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訪問記/書評/勉強日記(TOEIC930/IELTS6.0/HSK5級/Python)

輝ける場所を探して 裸でも生きる3 ダッカからジョグジャ、そしてコロンボへ | 山口 絵理子 (著) | 2023年書評70

情熱大陸で見て依頼ファンであったマザーハウス山口絵理子さんの著書輝ける場所を探してを読みました。情熱大陸で語ったように発展途上国の可能性を信じて、彼らが本当はできるということを証明したいという思いを日本などのいわゆる発展国でも通用する良い商品を製造する姿はかなり印象に残っています。

こういったドキュメンタリー本を久しぶりに読んで、なにか役に立つということを追いかけたり、マーケティングと言われるようなどう売るかみたいなことを勉強していた一方で、大切な熱い情熱が滾るような思いが湧き上がるとても前向きになれる本でした。

 

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📒 Summary + Notes | まとめノート

マザーハウス

マザーハウスの成り立ちは発展途上国でも輝く素材を持つことに目をつけ、その素材を活かしたものづくりです。始まりはバングラディシュのジュートと呼ばれる素材。当時ジュートの製造大国でありながらもその価値を見出されていなかった素材の価格は大きく上昇。マザーハウスはジュートの編み方を変え先進国の製品として十分な品質に作り上げることで製品を作り出します。

 

 

引用元:

https://www.ide.go.jp/library/Japanese/Publish/Reports/InterimReport/2012/pdf/B112_ch2.pdf

本書ではそこから国はインドネシアに移りそこでのものづくりのストーリー。インドネシアで行われた国際会議に参加した山口さんは大統領と話すきっかけを持ち、そこで伝統的な製品バティックを売り出したいという移行を知ります。

「今のバティックには国際市場の視点が欠けており、輸出するならば、伝統を伝統のままじゃなく、イノベーションをしないとだめだと思う」と大統領に直接伝えると、ぜひ展示会に来て下さい。招待しますとインドネシアとの関わりが深くスタートします。

インドネシアでのものづくり

山口さんの面白い探索の方法にアリババで検索して製造会社が見つかるのでそこでコンタクトをすることで素材を手に入れ、そこが良い製造者と分かれば訪れて話をより詳細に聞いていくという方法をしている所です。バティックに関しても製造メーカーを見つけて、記載の無い特注オーダーをして返事を待つ。よくあるパターンは①返事が来ない②2週間くらいして返事が来るが要点を掴んでない③返事がすぐ来るが、可能ですというだけで的確ではない④返事も来て、内容もしっかりきている、というもので始まりは②のパターンだったと言います。

そうしてオーダーしたものを見てよい素材だと思ったアグスさんという方が居る工房とやり取りが続き訪問することになります。住所はジョグジャカルタジャカルタから飛行機で2時間の都市です。

現地のコーディネーターを手配しジョグジャカルタへ行きアグスさんの工房へ訪問。そこはただの家の工房でした。そこで工房のスタッフと話したり自分でも作業をしてバティックのことを学んでいきます。

その中で現地の価値観や幸せの考え方など製造を通じて知っていきます。2回目の訪問時にあまった時間でお土産屋さんを訪問している所、銀線細工フィリグリーを見つけます。ジュエリーとしてとても美しいフィリグリーに魅了され工房をお店の人に聞きながら生産地を探し、村で作られているという情報をもとにフィリグリーの生産される村を訪れます。

よくある市場構造に、お土産屋さんにオーダーされた製品だけを生産しお土産屋さんに卸している、デザイナーと職人の距離が遠い構造がありますが、フィリグリーもまさにそういったもの。良いものを職人が作り上げるというようりも、技術のある職人が生きるためにお土産屋さんからのオーダーを言われるがままの安値で請け負うような形にありました。お土産屋さんでもフィリグリーの細かな説明はできず、売りても製品のことを理解できていない状態です。

職人探しの旅

シルバー村と言う応報だけをもとにフィリグリーの生産される村を訪ね、銀職人を村人に訪ね歩き回り職人を探し出します。どんな仕事をしているか、どういったものが依頼されているのか出会った職人から聞きその構造を自分の目で見て確かめる。

