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カフェの世界史 | 増永菜生 (著) | 2026年書評63

イタリアに住む増永さんの著者カフェの世界史。彼女のポストから見られる人柄もとても素敵で母親に買ってもらった古いユニクロのセーターのリペアサービスを受けた話などを見ると長く修理しながらものを使うという精神を大切にしたいと思えます。

カフェ文化と言うとパリやイギリスみたいな意識がありましたが増永さんのいかれるイタリアのカフェの様子やエスプレッソ文化を見ているとイタリアのカフェ廻りもいつかしてみたいと思えます。

砂糖の世界史などものの世界史系の本のカフェ版といった構成であり、カフェの成り立ちを紐解ける本でした。

 

📒 Summary + Notes | まとめノート

カフェのはじまり

イギリスの行っていた三角貿易はイギリスで作ったものをアフリカで売りそのお金で黒人奴隷を買い、アメリカで売りそのお金でタバコや砂糖、綿花などをイギリスに持ち帰って消費や服の生産をするという流れでした。

コーヒーの成り立ちはイスラム圏に始まり、覚醒作用は儀式としての飲み物などとして活用。16世紀になるとイスラム圏のコーヒー文化はヨーロッパへと伝搬し、アルメニア出身のパスカロゼがイギリスでコーヒーハウスを開きます。ロゼは商人ダニエルエドワーズの召使いとしてロンドンに来ており、毎朝主人のためにコーヒーを淹れたことから当時めずらしい飲み物を飲むために多くの人が訪ねてきたことが起源になります。

コーヒーハウスは人が集まり議論が交わされることから様々な情報革命が起こり、新聞や郵便、さらには商人などが船舶でビジネスをすることから保険ビジネスなども生み出されていきます。コーヒーと同様に紅茶もイギリスは植民地から輸入しており国内で消費することからティーセレモニーも文化として根付いていきます。

産業革命とカフェ文化

産業革命によってイギリスの都市部に人が集まるようになりまた、穀物や栄養価の高い食べ物が効率良く生産できるようになったため都市部に多くの人を受け入れる体制も整えられていきました。

産業革命移行、茶や砂糖の値段も下がり始め、元々は薬としての認識が大きかった砂糖についても産業革命の工場で働く人達の手に届き始めました。

チョコレートも同様に元々は高価なものであったが、ザッハトルテやポケットチョコなどは大きく広まります。フランスなどでも王政に苦しむ市民が芸術や啓蒙などを議論する場としてカフェが流行ることになりました。

美術館や博物館とカフェ

現代でも美術館併設カフェなど美しい建築を楽しみながらコーヒーを楽しめる環境は残っております。施設併設のカフェの起点となったのは1851年のロンドン万国博覧会。万博期間中に人々をお茶やパンなどで迎えられるように、当時温かい食事を食べられるということはとても貴重なことでありおもてなしとして食事を提供できる休憩室を設置。

万博は当時から現代にかけても残るような建築物が残っており、東京の上野や京都の岡崎などの多くの美術館や博物館は万博会場として利用され今に残るものであり、万博が与える影響は大きなものでした。

また、1855年のパリ万博では輸入禁止措置の撤廃や関税の引き下げなどに伴いイギリスとの貿易が自由化されます。同時期には百貨店文化もパリへ広まることになりました。

戦争とカフェタイム

第一次世界大戦は国民全てが動員されるいわゆる「総力戦」の戦争へと変化した時代です。ここで流行したのはインスタントコーヒーであり、どんな場所でも手軽に飲めるコーヒーとして戦地でも活用されます。

総力戦の時代では今まで働くことがなかった女性も労働力として加わりチョコレートも板チョコとして運ばれるものが生産されました。

日本ではカール・ユーハイムは日本に残ったドイツ人捕虜が始めたものであり、今でも美味しいバームクーヘンを日本で作っています。

日本での喫茶文化の始まりと言われているのは鄭永慶が上野で1888年から始めた可否茶館。留学先にて知ったアメリカのコーヒー文化を輸入し一般の人でも集まれる場として始めます。4年で閉館してしまい当時の一般市民にはまだ高いコーヒーでしたが、フランス帰りのサッカや芸術家たちが銀座にてカフェを開始。今では戦前から続いて営業している店として、千疋屋、コロンバン、新宿中村屋、珈琲ショパン、茶房きゃんどるといったお店などがあります。

