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植物は〈知性〉をもっている 20の感覚で思考する生命システム | ステファノ・マンクーゾ (著), アレッサンドラ・ヴィオラ (著) | 2022年書評#36

植物に関する本を読みました。

 

 

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📒 Summary + Notes | まとめノート

近年SDGsの話題がよく上がります。その中で動物のケアを行うアニマルウェルフェアが叫ばれ始め、ビーガンの認知度も大きく向上しました。そうする中で、植物を食するのはなぜ動物と食するのと切り離されて良いとされるかという疑問を持つようになりました。

知性を持っていないように見えるからOKなのか。動物のゲップに含まれるメタンガスによる地球温暖化と切り離されるから良いのか。

仮に植物が知性を持っており、意志があるとするのであれば今度は植物すらも食べることをよしとしなくなるのでしょうか。

問題の根っこ

多くの文化において、暗黙の共通認識として人間が最も優れた生物であると当然のように信じられています。生き物の中でも植物は神格化する宗教がある一方で低くカテゴライズされてもいます。

ダーウィンをはじめ植物に関する研究は数多く行われてきたのですが、植物学は中々評価を上げることができず、植物を生物全体の最下位に追いやっているという現実もあります。

動物と違う生活スタイル

植物は動物と異なる性質を持ちます。植物は胃や口がなくても栄養を摂取でき、骨格がなくても直立しており、脳がなくても決定を下すことができます。

独特の生理のおかげで、植物は体の大部分が切り離されたとしても、死んでしまうことがありません。

また肉眼で動きがあまり見えないために、止まっていると思われる植物は光を求めて成長の方向を変化させます。

食用として切り取られても成長を続けられることができ、空気を栄養に酸素を排出したり、光を栄養として成長ができることから、人間の生態系にとって欠かすことができない存在になっています。

20の感覚

さて、植物は目も鼻も耳もない。そうしたら視覚、嗅覚、聴覚、味覚を持っていないのでしょうか。本書ではこれをノーと言います。

根っこは光恐怖症に襲われているかのように、どんな光からも急いで遠ざかろうとする負の屈光性を呼ばれる性質を持ちます。土をゲルに置き換えて生物を育てると、通常よりも早いスピードで根は成長し光から逃げようとするのです。これは植物がその身体の大部分に光受容体を持つからです。

嗅覚と似たような効果もあります。ジャスモン酸メチルはストレスにさらされた多くの植物が放つ化合物で、植物の体調を示すメッセージのようなものです。これは昆虫などに食べられると出ることから、他の植物へSOSの意味をもつとも言われています。

ハエトリグサは味覚ともち、オジギソウは触覚を持つように振る舞います。ある植物の根はクリッキングと呼ばれる音を出すことも確認されており、植物は感覚を持っていると言っても良いでしょう。

未知のコミュニケーション

植物の構造を見てみると、体内でまた植物同志でコミュニケーションをとっていることもあります。

維菅束系では人間の血管のように栄養を伝達し、気孔は水分や光の状態に応じて開閉をおこないます。花粉や種子を外部に届けあい他の植物とコミュニケーションもします。

桜は受粉の時にミツバチが白い色がよく見える性質を活かして白く美しい花びらを咲かせ、赤いさくらんぼの身は葉の間でもよく見えるために鳥を誘き寄せます。食べられたさくらんぼは排泄として異なる場所に種子が運ばれ違う場所で実を咲かせます。

はるかに優れた知性

ここまでの話をもとに、植物が知性を持っているか考えてみましょう。

まず、植物が下等生物として扱われている点に対して地球という星を考えてみます。地球上の生物全体の総重量のうち、植物はなんと99.7%にも及び人間と動物を全て合わせてもごくわずかです。この観点から植物が地球を支配していると言ってもよく聞こえますね。

植物には脳がありません。脳がないなら知性がないのか?そもそも知性の定義を考える必要がありますよね。本書では知性を「知性は問題を解決する能力である」と定義します。

そう考えると、植物は多くの感覚を持ち、また動けない性質ながらも他の生物を利用して動くことが可能であり、自ら栄養を摂りに行ったり、体内をコントロールしたりしていますよね。

根っこは脳のように、数多くの変数を計測し、重力、温度、湿度、磁場、光、圧力、化学物質、有毒物質、音の振動など記録しそれに応じて根を伸ばしていきます。データ処理センターのようですね。

植物について考えるときに、「動かない」、「感覚を持たない」というレッテルを貼っていますが、これまで述べてきたように似たような機能を持っています。

また、動物は植物に依存していますが、植物は太陽に依存していることを考えると、植物は太陽と動物の世界をつなぐ媒体でもあります。

感想

植物は知性を持つのか?という疑問はなかなか難しいよう議題に思います。というのも定義次第でとんちのような話になってしまうようにも感じます。

本書を読んで思ったのは、人類の想像する知性が画一的でまた目に見えない価値観や人間の時間軸に依存する価値観の脆さ的な側面でした。

分子が動き回っているものすごい早いスピードも感じとることができなければ、ガラスのようにものすごい遅いスピードで流れることも感じ取ることができないために、植物のゆっくりな動きや成長も見逃していることが多くあります。

同様のことは対人関係にも通ずることがある気がします。ある時デヴィッドフォスターウォレスがスピーチしたように、人間のデフォルト設定でしか見ることのできない視点があります。

コロナを機に始めた植物のタイムラプス撮影などをしていると、人間はいかに自分たちの時間軸に縛られており、そこから逸脱して物事を理解する難しさがあるのかと感じます。 

 

 
 
 
 
 
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植物を知るためにとても良い本だったように思いました。

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