韓国人の歴史研究の著者がみる過去の歴史や記憶を伴うゼロサムゲーム的な争い、またそれが外交上の争点として争うことによる記憶の作為的な抽出などが行われている事象を注意深く見た本になります。
2007年にヨーコ物語(邦題:竹林はるか遠く)という本について批判する記事が新聞に掲載されました。敗戦直後に朝鮮半島から引き上げる日本人が目の当たりにした被害から日本人非難者の苦難をつづったものであったのだが、アメリカに住む韓国人はこの本が学校の課題図書となったことへ非難の声を上げました。韓国こそ被害者であり、日本人こそ加害者という概念がこの本により日本人も被害者であったという側面が強く受け取れるこの本を読ませることに強い拒否反応を示し日本の悪行が歴史から薄れてしまうことを訴えました。
犠牲者意識といったように自分たち、あるいは自分たちの民族は被害者であるという強い意識が政治に利用されることは韓国と日本の関係だけではなく、ドイツとポーランド、イスラエルなどといったところにも見られます。犠牲となった自身たちの経験と地位を次世代が踏襲し、それによって現在の自分たちの民族主義に道徳的正当性や政治的アリバイをもたせる記憶政治形態ということをテーマに書かれた本です。
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📒 Summary + Notes | まとめノート
系譜
1987年ポーランドの文学評論家ヤンブウォンスキは「哀れなポーランド人がゲットーをみつめる」というエッセーを発表した。第二次世界大戦中のホロコースト犠牲者となったユダヤ人にみせたポーランド人の態度を批判的に書いたものであり、ポーランド人の隠された罪を表面化させた、いわばパンドラの箱をあけたものでもありました。
この新しい証言、ユダヤ人の証言者もポーランドの隣人は大勢のユダヤ人が乗せられた列車が死の収容所に入っていく姿をみて楽しげに笑っていたこととも一致しました。しかしながら当時のポーランドはドイツ、ソ連双方からの被害もあり第二次世界大戦の最大の被害者でもありながら加害者でもあったのではという側面を浮かび上がらせることになります。
ホロコーストを生き延びたユダヤ人が自宅へ帰るとその家を占有していたポーランド人がみせた反応は「なんだ、生きていたのか」というものであり、ユダヤ人が所有していた家や工場、不動産を占拠していたポーランド人が政府の判断もあり不法占拠を続けることができました。1990年代のポーランドではナチの無慈悲な占領とスターリンのソ連が共用した共産主義という二重の犠牲を強いられた苦痛がまだ国際社会に認められていないという考えが支配的でもあり、ホロコーストに対する罪の意識や歴史的責任が問われる余地はあまりありませんでした。
類似した物語に日本が支配した朝鮮と中国の話があります。日本イコール悪いやつとの歴史認識がある中にヨーコ物語という日本人が被害者として取り扱われる物語に関してアジア系米国人たちは強く反発。また日本は唯一の原子爆弾被害国としての価値観も同様であり、イスラエルのホロコースト被害者という価値観も同様です。
日本の靖国神社は戊辰戦争での官軍の戦死者を祀るために1869年に建てられ、10年後に靖国神社と改名されました。1874年に始めて明治天皇が訪れ、その後靖国神社は徐々に明治日本の死の政治の中心地となっていきました。戦死者を称え英霊として魂を鎮める場として扱われるようになっていきました。日本人の戦死者は英霊とされる一方で、同じように戦地へと向かわされた朝鮮人たちは同じような扱いは受けず、韓国での犠牲者意識ナショナリズム形勢につながりました。
ポスト冷戦
ドイツは大戦中の強制的に動員された近隣国からの労働者に対する補償のため財団を設立。ドイツ政府と企業が共同で補償を行うと発表しました。そうすると対象的に補償が行われ無かった日本は被害を受けた韓国人や中国人は日本企業を相手取ってアメリカで訴訟を言及。遠くドイツから聞こえてきた強制労働への補償というニュースは韓国の記憶文化で見向きもされなかった朝鮮人の徴兵や慰安婦への補償へと目が向けられます。
日本ではヒロシマの被害について言及されることが象徴されるように、広島のほうがホロコーストよりむごかったなどという考えを発する日本人なども現れます。「唯一の被害国」としての日本の犠牲者意識を裏付けトランスナショナルな記憶へと結びつける試みは長崎でも行われ、またベトナム戦争中に米国軍が起こしたソンミ村虐殺事件とも比較して言及されるなどもありました。
