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未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために― | ドミニク・チェン (著) | 2023年書評#2

元々はWebマガジン「考える人」にて「未来を思い出すために」と呼ばれる連載にかかれていた文章を集めたものが本書になります。昔はとくに雑誌の連載にある美しい言葉たちが好きで、ドミニク・チェンさんも非常に美しい言葉を使ってくれる心があたたまる本でした。

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📒 Summary + Notes | まとめノート

著者のおいたち

ドミニク・チェンという名前から理解できるように日本でない国籍を持つ著者は、戦争に翻弄されてきた母方の家族とベトナム戦争に巻き込まれた台湾の家族を持つ父方の家族の間に生まれます。父親は様々な国へ移り変わり、ベトナム語、英語、フランス語、日本語、中国語と多言語話すようになり、フランス政府の仕事に就くためにフランスへ帰化

著者もこの影響を受け、家・街・学校で異なる言語と触れるという体験をしている。漢字とアルファベットという表意文字表音文字との違いに面白さを感じた幼少期の体験が非常に面白い。

高校までの学校はフランス語、大学はアメリカにて英語、論文は英語で読み書きすることが多く、エッセイや小説は日本語やフランス語、哲学の文章はフランス語。大人になってから一番多く書いてきたのは日本語と思考や行動と慣れている言語が違うという話は日本に住んでいると中々体験できない感覚ではないでしょうか。

日本の武道や学校に多くある守破離という考え方と、フランスの学校生活にある弁証法の正反合という全く異なる価値観を幼い頃から体験します。フランスの学校で親がアメリカに転勤ということで単身高校生活しているとみるみる脱落し落第の危機にあったのだが、アメリカで1クラス5人の学校へ転向するとみるみる成績を取り戻したことから、環境による人の変化を自分自身で感じたそうです。

ゲームやデジタルとのふれあい

幼い頃から日本のゲームに没頭したことでバグやデバックの概念にも通じ始めます。高校では哲学を勉強するためにフランスの大学へ行くか、芸術を勉強するためにカリフォルニアの大学へ行くか悩み、哲学はアメリカでも勉強できると言うことでアメリカの大学へ進学。

Photoshopとプリンターを父親が買った事で日常の景色を標本化しコラージュをつくることに没頭するなどします。学生時代には芸術に没頭し、作りながら観て、模倣しながら実験する。という循環をすることで自分だけのパターンが生まれてくるというストーリーはとても興味深いものでした。

高速なインターネット回線の発達により、著作権侵害が顕在化したところからクリエイティブ・コモンズに関わるようになります。デジタルとアートを組み合わせた活動を数多くします。

東日本大震災を機にピクシーという写真共有サービス、タイプトレースというデジタルの筆跡を可視化する作品など作ります。

デジタルについても哲学的に歴史を学びフォン・ノイマンやガイア理論、など幅広い著者の知見や物事の解釈については感覚的な美しさも感じます。

共存・共生

本の話題は共存や共生などといった話題になります。娘を育てていくなかで、娘と視線をあわせて対話をしていくことから娘に多くの視座を教えてもらえることやモンゴルの遊牧民の共生の工夫、アフリカの民族に関する話まで幅広くかつ要点を捉えたストーリーがとても面白かった。

遺言を書くという体験において、

  • 自分のそれまでの人生についての漠然としたひとり語りは書かないこと。
  • 不特定多数ではなく、誰か一人に宛てたメッセージにすること。
  • 10分以内など制限時間を設けること。
  • 来年になったら新しいバージョンにすること。

というルールを設けて遺言を書く経験から、今の娘に解る言葉づかいで書くなどの工夫をしながら祈りを遺すという表現もはっとするものであった。

印象に残った文章

親子になるという経験、そして生死そいう、誰にでも訪れる「はじまり」と「おわり」を見つめながら、自分が言葉を探り出す過程をいつか娘に読んでもらうことで、自分自身の過去を切り開き、わたしの見た未来を想い出してもらえたら、と思う。

