以前読んだグレーバー本のマダガスカルの話を知り興味を持ちマダガスカルの文化探索を目的に読んでみました。内容は思ったものと違ったのと、また贈与論についても明るくなかったためにあまり詳しく理解はできなかったものの、マダガスカルの埋葬文化からその土地について少し知ることができました。
知識不足で残念だったのはマルセル・モースの贈与論について全く読んだことがなく、著者が言う「わたしにとってフェティッシュのようなテクストである」の意味が分からずじまいでした。
そのような翻訳過程を経たからこそ分かったことであるが、モースの原典引用や原典参照にはおびただしい不備がある。おそらくはたんなる誤記や誤転記や校正ミスに類すると思われるごく軽微なものを別にしても、原典の文脈の取り違えや、原典の解釈の違いや、さらには過剰解釈が多々あるのである。「学術論文」としての精密さなり完成度なりを問題とするかぎり、この点で「贈与論」というテクストは問題含みのテクストであると考えざるをえなかった
ただこの間違いの中には意図的なものがあるのではという著者の解釈はどこか、マルクスの原文を読み解き解釈を増やしていく斎藤幸平さんの本と似たようなものを感じます。
モースの贈与論をいつか読んでみたいと思っていたので近いうちに手に取りたいと思います。
本書で解釈を仕切れていない部分が多々ありますがそれを加味して書評見ていただければと思います。
📒 Summary + Notes | まとめノート
モースの贈与論
モースの贈与論について読んだことがなく本書にある部分をざっと読んだ中でまとめていきたいと思います。
モースは1872年から1950年まで生きたひとであり、社会主義やマルクス主義が勢いを増していた時代に生きます。グレーバーも大きな影響を受けており、グレーバーの著書でも触れられていたと思います。
モースの贈与論のキーワードに、「全体的な」「贈与」「互酬関係」などがあります。本書を読んでも中々理解できずモースの贈与論解釈で学問や研究会があるほどそれぞれの主張などあるものと理解しました。
http://ethic.econ.osaka-u.ac.jp/seminar/25/DocumentMorinaga.pdf
今回のタイトルにある聖物について譲りえぬものと表現されており(モースの文献にも交換し得ないものなどの表現があるようです)、本書ではマダガスカルの文化、慣行からこの聖物についての話を深めていくものだと理解しました。
マダガスカルの文化
本書で題材に挙げられている行事がマダガスカルのファマディアナと呼ばれるものです。
死者の身体を掘り起こして布を交換するもののようなのですが、その中で集団墓地から個人墓地へ移動するようなことがあるようで、家族の墓だけでまとめるような慣行があります。
この文化のことを聖物として贈与と譲りえぬものについて考えています。(がちょっとまとめられるほど理解できなかったです。。)
感想
贈与論もよくわからない知識背景で、マダガスカルの遺体掘り起こし文化から贈与論と結びつけて論考が始まり、結局よくわからないままで一冊読み通しましたが「うう。。わからない」という感じでした。
読んだあとにファマディアナについて調べたら真剣に贈与論と結びつける慣行というよりも、日本で言う所の盆踊りのように、ちょっとしたお祭り行事みたいに見えます。
斎藤幸平さんがマルクス主義に関して語る時にも感じたのですが、本来言われていたことから理解が変化しつつ、様々なひとが違った解釈をし学問分野として成り立つような話がモースの贈与論にも見られました。
少し聖書にも似たようなことが感じられ、原文から宗教が派生し、会派が派生しという受け取り方が主流のものから枝分かれするような類の感覚が見られます。
そもそもモースの贈与論の話とモースの居たフランスから大きく離れたマダガスカルの地にある慣行を結びつけて論じたのかがぱっと理解できず、今日本で徳島や高円寺で阿波おどりするひとたちがなにか歴史を感じて踊っているのか、郡上で夜中踊り通すひとがなにか思いを馳せているのかと言うとそんなひとは少ないんじゃないかなと感じます。
冒頭に引用した著者が言うフェティッシュという表現もよく分からずChatGPTに違う表現を聞いてみたらよくわかりやすくなりました。
別の表現に言い換えると: 「わたしにとって抗いがたい魅力を持つテクストである」 「理屈抜きに惹かれてしまう特別な作品だ」 「無性に惹かれてしまうようなテクストだ」 「執着してしまうほど魅力的な文章だ」
マダガスカルのフィールドワーク部分については結構面白い内容が多く「隠れて飲み食いするものに、死を!」のようなフレーズも印象的でした。同じようなことが地方のお祭りとかにも感じられて、歴史を知ると結構興味深い話がそこら中にあると最近強く思ってきました。物事の歴史について知るということを今年の後半はテーマにしたいと思います。
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