そこでワリヨさんという銀職人に出会います。技術はあるものの、自宅で依頼があったときにフィリグリーを作り、他の時間は農業などの家の仕事をして生活するワリヨさん。仕事の様子を見せてもらうと職人として一流の様子でした。

この村の人たちはもっと素敵なものを作れる。そんな思いがふつふつと沸き立っていきます。

次の出張ではより親密にもっとどういったものが作れないのか?という意見を率直にぶつけていきます。ワリヨさんはそんなことできないと言いつつも、やってみるとできる。そんなデザインが良いのか?と言われるものを依頼して作ってもらう。時には人生の話を聞きながら、村のことを聞きながら仕事を見せてもらい可能性を見ていきます。

やってみてないこと=不可能という概念は途上国の人はよく持っている感覚ということを知っていた山口さんはやってもらうことで今までのものからイノベーションを起こしていきます。

やってみなければ分からない。と言えることがどれほど大切であるのか、既存の生態系にない視点が入る事がどれほど重要なのか本書を見て感じます。

手仕事であり一品物でありながら、品質という考えを教え込む山口さん。次第にワリヨさんにその感覚が伝わっていきます。

ゴールドで作るフィリグリー

シルバーで作るネックレスを見ながらある日これをゴールドで作れたらもっと美しいのにと考える山口さんは、ゴールドの線細工の可能性をコーディネーターの笠原さんに聞きます。シルバーとゴールドは性質が異なる素材。シルバー村の人はシルバーには慣れていますがゴールドは全く未知の素材でした。

そこで、次は金職人を探す旅が始まります。ジュエリーショップで金を注文し職人について聞きまわる。その過程で知ったムギさんと呼ばれる職人にたどり着き訪れます。ムギさんはスポット的に結婚指輪の注文があると金細工を行う職人。金線を作れないかという要望を伝え、山口さんが買ってきた金を使って可能性を見出そうとします。

買ってきた金は一瞬でなくなり、また買いに行く。ついに良い配合を見つけ出し金線を作り出します。その金線を持ってワリヨさんの元へ変えると今度はワリヨさんとの挑戦が始まり、銀と金の違いに戸惑いつつもさすが職人さんと言う感じに性質を掴み金でのジュエリーが出来上がります。

金でフィリグリーを作れると分かったら今後はデザイン。自然をテーマにしたデザインを考え提案しワリヨさんが作成する。中々イメージ通りのものができないと、今度は自分で真鍮を書い試作。ご飯を食べ忘れるほど没頭しルームサービスでご飯を注文して部屋でノコギリなどで作業する日本人を見て怖がったホテルスタッフも居ました。

その甲斐もありついに美しいサンプルが出来上がります。ワリヨさんがその時「金を作るのは、夢だったから」とぽつりと言った言葉がジーンと感動を呼びます。

ついに生産へ

ついに生産へと結びついたムギさん、ワリヨさんという二人の職人のプライドが詰まった作品。生産の過程でもそれまでの価値観と山口さんが求める品質をすり合わせながら呼吸が整っていくストーリーは読み応えがあります。

ムギさんは比較的穏やかに納期ギリギリに仕上げても何も思わない人であり、ワリヨさんは一方で材料はまだか、まだ持ってきてないのか、持っていく山を超えるときにも何回も連絡が来るほどせっかちなスタイル。

ムギさんは自分で時間どおりにできないと分かると友達に依頼してチームで作るのに対してワリヨさんは一人で仕事をし続ける。そんな色が異なる二人の職人が作り上げるものはとても美しい製品へとなりました。

製造が終わると次は日本のチームへバトンタッチ。販売スタッフにお披露目をし製品の説明やフィリグリーの説明をし、店頭で誰もが魅力を伝えられるようにする、という教育をしていきます。

ジュエリーチームが発足され、生産を見守るメンバーもでき徐々に山口さんの仕事からチームでの仕事へ移行していきます。

最初のスケジュールが想定外の事が多発する生産側で達成することができなかったために、カントリーマネージャーの稲葉さんという濃い顔のスタッフが電話越しに男泣きする話は思わずクスリとなるエピソードでした。