幸運にも京都は他の都市よりも空襲が少なく戦前から続く喫茶店は他の地域よりも多くあります。スマート珈琲、雲仙、イノダコーヒー、喫茶静香。特色のある店としてはフランソア喫茶室があり、労働運動に傾倒していた立野正一により開業されタブロイド誌の創刊などに繋がりました。

パリのカフェと戦争は大きな関わりがあり、多くの芸術家や啓蒙などは戦火においてもパリのカフェで議論しており、細かな話は以前読んだ「カフェから時代は創られる」でも詳しく触れられています。

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本書で触れられているのは「ドゥ・マゴ」「ル・ドーム」「カフェ・ド・フロール」などで、フランスを訪れる際に知っておけばより楽しむことができる歴史かもしれません。

カフェと現代

戦争時代にはパスタやチョコが配給制の時代に入ると、プロパガンダパッケージとして使われたり、また従来の製品イメージに影響を及ぼさないよう特別パッケージなどにされたりします。

戦争終了後に大きなブームとなったのはインスタントコーヒーであり、フリーズドライ製法、スプレードライ製法などより美味しく手軽に楽しめる手法も確立されていきます。

コーヒー文化としてある、サードウェーブコーヒーやスペシャルティコーヒーの文化などは主にカウンターカルチャーから形成されており、インスタントコーヒーのように大量生産大量消費に対する反対文化として高品質なもののみを利用したスペシャルティコーヒーが知れ渡るようになります。スペシャルティコーヒーという言葉が使われるようになったのは以外に古く1974年。

セカンドウェーブとしてその波を作り出したスターバックスもイタリアのバール文化と美味しいコーヒーを提供できるサードブレイスを作り出すという試みでした。

スターバックスのように大きくチェーン化したコーヒー文化に対抗する新しい流れとして、品質の良い豆を使ったコーヒーというコンセプトは残しながらも、規模が大きくならない地域に根ざした店づくりというような新しい波、サードウェーブコーヒーが誕生します。

さらに触れられているのは博物館とカフェのコラボであったり、ブランドとカフェのコラボが今では進んできており、ファッションブランドが私設する美術館・博物館にはカフェが重要なものとして組み込まれています。

感想

カフェの成り立ちから現在のカフェ文化まで長い時間軸でカフェということについて知ることができる本でした。ヨーロッパでのカフェ文化など知っていると旅行する際により楽しめると思いますし、そのビジネス形態から中々存続することが容易では無い中で戦前から続いているカフェなども知ることができます。

多くの文化の起源はヨーロッパにあり、またその背景には植民地から母国では希少なものを輸入しそれでいて奴隷を活用した生産やアヘンの販売などをしていたという構造が見受けられるので中々非人道的な背景が随所に感じられ、現代でもその文化が尾を引いていおりモノカルチャー経済としての貧困を招いている所を見ると華やかな文化の影も感じます。

6月にカフェ巡りにハマっており、近所のカフェにローラー作戦で行っていたのですが、今ではコーヒー文化も当時のように人が集まり議論する場といった意味合いも大きく変化したのかなと感じます。喫茶店の形態として中々継続して経営することも難しく感じますし、単価×客数の方程式の中でのビジネスの難しさがありますが、気軽に立ち寄れて少し時間を過ごせるという場所として貴重な存在でもあります。

