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衰退の法則 | 小城 武彦 (著) | 2024年書評62

企業の衰退に関して日本企業に特色があり、過去の破綻企業からヒアリング調査を行いまとめた本になります。読後の納得感は少し薄いものである理由には日本企業に絞って行い、日本的な価値観と紐づけながら結論を導くような形であり、結論ありきな側面が拭い切れなかった点は少しモヤッとする部分はあるものの、企業が衰退するサイクルというものがどのようなものであるのかという内容は国内外ともに当てはまるサイクルにあるように思うのでその点は勉強になる部分も多くありました。

特に一番疑問であったのはなぜ国内に絞っているのかという点ですが、自身で確認する中で特別日本企業のみ倒産が多いという情報はなく、日本はむしろ減少傾向であるために、読みながら日本の文化的な側面への帰着はあまり重要視せず読みました。

Global_Bankruptcy_Report_2022_jp 

📒 Summary + Notes | まとめノート

衰退企業のパターン

本書の最初に西浦氏の企業再生プロフェッショナルから4点指摘が引用されています。

  1. 見栄っ張り症候群
  2. 青い鳥症候群
  3. ゆでガエル症候群
  4. いつも他人のせい症候群

これらは組織の歯車が噛み合わなくなるケースといえるでしょうか。

またゴーン氏の見た日産の文化に対して適格なコメントもあります。

  1. 収益性志向の低さ
  2. ユーザーを考慮に入れない発想
  3. 危機感の欠如
  4. セクショナリズムの弊害
  5. ヴィジョンのなさ

ゴーン氏のコメントに「議論になりそうな問題を誰もが納得する形でオープンに話し合うことは敬遠され、解決の努力は舞台裏で進められた」「誰が責任者か、誰が何を担当しているのかが明確になっていない」「責任を転嫁したがある風潮」「現状を認めるのに抵抗する」という風潮が書かれています。

一橋大学の沼上氏らは日本の文化的側面から指摘しています。

  1. 過剰な和志向
  2. 経済合理性から離れた内向きの合意形成
  3. フリーライダー問題
  4. 経営リテラシー不足

これらから本書で分析をした視点は2つあります。

  • 衰退を認識しながら脱却できなかった日本企業の共通点はなにか
  • 特に日本企業に生じやすい性質を有しているか

分析のフレームワーク

分析のフレームワークは以下のになります。

衰退の法則―日本企業を蝕むサイレントキラーの正体

引用:https://amzn.to/3xK35hG

この図にある4つの要素を中心に破綻企業の分析が行われています。

  1. 経営陣の意思決定プロセス
  2. ミドルによる社内調整プロセス
  3. ミドルの出世条件・経営陣登用プロセス
  4. 経営陣の資質

サイクルが駆動する流れには、予定調和的色彩の強い意思決定があり、事前調整の重要がミドル層に求められ、政治色の強い出世条件があり、経営リテラシーの低い人達が上層部へと昇進する、というような流れです。

日系企業やうまく言っていない企業で勤めていた人からすると納得できるような内容であり、これらのサイクルが回ることで、事業環境の変化の感度が失われていき、意思決定は戦略性の低いものになり、組織の摩擦を嫌うことから構造改革ができないような組織となり盤石のサイクルとなっているというものです。

面白いエピソードには日産では他部署に対して書類のコピーすら見せない状態であり、部門横断的な仕事もしにくい状態というものがありました。

サイクルを加速させるもの

先述したサイクルが駆動する場合を非オーナー企業、オーナー企業でそれぞれまとめている内容も面白く、調和を重んじることや対立回避、オーナーへの忠誠心が求められる組織体系などが記載されています。

衰退の法則―日本企業を蝕むサイレントキラーの正体

引用:https://amzn.to/3La0jW9

感想

全体的に内容が真面目っぽい(学術チック)感じになっており何回か心が折れそうになりながらひとまず読み進めてみようと思い最後まで読み切りました。

日米どちらの企業にも所属経験があり、日本、アメリカ、中国、ドイツ、タイあたりでの仕事の様子を見たことがある経験から言うとどの地域でもうまく駆動していないケースは予定調和的な意思決定と意思決定者が経営知識乏しいケースが感じられます。

