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訪問記/書評/勉強日記(TOEIC930/IELTS6.0/HSK5級/Python)

2020年書評#4 | 豊かな人生の見つけ方 | フィンランドで見つけた「学びのデザイン」

前回の書評も似たようなテーマだったのですが、今回の書評も大義で「より良い人生とは」ということについて書かれた内容のものになります。

 

ohtanao.hatenablog.com

 

東日本大震災の時もそうでしたが、今回の感染症COVID-19もあまりに無残で日々カウントされる死者数を眺め、あまりにそれが当たり前のようになる感覚と闘いながら日々過ごしています。

きっとこの出来事には人類の大きな試練で何かしら意味のあるものなんだろうと思い、気持ちの整理をしてより良い未来とは何であろうか考えています。

はじめに

ユタカナという「豊かな人生」をテーマに活動する中で、フィンランドの1年に及ぶフィールドワークをまとめたものがこの本になります。フィンランドといえば幸福度ランキングが世界でも高く、経済水準も高い、ある種日本がロールモデルにしやすい国です。

マリメッコイッタラなどを筆頭にデザインされた物事が多い印象です。

prtimes.jp

またフィンランドといえば、教育分野に置いても様々なロールモデルとされています。大学時代に教員免許を取る際にもフィンランド教育のケーススタディをよく行ったのですが、教員が修士を持ち高水準な文献が用意され、さらに裾野が広い教育費無料という生徒の受け入れ体制が魅力です。

kodomo-manabi-labo.net

生涯学習という概念が日本よりも一般的に受け入れられている印象で、社会人になってからの「学び」の場が豊富にあるのはオンライン教育が広まり始めている現代においても羨ましい限りです。

フィンランドにある「学び」の場を、ミュージアム、図書館、メディア、自然、人生の5分野に分けてまとめ、今この世の中に実在し(日本には少ないであろう)学びの場を理念も踏まえ紹介しているのがこの本になります。

 

ミュージアムと「学び」

日本の美術館というと、「○○美術館何十周年〜」「○○記念」のような見出しになりやすいタイトルと一緒にどこからか美術品を取り寄せ、お金を払って人混みの中回覧するようなイベントが多いような印象があります。海外の美術館などめぐる中で、市民でなくても入場料無料や寄付制度の場所が多く驚いたのを覚えています。

また、「見学する」だけが基本という印象のある美術館ですが、フィンランドの美術館は活動に「参加する」仕掛けがあるようです。

キアズマ美術館では18歳未満の子供は無料で入館でき、またアートに興味がある若いボランティアが展示の企画案を考えます。

kiasma.fi

キアズマバンと称した移動式美術館のキャラバンでは様々なワークショップが組まれ、めぐる土地土地でコンテンポラリーアートに接してもらう活動を行いました。

また、ラウマ美術館では「子どもと若者のため」の企画を行い、暴力、死、自然などをテーマにし若者世代へ問いかけをします。

また、デザインミュージアムでは、デザイン思考で有名なアアルト大学と協働してデザイン教育を行い「持続可能なデザイン」や「なぜ?」を考える機会をつくっています。

科学教育ではヘウレカ科学博物館にて参加型の展示や内発的動機づけを研究を進めながら実践する展示が行われています。日本の未来館などでもSC(サイエンスコミュニケーター)が同様の試みをしているのですが、この分野への理解や関心はフィンランドの方が進んでいるのかなと感じています。

note.com

ミュージアムという一番入り口になりやすい場を幅広い人達に触れてもらい、そこから興味を持った子供たちには参加し運営ができるというのは、とても魅力的に感じます。

 

図書館と「学び」

サンポラ図書館、ヘルシンキ市図書館、ラップランド図書館では単に本の貸し出しという役割を越えて、心地よい空間で多様な学びを提供することを目的に図書館として機能しているようです。

gigazine.net

megumi1966.cocolog-nifty.com

ヘルシンキ市図書館では未来の図書館を模索し、「永遠に未完成」をテーマに日々新しい取り組みが行われており、図書館でライブなどもその取組の一つになります。

日本でも多くは無いものの最近は、類似したマインドセットの図書館が増えてきたようにも感じます。武蔵野プレイスなどはとても気持ちの良い空間に加え、本来の機能の本の貸し出しがしやすいのはもちろん、イベントなども多く開かれ、幅広い市民が触れられる図書館としての成功例かと思います。

