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ケーキの切れない非行少年たち | 宮口 幸治 (著) | 2024年書評4

児童精神科医として活躍される宮口さんの著書になります。少年院などで非行少年の患者などを扱う中で「境界知能」という視点を持って非行少年たちの共通点やそこに対する対応、世間的な認識を見直せる内容になっています。

そのアプローチは認知行動療法と呼ばれるものであり、施行の歪みを修正することで適切な行為・思考・感情を増やし、不適切な行為・思考・感情を減らしていくことで対人関係スキルの改善などを図る治療法の一つとされています。

 

📒 Summary + Notes | まとめノート

些細な事に対する感覚の違い

例えば、AさんがBさんに挨拶して、Bさんが返事をしなかったとします。そこでAさんはワザと無視された、僕のことが嫌いなのだと考えると怒りが湧き、Bさんに対して意地悪をしたりするかもしれません。

ここに対して、「ひょっとして声が小さくて気が付かなかったのでは?」「もう1回大きな声で挨拶してみよう」といったような考え方を変えるで対人関係スキルを変えていくというアプローチを実施しています。

著者はあるときReyの図を非行少年に書いてもらうと全く異なる図を描写します。

anispi.co.jp

これには見る力がなく歪んで見えている事が考えられ、そうすると聞く力なども同様に歪んで聞こえている可能性が考えられました。

大人たちに何か言われると、反省せず、大人たちもすぐに「反省がない」「不真面目だ」「やる気のない」などと厳しく指導してしまいがちですが、そもそも反省させる以前に正しく見ることや聞くことがかけている場合にそのようなアプローチは適切では無いでしょう。

このような少年たちは小さな成功体験を積み重ねる事が難しく、自信をつけさせられることの機会が比較的に少なくなってしまいます。

そのために、筆者はまず見る力、聞く力を養うためのトレーニングを非行少年に実施すると驚くほどに集中して、実は学ぶ事に飢えているということもわかりました。

彼らは後先を考える力の弱さが出て、非行を行いその後にある罰などを事前に想像できていないという側面があります。そもそも反省や葛藤できる能力に欠けているのに対して反省をさせるという事が多く、非行少年には大きく6つの分類がありました。

認知機能の弱さ:見たり聞いたり想像する力が弱い

感情統制の弱さ:感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる。

融通の利かなさ:何でも思いつきでやってしまう。予想外のことに弱い

不適切な自己評価:自分の問題点が分からない。自信があり過ぎる、なさ過ぎる

対人スキルの乏しさ:人とのコミュニケーションが苦手

身体的不器用さ:力加減ができない、身体の使い方が不器用

想像力が乏しい人たちにとって時間の概念は、昨日、今日、明日、程度の3日間ほどの世界で行きています。具体的な目標を建てたり、そのために努力をすることが苦手になってしまうのです。

反省させるよりも認知能力を向上させる事が重要になります。

忘れられた人々

知的障害者の定義は時代ごとに変わり、1950年には「IQ85未満」と適用すると16%程度いたことになります。IQ70〜84のかつての軽度知的障害者は14%もいた計算になるのですが、知的障害の基準がIQでなくなるなど時代ごとに変化しているため現代には適応できない基準になっています。

軽度という言葉がついてしまうと本来は多くの支援が必要であるのに基準があるせいで支援が忘れられてしまう範囲に存在する人たちが居ます。

これらの人たちの特徴がまとめられています。

  • 所得が少ない、貧困率が高い、雇用率が低い
  • 片親が多い
  • 運転免許証を取得するのが難しい
  • 栄養不足、肥満率が高い
  • 友人関係を結び維持することが難しい、孤独になりやすい
  • 支援がないと問題行動を起こす

これらの人たちに対して、「褒める教育」などが対策としてされているのですが、小学生などでは褒めて話を聞いてあげることで上手くいっていたかもしれませんが、中学、高校、そして社会に出ると褒められる機会は減るために、結局先延ばしにしているに過ぎない状況です。

そこで著者が支持するのは認知能力を鍛えるアプローチです。

ではどうすれば?

非行少年たちが変わろうと思った時にコメントをまとめられておりそこの共通点は「自己への気づき」「自己評価の向上」でした。

自己への気づきのためには、例えば札幌の地下鉄のホームに鏡を設置した所自殺者が減ったと言われているように自己に意識が向けられる機会を増やす事が大事になります。そのために先生が子供にたいして「あなたを見ていますよ」というサインを送ったりまたグループワークをすることなどが大切です。

様々な活動の中で自己評価が向上することが大事になります。

困っている子供に対して支援のアプローチとして3つの側面、「社会面」「学習面」「身体面」があります。社会面は一番重要なのにもかかわらず学校教育では中々育まれにくい実態があります。これらの土台となる認知機能を鍛えるためにコグトレという別本でまとめられているようですが、そこでは

  • 写す
  • 覚える
  • 見つける
  • 想像する
  • 数える

といったトレーニング方法がまとめられているようです。

感想

境界知能という観点から非行少年たちの特徴を的確にまとめており、反省よりも認知能力の向上が重要であるという主張はとても勉強になります。

教育実習や教員免許を取得して活用していない身ではありますが、教育実習を見ているとまさに忘れられてしまった生徒というような注意されていない子供たちが居ますし、進学校などに行くとある種大人しくコントロールできているようで表面化していないような子供たちも居るイメージがあります。

一昔前までの根性論的に何かできなかったらとにかく反省させる、というアプローチは指導する側の怠慢だと思っていましたし、そうすることがラクで何となくしている感が出るというので実行されていると思いますが、特に人から強要されて実行する反省とはあまり意味が無いパフォーマンス重視の行為だなと感じます。

非行少年だけでなく、こういった「反省」パフォーマンスは結構社会的に蔓延しているように思います。対策と言える対策が無く反省の便を述べた記者会見や、組織的に反省重視の組織。語気を強めれば何か上手くいくと思う社会人も観測範囲の中にも見受けられます。

コグトレの内容が少し紹介されていますが、写す、覚える、見つける、想像する、数えるということは家庭環境にもよりますが幼少期に親や保育園などで身につけられる事だと思います。ただし、不運にも機会に恵まれなかった人たちが居てまたは身に付けられる機会が小学校や中学校などでしか無かった人たちがビハインドになっている事もあると思います。

想像力を持って物事を見るために色々な本を読んだり地方に言ってみたり、母国語だけでない言語で物事に接するということを意識しては居ますが、気が付かないうちに劣るものでもあると思うので認知能力を思い出せる機会を上手く課せればなと思いました。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/3vwQYTE 反省させると犯罪者になります(新潮新書Kindle版 岡本 茂樹 (著)
  2. https://amzn.to/4aS6BoT 獄窓記 (新潮文庫) 文庫 – 2008/1/29 山本 譲司 (著)
  3. https://amzn.to/3vBvUeP 性の問題行動をもつ子どものためのワークブック――発達障害・知的障害のある児童・青年の理解と支援 単行本(ソフトカバー) – 2015/4/25 宮口幸治 (著), 川上ちひろ (著)
  4. https://amzn.to/3tR5LIl CD付 コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング 単行本(ソフトカバー) – 2015/3/7 宮口幸治 (著)