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となりの陰謀論 | 烏谷 昌幸 (著) | 2025年書評59

最近では7月5日の予言がノストラダムスの予言ばりに話題になっています。2000年問題もさながらかなり話題になったのにもかかわらず何も変わらない一日となっていた事が思い出されます。

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トランプ大統領の手法として、どこかに悪者を作り出しそれに対して聴衆を高揚させて人々のアテンションを得る事が多く、今までホワイトハウス襲撃や不正選挙への暴動的な活動がありました。

本書内でも大いに参考文献として扱われているヒルビリー・エレジーに描かれる白人労働階級の苦しみなどの背景もあります。

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その苦しみの中で、今までの政治的なエリート階級とは異なる話し方、力強い発言などに希望を見出し人気を得ていきます。

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本書冒頭に書かれている陰謀論の背景にはあるという説明があります。

陰謀論を生み出し増殖させるのは、人間の中にある「この世界をシンプルに把握したい」という欲望と、何か大事なものが「奪われる」という感覚

自分の家族の中にゴリゴリの陰謀論思考者が居るのでそういった人たちの理解を含めて読んでみました。

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📒 Summary + Notes | まとめノート

陰謀論とは

物事を話す上で定義をするのはとても大事なことです。

日本の昔話で月の表面にうさぎのような形が見えた、木のくぼみが人間の顔に見えたなんて昔からよくあることで、たまたまになにか意味合いを結びつけて認識をする事があります。

「偶然の一致」をあたかも計算されていた物事、誰かが意図的に行ったものというように結びつける事があります。トランプ大統領襲撃事件においても、様々な奇跡的な偶然が積み重なって撮影されたものですが、その写真はアイコンとして、悪に立ち向かう正義のような印象を与えます。

陰謀論とは、出来事の原因を誰かの陰謀であると不確かな根拠をもとに決めつける考え方のこと

陰謀論が生まれる背景には、著者の仮説として世界をシンプルに解釈したいという欲望、なにか大事なものを奪われる感覚が陰謀論を生み出すと言います。

陰謀論スペクトラムという考えでは、陰謀論の中にも地球平面説、アポロ計画は捏造、9.11は爆発でのタワーが倒壊、など色々とグラデーションがあり、どの説をどのように信じているのかグラデーションを認識する事が大切という話もあります。

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本書で指摘されている、個人的に根源的な話に思うものは陰謀論の日常化です。今ではインターネットメディアの台頭により誰しもがいつでもどこでも陰謀論接触、または創造できるようになりました。

Qアノンは典型であり、もともとの成り立ちは掲示板で仮想物語で盛り上がるスレッドであり、誰しもがあたかも当事者であるふりをしながら秘密を暴露するというような創作物語がいつのまにか真に受ける人たちで溢れかえました。

A 4chan user named "Q Clearance Patriot" first appeared on the site's /pol/ board on October 28, 2017, posting in a thread titled "Calm Before the Storm",[1] a phrase Trump had previously used to describe a gathering of American military leaders he attended.[1] "The Storm" later became QAnon parlance for an imminent event in which thousands of alleged suspects would be arrested, imprisoned, and executed for being child-eating pedophiles.[12] The poster's username implied that they held Q clearance,[65][66] a United States Department of Energy security clearance required to access Top Secret information on nuclear weapons and materials.[67]

https://en.wikipedia.org/wiki/QAnon?utm_source=chatgpt.com#cite_note-nymag-2

よく語られるフリーメイソンも、今や友愛団体であり、一昔前は教育機関的役割を果たしてもいましたが、慈善活動や交流をするそこら中にある小さな団体です。

政治と陰謀論

本書の後半半分は陰謀論と政治の関わりです。あまり陰謀論と、と表現するよりは実態としては現在のアメリカで起きている国民感情と政治とのような話題ではありますが、本書の主題が陰謀論でもあり、少なからずトランプ人気と結びついていることを見ていきます。

アメリカは二大政党制なので、日本よりもシンプルな対立構造にあります。そこでイデオロギー的、つまりは保守かリベラルかの二項対立でそれぞれの層がどちらの政党を指示しているのかという調査を見ると、1994年までは傾向は微差だったものが2017年の調査では大きく民主党がリベラル、共和党が保守という考えに極端に分かれるようになりました。

