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Google流 資料作成術 | コール・ヌッスバウマー・ナフリック (著), 村井瑞枝 (翻訳) | 2023年書評#30

ex-Googlerの著者がデータを活用したストーリーのあるプレゼンの作り方の本になります。良い意思決定のためにはデータの可視化・ストーリー化が不可欠。データのビジュアリゼーションが良くてもそこに興味深いストーリーがなければつまらないものになってしまいます。

日本語著書のタイトルは「Google流資料作成術」となっておりますが、本書では主にストーリー化の大切さを伝えており、そのためにはどうするかを紹介されておりました。

著者のブログや講演動画はYoutube上でもあるので、興味を持った方はそこから調べてみるのもよいでしょう。

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📒 Summary + Notes | まとめノート

1.コンテキストを理解する

分析には探索的分析:データを理解し、何を他人に伝えるかを理解するためのもの、と説明敵分析:100の異なる仮説を試したり、100の異なる方法でデータを分析してたった12うか2つの重要なことを見つける作業、があります。

よくあるミスに説明の場なのに探索的分析を伝えていることがあります。説明的分析の重要な点は**「誰に」「何を」「どのように」**です。

特に「何を」の部分は、誰にどんなアクションをしてほしいのか、行動まで遠いのであれば行動に結びつけるために何が必要なのかを見つけなければいけません。

「どのように」の部分はその主張を裏付けるために、どのようなデータを利用できるか?という部分を明確にし、どう組み立て、伝えるかを考えなければいけません。

内容をよりシンプルにするため活用できる考え方には「3分ストーリー」「ビッグアイデア」というものがあります。

3分ストーリー:3分しかなかったら、相手に何を伝えるか?

ビッグアイデア:簡潔に1文で表すならどうするか?

ビッグアイデアResonate(ナンシーデュアルテ著)にかかれているもので重要な要素3点あり①あなたの独自の視点を明確にしている②何が危機にさらされているかを伝える③完全な文章であることです。

また、ストーリーボードを活用して、ビッグアイデアの組み合わせから提案の順序・構成などを作成します。

相手に伝わりやすい表現を選ぶ

データを見せるときの表現方法は様々あります。著者のウェブサイトにある、CHART GUIDEにそれぞれのグラフがどういった表現をするのに適しているか紹介されています。著者が主に使うのは4種類:点グラフ、線グラフ、棒グラフ、面積グラフのカテゴリです。

回避した方が良いグラフには、円グラフ、ドーナツグラフ、3D表現、第2縦軸の使用(縦軸を2つに分ける方が良い)などが紹介されています。

不必要な要素を取り除く

要素を一つ加えるごとに相手に理解するための負荷を与えています。重要な情報を伝わりにくくさせる要素や資料にのせるに値しない要素は取り除くことが良いでしょう。

視覚認知のゲシュタルト法則クラスターを識別する工夫も良いでしょう。「近接」「類似」「囲み」「閉合」「連続性」「接続」の6つの法則をグラフに適用します。

資料を読みやすくする工夫に「整列」と「ホワイトスペース」、「コントラスト」に利用もあります。

下にあるサンプルがステップ・バイ・ステップで修正したものになります。(修正前:左、修正後:右)

Storytelling with Data summary - decluttering your visuals

引用元:https://readingraphics.com/book-summary-storytelling-with-data/

相手の注意を引きつける

次は相手にどのように読み取ってもらうかを考えます。1つめは無意識的視覚情報を使って、集中して見てもらいたいところに相手の注意を向けさせる方法、2つめは、あなたの意図どおりに相手がされを受け取るよう、視覚の優先順位をつける方法です。

ビジュアルコミュニケーションをする上で記憶には①映像記憶②短期記憶③長期記憶があることを知る必要があります。

映像記憶とは無意識的に認識をしやすいものから認識している記憶になります。例えば、文字の大きさ、斜体、コントラスト左上からZの流れ、などです。こうしたことを活用することで、相手の注意を意図したところにすばやく集める、情報に視覚的な優先順位をつけることができます。

