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2020年書評#1 | エルメスに学ぶ職人気質のものづくり | エスプリ思考

今年に入ってから本は読むものの書評を全然かけておらず、COVID-19で家にいる時間も増えたこともあり、再開しようと思う。

趣味の写真・動画撮影などで勉強した内容など、昔勉強したのにまとめてないがゆえに忘れてしまうなどの記憶資産の消失なども悲しく感じたので、その時々に感じたことや思ったことも含め記録に残しておくことを大切にしたい。

ということで今回はエルメス本社副社長の齋藤峰明さんが語り川島蓉子さんが書いた本エスプリ思考の書評です。

エスプリ思考

エルメスのものづくりは職人重視であり、エスプリESPRITという言葉がぴったりである。

エスプリは、フランス語のespritの音写。英: spirit(スピリット)、独: Geist(ガイスト)などに相当。

精神、霊魂などの意味(例: Saint-Esprit は、キリスト教の「聖霊」の意。)の他、心のはたらき(知性、才気、ウィット[1]など)の意味もある。つまり、批評精神に富んだ軽妙洒脱で辛辣な言葉を当意即妙に述べる才のこと。その短い言葉は発言者、場所、時間から独立しうる。ラテン語の spiritus (空気・風の一吹き、息吹き) を語源とし、「湿気」を語源とするユーモアと違って、乾いた知的な営みで鋭い武器となる[2]。

物質(matièreマチエール )と対比される。マチエールと違って「エスプリ」と日本語で使用するときは「フランス的精神」といった風にフランス人の国民性を反映した精神をさす用例が多い。

 - Wikipedia

本書ではエルメス本社副社長である日本人の齋藤峰明さんが語るエルメスのものづくり精神についてまとめられている。

エルメスの文化を伝える

齋藤さんがエルメスに入ったのは92年、40歳のころ。5代目社長のジャン・ルイ・デュマ・エルメス から「言葉は現地の言葉で、社長は現地の人で」というマルチローカル主義や売上は相応で「エルメスの文化を伝えること」に重きを置く姿勢。職人一人ひとりが集まり企業とする集団であるという文化から、職人が働きやすい環境や充実した研修制度がある。

エルメスには社史がなく、唯一それに近しいものというと「エルメスの道」。馬に乗れる人であること。馬が描ける人であること。という条件のもと日本文化の奥深さに感銘を受けたデュマ氏が漫画という形で残すことを指示した本である。

エルメスの道 (中公文庫―コミック版)

エルメスの道 (中公文庫―コミック版)

  • 作者:竹宮 惠子
  • 発売日: 2000/01/01
  • メディア: 文庫
 

「社史を書くと、それで終わってしまう」という考えのもと社史を残さないようであるが、エルメスの道は本社の厳しいチェックや手直しを経て出版している。

エルメスはファミリービジネスであるが、利益追求を第一に行わずに、社員おおよそ9500人中4000人の職人を有し、職人が分業なく一つの商品を作り上げるものづくりを行っている。大量消費・大量生産やライセンスビジネスはしていない。

よりよく使用されるもの

「使ってはじめて価値を得る”実用品”」と最高品質のものを作る中でも実用品でありたいという思いが強くある。「上品で美しいものを手に入れる喜び、使い込む過程で味わえる豊かさ」を感じてほしいという思いは齋藤さんの思いとエルメスの思いが合致した所でもある。

この感覚は千住博さんの語る「人が絵画を観て本当に感動するのは、絵そのものをみるというより、美しい絵を描こうとして作家が闘った痕跡を感じる」という言葉を重ね合わせ、ものの所有に対してではなく、ものが持つ背景の造り手のこだわりや使用する中での思い入れなどを大切にして欲しいと。気仙沼ニッティングと少し重なるような文化を感じる。

ohtanao.hatenablog.com

ライバルは虎屋であると(別冊にまとめられている) 言い、その伝統を持ちながらも時代に沿い新しいことに恐れず飛び込む勇気を持つことが大切であるとエルメスの文化はいう。

老舗の流儀 虎屋とエルメス

老舗の流儀 虎屋とエルメス

 
 

