日本の工芸を元気にする!
今日本で最も成功している工芸小売業といえば中川政七商店では無いでしょうか。
コロナ期に売上が落ちることはあるものの、2000年に約10億前後の売上が今では60億近くに登り、店舗数も大きく伸ばしています。
その背景には中川政七商店の後継ぎである中川淳さんの立て直し戦略によるもので、本書はその取組についてまとめられたものになります。
日本の工芸品の衰退は顕著なもので、安く生産性に優れた商品により伝統的な手間のかかる職人仕事の工芸品は時代から取り残されてきております。持続性の観点からも跡継ぎが居ない、OEM業も注文主に依存する仕事体型であり利益の希薄化などから失われゆくビジネスになりつつあります。
その土地の地の利を活かして育まれた産業が今やグローバル化の波に飲まれ、ノウハウは広がりどこでも生産できることや、高コスト体質の職人仕事、海外製品の流入や大量消費文化社会などもあり時代に適応しずらい産業であるように思います。
その中で、奈良の田舎にある中川政七商店は冒頭でもあるように売上を伸ばし店舗を増やし、販売チャネルも充実されて、時代に適応しながら工芸の文化を再発見している成功例といえるでしょうか。
📒 Summary + Notes | まとめノート
老舗の跡を継ぐ
中川淳さんは京都大学を卒業後富士通に入社し、大企業の事業について学びます。元々は父親から跡を継ぐことを進められたことも無く、就職もソニーか富士通を希望しその一つに入社。大学時代はサークルを立ち上げたことで①好きなことは本気で取り組めば楽しめること②後継者選びに失敗してはいけないことを学びます。(立ち上げたサークルは中川さんの卒業後数年で閉鎖)
富士通では大企業の組織形態では楽しみが見いだせなくなり中小企業への転職を考えた際に、跡継ぎの選択肢が生まれ頭を下げて戻ります。会社へ入ると大企業では当たり前の売れ筋商品の欠品が頻出していることや、在庫管理、事業計画なども無い体勢にギャップを受けつつも、任せられた遊中川の事業を担当します。
卸だけでは中々商品の魅力を伝えきれないということで、伊勢丹での出品チャンスを掴み玉川店へ出品を開始します。当時MDから2週間毎にフェイスを変えてくださいという伊勢丹側の要望に戸惑いながらも、店舗運営のノウハウを学び始めます。
新しいブランド作成にあたってはエモーショナルプログラムバイブルを参考にして、競合を含めブランドの価値観をマッピングして粋更というブランドのコンセプトを固めます。
本書で感じたことは様々なタイミングで良い出会いが多く、スタート時には岡本充智によるコンサルタントを朝のスタバで受けて中期経営計画の整備を進め、
展示会の店舗デザインは加藤麻希さんとの出会いによりディスプレイを作り上げました。
さらには水野学さんへメールを送り、結果継続的なコンサルティングを行ってもらうようになり、会社の強みなどを活かした事業展開へ結びつきます。
組織が大きくなるにつれてビジョンの部分を明確にしないと社員にも戸惑いがあるとし、こころばという社是のようなものを揃えます。
事業展開・ビジョンについて
こころばが整理され、水野学さんとの仕事が始まると、店舗出店も増え始め良いサイクルがめぐります。工芸を元気にするために、コンサル業も開始するにあたり日経BPへのコラムを書き宣伝を始めます。
新社屋は建築家の吉村氏か携わり思いを体現します。社員からの声で「寒い所で仕事したくない」と言う事で断熱効果の高い社屋となったことも嬉しかったそうです。
コンサル依頼の第一号は波佐見焼の産地のマルヒロ。本書で取り上げている時期はマルヒロ2代目の馬場さんがやる気が無さそうでありながらもコンサルを通じて人が集まる映画間のような場を作りたい、ということが書かれております。
2021年ついに波佐見に無料開放するHIROPPAを開始。本を読んだ後にこの記事を見つけてこみ上げるものがありました。
大日本市という工芸を取り扱う展示会、ECサイトもはじめ工芸の業界全体への影響度も強めていきます。
読んでいて面白かった点の一つに、OEM会社が誇りを持てるように、どこのアトリエ、どこの会社で作られているのかを刻印したり販売時に表示したりすることもしているそうです。この考え方はコーヒー業界で言う所のスペシャリティコーヒーの考え方に近いような気もします。農園が公開されて販売されることで農園側も対価を受け質を上げる好循環が生まれます。
中川政七商店では利益率を10%が目安になっており、20%になればどこかで誰かが適性な利益を確保できていない部分があるという指標を持っているそうです。
水野学さんと一緒にTHE株式会社もはじめ、最初に大規模に型代を投じたグラスもヒットしました。
本当に好きなものや強い思いを込めたものをつくって提供すれば、それに共感して選んでくれる人が必ず居るために、その思いを伝える場もインターネットを通じて作り上げてきました。
日本市のプロジェクトにまつわる話にて土産の由来について書かれていた部分も面白く、元々は伊勢参りの宮笥にあったと言われる話があるらしく、伊勢まで行くのに中々お金も時間もかかるために行けない人が持ち合って費用を出しあって代表者が伊勢へ行き、宮笥と呼ばれる御札を貼る板を持ち帰ったと言われているそうです。
ポーター賞、日本イノベーター賞を獲得するなどすることで認知度も格段に上がり地元の人たちだけでなく、全国から優秀な人材が入社を希望してくれることとなります。本書の始まりに上場取りやめの物語から始まるのですが、その理由は優秀な人材が入ってくれるようになったためであり、上場してコーポレート・ガバナンスに基づいた意思決定になると直感や思い切ったこともできないため上場の準備はしたものの取りやめになりました。
その時父親が上場するよう毎日説得する電話をしてきたようですが、何回も説明して断った話も面白かったです。
*小話
本書にかかれているさんちと呼ばれるウェブページがあるのですが、同アドレスは結婚相談所の元社員が教える恋愛ノウハウという本を読んだ人もびっくりな現象が起きているので「さんち」は中川政七商店のウェブページに統合されたなどどこかに書いてあると良い気がしました。。
「会社を潰そうがどうしようがおまえの勝手や。好きにやればいい。もし潰れたら笑ってやるだけや。ただ1つだけ伝えておきたいことがある。**何ものにもとらわれるな。**おまえは麻というものを大切に思っているが、それもどうでもいい。商売と続けることを第一に考えろ」
感想
昨年奈良に行き、中川政七商店の店舗やOcasiの店舗を訪問して感動したのを覚えています。
中々厳しいことも多い工芸の世界であるとは思います。実際に少しの不便さもものづくりの進化の幅も狭い部分は実際にありますし、昔からしている製法を続ける必要性も薄れていることもあるかと思います。
ただし、産業として地域を支えたものが衰退し文化が消えつつあることはどうしようもない側面もある一方で、悲しい気持ち・寂しい気持ちもあります。
そんな中奈良の蔦屋書店を始め中川政七商店は力強く工芸を盛り上げて行き、時代に合わせたECや生産の背景を伝える役割をしていることに感謝したいです。
唯一Youtuberだけはそこまで再生数が回ってなかったために、その点は「北欧、暮らしの道具店」はすごいなと感じました。クラシコムは北欧にブランドイメージを持ってきているために、日本のものづくりを発信する中川政七商店に今後も期待したいですし、自身の消費活動も少し見直したいように思いました。
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