アメリカの場合、メディアも政治色が強くどのメディアが共和党寄りであるか、民主党寄りの傾向があるのかなどもはっきりとあります。トランプ支持色が強いフォックスニュースなどは、ある意味他のメディアが陰謀論として考え報道するに足らないと思うようなトランプ大統領の発言などもすくい上げ報道し、自身が指示する政党に寄り添ったメディアを多く見る人々はさらに考えが加速します。

オバマ元大統領の出生がアメリカでは無いのでは?、不正選挙があった、などの疑惑を次々に挙げ、どれも明確に否定されている物事も、そのセンセーショナルな言及当初には報道され、その帰結は曖昧に扱われました。

また、オバマ元大統領のようなアイビーリーグの学位を2つ持つような超エリート階級であるキラキラ経歴を信用できない層も存在し、JDヴァンスの著書ヒルビリー・エレジーで描かかれるような人々はエリート層に対して嫌悪感を示します。

ナチスの政治戦略でもあった陰謀論ユダヤ人がドイツ人を破滅させようとしている)を盾にして人気を獲得したこともありましたが、実態はナチス党内でもその陰謀論を盲信している存在は少数派であり、ただし踏み絵的に使われて無関心層が声を挙げられませんでした。

本書の物語で興味深かったのは、共和党である政治家リズ・チェイニーが、同じ党であるにも関わらずトランプ大統領への批判をしたことです。結果として彼女の地域に共和党から刺客を送り込まれ敗れてしまいましたが、彼女は何も言わなければ当選できた状況にも関わらず声を挙げました。

弁解の余地のない者を擁護する共和党の同僚にこう言いたい。いつかドナルド・トランプがいなくなる日は来るが、あなたたちの不名誉は決して消えることはない。

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感想

陰謀論について様々な書籍から引用しつつ最近のアメリカ政治の傾向を陰謀論的話題を絡めて面白い内容でした。

Qアノンの発生が、掲示板に成り切り創作物語を綴ってみんなで楽しんでいたら違う国で激烈に指示して世界を救う・救わないのような議論が飛び交うのを見ると、行き過ぎたり信じすぎたりするのもなんだかなと思います。

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よくよく考えてみたらそんな世の中は単純では無いというのは家族や親族のやりとりや学校生活をしていたら気がつける事だとも思います。父親が家族外出面倒くさくて、子どもに外に出たら事故が起きるぞ気をつけろ、みたいな教えを半分冗談で言い出して子どもが不安に思い外出を控えて父親としては嬉しいなどとある種似たような話だと個人的には思います。

会社レベルや社会レベル、はたまた国を跨ぐと利害関係はより複雑に絡み合うために、たとえフリーメイソンのように一つの組織がすべてを支配するなんてより難しいですし、計画したようにならない事も気がつけるとおもいます。例えばタワマンの開発のために地主の了承をすべて取りきるなんてかなり何十年の活動、はたまた世代交代が起きてその利害関係が亡くなった時に起こったりするものです。また、タワマン住人や地域活動についても近所の掃除だけでも揉めたり利害関係を整理することが大変です。

陰謀論を信じ込む家族メンバーもとある国に対して日本を侵略しようとしているなどと言うのですが、私よりも英語も中国語もできず限られた日本語情報からどうやってその認識を増殖させたのか聞いてみるとあやふやな事ばかりです。知らなくて怖がったり、言語習得や現地訪問の努力をせずに信じ切る感覚は分からない事もないですが不思議にも思います。

先日アメリカ人の来日メンバーと1週間ほどずっと一緒に居るという時間があり、大統領周りの認識を聞いたのですが、事実白人労働階級で困難な生活環境に居るのは事実であり、共和党が寄り添う姿勢も見せていたりしますが結局はそういった政策を実施したことは無い、またはより高所得層が得をする政策に帰結する事ばかりだから、時間が経てば情勢は変わるだろうと言っていました。その反対意見として民主党オバマ批判をする同僚もいますし、周期的な揺り戻しだろうと言う人も居ます。