今は米系企業なのですが、利益率は口を酸っぱく言われ「OI(Operation Income)」がどうなんだ、OI低くするために在庫は定期的に整理しようというような話は散々言われますが、日系企業に居た時や取引先ではあまり聞かないことで、日系企業ですとかなり報告の仕方や報告の辻褄合わせに時間が割かれている印象です。

海外文化ですと、結果の解釈について柔軟性があるケースもありある種「仕方ない」「たまたま」のような判断も視野にあるのに対して、日系企業は「たまたま」なんて言えないという風潮が強くすべて教科書のように綺麗な一貫性のあるレポートがいつでも求められて、過去に正としていたことを訂正する機会も乏しく思います。

確かに和を重んじる単一民族環境であり、多様な視点を持ちづらい文化的背景はあるとは思いますが、ちょっと日本に限定せずに世界の企業で分析結果を見てみたい気もしました。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/3RXaWiL 文化と実践―心の本質的社会性を問う 単行本 – 2010/1/5 石黒 広昭 (著, 編集), 亀田 達也 (著, 編集), 山岸 俊男 (著), 石井 敬子 (著), 佐伯 胖 (著), 北山 忍 (著)
  2. https://amzn.to/3xNckxy 日米企業の経営比較: 戦略的環境適応の理論 ペーパーバック – 1983/1/1 加護野 忠男 (著)
  3. https://amzn.to/3W8NQZ0 自己と感情―文化心理学による問いかけ (認知科学モノグラフ 9) 単行本 – 1998/1/25 北山 忍 (著), 日本認知科学会 (編集)
  4. https://amzn.to/3WbO3L6 質的データ分析法―原理・方法・実践 単行本 – 2008/3/25 佐藤 郁哉 (著)
  5. https://amzn.to/4eUME2W 制度と文化: 組織を動かす見えない力 単行本 – 2004/9/1 佐藤 郁哉 (著), 山田 真茂留 (著)
  6. https://amzn.to/4cQYuJi 組織力 宿す、紡ぐ、磨く、繋ぐ (ちくま新書 842) 単行本 – 2010/5/8 高橋 伸夫 (著)
  7. https://amzn.to/46aFHa1 ダメになる会社企業はなぜ転落するのか? (ちくま新書 875) 新書 – 2010/11/10 高橋 伸夫 (著)
  8. https://amzn.to/3RWbhSU 文化を実験する: 社会行動の文化・制度的基盤 (フロンティア実験社会科学 7) 単行本 – 2014/10/31 山岸 俊男 (編集)
  9. https://amzn.to/3RXOohI 日本的経営の論理 単行本 – 1977/4/1 津田真澂 (著)
  10. https://amzn.to/3VTinIT 「集団主義」という錯覚―日本人論の思い違いとその由来 単行本 – 2008/6/25 高野 陽太郎 (著)
  11. https://amzn.to/4cv7VhZ 会社は頭から腐る―あなたの会社のよりよい未来のために「再生の修羅場からの提言」 単行本 – 2007/7/13 冨山 和彦 (著)
  12. https://amzn.to/4cHi4rG 企業再生プロフェッショナル 単行本 – 2009/12/1 西浦 裕二 (編集)
  13. https://amzn.to/3Yb7rt9 行為の経営学: 経営学における意図せざる結果の探究 単行本 – 2000/3/1 沼上 幹 (著)
  14. https://amzn.to/3RWbupa 菊と刀 (光文社古典新訳文庫 Cヘ 1-1) 文庫 – 2008/10/9 ルース ベネディクト (著), Ruth Benedict (原名), 角田 安正 (翻訳)
  15. https://amzn.to/4eUalYO 文化心理学 上: 心がつくる文化、文化がつくる心 (心理学の世界 専門編 9-1) 単行本 – 2010/12/1 増田 貴彦 (著), 山岸 俊男 (著)
  16. https://amzn.to/3S0ZS47 カルロス・ゴーン経営を語る 単行本 – 2003/9/1 カルロス ゴーン (著), フィリップ リエス (著), 高野 優 (翻訳)