地方など旅行しているとそういった人が集まれる場所として百貨店やイオン、図書館などの公共施設などがあり、中国でもモールのベンチには人が涼みにきているといった様子が伺えます。継続して支払える程度の値段設定と、地域に根づき長く経営をすることができるのかというバランスがありますが、長年開かれたお店などはインフラとしての存在感も感じます。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/4q7iFuC コーヒーが廻り 世界史が廻る: 近代市民社会の黒い血液 (中公新書 1095) 臼井 隆一郎 (著)
  2. https://amzn.to/3TD6U2R 茶の世界史 改版 - 緑茶の文化と紅茶の世界 (中公新書 596) 角山 栄 (著)
  3. https://amzn.to/4fSqWxx 砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書 276) 川北 稔 (著)
  4. https://amzn.to/4fXWcLA ポルトガル史[増補新版 ルネサンス版] 金七 紀男 (著)
  5. https://amzn.to/4wefYZo チョコレートの世界史 近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書) 武田尚子 (著)
  6. https://amzn.to/4xrSH7q 珈琲の世界史 (講談社現代新書 2445) 旦部 幸博 (著)
  7. https://amzn.to/4z2JV1j グローバル・ヒストリーの可能性 羽田 正 (編集)
  8. https://amzn.to/4c5PEtg 定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4) ベネディクト・アンダーソン (著), 白石隆 白石さや (翻訳)
  9. https://amzn.to/4fJDb0F グロ-バル・ヒストリ-入門 (世界史リブレット 127) 水島 司 (著)
  10. https://amzn.to/4fLsTx2 ものがつなぐ世界史 (MINERVA世界史叢書 5) 桃木至朗 (編集), 中島秀人 (編集)
  11. https://amzn.to/4xwIeaV 入門・世界システム分析 イマニュエル ウォーラーステイン (著), Immanuel Wallerstein (原名), 山下 範久 (翻訳)
  12. https://amzn.to/3TLddRR 結社のイギリス史: クラブから帝国まで (結社の世界史 4) 川北 稔 (編集)
  13. https://amzn.to/4wd0JQw イギリスの歴史 君塚直隆 (著)
  14. https://amzn.to/4xiN9fs ハプスブルク家の歴史を知るための60章 (エリア・スタディーズ) 川成 洋 (編集, 著)
  15. https://amzn.to/3TIjTQJ イタリア史2: 中世・近世 (世界歴史大系) 齊藤 寛海 (編集)
  16. https://amzn.to/4wKEdQ1 はじめて学ぶイタリアの歴史と文化 藤内哲也 (編集)
  17. https://amzn.to/4wJS9JX フランス文化55のキーワード (世界文化シリーズ2) 朝比奈美知子 (編集), 横山安由美 (編集)
  18. https://amzn.to/3S0GI1o はじめて学ぶフランスの歴史と文化 上垣 豊 (編集)
  19. https://amzn.to/4fKcjhd 読書の文化史: テクスト・書物・読解 R. シャルチエ (著), 福井 憲彦 (翻訳)
  20. https://amzn.to/4wQUHq2 フランスの歴史を知るための50章 (エリア・スタディーズ) 中野 隆生 (編集), 加藤 玄 (編集)
  21. https://amzn.to/3ROp5C5 ソシアビリテと権力の社会史 (二宮宏之著作集 第3巻) 二宮 宏之 (著), 福井 憲彦 (編集), 林田 伸一 (編集), 工藤 光一 (編集)
  22. https://amzn.to/4q4lufU 十八世紀パリ生活誌 上: タブロー・ド・パリ (岩波文庫 青 455-1) L.S. メルシエ (著), 原 宏 (編集, 翻訳)
  23. https://amzn.to/4wcsYPa フランス革命の政治文化 (ちくま学芸文庫) リン・ハント (著), 松浦 義弘 (翻訳)
  24. https://amzn.to/4hUCKC7 ノスタルジア喫茶 ソヴィエト連邦のおやつ事情&レシピ56 イスクラ (著)
  25. https://amzn.to/4fY3SO3 ロシアの歴史を知るための50章 (エリア・スタディーズ152) 下斗米 伸夫 (著, 編集)
  26. https://amzn.to/4fW4Ry2 ロシア文学の食卓 (ちくま文庫) 沼野 恭子 (著)
  27. https://amzn.to/4bwyi8L 装飾の夢と転生:世紀転換期ヨーロッパのアール・ヌーヴォー (第1巻) 白田由樹 (著, 編集), 辻昌子 (著, 編集), 杉山真魚 (著), 小田藍生 (著), 平光文乃 (著), 中島廣子 (著)
  28. https://amzn.to/4z2iuET ヴィクトリア朝英国人の日常生活 上:貴族から労働者階級まで ルース・グッドマン (著), 小林 由果 (翻訳)
  29. https://amzn.to/4z2U4ed 近代イタリアの歴史: 16世紀から現代まで 北村 暁夫 (編集), 伊藤 武 (編集)
  30. https://amzn.to/4pZpvC8 教養のフランス近現代史 杉本淑彦 (著), 竹中幸史 (著)
  31. https://amzn.to/4z4gvQq ミラノ 霧の風景 (白水Uブックス 1057) 須賀 敦子 (著)
  32. https://amzn.to/45QsgfG 教養のイタリア近現代史 土肥秀行 (編集), 山手昌樹 (編集)
  33. https://amzn.to/4g1niBK 王のいる共和政 ジャコバン再考 中澤 達哉 (編集)
  34. https://amzn.to/4bzlLRU はじめて学ぶドイツの歴史と文化 南 直人 (編集), 谷口健治 (編集), 北村昌史 (編集), 進藤修一 (編集)
  35. https://amzn.to/4ghS2Q3 ヨーロッパのカフェ文化 クラウス ティーレ=ドールマン (著), Klaus Thiele‐Dohrmann (原名), 平田 達治 (翻訳), 友田 和秀 (翻訳)
  36. https://amzn.to/4woxBpK ハプスブルク家のお菓子 プリンセスたちが愛した極上のレシピ (新人物文庫 せ 1-2) 関田淳子 (著)
  37. https://amzn.to/4cq1wq2 戦う女、戦えない女: 第一次世界大戦期のジェンダーとセクシュアリティ (レクチャー第一次世界大戦を考える) 林田 敏子 (著)
  38. https://amzn.to/4bBi4eF フランソア喫茶室―京都に残る豪華客船公室の面影 佐藤裕一 (著)
  39. https://amzn.to/4wilsCl 美人座物語─近代日本のカフェ文化と東アジア世界 山路 勝彦 (著)
  40. https://amzn.to/4xrjTTM 博覧会と明治の日本 (歴史文化ライブラリー 298) 國 雄行 (著)
  41. https://amzn.to/3RUvwUc 放浪記 (新潮文庫) 林芙美子 (著)
  42. https://amzn.to/4fJPsCh 人間失格(新潮文庫) 太宰治 (著)
  43. https://amzn.to/3RUw7VW 貴族とは何か―ノブレス・オブリージュの光と影―(新潮選書) 君塚直隆 (著)
  44. https://amzn.to/4g2HVgT 「知識人」の誕生: 1880-1900 クリストフ シャルル (著), 白鳥 義彦 (翻訳)
  45. https://amzn.to/4waYRri モンパルナスのエコール・ド・パリ ジャン=ポール クレスペル (著), Jean‐Paul Crespelle (原名), 藤田 尊潮 (翻訳)
  46. https://amzn.to/4ghZb2T 実存主義者のカフェにて――自由と存在とアプリコットカクテルを サラ・ベイクウェル (著), 向井和美 (翻訳)
  47. https://amzn.to/4wLjsUx 図録 マリー・ローランサンとモード Bunkamuraザ・ミュージアム (著)

