ラグジュアリーブランドを次々に買収し、ルイ・ヴィトン、ヘネシー、リモア、エルメスなど世の中のラグジュアリーブランド全て傘下に入るのではという勢いで拡大するLVMHグループ、ベルナール・アルノーのインタビュー本を読みました。
長者番付でも首位になるなど資本主義の最長点に君臨するベルナール・アルノーは様々なヘイトを受けている側面もあると思います。
一時期インタビューをよく受けており、本書を読んだきっかけに様々なインタビューを聞いてみました。本の内容も含めてインタビューの話を聞いても知的な側面が見れます。
家業の建築業を継ぎ、またニューヨークでの滞在とビジネスの経験後に、ブサックを買収しフランスで最も大きな企業へと成長させていきます。
フランスの理系大学を卒業しているなど、ラグジュアリーブランドの社長と思えないバックグラウンドや論理建てたインタビューがとても興味深い内容でした。
📒 Summary + Notes | まとめノート
LVMHの始まり
ベルナール・アルノーはフランスのルーノと呼ばれる地方出身であり、理工系大学を卒業します。理工系大学時代は経済学のジュラールウォルムの授業を受けるなどしていました。卒業後すぐに家業である従業員1000人ほどの建築業を継ぎ25歳の時に社長になります。
アメリカに言った時にタクシーで知っているフランス人はと尋ねると、ディオールなら知っていると言われるなどフランス人としてのアイデンティティやラグジュアリーブランドへの興味は当時から持っていたと言います。
このインタビューの15年前に高級ブランド市場は小規模で認知度も低く株価も低い状態であり、タイミングもあったことでディオールが傘下に連ねるブサックの買収へと動き出します。当時ラザール銀行のアントワーヌベルンハイム氏が出資することが決まると周りの出資者も登場し買収が実現しました。
ディオールの持つ伝統やブランド力、イメージには魔力にも感じる魅力があったそうで、当時アメリカがラルフローレンやカルバンクラインなど新しいブランドを作り出していく姿にも影響を受けていたこともありブランドのイメージや能力に惹かれます。
単一ブランドでは中小企業であり、安定性も少なかったラグジュアリー産業のグループ化の波もあり、グループも大きくなっていきます。
興味深かったのはインターネットの台頭にいち早く目をつけ、インターネットを使った販売やブランドイメージの創造にも早い段階で投資をしていたのはベルナール・アルノーが理系だった事もあるのでしょうか。
また、面白い内容にフランス人としてのアイデンティティにアメリカで住んだこともあるアメリカ人的な視点も持ち合わせている事で、フランス人の持つ希望的観測重視の側面よりもアメリカ人のように現実主義的な側面に言及したり、アメリカ資本主義の四半期決算システムによる長期視点の欠落にもコメントしている部分はとても面白いものでした。
ブサック買収時は不採算部門も多くあり資金流出の早期対応が急務になりました。当時のLVMHはシュヴィリエとラミカエと呼ばれる二人が対立し経営方針もバラバラ、ヴィトン一族の殆どはこの混乱時に株価を売却し、後に大きく成長する資産を手放しました。ヘネシー一族は一方で株を維持し株価上昇の恩恵を受けます。ブサックにLVMHの買収という大型案件を2つを実現します。
ベルナール・アルノーのインタビューでも語られていますが、若いクリエーターが情熱的な創造をして、価値を生み出し、その製品を世界中にある販売網で販売するというストラクチャーが現実のものとなっていきます。
LVMHのブランド戦略
ベルナール・アルノーはブランド名を変える事もできましたが、既にあるブランドの価値を大事に考えます。高品質、創造性、ブランド・イメージ、企業精神、最高を目指す意欲の5つを柱にブランドを作ります。
ルイ・ヴィトンは高品質の維持をしてきました。自社工場で製造し、フランスに位置する手工業的な製造部門により生産されます。フランス国内の職人を守り、彼らに高給を与えられるように育てる環境も整えました。マーク・ジェイコブスにヴィトンのプレタポルテを依頼したり、ディオールの居ないブランドにジョン・ガリアーノをデザイナーとして雇う事を実施しました。
