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お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた 予備知識のいらない経済新入門 | 田内学 (著) | 2023年書評#28

金融や経済の話は専門用語が飛び交いなんだか難しい。だから、専門家にまかせておけば良いなんて考える人は少なくないのでは無いでしょうか。本書は元ゴールドマン・サックスの田内学さんが、経済についてやさしくとっつきやすいように書いてくれている入門書になります。

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📒 Summary + Notes | まとめノート

お金には価値があるのか?

お金には価値があるというのは今では当たり前に思われています。何を買うにもお金が必要です。このことが本当にそうなのか、本書を読みすすめる中でその意味についてたどっていきます。

お金は従来は金との引換券としての役割がありました。金や銀で支払いは行われていましたが、それを毎回持ち歩いたり分割したりすることは難しいため引換券を用いて売り買いが行われます。経済が成長していくにつれて、金の発掘スピードをお金とのバランスが悪くなりある時から金により裏付けが必要でないよう法律を変更しました。

かと言って、日本銀行がいくらでも紙幣を発行できるのは良くないために国債保有することで紙幣を出回るようにします。

紙幣が大きく普及した理由に1873年に起きた地租改正があります。この変化により税金は円紙幣でしか納税できなくなり、紙幣の流通が加速しました。納税された紙幣は、公務員や国の公共事業などを通じて世に戻り、税金を払いたい人が紙幣を獲得する、というような紙幣の循環が起こります。

お金自体には価値はありませんが、お金を対価として払うことにより労働力を確保することができます。確保された労働力によりモノを作ることができるのです。

お金の効用

何かものを買う時にお金とモノを交換しますが、モノの価値はどのように決まるのでしょうか。モノの価値は「効用」、つまり買い手がどれだけ満足したかによります。効用は人によってまちまちであり、機能性が良いことであれば、デザインが良いことである人など様々です。

食事であれば、その時食べたいものを食べれば満足が高いですが、食べたくないものを食べても効用は低い。同じ価格を払っていても効用は異なります。ただし、効用は尺度として曖昧であるために、価格という尺度を用いられているのが現状です。価格を決めるのは効用の尺度を理解している自分自身にならないと中々幸せになれないでしょう。

つまりお金のむこうには誰かの幸せが効用を通じてあるわけです。

お金で解決できる社会問題

社会全体でお金は循環します。銀行へ預金したお金は誰かに貸され、利子をもらい銀行は儲けることができます。お金が流れることで労働が生まれ、ものが作り出されものによる効用を受けることができます。

社会が抱える問題の中で、お金で解決できるのは分配の問題だけです。つまりお金の流し方の強弱をつけることにより必要なものへお金を流入させ、不要とされるものへの流れを少なくします。

ここで面白かったのは、貿易黒字に対しての考え方です。貿易黒字とはつまりたくさん輸出して海外にモノを流してお金をもらうことです。こうするとモノの効用は海外の人たちが受けることになります。つまり海外の生活が効用を得ていることになり、豊かになっているのは海外の人たちということになります。

また、アメリカとの貿易を例に取ると、日本の企業が大量のドルを獲得しても、税金は円で支払うためにドルが滞留してしまい、ドルを交換せずにアメリカの銀行に預金していたりします。ただし、このドルがあるために将来の労働の貸しを得ており、困ったときの労働の手助けをしてもらえます。

労働がモノをつくる

モノがお金で作られるのではなく、労働がモノをつくります。ものが足りなくなるのは原因として①自然資源が足りない②労働が足りない③何かが生産を邪魔している④誰かがモノを独占している、の4つのパターンがあります。コロナでマスクが不足した時は④が顕著でしたし、オイルショックでは①と④が複合的に起こりました。

ドイツでのハイパーインフレが起きたのは、たくさんお金を刷り、諸外国の支払いに当てたために「労働の貸し」を作り出しました。諸外国に渡ったマルクによりドイツ人の労働が買われたわけです。外国のためにドイツ人が働き、国内の物資は減る一方でした。

お金で変えることができるのは、労働の分配とモノの分配を変えることだけで、お金を増やしても労働不足もモノ不足も根本的に解決しません。そういう意味では政府にできるのは困る人を変えることだけです。

本書のタイトルにもあるように、著者の考えはお金の向こう側には労働があります。日本が借金が多くても破綻しないのはまだ労働力があるからであり、働かない国が潰れると言います。

年金問題

日本の大きな問題となっているのは年金問題です。老後2000年問題が話題にもありました。著者はこの年金問題を椅子取りゲームと例を挙げています。椅子の数は限られているので、人が増えるほど座ることが難しくなり、また椅子の価値自体も上がってしまいます。

問題は椅子に座れるようにお金を蓄えることではなくて、椅子の数を増やすことであると言います。問題はお金のむこう側にある働き手の数が減っていることにあります。

社会全体、家族、個人などの規模の区切りにより解決の方法は変わってきます。個人レベルであればお金をよりためとくことがいいでしょうが、社会全体の規模の話であれば子供を育てやすい環境が必要であり、つまりは労働力の確保が必要です。

お金で解決できる問題は、その人の僕たちの範囲がとても個人レベルに狭い時であり、社会全体になるとお金で物事は解決できないと著者は言います。

感想

日経テレ東大学でも同様の内容を語られており、経済学の入門としてとても良い本であったように思いました。ゴールドマン・サックスで長い間活躍された田内さん。本書の結論としてもある子どもを増やして、その環境を整えるべきであるという内容を動画でも語られていました。

お金のむこうに働き手が居て、その働き手がなくなることが問題になるという視点をわかりやすくまとめられていました。

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