世の中には2項対立のものが沢山あります。
男と女、右と左、西と東、先進国と途上国。本のタイトルにもなっているサードウェイはそんな2項対立に答えがあるのではなくその他の道が無いのかと山口さんが模索する考えがまとめられている本になります。
このかけ離れたものを組み合わせて新しい道を作っていくというのはまさにマザーハウスが実践してきたことであり、大量生産と手仕事のどちらの良いところも残したり、途上国のものが先進国でブランドとして売れるようにという模索の様子が描かれています。
本を読んだこともあって最近マザーハウスのYoutubeを見ていたのですが製品の美しさも見惚れますし、その製品を説明する山口さんやスタッフの姿にストーリーのある製品をしっかりと届けるという姿勢がとても良いものづくりに感じます。世の中にはマーケティングや効率よく売るという製品が溢れ返る中で、このように大切に作った製品をしっかり届けようという会社があることに希望を感じました。
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📒 Summary + Notes | まとめノート
社会性とビジネス
元々は途上国が良くなることに貢献しようとしていた山口さん。国際機関に努めながらも途上国への支援や援助がうまく行き渡っていない現実を目の当たりにしてバングラディシュの大学院に進学し学びながらその問題解決を目指していました。
そんな中ビジネスを成立させることで途上国の人たちに貢献できるのではということでバングラディシュのジュートを用いた製品を日本で販売するというビジネスを立ち上げます。
社会貢献だけを求めていては持続性が無く、ビジネスとして継続させることで社会性とビジネスの双方が得られるというアプローチを取ってきました。
途上国の社会貢献という大きなビジョンを持つ中で、そのアプローチは過程の中で変化します。大きなビジョンを持って小さなゴールを持ち、その中で試行錯誤していくという流れです。大きなビジョンは強固なもの、小さなゴールは柔軟性を持ち状況に合わせて変化していく。
- ビジョンを大きくすること
- 定点観測をして自分の立ち位置をはっきりさせること
- プロセスの中で生まれた夢も追加すること
途上国でのビジネスはババ抜き型のビジネスであるということを目の当たりにしてきました。ものづくりにおける赤字が誰かにしわ寄せが来ることによって利益を得ている状態で、生産する工場であったり、検品する業者、働いている労働者、誰かにババが回ることにより成り立つビジネスが多くあります。
誰もがババを引かないビジネスを目指してマザーハウスは活動しています。その壁には慣習であったり、安い値段を求めがちな消費者であったりと多くあるものの、工夫次第で解決できるはずというのが山口さんのスタンス。
時には発注を間に合わせようとし残業をして頑張る工場長に対してそれは健全でないと注意したりと難しい判断や給与水準をバングラディシュの平均水準よりも高く設定するなど会社経営の売上至上主義とは反対の方向性を社員と共有しながら組織を育てていきます。
こうした文化づくりは共感した人材獲得にも繋がり、ビジョンに呼応したタレントが集まるようにもなりました。
数字やロジックに頼るリスクにも触れられております。日本の職人たちの技術を守ると掲げている企業において、職人さんに不平等な条件で取引を強いていながらも販売側の利益や規模を大きくすることを優先してしまうケースがあり、販売側の店舗での雰囲気も悪くなりお客さんが離れていく。利益を上げることはもちろん大事ではあるのに、大切なものを蝕んでいく姿を見て、もっと別の方法が無いのか、職人が誇りに思えるような方法を探しています。
デザインと経営
山口さんはデザイナーでもあり経営者でもあります。作ったものを売るために会社が必要であり経営者となり、工場でものづくりする中で判断が必要になりデザイナーとしての役割が必要になったために両方を担当していると言います。
デザインと経営は対立しがちな物事です。自己表現を求めるデザインに対して、売れるものを求める経営。その中で山口さんはデザインはブランドの世界観をプロダクトで表現することであり、自己表現とは異なるものと見ています。デザイナーが売上を意識することの重要性、お客さんに届いたという結果があってのデザイン活動ということを説いています。
主観とお客さんの声というのも2項対立としてバランスの難しいものでありながら、感動を生むものは主観的なものであることが多いとも言います。顧客の声を取り入れる事はもちろん大事でありながらも、感動につながる個人の感覚も大事にする。対立すると思われるものの双方を取り入れるサードウェイ的な考え方がここにもあります。