これはグラフにも同様で、グラフの中で強調したい部分の色だけ目立つようにしておくこと、コントラストをつける、データの文字を大きくするなどの工夫もあります。

短期記憶には、とどめておける情報は4つまでです。あまりに多すぎるデータは相手の負担を与えていることになります。

画像と言葉の組み合わせを活用することで、画像が長期記憶を手助けします。そのため、画像と言葉の組み合わせを活用した資料であると相手の意識にとどまりやすくなります。

デザイナーのように考える

データビジュアライゼーションにおける形式と機能は、データを使って相手に何をして欲しいか(機能)を考え、そしてそれをできるように視覚化(形式)することです。

データコミュニケーションをする際には、アフォーダンスアクセシビリティ、審美性というい視点からデザイン上の戦略を考えるとよりよくなるでしょう。

アフォーダンス:どのように情報を扱えばよいか?

  1. 重要なものを強調し、全体の10%までに抑える
  2. 気を散らすものをなくす
  3. 情報に明確な「視覚的階層」をつくる

アクセシビリティ:誰でも理解できるか?

  1. 相手を動かしたければ、必要以上に複雑にしない
  2. 「解読させる」のではなく「理解させる」ための言葉の使い方

審美性:そのデザインは美しいか?

  1. 色使いを工夫する
  2. 配置に注意を払う
  3. 空白を活用する

ストーリーを伝える

わかりやすい物語の例に演劇があります。演劇のストーリー構成は三幕構成であり**「設定・対立・解決」**があります。

始まり:設定を伝えて、コンテキストを構築する

中間:相手の可能性、行動の必要性を説明する

終わり:何をしてもらいたいか「行動」を呼びかける

ここで、注意するのは事実を羅列するだけでは伝わらないということです。また、ストーリーの順序を考える時に時系列である必要性は無く、最も効果的な順序に組み立てると良いでしょう。

良い参考に多く触れる

本書内では多くの実例や修正例が紹介されています。好例を見ておくことでアイデアのストックを持つことができるでしょう。

Storytelling with Data:https://www.storytellingwithdata.com/makeovers

Eager Eyes: https://eagereyes.org/

Five Thirty Eight’s Data Lab:https://fivethirtyeight.com/

Flowing Data: https://flowingdata.com/

The Functional Art:http://www.thefunctionalart.com/

The Guardian Data Blog:https://www.theguardian.com/data

HelpMeViz:https://policyviz.com/

Junk Charts:https://junkcharts.typepad.com/

Make a Powerful Point:https://makeapowerfulpoint.wordpress.com/

Perceptual Edge:http://www.perceptualedge.com/

VizWiz:https://www.vizwiz.com/

(良くない例)WTF visualizations:https://viz.wtf/

感想

資料やプレゼンでのストーリー(物語)の大切さが身にしみる内容でした。仕事場の資料は目的があるべきでありますが、結構な割合で①目的が不明確②伝えたい内容が簡潔でない③目的に関係ない不必要な要素がある④目的が鈍る資料形式である⑤伝えてに伝えたいアクションが不明確、という資料を目の当たりにします。

特に日系企業的な現場ですと現場から遠い人間がプレゼンを作成するために、現場に不必要な量の情報を求め、それら全てを資料に詰め込むために、嫌に込み入ったビジュアルになっているように思います。

研究生活を経た画一的な人材が集まる部署になると、一般的な視点が欠けた予備知識を必要とするような内容になりますし、ビジュアル面も込み入ってある方が「やっている感」があるから良い、というような好まれ方などもあります。

Amazonは社内資料にワードのみでまとめる方法をしています。組織全体で問題意識が無い場合はどういった資料であるべきか、という考えに及ばないでしょう。

最近話題になったツイートを見てみても、問題意識の欠如を感じざるを得ませんよね。

 