ブランドビジネスにおける創造性はマーケティングに優先します。経営意識が先行すると満足な成果は得られません。そのため我々は、マーク・ジェイコブス、ジョン・ガリアーノ、アレクサンダーマックィーンといった強烈な個性を選びました。
LVMHが育てたデザイナーはとても個性が強く、多くの批評を受けるものもありますが、その創造性を発揮できる環境を会社として持っていたということがとても素晴らしく思います。若手のクリエーターを育て、常に向上心を持つという企業としての精神が可能にしたことでした。
ラクロワはベルナール・アルノーがLVMHを所有した後に開始されたブランドですが現在ではとても安定してきて多くのクリエイションを行っています。
イタリアも同様に伝統的なブランドがあり、グッチに資本提携をしていたり、インタビュー当時にプラダの提携やフェンディへの出資なども語られています。
収益性について、一番優秀なものはヴィトンで、商品稼働率は45%であり、世界でも5本の指に入るほどのものであるようです。一方で稼働率が20%でも好調な収益なブランドもあります。
高級シャンパン市場もLVMHは多く抱えており、ドンペリ、クリュッグ、ヘネシーなどを傘下に置きます。高価格、希少価値が重要とされ、普及品のラインも持つものの高級ブランドとしての価値を大切にします。
本書でもインタビューでも再三語られるのはマーケティングや広告は、創造性のある製品の売上を押し上げるだけのもので、ベースには創造性があるという事がとても興味深いものでした。広告がサポートすることはあるけれども製品が良くなければ売れないという考えはとても印象的です。
ヨーロッパの伝統や美的感覚を意識する一方で、ブランドの名前を着飾った粗悪品が出回ったり、アメリカのような伝統に縛られる事を嫌いながらも、ブランドに魅力を感じている側面も併せ持つなどの地域毎に違いについて語る部分も面白いものがあります。
Q:革新的なデザイナーがきまって男性なのはなぜでしょうか?A:女性を愛するのが男性だからでしょう。デザイナーは感受性の鋭い両性具用の芸術家です。…偉大な画家もオーケストラの指揮者も男性が殆どですね。モードの世界に限った話ではなさそうです。
感想
職業柄もあり、ラグジュアリーやブランド、高級感という感覚に興味があり読みました。ベルナール・アルノーという人物が個性や感覚的な部分が強い人なのかと創造していましたが、全く異なる人物像である印象になりました。
理工系大学出身である中で経済学に興味を持ち受講していたり、合理性と非合理性両側面の重要性を語り、ピアノや芸術を愛する側面、家族との時間を大切にしているとのコメント。また若い創造性を大切にして、伝統の重要性を理解しつつ、向上心も重要と捉えて生み出し続ける事に価値を置く部分が現在のLVMHを作っているのだと思います。
本を読んでて思ったのは伝統やブランドというものの不思議さです。確かに品質というものが担保されているという感覚はありますが、ブランドの哲学など品質だけで語れない側面がとてつもなくあるように感じます。ベルナール・アルノー自身もディオールのブランドというものは唯一無二でそのブランド力に魅力を感じたと言っていました。ブランドを仕上げると言うことは時代や時の流れも大きく影響するでしょうし、芸術そのものに思います。
ピアノの音を美しいと思う価値観であったり、ザハの建築物の自由さのようなものまで、ある意味自動で価値に感じる物事ってとても不思議ですよね。
ユニクロの服もマルジェラの服も同じ布を身体の上に羽織るという行為なのに、布の価値が全く異なるものになるというのは不思議です。作業者もどちらも丁寧に縫製していても、ブランド代がのっかる事で作業コストが変わってくる。カメラマンもその時を切り取るだけではあるものの、誰が撮影したという価値が重要性を占めます。
その重要性に気がついたベルナール・アルノーが理工系大学出身で合理的な考えをしているものの、非合理的な物事を大事にし、フランス人でありながらもアメリカでの生活から伝統を重んじるヨーロッパ的な考えとアメリカ人的な新しいものを大切にしたり現実主義な側面を捉えたり。常に新しさや創造性を意識して仕事をするという価値基準などとても自身の生活に取り入れたい内容が多くある本でした。