シェリル・サンドバーグの本オプションBを読みました。
Facebookの最高執行責任者であるシェリル・サンドバーグは元々Googleに居てIT業界で活躍する女性の代表のようなキャラクターであり、LEAN INではまさに女性が社会で活躍することについて書かれていた本になります。
本書を読むまで知らなかったのですが、彼女が夫を亡くした事からどう立ち直っていき人生に意味を見つけていくかという過程をアダム・グラントと一緒に立ち直っていく様子を記録したものが本書になります。
テック業界のトップレベルで活躍する女性としてしか知らなかったのですが、時に感情を見出しザッカーバーグに相談したりくよくよしたりという人間らしい部分が記されており、一人の女性ということを思い出させます。
最近バズワード化しているレジリエンスと呼ばれるいわゆる回復力についてアダム・グラントにセラピーしてもらいながら立ち直っていく様子は多くの人の参考になるのではないでしょうか。
📒 Summary + Notes | まとめノート
デーブの死
サンドバーグの夫デーブと幸せな日々を過ごし休暇中に彼の親族と一緒に旅行に来ていました。ウトウトする中デーブがジムへ行くと言っていた薄い記憶があり、目を覚ました時にデーブが居ないためジムを見に行きます。
そこにはトレーニングマシン横で倒れるデーブの姿。急いで心臓マッサージを開始しドクターを呼びそのまま救急車に乗り病院へ。そこで言われたのは「お気の毒に…」と言われ大きなショックを受けます。
立ち直れない日々を過ごしている所、友人でもあるアダム・グラントに電話で話す機会を得ます。アダムは人がどのようにして意欲と生きがいを見出すかを研究しており、招待したディナーで意気投合したり、デーブのお葬式に参加もしました。
アダムは一見終わりの無い虚空も、必ず底を打つのだと説明し、配偶者を亡くした人が「鋭い悲嘆」と呼ばれる段階を脱し、その過程でどのような人間に成長するか、自分の信念と行動次第でコントロールできるものであると説明しました。
悲しい事は誰にでも起き、そこで大事なのは「次にどうするか」。レジリエンスは高められるものである、逆境が起こった時にどれだけすばやく立ち直れるか、それは自分で鍛えられるものであります。
立ち直る方法たち
サンドバーグは立ち直ることに役立ったことのひとつに、「考え得る最悪の事態が起こっていたら」を想像することでした。デーブが子供とドライブしていた時に不整脈を起こしていたら子供たちも犠牲になっていたかもしれない。層考えると、今子供が元気に過ごせていることに感謝できました。
心理学の実験で恵みに感謝することを習慣としたグループに9週間後にくらべてみると幸福度が高く健康上の問題も少なかったというのもある。感謝できるものごとを考えてみるきっかけになったそうです。
心理学者のマーティン・セリグマンは人が失敗や挫折にどのように対処するかを長年研究し3つのPが苦難から立ち直りを妨げることを明らかにしています。
自責化:Personalization
普遍化:Pervasiveness
永続化:Permanence
つらいできごとが起きた時に、自分ひとりのせいではなく、すべてではない、ずっとではない。そう考えられるかにより立ち直りが早くなります。
ストレスに関する古典的な実験において、ランダムな間隔で発せられる不快な騒音を参加者に聞かせて集中力が求められるパズルなどの問題に取り組む実験があります。一部の被験者には逃げ道を用意し、ボタンを押すと音を止められると教えると、それらの参加者はボタンを押すことは決して無く、冷静さを保ちミスが少なく良い結果を残しました。
「自分で状況をコントロールできる」という意識を持つことで、ストレスへの耐性が高くなりました。
苦しんでいる人には「ボタン」が必要です。ではボタンを差し出すにはどうしたらよいのでしょう?明快で万能な回答は無いですが、本書で紹介されているのはプラチナルールと呼ばれる「他人が扱って欲しいように他人を扱いなさい」というもので、苦しんでいる人が発するサインを読み取り、思いやりと、できれば行動をもって応じるようにする事が良いと紹介されています。
サンドバーグが効果的だと思ったのは優しい言葉よりも「一緒に乗り越えよう」ということを繰り返しかけてもらえたことでした。
心理学者のクリスティンネフは自己への思いやりを友人に対してもつような思いやりを自分自身に対してもつこと、自己と向き合うことの大切さを説きました。キャサリンホークはジャーナリング(日記をつけること)により瞑想と同じとはいかなくても、心を鎮め、自分に向き合うのに役立ったと言います。
書くことは自己への思いやりと身につけるための強力なツールです。
心理学者のジェイミーペネベーカーは毎日15分ずつトラウマ体験に向き合うように日記をつけたグループの追跡調査を行い、6ヶ月後には初期とは逆にトラウマについて書いた人は心身ともに良好な状態であったと研究にまとめました。
