまでお金が無い移民希望者たちがメキシコからアメリカ向かう人達が多く含まれていました。2023年にメキシコアメリカの国境で摘発された中国人は2万4000人に及ぶとも言われています。
シンガポールも中国人の候補地として有力でした。仮想通貨規制などが厳しくなった中国から一番適していた土地としてシンガポールへの移住ブームが起こります。
タワマンに住む人々
東京での取材した人の一人に中国の東北地方出身で中央区のタワマンに住む人も居ました。景色が良く、学校も近くにある中央区のタワマンは特に人気で、日本人や中国人以外の外国人も多く居るのも魅力でした。
日本への移住で魅力なのはビザの取りやすさ。高度人材ビザであれば23日でスムーズに取れる。また経営・管理ビザも会社会計の難しさなどあるものの費用としてのハードルの低さは日本はとても魅力的です。
東京都のデータで都内23区の在留中国人の数から人気のエリアは江東区、中央区、品川区、港区なども人気で、最近では郊外も人気です。最近、特徴的に伸びているのは文京区、中央区、千代田区です。北京や上海の中国都市圏(1平米10万元(200万))や諸外国と比べると日本のマンションは買いやすく、投資用としても魅力だそう。
豊洲のすぐ先には中国で誰もが知っている銀座があり、文京区には東大がある。文京区の区立小学校ではイニシャルをとって「3S1K」などと呼ばれています。
過酷な受験競争
中国での生活から抜け出す理由の大きなものに受験競争があります。中国で教師をしており単身で日本に来た女性は、中国での未来を担う子どもたちが点数で振り分けられていく姿に疑問を持ちつつも、教師側も麻痺していく様子に疑問を持っていました。
上海に住んでいた家族は子どもをインターに通わせていましたが、コロナを期に多くの人達がカナダ、米国、ニュージーランドへと次々に移住していく様子を見ます。インターでさえも政治思想の授業は中国語が課されるなどの教育内容の変化もありました。西安で保有していたマンションを2棟売却して、横浜駅付近に一軒家を購入。日本はインターの値段も比較的安く、中国人の割合が増えてきていると言います。中国人からすると北京大学に入るよりも東大に入る方がずっと簡単ということで日本に来て御三家やSAPIXに通う子どもも増えてきました。
リタイア・スーパーリッチ
日本へ来る層に超大金持ちの層も居ます。その中でも特に有名なのは元バイトダンス社員で28歳にてリタイア郭宇さん。いわゆるスーパーリッチ。10年北京でがむしゃらに働き、今後は日本に居る予定です。
他に超有名な人にジャックマーが居ます。東京に居るとも言われ、京都に会所を作ろうという計画や、ニセコに物件を見に来たという人物と著者はコンタクトしています。六本木のマンション最上階に2部屋持っているとも言われます。
中国の不動産開発万科の創業者、王氏も日本に居るとされています。彼が書いた「我与万科」では日本に関わる経験が記載されています。
中国のトップ層は3Aと呼ばれる麻布、赤坂、青山を選んでいるようでとにかく広い部屋を好み人を招き入れたりしながら交友します。
彼らを含む多くの人々が不動産購入をキャッシュで行い、そのためには地下銀行を活用することもめずらないようです。著者が調べる限り、地下銀行は一見銀行に見えない事務所のような形をしており、一見さんお断りで中国の銀行に指定される振込を終えると日本円が受け取れる仕組みと言います。
リベラル派知識人
最近の香港での混乱やコロナでのゼロコロナ政策などから知識人層が日本への移動も見られます。彼・彼女たちが集まる場として都内に最近では中国をルーツにもつ書店が次々を表れてきました。独立書店と呼ばれる形態で、カフェがあり、人々が集まり議論できるようなイベントも設けられています。
出版業界に長年勤め、言論空間の変化を直に感じて移住してきた人、中国で独立系映画の作成をしていたが規制により作品の発表の場がなくなった人、メディア関係者も居ます。Akidに関する動画を投稿したりとYoutubeで生計をたてる王氏などもいる。
亜州コモンズなども中国系知識人層が集まる場でもあり、東大でイベントなども行っています。
拒食症で餓死したAkidも大学から大学院へと専攻を変えられるほどの秀才で、メディア関係の仕事をしていた一人でした。
Akidは自由をとても愛する人です。彼女は私の知っている限り一度もPCR検査に協力しませんでした。「健康コード」と名のついたウイルス感染に対する「安全度」を判定し表示する官製アプリの使用も拒否していたと証言する
彼女が唯一どうしても手に入れたかったものが自由だった。他の知識人のように、日本政府に招集されたことがあるわけでもなく、たった一人でやってきた。私が出会った「潤」の人々の多くは複合的な理由で来日していたが、彼女の理由は実にシンプルかつピュアなものだった。
感想
日本に来る中国人それぞれにフォーカスを当てながら彼・彼女たちが何を考え諸外国そして日本へとたどり着いたのか知ることができる本でした。
Akidのストーリーについて著者は多く思うことがあったことも感じられます。現在移民政策の話が政治話題のメインストリームにありますし、最近では排外主義的な思想も強くなってきていることを感じます。
その中で感じるのは日本人の一般的な意識として日本に馴染みきらずに独自の生活圏を維持したまま生活する人々、その中でも特に割合の大きな中国人に対するネガティブな視点です。PIVOTの佐々木さんの話はその変化の中にもポジティブなことがあり、多くのチャンスも眠っているというような視点を持つことの大切さを再認識させられます。
中国人にとって母国を離れある時は苦力と呼ばれる苦しい環境に陥ってしまう人も居れば十分なお金を持って自由を求める人も居る。そんな当たり前の事を知ることがまずは大事ではないでしょうか。
様々な国の人々と働く中で日本の特殊性も理解しながら、日本が外国人や文化をうまく活かしながら発展してきたことを感じさせられる社会人生活を送っています。幸いにも英語に触れ、中国語も拙いながらも話せるようになりますます中国語の勉強の必要性を感じます。
自由を求め来日し亡くなってしまったAkidさんは日本で火葬され日本の土地に彼女の遺骨がまかれる。そんな人達の存在も忘れてはいけないと感じました。
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