夏帆 The Tale of KAHO | 村上春樹 (著) | 2026年書評62

ノルウェイの森や1Q84は昔読んだことがあったのですが、このブログを書き始めてから村上春樹の本についてまとめたことは無かったかなと思います。今回新作「夏帆」が発売されたのに伴い購入して読んでみました。

個人的な村上春樹の印象はねちっこい文体と特に性描写について生き生きしている、そしてそうかもしれないしそうではないかもしれないといったような肯定と否定を併せながら文章が書かれているというイメージがあります。

知り合いであまり慣れない人からすると「良くわからなかった」という話が多いのですが、確かに何か肯定と否定をたびたび組み合わせながら書いてあるので、物語読んでいてどっちなんだ、と言ったようなことが頻繁に出てきます。

今回の物語は主人公の夏帆さんが東京の果てと叔父に言われる武蔵境に引っ越してきたことで様々な不思議な事に遭遇する物語。久しぶりに村上春樹ワールドを楽しく読みました。

www.shinchosha.co.jp

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📒 Summary + Notes | まとめノート

あらすじ(ネタバレ)

美大を卒業し絵本作家として生計を立てる夏帆。編集者の紹介で佐原という男とブラインドデートをする場面から始まります。佐原は綺麗な人達とデートしては「こんな醜い人は初めて」と相手を動揺させる趣味があり夏帆はショックというか単純な驚きを持ってこの場を迎えます。

佐原はバイクのことを「モーターサイクル」と呼び、夏帆は会ってからは近所でモーターサイクルの音がすると気が乱れるようになる。住んでいた場所でモーターサイクルの音も気になるようになったことで武蔵境という街へ引っ越しをすることに決める。