速度と快適さの論理が支配する現代社会において、逆に芸術という概念が人間にどのような変容を求めているのか、そのことこそが問われている、と結語する。

娘と話していて、彼女が使う言葉の初々しい語感を聴く度に、自分のなかでその言葉の意味が再定義されるのを感じる。彼女は、世界に対する理解がひとつ増えるたびに、同時に新しい表現を獲得していく。そんな姿を眺めていると、もう自分では忘れてしまっていたこどもの頃の「世界の学び方」を再び生きなおしている思いがする。

祈りの内なる声は、他者には聞こえないが、遺言もまた、自分が死ぬ時までは人に読まれない。だから、人が遺言に死後の祈りを託す時、世界そのものー人によっては神や仏といったイメージかもしれないーにメッセージを投げかける。それは、愛でが受け止めたとしても、自分では応答を受け取ることができない、特殊な発話行為だ。

感想

実用的な本ばかり読んでおり、どこか効率的になることや便利になることばかり求めがちな読書遍歴であったけれども、今回の本を読んで美しい言葉に触れ合うことや、短絡的な物事解決にはならないのだけれども思想や哲学、物事背景に迫るような考えについて知識があれば、世界がもう少し違って見えるのでは無いかという感覚に陥りました。

ドゥルーズチョムスキーも知らないですし、アルバースキルヒャーもわからない。何カ国語に同時に触れながら教育を受けた経験も無ければ、言語により思考の領域が違うなんて感覚もいまいちわからない。自分では体験できない価値観に触れられるのは羨ましくも思えます。

また、学問畑の人であるということでアカデミックな感じにまとめてくれているのもとても良い印象でした。今年は易しめの哲学の本や英語や中国語の本を読んでみたいと思うようになりました。

📚 Relating Books | 関連本・Web

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  3. https://kotobank.jp/word/サピア%3Dウォーフの仮説-69545 サピア=ウォーフの仮説
  4. https://amzn.to/3CfgdKJ 抗う勇気―ノーム・チョムスキー+浅野健一対談 単行本 – 2004/1/1 ノーム・チョムスキー (著), 浅野 健一 (著)
  5. http://zokeifile.musabi.ac.jp/フロッタージュ/#:~:text=フロッタージュ(frottage:仏)は,)」に由来します。 フロッタージュ
  6. https://ja.wikipedia.org/wiki/スーザン・ソンタグ スーザン・ソンタグ(Susan Sontag, 1933年1月16日 - 2004年12月28日[1])は、アメリカ合衆国の作家(小説家、エッセイスト、批評家[1])、映画製作者[2]、社会運動家
  7. https://amzn.to/3i4Ls4e 配色の設計 ―色の知覚と相互作用 Interaction of Color 単行本(ソフトカバー) – 2016/6/24 ジョセフ・アルバース(Josef Albers) (著), 永原康史(監訳) (その他), 和田美樹 (翻訳)
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  10. https://typetrace.jp/team.html タイプトレース
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  13. https://amzn.to/3GyuuEQ 精神の生態学 単行本 – 2000/2/1 グレゴリー ベイトソン (著), Gregory Bateson (原著), 佐藤 良明 (翻訳)
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  19. https://jnapcdc.com/LA/wellbeing/wellbeing_0202.html 対談:ドミニク・チェン × 孫大輔「ウェルビーイングを考える」
  20. https://amzn.to/3i5gmtc Stories of Your Life and Others ペーパーバック – 2020/6/11 英語版 Ted Chiang (著)
  21. https://amzn.to/3VCFZQ2 共在感覚―アフリカの二つの社会における言語的相互行為から 単行本 – 2003/11/1 木村 大治 (著)
  22. https://amzn.to/3Z2OHK8 口頭伝承論〈上〉 (平凡社ライブラリー) 単行本 – 2001/4/1 川田 順造 (著)