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/3T4If2N Resonate: Present Visual Stories that Transform Audiences (English Edition) 1st 版, Kindle版 英語版 Nancy Duarte (著)
  2. https://ferret-plus.com/8022#:~:text=ゲシュタルトの法則とは、人間は近いものや,という法則のことです。 ゲシュタルトの法則とは?ノンデザイナーこそ知っておきたい法則を解説
  3. https://amzn.to/3ytD6Ym Information Visualization: Perception for Design (Interactive Technologies) ペーパーバック – 2020/3/27 英語版 Colin Ware (著)
  4. https://amzn.to/3J7GRru Beyond Bullet Points: Using PowerPoint to tell a compelling story that gets results (English Edition) 4th 版, Kindle版 英語版 Cliff Atkinson (著)
  5. https://amzn.to/3YzKRXD Beautiful Evidence ハードカバー – 2006/7/1 英語版 Edward R. Tufte (著)
  6. https://amzn.to/401zPv5 slide:ology[スライドロジ―]―プレゼンテーション、ビジュアルの革新 単行本(ソフトカバー) – 2014/12/9 ナンシー・デュアルテ (著), 熊谷小百合 (翻訳)
  7. https://amzn.to/3l6nsPQ 誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論 単行本 – 2015/4/23 D. A. ノーマン (著), 岡本明 (翻訳), 安村通晃 (翻訳), 伊賀聡一郎 (翻訳), 野島久雄 (翻訳)
  8. https://amzn.to/3JcAD9E プレゼンテーション Zen 第3版 [プリント・レプリカ] Kindle版 ガー・レイノルズ (著), 熊谷小百合 (著), 白川部君江 (著)
  9. https://amzn.to/3l3wnBB プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える 単行本(ソフトカバー) – 2012/11/27 アネット・シモンズ (著), Annette Simmons (著), 池村千秋 (翻訳)
  10. https://amzn.to/3ZFLwrQ ハーバード・ビジネス・レビュー流 データビジュアライゼーション Kindle版 スコット・ベリナート (著), DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 (翻訳)
  11. https://amzn.to/3TbVRJt インタフェースデザインの心理学 第2版 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針 単行本(ソフトカバー) – 2021/4/13 Susan Weinschenk (著), 武舎 広幸 (翻訳), 武舎 るみ (翻訳), 阿部 和也 (翻訳)
  12. https://amzn.to/3T9TkiQ ウォールストリート・ジャーナル式図解表現のルール 単行本(ソフトカバー) – 2011/4/9 ドナ・ウォン (著), 村井瑞枝 (翻訳)

マグネティックマーケティング 顧客を引き寄せて離さない集客システム | ダン・ケネディ(著) | 2023年書評#29

マーケティングやセールスレターで有名なダン・ケネディの新し目の本であるマグネティックマーケティングを読んでみました。日本語だと高値で二次流通市場に流れているので気になっていました。英書ですとKindle含め通常価格ですし、Youtube情報なども多くあるので英語に抵抗ない人は英語の勉強がてらに読むにも良いボリュームでした。内容としては比較的一般的にあるマーケティング本に近しく、マーケティングがうまくいくための考え方や効果的にするための考え方などが多く、具体的な事例や方策という感じではなかったように思います。

本書を読んでいて思ったのは、日頃の仕事の現場でも活用できることが多く、

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📒 Summary + Notes | まとめノート

マーケティングは何故うまくいかないのか?