武蔵境の一軒家へ引っ越すとその軒下ではありくいが住み着き、ありくいの奥さんは夏帆の夢に度々登場。ブラジルから来ており、ブラジルのシロアリが食べたいために唯一手に入る「とぎや」という商店街の研ぎ屋までお使いを頼まれ家まで持って返ってくるなどしていたがとぎやの店主がジャガーに身体が乗っ取られているということでお使いの際にカモフラージュとして持っていき研いでもらった包丁で店主を刺しジャガーから解放する。

浦和の実家に行くと母の様子がすっかり変わり買い替えたレクサスの色を赤と指定したりと子どもの頃の母親とは思えない雰囲気へ。叔父も母親の様子がおかしい事に気がついているが父親はその事について話そうともしない。ありくいの奥さんからはシロアリの女王が乗っ取っているのではと疑い夏帆がそれに対して答えをみつけるためにとぎやの店主や佐原と気が乗らないながらも自分の気持ちを乗り越え相談しながら母親が乗っ取られている事を突き止めシロアリの女王を追い出し母親がもとに戻る。

村上春樹文学

久しぶりに村上春樹の本を読んでみました。海外の人と小説の話になると殆どの人が村上春樹を読んだことがあり、さらにはハマっている人も多いということでAIでその評価されているポイントを聞いてみました。

  1. 孤独感、恋愛、喪失、自分という人間
  2. 日常と非日常
  3. 海外文学との繋がり
  4. 説明の無さ

確かに今回の物語も孤独感や自分という人間についてや家族について考え、思考を巡らせ「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」と言ったような表現が繰り返されるために人類誰しもが考える感情について書かれています。

ありくいやシロアリが人に宿り人の性格を変える、さらにはそれが大切な人であるといった日常と非日常のバランスが見事でした。

時折出てくる海外文学表現は今回も散りばめられており、ジェイン・オースティン、ヴォルターベンヤミンなどが出てきます。

身の回りに村上春樹苦手層からよく聞く感想は何か良くわからなかったという感想ですが、説明の少なさや双方に解釈できる表現は夏帆でも度々見られます。

こう考えてみると、人間共通の悩みのようなものに対して悶々とするような文章という特殊性があり「良くわからない」という感想は仕方のないというか真っ当なものなのだなと感じます。性描写は相変わらずの登場で艶めかしい文章が何回か登場しますが、特に謎であったのは母親に対してなぜ脱がせて乳房をまじまじ感想を入れたという場面がありました。

武蔵境

今回の舞台が武蔵境である、と宣伝されていたことからとても楽しみに武蔵境がどのように紹介されているのか読んでいました。

文明の果つるところ

と叔父から言われ何もないといったような印象は表現されていたのですが、特に町の様子は描写されておらず、極端な話、八王子でも立川でも荻窪でも高円寺に置き換えても成立するような話だったと思います。

武蔵「境」という字面だけで考えると、今回の物語である境界と思える場所、ブラジルと繋がりのある場所ということが連想されるために確かに名前であれば地名の重要性は理解できるなあと想像しました。

感想

物語としてはとてもシンプルであり、時間軸もそこまで長くない物語だったためとてもすんなりと読める本でした。そこまで沢山読んだわけではないですが、村上春樹の本の中でも読みやすい本の部類だったと思います。

気になった部分は佐原が「モーターサイクル」とバイクの事を呼ぶのは特殊だと言いながらその後の登場人物はみんな「モーターサイクル」と呼んでおり全員特殊な呼び方をしていること。

性描写を艶めかしく書く場面がなぜなのか、というか不要な印象もあったのでこういった描写をところどころに挿れる狙いについてもうちょっと吟味したくなりました。

あとは「武蔵境」について商店街ぐらいしか登場しないために地名をそのまますり替えても成り立つ話だった気がするので、武蔵境である意味を考えてみたいと思います。

この物語が書かれたのは2024〜2026年の雑誌新潮ということでしたが、特に時代ととてもマッチしているという物語でも無く、時代感と言えばインザメガチャーチの方が馴染みやすい物語ではありました。

ohtanao.hatenablog.com

せっかくなので村上春樹の本をまた読んでみたいと思いました。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/4x389Y1 ヴァルター・ベンヤミン著作集 1 ヴァルター ベンヤミン (著), 高原 宏平 (編集), 野村 修 (編集)
  2. https://amzn.to/3TxVtcK 高慢と偏見 (中公文庫) ジェイン・オースティン (著), 大島一彦 (翻訳)
  3. https://amzn.to/3RNwYrr ジャック・ケルアック詩集 (アメリカ現代詩共同訳詩シリーズ 1) ジャック ケルアック (著), 池澤 夏樹 (翻訳), 高橋 雄一郎 (翻訳)