フランスへ

齋藤さんは大きな目的もなく、「フランスへ渡ることが目的」と高校卒業後にフランスへ渡る。当時、グローバル社会以前の世界でありフランスに住む日本人は今よりも希少であった。当時の彼女の勧めもあり、現地の大学へ入学したものの大学が紛争のため休校となったことから三越トラベルでアルバイトを始める。

面接即採用となり、アルバイトでありながら社員並に働き、日本とフランスの架け橋となる様々な仕事を勧めていく。日本のものをフランスで売る、フランスのものを日本で売る。時には職人を日本から呼ぶことやシベリア鉄道でものの輸送を行った。

70〜80年代のことを考えると今の時代は改めてグローバル化にてものや情報のフラット化が進んだのだなあと実感する。

「足は地に、頭は宇宙に」 

エルメスに入社してから大きな仕事の一つに旗艦店の建設であった。建築家はレンゾ・ピアノ氏、設計はガラスブロックという難易度の高い建設工事を行う必要があった。一回2000万以上する日本の法規を満たすか耐震試験を行い、諦めかけた4回目でやっとクリア。にせものではなく本物で、とフィレンツェのガラス工場を知恵を絞って勧めて達成したものである。
「過去に誰かがやったことを踏襲するのに、まったく興味がわかない」という齋藤さんはデュマ氏が語った「足は地に、頭は宇宙に」という地に足をつけて自分の立ち位置をしっかりみきわめ、宇宙に向かって飛翔するような創造性を持てという言葉がとても好きと。
フランスの雑誌の取材でエレガンスについて尋ねられた所、①相手に対して配慮し、尊重するような洋服の着方②動いた時に洗練されていて美しい所作③ふるまい、が大事であると答え、「ラグジュアリーとは、エレガンスを備えた豊かな生活を営むことを意味する」としている。
面白いのは齋藤さんが個人として「日本で最も美しい村」連合を応援しているということ。
北海道の美瑛町など、素晴らしい地域資源を持ちながら過疎にある美しい町や村がフォーカスされた団体で、自然が綺麗であるだけでなく人間の営みと自然の調和が感じられるような町村が団体に名を連ねる。

新しい時代の価値観

8つの価値観が今後は大切としている。
①"流行で終わらない創造"に挑む②"生業"を貫いていく③"使う豊かさ"を提案する④"価値と価格のバランス"をとる⑤”精神的な価値やストーリー”を伝える⑥"インテリジェントな消費"に応える⑦ライフスタイルを提案する⑧定量の中で質を追求する
 
これはCOVID-19の流行での生産供給体制などからも感じた事と重なることが多く、やすさを求め多くの企業が中国や東南アジアの労働力を求めた事で自国での生産能力が足りない事からも、安易な生産地移転は見直されるのではないかと思う。
また、レジ袋廃止や有料化の動向などからも、より資源を大切にすること、よりよく使われる製品が大切にされる価値観の拡がりなどを感じる。
 
エスプリ思考: エルメス本社副社長、齋藤峰明が語る

 エスプリ思考: エルメス本社副社長、齋藤峰明が語る

  • 作者:川島 蓉子
  • 発売日: 2013/04/18
  • メディア: 単行本
 

エルメスがファミリー企業でありながら、理念のあるものづくりをしていることにとても感心し、改めて長く続く企業には理由があるのだなと言うことを感じた。

この本はどんな人におすすめか?

ファッション業界の方はもちろんだけれども、これからのものづくりの行き先について知りたい方にと思います。

グローバル化以前の百貨店が日本ー海外の文化交流の起点であったことや、今のようにインターネットで情報準備のできる時代出ない、冒険にも近い海外生活の話などもとてもおもしろかったので、海外生活・就職に興味がある人にも良いのではないでしょうか。

今後、お店という場所がインターネット上に移り変わり、その中でいかに素晴らしいものを日本中・世界中の人たちへ伝えられるかということの重要性が増してくるだろうし、新しい時代の価値感として挙げられた8項目はビジョナリーな視点かなと感じました。