昔はセールスレターや広告などがマーケティングの主流ですが時代の変化とともにオンラインでのマーケティング手法も増えてきました。どの時代にも変わらないポイントを見てみると、マーケティングがうまくいかない理由は主に9つあると言います。

  1. 相手が間違っている
  2. 伝える内容が間違っている
  3. 相手に頼む内容が間違っている
  4. 幅広く宣伝しようとする
  5. マーケティングのシステムがない(評価機能がない)
  6. 顧客を追いかけ回す
  7. 高額の宣伝費を費やす
  8. 安売りをする
  9. フォローアップがない

根底にある思想はタイトルの通りマグネティックマーケティング、つまり顧客の方から惹きつけられるようなマーケティングをする必要があります。顧客を追いかけ回すような方法は避けるべきです。

マーケティングの真の姿

マーケティングの良い例として挙げられているケースがとてもわかりやすくありました。

  1. 求められているかどうかにかかわらず、正しいことをする
  2. 顧客を知る
  3. オファーを盛り込む
  4. 信頼関係を築く
  5. 独自の販売提案を示す
  6. 紹介システムを作る

マーケティングでは無いのですが、仕事の現場でも似たようなことが言えて、お客さん(上司、部下)が何を必要なのか知る→信頼できる調査や提案、レポートをする→その内容が伝搬して伝わったときにも良い内容である、というように割とあらゆる仕事に適応できるように思います。

もちろん、そこまで練り込む必要がある時・ない時はあるので毎回時間を費やす必要は無いと思いますが、比較的繰り返されるケースや幅広く使えることに対して考えるいいフレームワークに感じました。

マグネティックマーケティングの構築

マグネティックマーケティングの重要な構成要素は3つあります。

  1. メッセージ:説得力があり、抗えないようなメッセージであること
  2. マーケット:収益性が高く、反応が得やすい層を対象としていること
  3. 媒体:メッセージを対象のマーケットに届ける際に最適な媒体であること

メッセージにはオファーを盛り込みオファーの枠組みを意識します。

  1. 見込み客を獲得するオファー
  2. 会って話をするオファー
  3. 直接販売のオファー、最終オファー

それぞれのオファーフェーズでのメッセージは異なり、まずは心に留まるようなメッセージで会うことに繋がるオファーが入り口になります。会った後に顧客の要望を確認する中でクロージングのオファーを用意するようにします。

マグネティックマーケティングの原則

  1. 必ず1つ以上のオファーを盛り込む
  2. 今すぐ反応すべき理由を盛り込む
  3. 手順を明確に指示する
  4. 追跡・計測して、その結果に責任をもつ
  5. ブランド構築は費用がかからないものだけ
  6. 必ずフォローアップする
  7. 強力な宣伝文句を盛り込む
  8. 信販売の広告を参考にする
  9. 結果が最優先
  10. 結果に基づき成果の無いものはカットする

これらのトリックはYoutubeでのアフィリエイトなどでも見られるように思います。概要欄のリンクから登録すると○%OFFで、最初の○人に適用。登録方法を紹介して、紹介から加入した人数を計測する。何でもマーケティングに結びつけてみると、世の中そのような仕組みになっている物事が多くあるように感じました。

逆に言うと、オファーがあった時に思いとどまること、会ったその場での契約にはすぐに同意しないようにするなどすれば、不本意な契約なども減らせるように思います。

顧客化システム

顧客を引きつけるシステムのキーポイントとしては

  1. 他と差別化する
  2. 宣伝活動を繰り返す
  3. 信頼を得るための情報を送る
  4. 衝撃で圧倒する

これらは主に最初のオファーの段階で気をつけることです。

顧客維持システム

顧客維持のためにはニュースレターと紹介の導線があります。ニュースレターには独自性や遊び心のある内容を入れて読まれる工夫を盛り込むこと、紹介にはや口コミには良い噂が回るように意識しましょう。

感想

マーケティングとは関わりのない仕事をしているのですが、自身が見込み顧客として考えると、世の中にある自分に届く情報はかなりマーケティングの要素が詰め込まれて届く情報であるものだなと感じました。

Googleマップで開くと目立つように出てくるお店が何故か自分が好きなジャンルの店が多かったり、Youtubeに流れてくる広告が自分の地域であったり、時折届くメールにはセール情報があり「あなただけ限定」との文字があったり。