不満に悩まされるぐらいなら努力で解決する事に注力すべきというのを思い出させるものでした。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/3TdOQZJ それでもなぜ、トランプは支持されるのか: アメリ地殻変動の思想史 単行本 – 2024/7/10 会田 弘継 (著)
  2. https://amzn.to/45HzUud フリーメイソン ‐‐「秘密」を抱えた謎の結社 (角川oneテーマ21 B 131) 新書 – 2010/5/10 荒俣 宏 (著)
  3. https://amzn.to/4l3u1w2 記号の知/メディアの知: 日常生活批判のためのレッスン 単行本 – 2003/10/1 石田 英敬 (著)
  4. https://amzn.to/4enRaqA フラッシュモブズ ―儀礼と運動の交わるところ 単行本 – 2011/2/25 伊藤 昌亮 (著)
  5. https://amzn.to/3TNyF5n 陰謀論からの救出法 大切な人が「ウサギ穴」にはまったら 単行本 – 2024/9/11 ミック・ウェスト (著), ナカイサヤカ (翻訳)
  6. https://amzn.to/3Gef5MG パラノイア合衆国: アメリカ精神史の源流を追う 単行本(ソフトカバー) – 2025/1/21 ジェシー・ウォーカー (著), 鍛原 多惠子 (翻訳), 木澤 佐登志 (解説)
  7. https://amzn.to/3I5Of9Z メディアと感情の政治学 単行本 – 2020/11/30 カリン・ウォール=ヨルゲンセン (著), 三谷 文栄 (翻訳), 山腰 修三 (翻訳)
  8. https://amzn.to/445HAVW ヒルビリー・エレジー (光文社未来ライブラリー) 文庫 – 2022/4/12 J・D・ヴァンス (著), 関根光宏 (翻訳), 山田文 (翻訳)
  9. https://amzn.to/3G0a5eA アメリカの政党政治-建国から250年の軌跡 (中公新書 2611) 新書 – 2020/10/20 岡山 裕 (著)
  10. https://amzn.to/4nqmOI1 国家と神話 *1 (岩波文庫 青 673-6) 文庫 – 2021/7/19 カッシーラー (著), 熊野 純彦 (翻訳)
  11. https://amzn.to/448mC8X ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書) 新書 – 2017/2/4 金成 隆一 (著)
  12. https://amzn.to/46j2QZC 信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体 (朝日新書) 新書 – 2017/6/13 平 和博 (著)
  13. https://amzn.to/4ewf57o なぜ壁のシミが顔に見えるのか: パレイドリアとアニマシーの認知心理学 (越境する認知科学 10) 単行本 – 2023/9/12 日本認知科学会 (編集), 高橋 康介 (著)
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  15. https://amzn.to/4kfj7Ca ネット社会と民主主義 単行本 – 2021/11/18 辻 大介 (編集)
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  17. https://amzn.to/3TPBLWw 宗教生活の基本形態 上: オーストラリアにおけるトーテム体系 (ちくま学芸文庫 テ 10-1) 文庫 – 2014/9/10 エミール デュルケーム (著), ´Emile Durkheim (原名), 山崎 亮 (翻訳)
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  19. https://amzn.to/4emXU84 理念の国がきしむとき - オバマ・トランプ・バイデンとアメリカ 単行本 – 2023/4/6 中山 俊宏 (著)
  20. https://amzn.to/4nor6Q7 現代アメリカの陰謀論: 黙示録・秘密結社・ユダヤ人・異星人 単行本 – 2004/11/1 マイケル バーカン (著), Michael Barkun (原名), 林 和彦 (翻訳)
  21. https://amzn.to/4nqc3FR フリーメイソン 秘密結社の社会学 (小学館新書 は 8-2) 新書 – 2017/8/1 橋爪 大三郎 (著)
  22. https://amzn.to/4l6mWv1 Qを追う 陰謀論集団の正体 Kindle版 藤原 学思 (著)
  23. https://amzn.to/44ibVAR 自我論集 (ちくま学芸文庫 フ 4-1) 文庫 – 1996/6/1 ジークムント フロイト (著), 竹田 青嗣 (編集), Sigmund Freud (原名), 中山 元 (翻訳)
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  27. https://amzn.to/3I3aZYl 陰謀論入門: 誰が、なぜ信じるのか? 単行本 – 2022/4/28 ジョゼフ・E・ユージンスキ (著), 北村京子 (翻訳)
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  31. https://amzn.to/3HZCZfv 偽情報と独裁者: SNS時代の危機に立ち向かう 単行本(ソフトカバー) – 2023/4/25 マリア・レッサ (著), 竹田 円 (翻訳)
  32. https://amzn.to/3G4ulvA 陰謀論はなぜ生まれるのか:Qアノンとソーシャルメディア 単行本 – 2024/1/25 マイク・ロスチャイルド (著), 烏谷昌幸 (翻訳), 昇亜美子 (翻訳)
  33. https://amzn.to/4nqcgsD メディアが動かすアメリカ ――民主政治とジャーナリズム (ちくま新書) 新書 – 2020/9/9 渡辺 将人 (著)

 

 

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