日本で大変人気がある「アンネの日記」は400万部日本で販売された一方で、オランダにあるアンネの家への訪問はイスラエル人よりも日本人の方が多いとされる。ヴィクトール・フランクルの夜と霧はドイツ語の原著はあまり売れず2版で絶版となったが日本ではベストセラーになった。日本人がアンネの日記を読んで被爆の犠牲者意識を呼び覚ますとすれば、韓国人は日本の植民地の犠牲となった韓国人を連想する。
過去の歴史は次第に形を帰る脱歴史化をしていきます。日本は次第に脱植民地化の考えを支持するものたちが現れ、オリンピックではエチオピア選手に負けるのは許せるが英国選手に逆転されるのには大きな悔しさを見せる。米国の巨漢選手に空手チョップで勇敢に立ち向かう格闘家は大人気となったのは犠牲者意識ナショナリズムの一片でもあった。
ドイツではドレスデンで受けた爆撃について西ドイツではスターリンとソ連、東ドイツでは英米によるものであると同じ被害に対する加害者が異なるものとなる。広島で建てられた平和記念資料館は丹下により設計されたが、元々の原案は大東亜共栄圏を祝って戦中に計画された、富士の麓に設計されるはずであった建築がもとになっている。
1992年に行われたイスラエルの教育大学でのアンケートでは「私たちはホロコーストサバイバーだ」という項目に80%近くがそうだと回答しました。学生の殆どは第二次世界大戦から20年以上経ってから生まれ、自ら経験していないにも関わらずに社会的記憶による犠牲者の地位が受け継がれている。この犠牲者意識がイスラエル国家の存在を必然とすることにつなげ、パレスチナとの紛争にもナチス・ドイツの現行と例えにあげている。
ときが流れると今度はジェノサイドは無かったなどのような否定の声が上がり、それは時に不自然な映像記録とともに主張される。時代が経つとオーラルヒストリーの重要性も訴えられるようになることで公式アーカイブとして残されなかった小さな声も出てくるようになってきた。本書では「過去の民主化」と表現されている。
歴史、記憶など過去の出来事の取り扱う難しさは、全ての人が正確な過去の事実を認識できたとしても、紛争の当事者全てが同意する客観的解釈を期待するのは難しい。本書は記憶文化と記憶政治の問題を取り扱う難しさを示し、また自民族の未来を描くために過去を再構成する国家プロジェクトが度々見られたことを記録しています。
記憶は主に、国民国家の境界内で生産・流通・消費される情緒的な財物であった
感想
犠牲者意識ナショナリズムというワードもアイコニックながらその両面性を考えることができるとても良い本でした。考えてみれば当たり前ですが一人の人が居れば考え方も異なり、主張する物事の背景には感情的な背景や政治的な背景など様々です。
当たり前に思いますが大戦中の日本は他国へ進出しその地域を支配しその土地の人材を徴兵したり土地を奪ったりしたわけですがその中には横柄に振る舞う人も居たと思いますし、その不条理に心を痛めながらも強制させていた人も居たでしょう。ベトナム戦争中のアメリカ兵の振る舞いを見て日本軍の振る舞いについて調べるため中国を旅した本多勝一は改めて日本兵の愚行を知ることになりました。究極の精神状態で誰しもが理想とする行動を取れないことは民族などに関係ないものでしょう。同じように外国人が日本に来て日本人のような振る舞いを求める声もありますが、一方で海外でその土地の常識を守れない日本人が居ることも同じように意図のない悪行も理解しなければいけないものに思います。
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最近はアメリカ大統領選など含め感情的な扇動にこういった歴史認識が結びつけられ排外主義的な発言などが勢いを持つことなど歴史や記憶を選挙に結びつけることが見受けられます。そういった意味で民主主義は高尚なものでもないと思いますし、選挙はとても感情的なシステムであり、なおかつ一度当選してしまえば(殆ど)不可逆な選挙というシステム上その時勝てばOKといった場で不確かな価値観が語られすぎている気もします。日本が明治期に欧米から学び中国や朝鮮文化を蔑んで見ていたといった価値観についても言及されており、どことなく今の価値観にも結びついているように感じます。
こういった本が韓国人が書いており、慰安婦の話などに言及しつつとてもバランスの良い視点で書かれていることにとても尊敬します。とても希望が持てるものであり、自分もそうでありたいと思えるものでした。もちろん全ての行動に対して責任を持つことを求めたり、何かの収奪行為のもとに成り立つ生活などもあるためあまりに全体を見なければいけないという価値観もしんどさがありますが、なるべく冷静に物事を見るクセは付けられるようになりたいと思います。
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