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キーエンス 付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質 | 田尻望 (著) | 2023年書評81

最近キーエンスの本を立て続けに読んでいたのですが、またまたキーエンス本を読んでみました。著者は田尻さんで、Youtubeなどでよく見かけられます。本書は前回2冊とまた違い付加価値についてフォーカスを置いた内容になっており、考え方としてとても興味深いものでした。

logmi.jp

本書の最初に出てくるのは、コストはそのままで価格を20%アップできたとしたら…という話です。仮に営業利益率が5%の場合は利益は25%、5倍になります。一方で5%割引した場合は利益がゼロになってしまいます。

当たり前ではあるのですが、結構はっとさせられる内容で、値引き競争に巻き込まれない事がいかに大切かと付加価値をつけることの重要性を考える必要があります。

この不思議な付加価値の部分にフォーカスを当てたベルナール・アルノーの視座に驚きますし、そのような憧れや魔力のようなお金を出して良いと思わせる物事が気になりつつ過ごしています。

ohtanao.hatenablog.com

田尻さんはこれを感動こそ価値の根源と表現しているのも確かにと思う部分も多分にありました。

 

 

 

📒 Summary + Notes | まとめノート

価値について

例えば洗濯機の洗浄力が強いという商品があったとします。今の世の中ある一定レベルの洗浄力が普通の機能として備わっている状態では消費者は価値を感じず、①買わない②値下げ要求③他商品を買う、というようなアクションが考えられてしまいます。価値ではなくムダになってしまっている例です。

「なぜお客様はこの商品・サービスを買っているのか?」がスタート地点であると言います。

キーエンスでは企画・開発の段階で価値の部分を突き詰めます。

  • なぜお客様が買うのか?
  • 本当にその商品・機能は使われるのか?
  • 使われたら本当に役に立つのか?
  • どんな役に立つのか?

仮にここで間違った方向性になっていると、開発のコスト、人の時間、生産後の利益など多くのムダを生み出し、人の時間に関しては本書で「命の時間」をムダにすると表現しています。

これらのスタートから、ゴールには、

支払うお金 > 価値

という関係が成り立つものであること、つまりお金を支払う側が感謝するレベルのもの(感動するもの)になり幸せを運びます。

一般的に付加価値の考え方には控除法、加算法というものがあります。

控除法:付加価値=売上高ー外部購入価値(原材料費・運送費・外注加工費)

加算法:付加価値=経常利益+人件費+賃貸料+減価償却費+金融費用+租税公課

本書内ではこれらの会計的考え方よりも、価値を感じる主体であるお客様を中心に考えます。

価値はお客様が考えるもの、つまり売り手が判断してはいけないものです。大事なポイントは相手のニーズに答えているかになります。ニーズ以上のものはムダとなってしまうものです。

ニーズについて理解する上でポイントは「顕在ニーズ」「潜在ニーズ」です。顕在ニーズとはお客様が頭の中で理解しているものやある程度明確なものであるのに対して、潜在ニーズは表面化していないニーズを指します。キーエンスでは潜在ニーズを探求するよう求められているようです。

これにより結果として世界初・業界初のようなものづくりが慣例的に行われ顧客を感動させられるものが開発されています。田尻さんはこの感動に関してエイブラハムの感情の22段階で表し、より上のステージにいくことで感動を生み出すという事を前提としそれを目指すべきである事と表現しています。

その上で付加価値を纏め直すと3種類の付加価値があり最も重要視するのは感動価値です。

置換価値:今より便利に、今と同じ感情を味わえる価値

リスク軽減価値:つらい感情を感じるリスクを減らせる価値

感動価値:今より高い位置の感情を味わえる価値

付加価値を作り出す構造

人々は構造に行動を決めています。白線があれば内側に停車する、足跡マークがあればそこでレジ待ちをするなど、構造はあらゆるところで活用されています。キーエンスは付加価値を作るための構造化を最も強固に取り組んだ企業と言えるでしょう。

そんなキーエンスの思考法は①マーケット・イン型②高付加価値状態での商品の標準化③世界初・業界初の商品です。

また、企業側の個人の判断や解釈は、常に市場とずれているという視点を持っているという考えがあり、市場のお客様の困り事を常に解決するために顧客を知り続ける習慣があります。同じ業界でも複数の顧客と接する事ができ業界について顧客よりも詳しくなり、潜在ニーズを探す。さらに、業界の中で幅広く使えるような標準化を考えます。ここから、世界初・業界初という事で差別化を行う。

