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ビゴーが見た日本人 | 清水 勲 (著) | 2023年書評#3

日本の教科書によく出てくる明治期の風刺画の絵といえばビゴーの絵です。今回の本はビゴーのおいたちや日本での生活や日本風俗の数々の記録などカメラへの移行期前の貴重な記録として数多くの作品を残している100作品をまとめて清水勲さんによる解説が加えられたものになります。

背が小さく出っ歯で、偉い人は威張っているというようなステレオタイプな日本人像が描かれていることも多々あります。本書を読んでみたあとにビゴーを検索すると彼が撮影したとみられる日本人のポートレート写真も見つけ、ステレオタイプそのまんまな雰囲気の人々が写っているのも面白く思いました。

📒 Summary + Notes | まとめノート

ビゴーのおいたち

フランス人パリ生まれのビゴーは浮世絵に関心を持ち日本に興味を持ちます。様々な船を乗り継いで47日かけて日本まで到着すると、コネを元に安定で比較的高額である講師の仕事をします。

当時の在日外国人はほとんど指定の居住区に生活していましたが、ビゴーは日本人の生活をより細かく観察するために居住区には住まずに、日本人と同様な環境で生活しました。

細かい街の様子を描いたり、街を歩く人々に声をかけてはモデルになってもらうなど日本人観察をよくしており、本書内でも多くの作品が日本の文化に関わるようなものです。洋服を身にまとう日本人、ふんどし文化、便所座りの癖、各職業の特徴、混浴での様子や遊郭の話など、当時より一層珍しい外国人がこんなに踏み込めるのかと思うぐらい踏み込んだ日本の生活を描いております。

ビゴーの絵のスタイル

ビゴーの絵は風刺画がよく知られていますが、漫画のような雰囲気で生活習慣などを書き出すものが多くありました。港町で漁師を描いたり、魚を売りに行く女性を描いたり、鹿鳴館へ行くために洋服を着る姿を買いたりなど、西洋文化の取り入れという時代の転換点となる雰囲気が残されています。

江戸末期にはカメラがかなり貴重であったこともありこのような日々の記録としての絵は貴重であったとも感じ取れます。主な絵の販売先は在日外国人であったようなので、日本人にビゴーの絵がそこまで知られていなかったということもあるそうです。

また元々の興味であった浮世絵は時代として日本でほとんど残っておらず、来るのが遅かったという不運もありました。一方で、ビゴーの絵のスタイルは印象派などが台頭する西洋では時代遅れということでマッチしなかったそうです。

遊郭の様子や、混浴風呂で女性の背中を流す仕事をふんどし男がしていた様子、ふんどしだけで街を歩く人も少なくなかったことなど面白い記録でした。

西洋文化への憧れは当時からあったらしく色眼鏡や洋服、タバコ、日傘などをしてカッコつける様子。でもどこかカッコつけきらずふんどし姿に洋服みたいなアンバランスさもある滑稽な様子もあります。風刺も細かな観察の上に成り立っているようです。

有名なノルマントン号事件の絵もあり、当時の英国の言いなりになる様子や不平等条約の撤廃へ動き出す話なども、あこがれから平等への革命はどの時代も形を変えて起こっているのだと感じます。

インターネットにあるビゴー

アマゾンのレビューなど見ると賛否両論でステレオタイプの生みの親的な側面と日本風俗の記録者としての側面との意見が目立ちます。

インターネットで調べていると少し面白いものを見つけました。

commons.wikimedia.org

以下引用写真:

 

ビゴーの情報を探すとWilipediaにあるのは侍の姿をしたビゴー。もちろん外国人だなと認識できるのですが、160cm程度と当時の日本人と同程度の身長だったこともあり思いの外紛れていても違和感がなかったのかもしれません。日本語も流暢に操りモデルのお願いやはたまたナンパみたいなこともよくやっていたという話もありました。

カメラでの写真も多く残されており、日本兵や韓国の人たちの様子があります。

ウィキペディアの紹介もかなり詳細にされており、ビゴーの様子がわかる内容となっています。

ja.wikipedia.org

デジタル・アーカイブとしてビゴーの作品がまとめられていたりもしますので、本書の他にも作品を知る場ができております。

archive.org

以下引用作品:

Book page imageBook page image

archive.org

感想

風刺画のイメージしかなかったビゴーですが、日本の生活へ入り込み、日本人に紛れて、目にするものを記録している様子を知ることができました。

浮世絵から憧れた世界の生活が彼にどのように写っていたのかとても気になりますし、iPhoneもなく気軽に日々の記録ができない世の中でひたすらに絵を買いて、極東の地で生き延びるというのは尊敬します。

異国の地でフランス帰りの画家、黒田清輝と仲悪かったという話を知ると彼らの絵のスタイルの違いが何かその理由を感じさせるものがあります。美しく物事を記録するだけではなく、何か美しさ以外の情緒的なものを含めた作品をビゴーがかきあげたことはその現れなのかもしれないでしょう。

著者清水勲さんのビゴーに対する解説や考察も含めて味のある本でした。

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