ネガティブな側面を考えると、自分が触れる情報が汚染されているという考え方もできると思いますし、ポジティブな側面を考えると、より趣向や必要性に応じたものが届いているとも言えます。

そう考えると、自身の消費行動を振り返り、マーケティングにハマった消費と自分の意思として消費した物事を振り分け、何がストレスである消費か、効用があったか、他の物事の方が良かったか、などを見直し、自身から遠ざけるべきものがあれば遠ざけ、満足度の高い消費をするというのも良い気がしました。

お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた 予備知識のいらない経済新入門 | 田内学 (著) | 2023年書評#28

金融や経済の話は専門用語が飛び交いなんだか難しい。だから、専門家にまかせておけば良いなんて考える人は少なくないのでは無いでしょうか。本書は元ゴールドマン・サックスの田内学さんが、経済についてやさしくとっつきやすいように書いてくれている入門書になります。

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📒 Summary + Notes | まとめノート

お金には価値があるのか?

お金には価値があるというのは今では当たり前に思われています。何を買うにもお金が必要です。このことが本当にそうなのか、本書を読みすすめる中でその意味についてたどっていきます。

お金は従来は金との引換券としての役割がありました。金や銀で支払いは行われていましたが、それを毎回持ち歩いたり分割したりすることは難しいため引換券を用いて売り買いが行われます。経済が成長していくにつれて、金の発掘スピードをお金とのバランスが悪くなりある時から金により裏付けが必要でないよう法律を変更しました。

かと言って、日本銀行がいくらでも紙幣を発行できるのは良くないために国債保有することで紙幣を出回るようにします。

紙幣が大きく普及した理由に1873年に起きた地租改正があります。この変化により税金は円紙幣でしか納税できなくなり、紙幣の流通が加速しました。納税された紙幣は、公務員や国の公共事業などを通じて世に戻り、税金を払いたい人が紙幣を獲得する、というような紙幣の循環が起こります。

お金自体には価値はありませんが、お金を対価として払うことにより労働力を確保することができます。確保された労働力によりモノを作ることができるのです。

お金の効用

何かものを買う時にお金とモノを交換しますが、モノの価値はどのように決まるのでしょうか。モノの価値は「効用」、つまり買い手がどれだけ満足したかによります。効用は人によってまちまちであり、機能性が良いことであれば、デザインが良いことである人など様々です。

食事であれば、その時食べたいものを食べれば満足が高いですが、食べたくないものを食べても効用は低い。同じ価格を払っていても効用は異なります。ただし、効用は尺度として曖昧であるために、価格という尺度を用いられているのが現状です。価格を決めるのは効用の尺度を理解している自分自身にならないと中々幸せになれないでしょう。

つまりお金のむこうには誰かの幸せが効用を通じてあるわけです。

お金で解決できる社会問題

社会全体でお金は循環します。銀行へ預金したお金は誰かに貸され、利子をもらい銀行は儲けることができます。お金が流れることで労働が生まれ、ものが作り出されものによる効用を受けることができます。

社会が抱える問題の中で、お金で解決できるのは分配の問題だけです。つまりお金の流し方の強弱をつけることにより必要なものへお金を流入させ、不要とされるものへの流れを少なくします。

ここで面白かったのは、貿易黒字に対しての考え方です。貿易黒字とはつまりたくさん輸出して海外にモノを流してお金をもらうことです。こうするとモノの効用は海外の人たちが受けることになります。つまり海外の生活が効用を得ていることになり、豊かになっているのは海外の人たちということになります。

また、アメリカとの貿易を例に取ると、日本の企業が大量のドルを獲得しても、税金は円で支払うためにドルが滞留してしまい、ドルを交換せずにアメリカの銀行に預金していたりします。ただし、このドルがあるために将来の労働の貸しを得ており、困ったときの労働の手助けをしてもらえます。