www.library.musashino.tokyo.jp

メディアと「学び」

2010年時点、東京で実施された調査によると、人々がメディアと触れる時間は1日約6時間程度と言われています。2020年現在ではきっとさらに延びていることでしょう。

wired.jp

この誰もが一日の活動時間の半分近くを占める時間触れているメディアというものを考える機会というものがフィンランドでは活発に行われているようです。

まず幅広く利用されているメディアといえば本です。その本の中でも教科書の売上はかなり多くを占めます。フィンランドの教科書作りといえばとても有名で、ハイクオリティな写真などを挿入し工夫された教科書作りがされています。教科書が誰でも作れるフィンランドだからこそ、自由度が高く競争力のある教科書作成が行われているのでしょう。日本の英語教育は残念な部分がとてもおおいですが、フィンランドでは英語を世界の友だちを知り合うための大切なツールと取られ、より生きた英語を学び、ヨーロッパトップレベルの英語教育水準を誇ります。

また、映像制作会社、映画、WEBなど幅広くかつ最新のコンテンツを利用した取り組みも盛んなようです。リアルな学校現場についてあまり詳しく無いのですが、かなり多くの割合で20年前と変わらない「黒板と版書スタイル」のような授業形態は多いのではないでしょうか。

イギリスで大学生活を送った際にディスカッション形式の授業形態で自分の意見を求められるスタイルには戸惑いましたが、正解ありきに語られるよりもより実践的に学べるというような授業は新鮮でした。

上海ではCOVID-19の影響によりオンライン授業への切り替えが大きく行われたのですが、日本で多く聞かないように感じるのは少し残念です。

自然と「学び」

自然は消費経済社会の永遠のテーマだと思うのですが、自然教育もフィンランドでは早くから行われています。東日本大震災の時に話題となった映画ですが、放射性廃棄物の処理に対する正しい理解を広めるという観点でとても興味深い映画「100,000年後の安全」を作成したのもフィンランドが舞台です。

www.uplink.co.jp
フィンランドの基礎教育の一種に「環境と自然」という授業があります。ネイチャートリップは教室の外で行われ、年に数回遠くへ足を運ぶそうです。

ヘルシンキ動物園では、多様な生物種への出会いを助け、Face to Faceで動物と合える場所を提供します。

都市レベルの建築教育としてArkkiという建築学校があり、多くの建築家を排出しています。

itojuku.or.jp

人生と「学び」

これだけ理想的な社会と思われるフィンランドにも、多くの問題はあるようです。2011年にオンブズマンが国連に提出した報告では、子供間の格差や飲酒開始年齢、若者の自殺率の高さなどがリストされています。

こういった問題に対してシチズンシップ教育が展開され、若者を責任感のある活動的な市民として育てようとする試みがあります。一つの例として、若者たちが市民の理解を得る署名、コースの設計、助成金の獲得など全て行い完成された「ヨーロッパ最高のスケートパーク」がヘルシンキ郊外に建てられた。(具体的なスケートパーク名は不記載:下の記事はそれらしい場所)

www.citylab.com

また差別を題材にオペラがつくられたり、性教育、障害者教育なども活発に行われている。成人教育も幅広く行われており、雇用のための教育だけでなく、成人してから趣味や教養を目的をした学びの場がある。

 

どんな人におすすめか

他国の教育の取り組みについて書かれている本は多くないため、教育現場に関わる人達にはフィンランドでの教育について知る良いかなと思います。

今では成功例として他国からケースステディの対象なとなるフィンランドも、一昔は決して教育が成功していると言われておらず、日本を含め様々な国から方法論を学んでいたようです。

実際にフィンランドで教育を受けたことが無いので、本に書かれている通り全てがビジョナリーに当事者意識の高い現場スタッフに支えられ活動されているのかは興味深い点ですが、少なくとも日本よりも英語能力に長け、PISAの結果が良いのは事実だと思います。(一方で盲目的に北欧教育を礼賛することに対して疑問も持つべきですが

どこか古風な教室教育スタイルが残る日本と、新しいものごとを活用しながら教育をするフィンランドを対比するためにはとても良い情報ソースだと思います。