サンクスイベントでムギさん日本上陸

10周年のサンクスイベントで各製品の職人さんを日本へ呼び実演してもらうイベントを実施にあたりムギさんを日本へ招待することになりました。この話を聞いた時ムギさんは心配そうで、「小鳥の世話がある」「冷房が苦手」と断り奥さんに行きなさいと言われ渋々承諾します。笑

出発が近づくにつれ今度は気合が入っていくようで「これ買ったんだ、日本で履こうと思って」といつもサンダルなのに靴を買い、ラジコンを買ってきてと孫に頼まれ、村では学が無くてもこんな事があるんだねと話題に。お別れの最後のムギさんの言葉は奥さんへ「俺の小鳥を頼んだぞ。餌を忘れるなよ」というのがウケました。

移動の時は写真大会で、飛行機に乗る前に記念写真、移りが悪いとまた撮影。細かな依頼は職人そのものでした。

日本に驚きつつ、開かない窓の建物に風が感じられないがいいのかと日本の当たり前に子供のように質問していたようです。他の地域から来た職人たちと余所余所しくしていた初日でしたが、最終日には意気投合しお互い通訳が疲れ果てるほどに質問しあっていたというのも面白いエピソード。

勤勉だと思っていたが日本人はみんな勤勉でインドネシア人が仕事をしていないのだなと感じたというのも素直なコメントに思います。

スリランカの石

物語の最後はスリランカへ。ジュエリーラインが始まったマザーハウスの製品に次は石があると良いと感じた山口さんは石を探す旅へと出ます。

インドネシアでまず探すも殆が国外のもの。さらには怪しい品質鑑定もよくありインドネシアでの石獲得は難しく、東南アジアの石が取れるスリランカへと向かいます。

スリランカは大型資本や中国資本の影響で手仕事は減っており、また外国資本の産業もインフレの影響で撤退が相つぐという難しさ。国内で賞を受賞したという手織りのレース職人の工房を回っていると、依頼した手織りのレースは材料を中国へ送り中国の機械で縫われたものを貼りつけるだけ、という受賞歴のある職人にびっくりしたりなどします。

最終的に信頼できる石加工工房を見つけ、ここでも自身の手を使いながら、今までの当たり前に新しい視野を取り入れていきます。

製造が決まり目標オーダーを伝えると、スリランカのチームは確実に責任を持てる量を提案し、アジアの他の国では見られないように自分たちができると思える量に責任を持った量を伝えてきたそうです。

スリランカは他のアジアと違い日本人と似ている感覚も多く、このエピソードはそれを代表するものでした。

感想

自分自身も今海外のチームに所属して、お客さんは日本人というある種マザーハウスの位置と似たような立場で仕事をしています。日本の当たり前は海外の当たり前ではないこと、日本人がどこか下に見てしまう人たちはとても高い技術を持っていたり、素晴らしい仕事をしていることをしっかりと伝えたいと思っていることなど共通した思いが沢山ありました。

山口さんが新しい製品を求めて知らない土地でドラクエポケモンのゲームを進めていくような感覚でその土地で聞き込みをし人を見つけて情報を探してという方法も、まさに自分が体験してきたような部分もあり、事例が少ない情報が無い中で聞き込み周り情報を整理して新しい人に出会うという体験が懐かしく思います。

最後にかかれていた文章もとても素晴らしく印象的でした。

結果を出す、何かを成し遂げることは、確かに大事だけれど、一番大事ではないということ。逆に言うと、結果がだめでも、もし、心から誇りに思えるプロセスを踏んできたと思うなら、大きく万歳をしたらいいじゃないかって、私はおもうようになった。

特に東京に居ると、効率が良い事が素晴らしい、沢山稼ぐことが素晴らしい、仕事で成功することが素晴らしいという価値観が刷り込まれていき、知らず知らず消耗していくという感覚があります。

熱量を持って素晴らしい時間を過ごせたと思える時間を人生の中で増やしていくことは少し忘れてしまっていた感覚であったので本書を読んで熱い気持ちが蘇るような素晴らしい本であるように思います。

ハウツーや株の本、ビジネス書みたいなものばかり読んで居た所にこういった本を読めて気分転換にもなりましたし、色んな種類の本を手にとって見るというのは大切なのだなと実感できました。

 

PS:情熱大陸の映像を見返してたらマザーハウスの初期製品デザインと今のデザインの変化に時代を感じました