前回に引き続きDIの三宅さんの著書を読みました。前著ではビジネスプロデュースに適切な人材や考え方、またフックと回収エンジンの重要性についての提言本であったと思うのですが、本書ではその重要性を事例を持ち出しながらの解説になります。
具体的事例を知りたいという方には勉強になる部分が多いのではと思います。
またコンサル時代の勉強の仕方や仕事事例などのエピソードなども面白く、コンサル入社当時は2、3ヶ月で200冊読み知識をつけることをしたことが良い引き出しができたと言われています。
📒 Summary + Notes | まとめノート
大企業にこそ事業創出プロデューサーが必要
前著も同様ですが、本書でもターゲットは大企業が対象として書かれていることが多々あります。大企業は資金的・人材的にも体力がありますが一方で保守的な姿勢に凝り固まり、海外企業と比較して進化が少なく事業も増えていかない傾向です。
大企業でなぜ難しいというと2つに大別されます
- 純粋に中身の設計の難しさ
- それを妨害する構造があること
前者はスキル的なもの、後者は企業文化的なものであり、そもそも事業創出という難しく不確実性が高いものに対して保守的で失敗するとトラウマ的に拒否反応が形成されてしまうという悪循環があります。
事業創出におけるフックと回収エンジン
前著でもありました、キーワードのフックと回収エンジンですが、例はこのようなものです。
フック | 回収エンジン | |
---|---|---|
検索 | 広告 | |
パナソニック | 研修や教科書配布 | 使い慣れた松下製の工具の使用 |
オリンパス | 医学部生への内視鏡操作研修 | 慣れた製品の購入 |
アップル | 大学へアップル製のPC、ネットワーク配布 | 慣れた製品の購入 |
資生堂 | 高校生へのメイク講習 | 慣れた化粧品の購入 |
これらの構造として①構想があり②フック③回収エンジンを見つけ④フックと回収エンジンを戦略で結びつけることです。ビジネスの現場でもよくあると思いますが一つ一つはとても秀逸な考えや技術であるのにうまく結びつける(事業化)ことができていないことが見られます。
事例
鉄道会社:阪急電鉄のケース
フック - 都市開発
回収エンジン - 鉄道
阪急電鉄は鉄道会社なのですが、ある時から住宅地の開発を行い、職場との通勤で使用する鉄道を回収エンジンとしてもらうビジネスモデルを構築します。
都会で働きながらも住宅地まで便利に結ばれ、さらに駅前も利便性を確保するようにスーパーなどを誘致するという流れです。
エヌビディア
フック - CUDA(開発プラットフォーム)の無償提供
半導体企業としてトップに位置するエヌビディアですが、GPUのコアテクを持ちながらも市場投入は一番で無かったために後発企業でした。そこで開発プラットフォームを無償提供することによりGPU開発環境を誰でも使えるようにしたことで、エヌビディア製のGPUの購入がされました。
フック - レシピ
回収エンジン - 広告と有料コンテンツ、電力会社との協力
実態として上手くいっているのかは少し疑問ではありますが、クックパッドも事例として紹介されています。クックパッドは無料のレシピ共有サイトであり、料理をしたい人が簡単にレシピを検索できます。
ハイライトしたいのは、電力の小売完全自由化を受けて電気やガスの契約をした人には有料コンテンツを無料で提供しているという組み合わせでの戦略です。
今ではクレジットカード、携帯、銀行、証券口座など様々な結びつけての割引または有料コンテンツ公開があります。
フック - レシピの配布
海外の携帯電話ビジネスでは、複雑な製品であるために自前で設計から製造が難しく発生したビジネスモデルが作り方の配布で安く製造してもらい、その製品を使用してもらうことでのインフラ方面でのコスト回収でした。
したたかであったのが、日本の携帯仕様(PDC方式)ともトローラー含む米国の携帯仕様(GSM方式)があったのですが、米国の仕様をライセンス契約しそちらの方式で設計したものを配布。
ガラケーなどと揶揄されますが、まさに個別の技術は輝かしいのに戦略面でうまくできてない好例です。
強みはフックと回収エンジンどちらにあるべきか
自社の強みはフックと回収エンジンどちらにあるべきかという論点があります。本書でのまとめはこちらです。
フック | 回収エンジン | |
---|---|---|
付加価値 | 必須 | 不要 |
強み | できればあった方が良い | なくてもよい |
設けのポイント | 不要 | 必須 |
強みや差別性はフックに活用したほうがパワーを発揮するのが良いとされています。ただし感情的な側面として強みをコストセンター(非収益部門)として扱うということに対する抵抗が見られます。
この部分についてはもう少し解釈をしたくなる内容ではありましたが、強みとフックまたは回収エンジンを無理に区分する必要はないのではないかなという印象でした。
構想の作り方
本書で構想の作り方の具体的事例が面白く、著者が橋梁検査に関する取り組みに関わっていたときの話が参考になりました。
国交省のインフラとしては道路が500兆円、トンネルが100兆円、橋梁が100兆円ほどの配分であり、基本的に道路とトンネルは半永久的に活用できるが、橋梁は50年で落ちるようです。そこで橋梁に対してはメンテナンス費用がかさむのですが、実態として検査をしていてもメカニズムが複雑であり、検査手法の確立すらも難しく、コストをかけたからと言っても安全であるというものでも無いようです。
そこにさらに橋梁の所有管轄が国や地方であったりと複雑化しており、必要を賄えないケースや検査需要をこなせないなどの問題があります。
そうするとこの検査手法のニーズが高く、低コスト化できる理論と手法があれば良く、さらに継続的な需要も見込まれます。
そこで著者が構想したものは、橋梁を大まかに鋼材とコンクリート材に2分できることを見つけ、それぞれに対する崩壊までの流れを理解。それぞれに対して検査での着目点や緊急性などをまとめました。
本書での表現は**「筋の良い妄想」**と言われている構想力をどのようにつけるかも紹介されています。
- 物事を人よりも深く掘り込んで考えられること
- 多様な客観的視点を高い視座で取捨選択して取り組むことができること
深い思想をするためには
- 考えることで何かを得られた成功体験があると良い
- 知識の絶対量があること
- 本を読むことは比較的良い知識獲得手段
- 立体的知識(知識の結びつき)ができるようにする
- 客観的視点は相手すら分かっていない、言語化できないものを想像すること
- 別人格になる、アドバイスを聞くなどで客観的視点を身につける
感想
前著に引き続き、大企業含め事業創出に関わる人にはとても勉強になる内容であったと思います。確かにそんなこと分かっているよ、みたいな内容も無きにしもあらずなのですが、事例やエピソードを交え興味深く読めました。
本書後半に書いてある経営トップによるコミットの意味合いという部分はまとめられていないのですが、結局はそこの重要度がとても高いという内容があり、たしかに経営層のコミットメントは一番ベースに来るかもしれない根本的なものであるように思います。
響いた部分では構想力の育て方での、絶対的な知識量の部分です。表現を変えると経験しているかしていないか、というような気がしていて経験するためのアクションを沢山している事が重要に思います。英語圏では最近Unfair Advantageと呼ばれている自分の持っている潜在的な強みを活かしてみようという考え方が増えてきました。
経験値の無いものに対しては、直に経験する、または関節的に経験するということができます。
直に経験する:
- 転職する
- 旅行する
間接的に体験する:
- 本を読む
- インターネットから情報収集
- 人から聞く
この経験(絶対的な知識量)を立体化させられるかもまた一つ意識すべき能力だと思いました。