最近とても気になっている経済学の分野の本について読みました。
📒 Summary + Notes | まとめノート
経済学はコンピューターやAIを使った中で大きく発展した分野の一つだと思います。今までフワッとしがちであった政治政策などの因果関係をコンピューターの力を活用して結論を導き出すという流れはとてもパワフルですよね。
最近、日経テレ東などで活躍される成田さんも経済学の分野で活躍する研究者ですよね。
本書に関しては、経済学で活躍する研究者たちによってどうビジネス課題に活用されているかを紹介してくれるほんになります。
ビジネスパーソンの武器としての経済学
経済学が役に立たないと言われていた背景にサイエンスのレベルでは活発に議論されていたものの、エンジニアリングの範囲まで適用できていなかったということがあります。
http://www2.econ.iastate.edu/tesfatsi/EconomistAsEngineer.Econometrica.Roth.pdf
そのムードを変えたと言われるのが、アルヴィンロス氏のエンジニアリングとしての経済学という論文です。理論が出来上がっていても、個々の事象に対して適用するためにはエンジニアリングが必要になります。
立派な理論ができていても、個別の事象に適用していくという流れが生まれていきます。
本書で紹介されている例はマッチングマーケット、オークションマーケットデザイン、ゲーム理論などです。
マーケットデザインのエンジニアリングとして挙げられているのは価格の設定方法(主に値上げでの需要予測)です。企業が利益を上げる方法として①売上をあげる②コストを減らす、という選択肢がある中で、経済学では3つ目の方法として値上げした際の需要予測をすることで、適切な値付けを計算できます。
GoogleやAmazonが経済学者を多く抱えるのは、広告価格のマッチングであったり、販売価格による売上変化を予想することなどによる利益の最大化のためです。
オンライン上に新しい市場をつくる
第2章では経済学者である坂井氏が実際に関わったオークションビジネスの設計について書かれています。
売り手よし買い手よしのオークションを完成させるために、良いと思われる競り上げ式のオークションの性質を活用したまま、どのようにスナイピングと呼ばれる終了直前での入札に対応するかなどの調整(延長線、キャンドル方式)を紹介しています。
エンジニアリングが重要と重要と1章で書かれていたように、それぞれのオークション市場に合わせた最適なルールは異なるため、個別性を考慮して設計する必要があります。
職人性の側面に目を向けたり、最終的な判断は利用者の満足度を指標にすることにより、仕組み設計をしていくことが大事でしょう。
利益を最大化するツール
本章で紹介されている利益を最大化ツールにFSP-Dモデルというものがあります。F=フリー、S=ソーシャル、P=価格差別、D=データの4要素からビジネス戦略をたて、最大限の利益を目指すモデルです。
フリーにすることにより顧客を最大限獲得し、ソーシャルの力でネットワーク効果による普及を目指します。
多くのIT企業が似たような戦略をとっていますよね。まずは市場での顧客の獲得のために広告宣伝費を費やして、赤字前提で売上を確保。その後に黒字化に結びつけるという流れです。
黒字化させる段階で重要になるのは、多段階価格差別、つまり複数段階の価格設定をしより熱心なユーザーからは多くの費用、ライトなユーザーからは格安の費用を得る価格設計です。Pokemon Goなどを含む多くのゲームは一部のユーザーが高い額を費やし、多くのライトユーザーはほぼ無料でゲームをしていることなども良い例でしょう。これらの結果を見るためにデータを活用します。
FSP-Dモデルを活用しやすい分野の5つの特徴は下記です。
- 限界費用がゼロに近いこと
- ユーザー同士の交流要素があること
- プラットフォーム的要素があること
- 他社と差別化が可能であること
- 熱心なユーザーの出現が見込めること
世界表人の学知に基づく新しい顧客関係管理
この章ではマーケティングのフレームワークCRM(Customer Relationship Management)について紹介されています。CRMは「どんな観点で」「どんなデータを」「どう利用するか」により利益を最大化していこうというフレームワークです。
CRMで大事な考え方の一つに顧客生涯価値を呼ばれる、一人の顧客がいくら稼がせてくれるのかという考え方があります。
獲得したい新規顧客が、中長期的に投資額を上回るリターンをもたらしてくれるのなら、多額の初期投資をしてでも獲得すべきです。
また、上得意客に対して金銭的なベネフィットを与えるよりも、特別扱いを感じさせる非金銭的ベネフィットを与える方が良いケースなどもあります。
会計とESG 価値観とルールの大きな変化をざっくりつかむ
本章では、財務諸表の読み方が紹介されており、投資判断に置いて何を重視するかをファンダメンタルズから見てみるための考え方が書かれています。(アップルとテスラが例)
ESGは最近かなり重要視される考え方となってきました。今後はESGが投資に関する新しいルールになってきており、ESGの取り組み程度により投資対象になるか・ならないかの判断とされてきているとのこともあるようです。
個人的な考えとしては、ESGが投資の重要性を増す場面としては、長期取引の場合であり、投資信託などの運用会社が実施することはあるかもしれませんが、個人の投資家はより短期的な売上の変化やモメンタムの強弱などに左右されることが多い気がします。
ダメな会議はなぜダメで、どうすれば改善できるか
多くのビジネスパーソンの課題は、会議をどう改善できるかですよね。コンドルセ陪審定理によると、集団は個人より正しい判断をする確率が高い、という集合知の威力を強く示す定理であり、集団的意思決定の大切さを解いています。
多数はの判断が正しいために条件があるといいます。①共通の問題に正解を出そうとしている目的の共有②遠慮や忖度などがない独立性、です。
この2つは必須条件と呼ばれています。独立性を手助けする前提として多様性もあります。
人数について書かれた論文も多く存在し、10人以上の方が良いという結論はほとんどなく、アメリカの陪審員の人数もほとんどが6-10人だといいます。人数が増えるとやりがいも少なくなり手抜きをする環境になること、発言時間が減ることがあるため、会議は5人以下であるべきと結論づけています。
感想
経済学の分野に多くの物理学者やCS出身の学者が流れ込んでおり、理論と実践を用いた新しい視点を提供してくれる最近の経済学はとても面白いと思える本でした。
たまに経済セミナーを読むのですが、最新の研究結果をさまざまな分野に渡り紹介されておりとても興味深いです。
日経テレ東大学においても、地域政策や就活などのマッチングなどをどのように解決していくかという話があり、経済学の面白さを伝えてくれています。
このように学問分野の魅力を伝えてくれるコンテンツが増えると、高校生などが興味を持てる機会が増えて、より経済学に対する人気が上がり、学問分野としても良いですし、問題解決につながるというとても良い循環だと思います。
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