前回興味深く読んだケーキの切れない非行少年たちの続編になります。
頑張ることができない少年(少女)たちにこそ本当は支援が必要であるのに、支援を受けるのは頑張っている子供たちになってしまっている中々難しい問題があります。
頑張れない人たちがどう考えているのか、なぜ頑張れないのか、という視点を紹介してくれる宮口先生の本は大人の世代、特に子育てをする世代には認識として多く広まってほしいものです。
📒 Summary + Notes | まとめノート
頑張ることと支援について
頑張っている人を応援します。というフレーズは頻繁に聞くものです。とても自然な考え方で前向きなものであると思います。最近世間にある「頑張らないで生きよう」といった風潮も一方で見られます。本書ではこういった言葉を額面通りに受け取ってしまう層が誤解して解釈してしまうことへ警鐘を鳴らしています。
本書のテーマでもある頑張ることについて頑張れない子供たちも多く居ます。頑張れない子を支援するにあたって見過ごされている点も多くあります。
- 何気ない一言がやる気を失わせる
- 本人も実は頑張りたい
- 頑張れないから支援しなければならない
- 支援者も支えなければならない
- 無理をさせないと頑張らせないの違い
お金にならないと無能扱いされる
本書ではっとする視点としては、食べていける、お金になるということが無いと頑張ったと判断されにくいということです。例えばゲームのesportsなどは部屋に引きこもっているだけでは何も価値が無いという印象ですが、大会などで活躍すると賞金も大きく生活をしている人も多く居ます。
学生時代のスポーツ活動などにおいて問題は、スポーツを通じて著者が連帯感、助け合い、リスペクトの精神を体験したことはなくむしろしごきなどの悪い文化の体験が多くあり、スポーツにおいて健全な精神などとよくある一般論はうまくできない生徒たちには味わいにくいものです。さらに頑張ってないと判断されることさえあります。
頑張れない子供たち
前著の一つのテーマでもあった境界知能ですが、境界知能が弱い人は先のことを見通すことが苦手です。学校の漢字学習においてもよくあるのは以下のようなステップが想像できると思いますが、認知機能が弱いと1ステップ先しか想像できず、漢字を覚えられなかった→ほめられない→終わり、といったものになってしまいます。
- 漢字を覚える
- ほめられる
- やる気が出る
- テストでいい点が取れる
- いい学校に行ける
- いい仕事につける
犯罪をするケースも同様に、お金に困る→その場しのぎの強盗をするなど認知機能が弱いと陥ってしまいます。
頑張れない子供たちが頑張れること
著者が不登校や引きこもりの生徒などと日々接する中で彼らが頑張れることも垣間見えました。好きなアーティストのコンサートなどには普段外に出るのも嫌な子供たちが大阪から東京まで新幹線に乗って、会ったことも無い知人宅に泊まり、診察の時間に併せてギリギリまで楽しんで帰省するという、通常の様子では考えられない頑張りを見せていました。
このように誰しもが頑張れると思えるスイッチがどこにあるのかを見つけること、いかにスイッチを入れてもらうかということが重要です。
心理学者ウイリアムミラーらの「動機づけ面接法」では動機には、準備、意思、能力、という3つの大切な要素が含まれているとされます。
- 優先順位の決定やプロセスの見通しなどの準備
- 変わりたいという気持ち
- 変われるという自信
宮口先生が患者と接する中で見つけた3つの段階はです。
- 見通し
- 目的
- 使命感
これは強制収容所を生き抜いたフランクルが「人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなくて、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである」と言い、収容所体験をとおして全世界の人々に生きる意味について伝えるという使命を感じられたから彼が生き抜くことができたという事を参考にしています。
支援者の立場
頑張れない人には支援者が重要な役割を果たします。本書で紹介されている支援者の3つの立場は下記です。
- 頑張ればなんとかなると、さまざまな方法で働きかける
- もう頑張れないだろう、と受け止め、無理をさせないようにする
- 頑張れない行動の背景を考え、付き合っていく
頑張れるための土台は安心してチャレンジできる環境です。家族の存在はとても重要になります。
- 安心の土台
- 伴走者
- チャレンジできる環境
保護者が支援者となり得るのですが、この支援者を支援するという視点も重要です。保護者は子供に対してどう接しているかという事も子供が頑張れるかどうかに関わってきます。保護者が子供の問題行動を見つけた中でやりがちなものに3つのどれかまたは組み合わせがあります。保護者にどの状態になっているのか理解してもらい粘り強く取り組むしかないです。
- 戦う
- 逃げる
- 固まる
感想
自分自身の小学校や中学校時代を振り返ると、今だからなんとなく理解できる頑張れなかった友人たちが何でそうだったのかという視点も持てます。率直にいい大人に出会えていなかったなと思うクラスメイトも多いですし、自身が承認欲求がそこまで高くなく特に承認されなくてもコツコツなにかすること事体が好きだったという性格もありラッキーだったなと思う事もあります。
そういう性格もあり、なんとなく頑張っているように見られる事もあり、友人たちがおしゃべりしたりしているうるさい環境の中で勉強することも好きだったのですが、それを見て先生が友人たちを怒るなどという場面も合った時にイメージで損させてしまったという思いがあったりしました。
高校卒業する時に、もっと良い先生が居ればと思い教師になるという選択肢を残したいなということで教員免許を取得しました。教育実習の際に先生から問題視されていた生徒たちを見て話してみると普通なのにレッテルで損しているなという大人がやる気を奪う現場も体験しました。
そういった環境全てに問題意識を持って大人に働きかけても中々に労力が居る事ですし、日々生きていると一日に何回もおせっかいしてしまいたくなる場面があります。全てに介入できないので家族や回りの友人には何かあれば言ったりする事もあるのですが、そのバランスは難しいですよね。
このような「頑張れない人たち」を理解して実際どうすれば良いのか?というのは人生のテーマだなと感じます。
📚 Relating Books | 関連本・Web
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