ライフイズビューティフル

訪問記/書評/勉強日記(TOEIC930/IELTS6.0/HSK5級/Python)

2019年 書評#12 気仙沼ニッティング物語 いいものを編む会社 | 被災地で始まるスタートアップ

気仙沼ニッティングという会社をご存知でしょうか。

www.knitting.co.jp

震災のあと間もない時期に、大きな被害をおった気仙沼という土地を力づけようと始まった編み物の会社である。

セーターの値段は一着15万円近くにも及ぶのだが、創業当初から注文が殺到しており多くの人が数世代で着れる大切なものとして求めている服だ。

気仙沼ニッティング物語―いいものを編む会社―

気仙沼ニッティング物語―いいものを編む会社―

 

創業者は御手洗瑞子さんと言うブータン王国で首相フェローを努めた若い女性。

www.huffingtonpost.jp

www.youtube.com

始まりはほぼ日で知られる糸井重里さんの発案の元、2011年から開始されたプロジェクトであるが、8年という歳月が経ちとても立派な会社に成長し、気仙沼に雇用を生み出している。

www.1101.com

ほぼ日というパワフルなコンテンツな下支えや、東北での創業という社会的価値も非常に高く、また手編みというアナログでどこか温かみのある組み合わせがとてつもなく良く調和している。

三國万里子さんという手編み作家の活躍もとても重要な存在であったようで、ファーストモデルのMM01はまさしく三國さんのイニシャルから来ているとのこと。

www.1101.com

気仙沼という街は漁師町で、昔から家で手編みセーターを縫う習慣があったため、地域の人たちの多くが家族のセーターを手編みで作り愛用していた。

家庭用に作っていたものを15万円もする商品へと完成度を上げたのは手編み作家の三國万里子さんのものづくりとしての質の高さ、御手洗瑞子さんの誠実な向き合いの賜物である。

この物語を読んでいて思ったのは、小さな町の特性を生かした付加価値の高いものづくりはとても親和性が高いようであるということ。

買い手は今やインターネットを通じれば日本中・世界中に存在する。うまい仕組みをつくるのはとてつもなく難しいのだが、今回のケースでは糸井重里さんという存在をハブとして日本の多くの方がこの取組を知ることができ、小さな始まりからウォッチできるビジネスであった。

工場を持たないビジネスであったため、仮設住宅の家に持ち帰って編み物をすることや介護や子守を間の時間ですることもできるという柔軟度の高い仕組みも小さな街ならではの仕事体型である。

御手洗さんは気仙沼に移り住み、そこに住む家族に住まわせてもらうという形で溶け込んでいくと、編み手を探す際には工夫を凝らし人々が集まりやすい環境を作り出し、その集まった人の中から特に優れた編み手さんを最初のメンバーとして参加してもらう。

また、こういったサイズの街ならではの住んでいる人だいたい知りたいのような現象で近所のお声がけのように編み手さんを見つけ出す。

ほぼ日のレポートにも上がっているように手編みセーターの世界トップのアラン諸島へセーター見学旅行に行ったりというのも面白い試みで、報告のレポートがほぼ日のコンテンツとして読めるのはとても読者にとって嬉しいことである。

本の中で御手洗さんは気仙沼でビジネスをするメリット・デメリットを次のようにまとめる。

メリット

デメリット

1.周りの人に助けてもらえる

2.多くの人にとって未知な分、興味を持ってもらいやすい

3.賃料が安い

(店舗をつくるなど、新しいことにチャレンジしやすい)

4.地域の街の中で存在感を持ちやすい

1.大消費地から遠い?

(売るのが大変?)

2.人が少ない?

(働き手の確保が難しい?)

これって気仙沼以外にも多くの地方で再現可能な気がするんですよね。

デメリットに関してはインターネットを通じて購買活動ができる現代においてはメリットに比べてとても小さな比重のように思う。

気仙沼ニッティングというコンテンツを通じて、例えば東京に居る人がセーターを買うことで気仙沼に興味を持ち、編み手さんや仕事場を見てみたいと思い立ち寄ることも少なくないという。そうすると旅館業や観光業もいい循環を帯びてくるであろう。

最近訪問した瀬戸内の島々を旅する中でも似たようなことを感じた。本当に何も無く夕日がとても綺麗な土地に多くのアートというコンテンツを通じてたくさんの人が訪れ、それに合わせて民宿やレンタルビジネス、飲食業が増えてきている。さらに良いのはどのお店も都内で見るチェーン店では無くその土地の人や高松に住む人が運営するようなお店で、そこにしか無い空気を出している。これからの地方の良いロールモデルなのではないでしょうか。

 

この本に書かれているもう一方の事は震災の被災地であるということだ。メディアが訪れ悲しみにくれている様子を映し出したいという要望のものロケが行われ、場合によっては流された自宅前で悲しみにくれる姿を撮影させてほしいという要望があるようである。被災した本人達は悲しいのは間違い無いだろうが、とても力強く明るく行きている側面も強いとのこと。

メディアの特性上、よりストーリーのある映像を写したいという気持ちはわからなくも無いが、都内に住む被災地のことを知らないディレクターが部下に指示を出しそういった画を求めるというのは少し残念に思う。

被災したストーリーだけでなく、御手洗さんが楽しく驚いている地方の独特の習慣なども紹介されているのもとてもおもしろかった。その地域のことを深く理解して、真剣に知ろうとしているからこそ知った多くの発見と触れ合えることも気仙沼ニッティングの楽しみであろう。

 

似たように地方から高付加価値の商品というアイテムは水沢ダウンやスノーピーク、が思い浮かぶ。ヤッホーブルーイングなども地方と都市をうまくつなぐ会社の一つのように思う。

allterrain.descente.com

www.snowpeak.co.jp

yohobrewing.com

なんだ、地方に住むのってとても魅力的ではないか。そう思える本であった。

ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか

ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか

 
毎日着たい 編み地が主役のワンダーニット

毎日着たい 編み地が主役のワンダーニット