これらの範囲までも営業がカバーしており、ニーズ探索を実施します。

顧客に先にいる顧客

キーエンスが位置するBtoBのビジネスの中には「法人顧客が感じる価値」と「個人が感じる価値」があり切り分けが重要です。法人顧客と個人が感じる価値が違い、法人顧客の裏にある個人が感じる価値が潜在ニーズという場面もあるために個人が感じる価値を生み出すという発想が価値の起点となります。

法人顧客が感じる価値は大きく6つに区分されます。

  1. 生産性のアップ:生産性=付加価値金額/総労働時間の改善
  2. 財務の改善:支払いのタイミング(預かり金の増加)
  3. コストダウン:作業量の削減
  4. リスクの回避・軽減:まだ起こってはいないけど、将来起こるかもしれないことの回避
  5. CSRの向上:コストダウン、リスクの回避への関節影響と結びつける
  6. 付加価値のアップ:1〜5のかけ合わせ

付加価値を作り出す組織

キーエンスは①ニーズ探索:営業②価値創出:商品企画③商品実現:商品開発④価値展開:販売促進⑤価値実現:営業、という組織構造があります。

ニーズ探索が全ての土台になるのですが、営業は「業界の人は業界に詳しくない」を念頭に置き、お客様の成功に繋がる手助けを考える必要があります。

お客様の理解のためには①明確に②完全に③認識のずれなく、理解する事を常に考えなければいけません。

明確に:具体的に何かわかっている、なぜそれが重要かわかっている

完全に:すべてのニーズがわかっている、それらの優先順位がわかっている

認識のずれなく:まったく同じ絵がかける

これを実現するためには顧客の現場に訪問し、同じ光景を見て、観察し、体験するという事が重要で、顧客の視点を通した言葉だけで想像することから一歩踏み出す事が必要です。ニーズ探索は終わりが無く、わかっていると思った瞬間に2流となってしまうと言います。

商品を営業するとこに、主語が私達ではなく、お客様である事も重要です。顧客の生活や、顧客企業に起こる変化を示してあげることで、商品の特徴を語るだけで利点を想像してもらえる賢い顧客ではない人にも伝わるようにします。

値段設定において高価格をつけるために3つの質問があります。これらの質問を商品の企画、開発、販売段階でカバーできているか再三確認がされて商品開発が行われます。

  1. 本当にその付加価値は手に入るのか?
  2. 他ではできないのか?
  3. 自分でもできないのか?

付加価値の広げ方の章でははっとする部分がありました。「作業」と「仕事」を分けて考えるという視点です。作業とは高付加価値を生まないアウトソースしても良いような仕事。仕事とは高付加価値に結びつく仕事で誰にでもできないものです。

これまでのおさらいとしての全体像

  1. 営業がお客様の「潜在ニーズ」を捉える(ニーズ探索)
  2. 商品企画がそのニーズを叶える「世界初・業界初の商品」を企画する(価値創出)
  3. 商品開発が「世界初・業界初の商品」を作り上げる(商品実現)
  4. 販売促進がマーケティングを行う(価値展開)
  5. 営業が商品に反映された「付加価値」を提供する(価値実現)

感想

キーエンスに関わる本をいくつか読んでみました。今回の本は付加価値というポイントに対してマインドセットや理念の話が多く含まれ考え方で最も分かりやすい本だったと思います。

日本の産業において、付加価値という点は殆ど値下げ・価格競争に終始してしまっている部分が多いのですが、そこから抜け出すためには付加価値を高めるという方法があります。付加価値を高めなければ値下げせざるおえないという側面は商売をする上で認識して置くべきポイントでしょう。

キーエンスでは営業が一番のフォーカスではありますが、本書内でもありますようにバックオフィス業務など、どの立場の人でも同じような考えを持つ事で高付加価値人材になる事もできると言われています。ニーズ探索には終わりが無いという事からも分かるように、どの立場でもそこでの作業からプラスして仕事と区分されることをすること、必要とされる潜在ニーズを見つけ出し解決していく事ができるのだと思います。

ただ、こういった動機づけの背景に高いインセンティブ制度も忘れては行けないものだと思います。結果が個人レベルの給与に結びつくというシステムがあるからこそ頑張って潜在ニーズを探し出すということもあると思うので組織として頑張る動機づけを与える組織の制度も重要でしょう。方向性を間違った場合にはビッグモーターのような方向にも行くことがあると思いますが…。

一方、高価格なものにはブランドのラベルによる機能とは関わらない高付加価値の概念もあるでしょう。高機能をうたうブランドも存在しているとは思いますが、ブランド製品を手に入れる効用、ブランド製品を見に付けた時の効用が多くの価値を生み出しているというのも不思議なものに感じます。

3冊読んだキーエンス本の中でも付加価値について一番分かりやすく説明された良い本だったように思いました。