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ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと | 小山田育 (著), 渡邊デルーカ瞳 (著) | 2023年書評98

ニューヨークと京都に拠点を置くHI(NY)の小山田さんと渡邉さんによる本を読みました。

nybrandingbook.com

デザイン事務所のウェブページに過去のデザイン内容も纏められています。

hinydesign.com

 

📒 Summary + Notes | まとめノート

日本の強みと伝える事が苦手な文化

本書の中で語られる日本と世界との対比でいつも感じていたことを的確に書いている部分がありました。

世界のなかで日本の強みというのは技術力の高さ、商品の品質の高さであると言いますが、苦手な事は伝える事です。伝える事が苦手な理由に2つ上げられています。

  1. 自己主張や自己表現への不慣れ

    日本では成長段階で事項表現する機会が圧倒的に少なく、村社会で社会秩序を重んじる所や自己主張を美徳としない背景があります。自分らしさを持って自由に表現することに不慣れになっています。

  2. ハイコンテクストな日本語構造

    文化人類学エドワードTホールが語るハイコンテクストな言語文化とローコンテクストな言語文化の特徴は以下です。

    ハイコンテクスト(日本語など)

    • 重要な情報でも言葉に表現されないことがある
    • 曖昧な表現が多い
    • 論理的でなくても柔軟な解釈が許される
    • 多くを語らなくて良い
    • 感情的に意思決定される

    ローコンテクスト(英語など)

    • 必要な情報がすべて言葉で表現されている
    • 直感的でわかりやすい表現をする
    • 論理的で正確な解釈が求められる
    • 沈黙は評価されず、より多く話すことで評価される
    • 論理的に意思決定される

    これらの言語文化の最も大きな違いは、話し手/聞き手、または聞き手/読み手のどちらに理解の責任があるか、ということです。

    ローコンテクストな言語は話し手が正確に明確に伝える事が求められるものであり、伝わるということは相手が正確に理解することです。伝わらない場合は発信者側に能力が無いとされます。

    一方で、ハイコンテクストな言語は行間を読むというように伝わらない場合は聞き手/読み手の責任であり、伝える側が伝える努力をしない文化です。

これはグローバルなメンバーで仕事をする時にとても感じることであり、極端な話ではありますが相手が小学生でも実行できるレベルで説明して簡単な伝え方をする事も少なくない一方で、日本の企業とのコミュニケーションをする時はふわっとした要求であり、依頼主が思っていないアウトプットであった時に「もっと汲み取ってやってくれよ」というような状況を見かけます。

背中を見て育てなどの職人文化などまさにそのものだと思います。

情緒的な価値を伝えるために

サステイナブルが話題になるなど(個人的にはまだ強く思わないですが)ブランドイメージの重要性が日々増しており、実質価値とは別に情緒的価値(デザイン、ストーリー、ビジョン、ミッションなど)を伝える事が重要になってきております。

人の性質として、耳で聞いた内容は3日後に記憶している割合は10%ほどである一方で、視覚で得た情報は35%程度記憶しているために、ビジュアルでのコミュニケーションはとても重要です。

ブランドイメージを伝えるためには、視覚的な情報が大事になりその視覚的情報を作り上げるためには適切なチーム、プロセスが必要になり、本書の後半ではブランド、システム構築のフローが紹介されています。

ブランド・システム構築

ブランド・システム構築でのステップを6段階に分けて紹介されています。

Step1 ヒアリング・リサーチ分析

企業、商品がもつよさを現代のニーズに合わせて整理していくプロセスになります。特に重要とされてきている4つの価値観に、社会貢献の要素、環境への優しさ、企業理念、感情を引き出すことが上げられています。

感情の引き出しはまさに情緒的なポイントであり、ストーリーテリングやナラティブなど物語性ということで創業者の考えをヒアリングしながら整理する事が大事でしょうか。

Step2 ブランドDNA

ブランドDNA部分はHI(NY)の核となる考えにあるように思いました。下記には14分類をメモ程度に残しておきますが、HI(NY)のブログにていくつか紹介されていたりするのでブログ記事を見てみるのもおすすめです。

www.hitomiwatanabe.com

  1. ブランドDNAの整理では14のポイントを確認します。
  2. ターゲットオーディエンス
  3. プロダクトベネフィット
  4. ブランド属性とブランド価値
  5. ブランドパーソナリティ
  6. ブランドビジョン
  7. ブランドプロポジション
  8. 市場での位置づけ
  9. ブランドプロミス
  10. ブランド構築
  11. ブランドエクスペリエンス
  12. トーンオブボイス
  13. ブランド名称
  14. ブランドストーリー
  15. タグライン

Step3 ビジュアルアイデンティティ

ビジュアルデザインの部分になり、ビジュアルアイデンティティ(VI)という説明の仕方を通して6つの骨格から纏められています。

  1. ロゴ
  2. カラーパレット
  3. タイポグラフィ
  4. グラフィックエレメント
  5. イメージムードーボード
  6. ロゴアプリケーション

Step4 ブランドコラテラルの構築

ショップカードや名刺、封筒などのブランドを取り巻く周りの物理的なデザインやCMや概念的なイメージを作り上げる部分です。わかりやすい部分ではパッケージデザインなどでしょうか。

Step5 インナーブランディング

社内倫理やガバナンス的なもの

Step6 ブランドマネジメント

ブランド価値づくりの部分。UBERのブランド回復についてなどが紹介されています。

HI(NY)のブログ記事

仕事で使用しているオンラインツール

www.hitomiwatanabe.com

www.hitomiwatanabe.com

www.hitomiwatanabe.com

 

感想

ブランドの価値を整理し見直して、さらには作り上げる所までを導くブランディングについて詳しく解説されている本でした。日本と海外で仕事をしていくという点でうなずける部分が多く、海外に市場を見つけていかなければいけない日本企業にとっての助け舟となる内容が多くあったのでは無いでしょうか。

個人的な感覚では、日本はかなり特殊な島国文化を抱えており歴史的な背景からも外国統治が殆どなく単一民族として独特な文化を持っています。伝える事が苦手な点の説明は本書の内容はかなり的確に解説されており、日本語での受け取り手に委ねられる内容理解は仕事をする上で弊害となる部分が多く思いますし、海外メンバーがよく言う日本の独特の商文化を感じられます。

日本のコミュニケーションで危ういと思うのは、責任を取る上層部の説明がかなり曖昧であり責任の所在を部下に押し付けるために的確な指示をしない文化が強くあるように思います。顧客への要求も同様で明確な指示ではなく、意図を伝えその意図を実現するために良きに計らってください(だけども期間とコストは厳守で)というスタイルは多く見られます。

ブランディングの大切さや手順に関して詳しく解説されておりブランディングの骨格を理解していくのにもとても良い本に思いました。骨格の理解からそれぞれを実現していくクリエイションの部分については別で勉強する必要はありますが、HY(NY)の仕事を通じてプロの仕事を垣間見れるのも面白い部分でした。

日本市場での顧客獲得に向けた本でもあるように思いますがこういったとても良い本であると宣伝効果も高そうに思います。

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