哲学者のセーレン・キルケゴールは「人生は後ろ向きにしか理解できないが、前向きにしか行きられない」と言っています。ジャーナリングは自分の過去に意味をもたせ、現在と未来を行きていくための自信を取り戻すのに役立ち、アダム・グラントは日記に今日上手くできたことを3つ書き、小さな成功体験に集中できるようにしました。これにより幸福感を高く過ごせるという結果が得られました。
サンドバーグは6ヶ月のあいだ、「お茶を淹れた」「メールすべてに目を通せた」などの簡単なことから書き記し早く立ち直る手助けになりました。
これにより仕事でも少しずつ自信を取り戻し「1歩ずつの前進」をします。
少しずつ立ち直りが進むと、次にアダム・グラントは「うまくできたこと3つ」から「喜びの瞬間を3つ」書くことを勧めます。寝る前に毎日その日のハッピーだった瞬間を3つノートに書き出し、日々の小さな喜びに気がつくようになり、感謝の念をもちやすくなりました。何か良いことがあると、「これ、ノートに書けるわ」と思い、一日を明るく照らしてくれました。
レジリエンスな子供を育てる
子供たちはいつか逆境に直面し、大小さまざまな仰臥位を乗り越える力が必要になります。レジリエンスの高い人は、より幸福で、仕事でもより大きな成功をおさめ、健康状態もよい。レジリエンスを身につけることは生涯にわたるプロジェクトです。
レジリエンスを育てるためには子供に4つの核となる信念をもてるように、手助けることが出発点です。
- 自分の人生は自分である程度コントロールできる
- 失敗から学ぶことができる
- 自分はひとりの人間として大切な存在である
- 自分のために役立て、他人と分かちあうことのできる強みが自分にはある
ジュリーリスコットヘイムスは「How to Raise an Adult」のなかで困難こそが成長のチャンスだと子供に教え、葛藤をノーマライズする(あたりまえのこととして受け入れる)ことで避けるべきことではなく、学ぶ機会として歓迎することで子供はもっと挑戦するようになると言います。
神経学的な根拠から子供は大人より神経系の可塑性が高く、脳がストレスに適応しやすいとあります。子供は驚くほどレジリエンスを見せる事があります。子供は感情の持続性が短く、悲しみの感情も突発的に噴出することが多い。
サンドバーグは子供たちとルールをつくり、4つの信念をもてるようにしました。
仕事でのレジリエンス
仕事において失敗やフィードバックから得られる事は多くあります。アダム・グラントは大学の授業において生徒からフィードバックをもらい常に改善することで人気の授業としてランクインしています。
批評は個人攻撃として受け止められがちでフィードバックにオープンでなくなる事はよくあることです。批評の痛手を和らげるためには「批評をどれだけ活かすことができたか」を評価することも一つの手です。フィードバックを受け入れる能力もレジリエンスの証です。
人間関係でのレジリエンス
とある研究でカップルの行動を観察し、呼びかけに対して「そっぽを向く」か「向き合う」かの2種類の選択において向き合うカップルにおいて離婚する確率が低いという結果が出ました。けんかの原因の大半は、お金やセックスの問題ではなく、「不発に終わった呼びかけ」でした。
感想
シェリル・サンドバーグ自身が逆境からどのように立ち直ってレジリエンスを磨いていったのか、ということをアダム・グラントと共に多くの学術的な解説を混ぜながら方法論を自身に当てはめて実行していくことで実際に立ち直った方法を読むのはとてもおもしろかったです。
- 3つのP
- ジャーナリングでの「うまくできたこと」「ハッピーだったこと」の振り返り習慣
- 子供が持つべき4つの信念
などについてはかなり具体的で意識しやすいポイントでした。
本書見て感じたのはどんな素晴らしい職位についている人に取ってもセラピーは大きな助けになるのだと言うこと。アダム・グラントというセラピストとして最適な友人が居るのには驚きですが、専門性を持ちそして友人とも言え、科学的な視座が多くあるセラピストの存在はとても大きいものなのだと思いました。
今までの感覚ではセラピストと聞くと一時的に気持ちを緩和させたり、時間の経過を上手く活用して向き合っていく方法(ある種風化させる)でストレスを緩和させるというようなイメージが多かったのですが、知識の引き出しが豊富にあり、最適なタイミングで最適な提案をできるということの重要性を読んでいて感じました。
アメリカの株式を探している時に見つけたTalkspaceという企業もあるのですが、今後心理的ストレスに対応する需要はますます増えていきそうなので、株式として魅力的にも思いますが、選択肢として社会に存在して欲しいと感じます。
📚 Relating Books | 関連本・Web
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- https://amzn.to/3vzXWHu リジリエンス 単行本 – 2013/3/9 ジョージ・A・ボナーノ (著), 高橋 祥友 (翻訳)
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