面白かった部分にらしさと変化のバランスについてありました。ブランドとしてのらしさをキープしながら、変化して新しさを取り入れるバランス。ヒット作ができればそこに資源が投入され、新しい種がおろそかになる。変化し続ければならないのに固執することで変化が衰退を生む。
変化が無い生活に新しさを取り入れることも大切ですし、変化が無い部分も大切であるという、人のライフスタイルも同じではないかと読んでいて感じます。
大量生産と手仕事
一番印象的だった章は大量生産と手仕事の話でした。大量生産が可能である人的資本や経済資本が整う中国のような例では経済成長率も凄まじく伸びました。ベトナムなどそれに似た形で追従しています。量産という力は活気を生み出し、毎日運び出される製品を見て大量生産の凄みを感じたそうです。
一方で、大量生産は安価な労働力とセットになり、これは経済成長に伴いその旨味が失われていきます。安い労働力を武器にした安い製品の量産の仕組みにしたいしてまだ世界は答えが無いように思います。
対称的な手仕事はラオス、インドネシア、カンボジアなどでよく行われており、伝統工芸品などは1日30センチしか織れないというようなものもあります。素晴らしい素材があるのにも関わらず、発注をするとできるのは来年などという商売のサイクルに乗ってこないという問題もありました。
素晴らしく美しい手仕事と、素晴らしい効率性の大量生産をかけ合わせる事。そこにサードウェイとして可能性を見出しているのがマザーハウスです。
バングラディシュの工場では手仕事ながらも効率の良い生産チームでの仕事や、チーム全員が様々な技術を身につけられる仕組みを持っています。
手仕事では品質のばらつきが問題となるために、品質基準の共有を徹底する。また通常欠陥と呼ばれる石の中にある気泡についてもある程度のものに関しては個性として良さと捉える。
手仕事でよくある、「これは手じゃないとできない」というような拘りに対して、お客さんにとっての価値とのバランスも見てきました。手仕事の工程を分解して、価値のある部分には拘りを残す。時間をかけて自身が手を動かして調和するスポットを探していきました。
手仕事の良さを最大限に引き出すために、大量生産の効率性の追求を活用するというサードウェイを見出します。
印象に残った言葉
私は何も伝統技術をそのままの状態で、まるで博物館のケースに入れておくように「保存したい」と言っているのではない。世界を歩き回りながら、このような出会いを繰り返してきて、勝手に思った。私の役割は彼らの言語となり、彼らの翻訳者あるいは通訳者になること、そのために、自分自身も手を動かし、彼らの手が生み出す付加価値をチューニングし、世界に発信すること。
どうやったら自分の夢は見つかりますか?
高校や大学の講演会でいちばん多い質問だ。2つ、いつも伝えていることがある。それはまず、「そんな簡単に見つかるだと思わないこと」。それと「夢を描いたとしても追っていく中でそれは変化していくよ」ということ。
私は「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という人生を捧げたいと思う夢をラッキーにも見つけたが、そこに行き着くまでにはいくつもの葛藤と何時間もの内省と、たくさんの「アクション」があった。
「こうかもしれないな」と思った時点で、一度覚悟を決めたらいいのだ。
もう迷うのをやめて、「とりあえず」そこに向かって頭と体を動かして、夢中になってみること。
夢中になる人の目にはいろんなことがクリアに見えるはず。出会いも降ってくるはず。
そんなプロセスの中で「あ、これ違うかも?」と思ったら笑顔で軌道修正したらいいじゃないか
感想
何年も前に情熱大陸で見てとても素敵だなと思っていたマザーハウスは当時とても小さな会社という気がしていました。今では誰もが知っているようなコンセプチュアルな会社、海外のファンも増えてとても大きな組織となっています。
こうやって本を読んで変化を知ると、この間自分にどんな変化があったのだろうか。その変化で良かったのだろうかととても反省する部分もあります。
もちろん生きていく中で様々な新しい事にふれあい、仕事というツールを通じて新しい体験も多くありましたが、中々頭が上がらない思いです。
一生懸命に動きながら生きているという姿に美しさを感じつつ、自分の過去がもっとこうあったら良かったのになと思いながら読める本でした。
一方で、確かなる変化も感じる部分もあり幸運にも海外のチームと働けるチャンスがあり、色々な現場と見て日本人の劣る部分や素晴らしいと思える部分。他の文化とのギャップを埋める多くの経験は本書に出てきたような物語に負けず劣らずのものもあったように思います。
これからどう生きていきたいのか、どうしたら充実して楽しかったなと思えるのか立ち止まって考え、その時々を一生懸命過ごしていきたいと思いました。