労働がモノをつくる

モノがお金で作られるのではなく、労働がモノをつくります。ものが足りなくなるのは原因として①自然資源が足りない②労働が足りない③何かが生産を邪魔している④誰かがモノを独占している、の4つのパターンがあります。コロナでマスクが不足した時は④が顕著でしたし、オイルショックでは①と④が複合的に起こりました。

ドイツでのハイパーインフレが起きたのは、たくさんお金を刷り、諸外国の支払いに当てたために「労働の貸し」を作り出しました。諸外国に渡ったマルクによりドイツ人の労働が買われたわけです。外国のためにドイツ人が働き、国内の物資は減る一方でした。

お金で変えることができるのは、労働の分配とモノの分配を変えることだけで、お金を増やしても労働不足もモノ不足も根本的に解決しません。そういう意味では政府にできるのは困る人を変えることだけです。

本書のタイトルにもあるように、著者の考えはお金の向こう側には労働があります。日本が借金が多くても破綻しないのはまだ労働力があるからであり、働かない国が潰れると言います。

年金問題

日本の大きな問題となっているのは年金問題です。老後2000年問題が話題にもありました。著者はこの年金問題を椅子取りゲームと例を挙げています。椅子の数は限られているので、人が増えるほど座ることが難しくなり、また椅子の価値自体も上がってしまいます。

問題は椅子に座れるようにお金を蓄えることではなくて、椅子の数を増やすことであると言います。問題はお金のむこう側にある働き手の数が減っていることにあります。

社会全体、家族、個人などの規模の区切りにより解決の方法は変わってきます。個人レベルであればお金をよりためとくことがいいでしょうが、社会全体の規模の話であれば子供を育てやすい環境が必要であり、つまりは労働力の確保が必要です。

お金で解決できる問題は、その人の僕たちの範囲がとても個人レベルに狭い時であり、社会全体になるとお金で物事は解決できないと著者は言います。

感想

日経テレ東大学でも同様の内容を語られており、経済学の入門としてとても良い本であったように思いました。ゴールドマン・サックスで長い間活躍された田内さん。本書の結論としてもある子どもを増やして、その環境を整えるべきであるという内容を動画でも語られていました。

お金のむこうに働き手が居て、その働き手がなくなることが問題になるという視点をわかりやすくまとめられていました。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/3ymlKgc 頭の体操 BEST Kindle版 多湖 輝 (著)
  2. https://amzn.to/41WGXeg 飛鳥の木簡―古代史の新たな解明 (中公新書) 新書 – 2012/6/22 市 大樹 (著)
  3. https://amzn.to/3yjQazC 中国銅銭の世界―銭貨から経済史へ (佛教大学鷹陵文化叢書) 単行本 – 2007/3/1 宮澤 知之 (著)
  4. https://amzn.to/3ZS3zKO 日本ビール検定公式テキスト 2022年5月改訂版 単行本(ソフトカバー) – 2022/5/24 一般社団法人日本ビール文化研究会 (監修)
  5. https://amzn.to/3JmkQq9 昭和財政史―昭和27‐48年度〈第1巻〉総説 単行本 – 2000/3/1 大蔵省財政史室 (編集)
  6. https://amzn.to/3ymin8U 若い読者のための経済学史 【イェール大学出版局 リトル・ヒストリー】 Kindle版 ナイアル・キシテイニー (著), 月沢 李歌子 (翻訳)
  7. https://amzn.to/3YKTWwV 欧州の国際関係 1919‐1946―フランス外交の視角から 単行本 – 2008/7/1 大井 孝 (著)
  8. https://amzn.to/3F8oHVg 目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】 (ワニの本) Kindle版 中野剛志 (著)
  9. https://amzn.to/3kWIdNH 世界は贈与でできている――資本主義の「すきま」を埋める倫理学 (NewsPicksパブリッシング) 単行本 – 2020/3/13 近内悠太 (著)
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