自動車部品業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書 | モビイマ (著), 矢野経済研究所 (著) | 2026年書評61

夏らしい日々が続きますがこれもあと一ヶ月ぐらいかと思うと今年の夏ももう少しなのかなとさみしい思いもあります。自動車業界に携わるので業務勉強がてらに読んだ本になります。

著者はツイッターでもよく見かけるカッパのアイコンの方で自動車業界で働かれているのかなと思います。よく日本の産業の裾野と言われ多くの方が従事する自動車業界。

自工会の資料などでも見かけるものなども紹介されつつ自動車業界で働く方や就職活動している方に分かりやすい本だったと思います。 

https://www.jama.or.jp/library/publish/mioj/ebook/2025/MIoJ2025_j.pdf

📒 Summary + Notes | まとめノート

自動車業界

自動車業界というのは日本の大きな産業の一つです。自工会資料ベースでは全製造業の20%ほどの出荷額規模、就業人数は6700万人の中の560万人ほどなので全体の8%ほどの規模になります。

自動車の生産台数は中国が2700万台、アメリカが1000万台とあるのですがそれに次ぐ規模が日本の780万台ほどになります。中々産業構造として厳しさを感じられるのは日本の生産台数のおよそ半分にあたる440万台ほどは輸出されており、製造した自動車の半分は海外で売らなければならない状況です。(中国は3100万台、アメリカは1400万台の販売台数であり販売数>生産数)

自動車業界でOEMと呼ばれるのはトヨタ、本田、日産などでありその下にTear1、Tear2といったサプライヤーが存在します。

サプライヤーはジャストインタイムと呼ばれるシステムでOEMの生産ラインがとまらないように注力し多くの在庫をサプライヤーで抱える状況です。

従来は系列と呼ばれる「トヨタ系列」「本田系列」と呼ばれるOEMとグループが決まっていることが多かったですが諸所の事情により再編されTear1でも1OEMの枠から抜けてビジネスをするケースが増えてきました。

自動車業界のキーワード

テスラや中国車を見ているとより感じられますが最近の業界キーワードが様々あります。

  • CASE
  • コネクテッド
  • 自動運転
  • 電動化
  • モビリティ
  • モジュール化

日本ではまだまだ大活躍中のエンジン自動車ですが、内燃機関では多くのパーツが必要であったものの電動化によりパーツ数が削減されます。特に最近ではセンサー周りは増えていますがこれらは自動運転や運転補助などのためです。

法規制

電車や航空機もそうですが人名に関わる乗り物には法規制が多く存在します。安全面に関わるものや健康に関わるもの、道路交通法などもその一つです。最近ではCO2排出量の規制もあり、欧州などでは使用中の排出量を削減することができるEVへの移行が進みつつありますし、中国ではEV車を製造割合の中で一定以上ないと罰則として支払いが命じられます。また薬剤などの規制も各国ごとにあり地域ごとの法規制対応も求められます。

税収についても自工会が他国と比べ日本は特別多いと主張している点です。

感想

自動車業界の概要を知ることができる本でした。自動車業界で働く人たちに取っては自分たちの仕事範囲、また全体像を確認できる勉強になる本だったかと思います。全体としてのデータや情報はそれぞれ自工会や各メーカーの決算資料などに掲載されているので新しい情報といったものは無い印象ではありますが、断片的な情報を一つにまとめるという大切さも感じられます。

中国の同僚などと話したのは日本の自動車の生産量と販売量の不一致感で、作ったものの半分は輸出して売らないと成り立たない構造というのがどこまで続けられるかという事でした。マツダやスバルなどは国内で作って輸出を続ける体制であり、本田はかなりの割合で現地で製造し現地で販売するという形です。本田やトヨタなどの海外拠点が整備された会社にとってはいつか海外工場と日本工場の閉鎖をどこの拠点にするかなど決断に迫られる時期が来る予想ができます。

この輸出依存に対して向かい風なのが中国の生産者の輸出量の増加です。今では日本の輸出量よりも多くなり、その多くがEVとなっています。輸出される車≒EV車といった形が色濃くなりつつある中で日本のHEV重視の視点がどう影響するかというのは今後結果で見られることでしょうか。