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最強のデータ分析組織 なぜ大阪ガスは成功したのか | 河本 薫 (著) | 2023年書評68

大阪ガスと言うばデータ分析で有名になっていますが、そのビジネスアナリシスセンター所長の河本薫さんによる成り立ちから会社での仕組み、また組織としての育ち方についてまとめられている本になります。

元々データ分析を志していないようなメンバーが集った中でどのように社内での信頼を勝ち取り、会社内外で実績を積んできたのか、ある種平凡なメンバーと思われるような組織体勢の中でどうやって結果を残してインパクトを与えてきたのか。スーパースターが集まるGAFAのような組織とはまた違う泥臭い試みやビジョナリーな視点が多くの組織の参考になるのではないでしょうか。

📒 Summary + Notes | まとめノート

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組織構成

大阪ガスのアナリシスセンターは2017年時点で10人の組織で、一人は子会社であるオージス総研からの出向者。大阪ガスのメンバーも数学専攻よりも化学や電気専攻であったメンバーが殆どなようです。分析ツールもR、MATLABSAS、SPPSなどまちまち。取り組んで来た課題も様々です。

  • ガスの需要予測
  • 価格弾力性分析
  • 市場価格リスク評価
  • 電力価格予測
  • 故障予知

本書で何回も語られる所にはオフィスに居るよりも現場へ出向き、機会を見つける力を重要視しており、その次に解く力使わせる力の3つの視点を持っているようです。データ分析は手段でありそれを実際に使ってもらい結果が出る所に価値を置いています。

業務改善がミッションであるため、現場へ行き問題を見つけ、それに対してどのような手法で改善ができるのかを組み立てていく流れです。事業所からの間接部門に組織として位置するために意思決定を合理的に後押しできる立場にもなります。

河本さんはアナリシスセンター立ち上げ後移動して計5人のメンバーとして活動しており当時はデータ分析をひたすら実施してオフィスに篭る組織文化であったようです。仕事にはスポンサーシップ制度を導入されており、事業部からお金をもらって分析を実施するために、提案して仕事をもらう形でした。

現場を知らない提案は的外れなことも多かったようで、立場的にも弱い状態。そこから本社へ移動となり事業部との距離が近くなったことで相談の数も増えたと言います。その後ビッグデータブームもあり社内外で結果も知れ渡ることで引き合いも増えたようです。

4種類の人の壁を越える

18年間の経験で苦労した乗り越える壁があったと言います。

  1. 事業部門と連携する壁

    データ分析の凄さよりも役に立つことが重要になります。無駄が無いのであれば効果は少ないでしょうし問題を見つける力は事業部門と連携しなければ育まれません。現場を知らないことで問題設定を誤ったり、現場担当者の仮説と照らし合わせて確認することができず、またいきなり降ってきたデータを受け入れるのも現場側では難しくなります。

    最終的に使ってもらって効果が出てなんぼの世界であり、使ってもらうためには現場に出向く必要がありました。

  2. 会社の経営に貢献する壁

    また、効果が見られないことにはデータ分析の意味を持ちませんし、改善効果が伝わらないと貢献度が表に出ません。間接的にサポートする立場でありながら、業務改革の効果を自分たちがしたものと伝えると事業部側からすると受け入れ難いものになります。貢献を伝えることも一つ重要なものとなりました。

  3. 分析組織のメンバーを育てる壁

    3つの力のうち解く力は座学や読書から技術習得できるものでありながら、見つける力、使わせる力はOJTによる習得になります。手段を磨くことよりも役立つことを最重要視して文化を育てることは前例の無い新しい組織では大きな壁でした。

  4. モチベーションを維持する壁

    初期の頃は外部コンサルに負けないような作り込んだ分析を作成して事業部へ持っていくと「参考になりました」という言葉のみで中な仕事にはならずモチベーション維持が大変だったと言います。便利屋としてしか働けない時期や、またマンネリ化に陥るなど新しい組織としてロールモデルが無い中で風土を育て上げる壁があったと言います。

事業部門から信頼と予算を勝ち取る

前日したようにデータ分析チームはスポンサーシップ制度で仕事を得ています。ただし、会社としての重要度が高いようなやるべきものに関しては予算が少なくても実行するなどの柔軟性があるようです。

