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世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること | ニール・ヒンディ (著), 長谷川 雅彬 (監修), 小巻 靖子 (翻訳) | 2023年書評#59

先日”Design thinking was supposed to fix the world. Where did it go wrong?”という記事がMIT Technology Reviewで書かれ話題を読んでいました。(日本語の記事は途中から有料記事)

www.technologyreview.jpデザイン・シンキングに対してネガティブな視点からの記事であり、現実味のない解決策であったり実行の段階でゴミになってしまうようなものになるというような話です。昔からコンサル系の仕事では同様のことが語られており、デザインファームもコンサルの側面があるので似たような状態に思います。

note.com

世界を変えるはずだった「デザイン思考」はどこで間違ったのか|Hiroshi Maruyama

www.youtube.com

rbefored.com

 

デザイン思考は世界を変えるがIDEOの宣伝本的な所がありましたが、本書はニールヒンディが運営するThe Artianの宣伝本的な要素が強めの内容でした。

www.theartian.com

📒 Summary + Notes | まとめノート

アートとビジネス

本書はビジネスシーンに対してアートの重要性を問う内容であり、なぜ関係があるのか?なぜ必要なのか?アートとイノベーション、アートとスキル、創造性の必要性について書かれています。

アートの何もないところから価値を生み出す様子をアントレプレナーシップと言葉を入れ替えても全く同じであり、それらは定義としても似ています。ビジネスリーダーはアーティストのようであり、多くのビジネスリーダーは成功ストーリーにアートに触れていた話をします。

ガリレオアインシュタインの例を元に、アート感覚に優れた人たち、創造性に優れた人たちが科学技術に多くの影響を与えることや、アートによりノーベル賞の可能性を高めるなどの話が紹介されています。

一つハイライトしていることにAIと創造性の部分で、ChatGPTの無い世界で書かれている本書ではAIが創造性を生み出すのは苦手であるということが書かれている部分は時代を感じます。アルファ碁についても言及されているのですが、価値のある創造性のあるアイデアは難しいと紹介されております。この部分については感想で考えたいです。

アートがなぜ必要かについてはよく語られるアップルマッキントッシュの開発の話やSTEM人材が求められているという話、そしてアーティスト思考を育てるためにはAIRが良いという内容に繋げられています。

bijutsutecho.com

アーティスト・イン・レジデンス

さらには、アートとイノベーションの点については、アートの世界でも技術を大切にして作り出された霧のアーティスト中谷さんの話が書かれています。

bijutsutecho.com

霧のアーティスト・中谷芙二子が日本初の大規模個展を開催。半世紀にわたり霧とビデオで示してきた「抵抗」

イノベーションについて起こす人はアーティスト思考が強い人であり、語る人ではなく起こす人が企業の永続性に欠かせないと言います。

アーティストとしての思考には物事を眺めるのではなく観察して理解することや、関連付けることなど5つのスキルが紹介されています。

  1. 関連付ける力
  2. 質問力
  3. 観察力
  4. ネットワーク力
  5. 実験力

最後にかかれていますが、著者が本書で問いかけたかったことは、アートを対等のパートナーとしてビジネスの世界に引き入れるとどうなるだろう。どんなチャンスが生まれるだろう。ということのようでした。一方でアートが魔法のようなものではなく、究極の解決策でもないと言いますが、会社を前進させる大きな力となるとします。

感想

冒頭で書いたように最近は以前までのデザイン思考礼賛モードから、デザイン思考に対して少し冷ややかな意見も聞かれてくるようになった気がします。個人的に好きでデザイン思考は推しているものでしたが、会社の人とやりとりをする中では有用性について抽象的すぎて分かりにくく、マインドセットやツールであって実行の段階でアジリティや技術力や持続可能性など現実的側面が置いていかれてしまうことがある印象はあります。

成功事例として紹介されるものを見ても、それがデザイン思考と関連付けられる成功なのか、そもそもそれを成功と捉えるのはどうなのか、というようなエピソードも多くあるのは確かで、どこかコンサルフィーを吸い上げるビジネスになってしまっている感覚を受けます。実際の現場に立ち会ったことが無いので事例があれば見てみたいです。

本書の全体的な印象としては、会社宣伝につなげている印象が高く、少し無理にアートとビジネスという共通項を見つけ出し語るという流れだったように感じました。誰しもアートに触れていて、成功者になれば何故かアートについて興味を持ち始めて語りだすことからビジネスリーダーがアートの重要性について触れるという背景もある気がします。ただビジネスで成功するのは世の中に対する問題意識は共通項かもしれませんが、やり続ける力が大事で、ある意味それの要素の一つに創造性などがあっただけという認識をしています。

AIについて創造性が無いような言及もありましたが、実感値としてはAIも創造性が十分にあるように思いますし、今ではAIが創造性を膨らませてレコメンデーションや気の利いた言い回しもできるようになってきました。将棋の新しい指し方は殆どがAI由来で開発されており、さらに精度もよいものばかりです。人間のなんとなくの創造性よりも遥かに根拠のある創造性を作り出してきています。Refika Anadolの作品もAIを活用して創造性を発揮されています。

refikanadolstudio.com

アートとビジネスを結びつけて何かを語ることは良いと思いますし、企画職などでは特に必要な能力であるとは思います。ただし、テクノロジーや技術力あっての+アルファ的要因であるものだと思いますし、技術を磨かずにアート的な創造性ばかりを磨いていたらものとしても良いものができないために、あまりビジネスのメインストリームとして語るのは違うのかなと思うのが個人の思いではあると本書を読みながら感じました。

デザイン思考について調べていた時に見つけたこちらの本が気になりました。