予算獲得の際には、パワーポイントの提案がうまく行った後、パイロット分析を行いその結果をもとに予算決定が行われるという流れで、外部に委託するよりも確度の高い見積もりになります。

データ分析だけで終わらずに業務改善までを担当するのですが、最終的に使われないケースもあり、以下のパターンが多いようです。

  1. 意思決定に約立たない
  2. 意思決定には役立つが使えない
  3. 意思決定には使えるのに現場に拒否される

例えば的中率60%を目標にしていた所、現場レベルでは的中率60%の精度で外れたときに理由を説明できないブラックボックス的分析だと納得感が得られにくく、的中率80%程度あれば理由がなくても納得感がある、というような現場の声もありました。

現場に出向くことで人とデータ分析が補完しあった意思決定を作り込むということが信頼に繋がります。

また、負け戦になるようなデータ分析には手を出さないことも大事でした。

  1. 現場担当者の本気度が足りない
  2. どれだけ頑張っても得られる効果が小さい
  3. 素晴らしい予測をしても行動できない

成果をアピールする点で面白かったのは、日本人は外の声に弱く、社外で評価されれば、社内からも認知してもらえるという点に注目して、社外への情報発信も強化してようです。経済産業大臣賞やデータマネジメント大賞、また社内外での勉強会なども行い精力的に活躍を公開していました。

組織メンバーについて

河本さんが素晴らしいなと思う部分に組織のメンバーがデータサイエンティストしての解く力はもちろん、見つける力、使わせる力を育ませるようにし大阪ガス外でも活躍できるデータサイエンティストとして成長させることに責任を持っている点でした。

社外的に丸の内アナリティクスなどで活動を実施し、ロールモデルを自分で見つけるように促したりします。また海外のデータサイエンティストとも交流したり学会へ発表することも促しているようです。

また、事業部門自らできそうなデータ分析に関しては断り、各事業部門のデータ分析能力を助けるサポートもしているようです。

組織個人への貢献についても報告することを忘れずにバランスよく仕事をアサイン。個人のモチベーションが上がるような仕組みを作っていきました。

3つの無形財産

「ミッション」「カルチャー」「レピュテーション」は河本さんが18年間で気づいた無形財産となりました。

ミッションとは業務改善を起こすことであり、それは中身ではなくあくまで結果で判断するもの。データ分析は手段でしかならず現場と見つける力、使わせる力を駆使して業務改革を成功させる事がミッションです。印象的であったのは意思決定の判断そのものには立ち入らず意思決定の立場には事業部が自ら取らなければいけないという認識を崩さないことも重要でした。

カルチャーはミッションと重なる部分がありますが役に立つことであります。予算獲得も嬉しいことではありますが、現場が使えるようになったタイミングで褒めて評価するようにしているようです。データ分析の手法には新しいものがつきものであるため、勉強するカルチャーも広がり、必要になってから本を買うのではなく、必要そうなものはとりあえず買っておいてオフィスに置いて起き知識欲が刺激される環境を作っています。大学に行って勉強することも促されており、博士号を取得するメンバーも河本さん含め増えているようです。

プレゼンの重要性を浸透させたり、多様性の重視も考えられています。

レピュテーションは信頼です。社内での評判は築き上げるのには時間がかかりまた崩れるのは一瞬。社内でも支援するという姿勢を崩さずに全面に出ないように心がけているようです。

感想

データ分析といえば大阪ガスと言われるようになった背景にある考え方や仕事への姿勢に関して紹介されている組織論としてとても良い本でした。

こういう本を読むと良い組織で時間を過ごす重要性をとても感じますし、そういう組織で過ごした際の成長や楽しさ、充実感がとても高まるだろうなと羨ましく思います。

河本さんの背景や大阪ガスの組織としての文化など分からないためにどこまでこういった組織になる土台があったのかは気になりますが、組織レベルで影響力がある人が人格者であったりビジョナリーであることがどれほど大事であるのか感じれました。

直接の知り合いが内部に居るわけではないのでどこまでこの話が文化としてあるのかは気になる所ですが、社外的な評判などを見る限りはとてもうらやましいレベルです。こういった組織を作れる立場に自分自身が会社内で居るのか、またはそういった組織を求めて転職をするのか、自分の立場を考えさせられる本でした。

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