ライフイズビューティフル

訪問記/書評/勉強日記(TOEIC930/IELTS6.0/HSK5級/Python)

NUDGE 実践 行動経済学 完全版 | リチャード・セイラー (著), キャス・サンスティーン (著), 遠藤 真美 (翻訳) | 2024年書評42

根強い人気のある行動経済学という考え方の代表的な人物であるリチャード・セイラー先生の本を読みました。

何冊も本を出されているのですが本書はナッジと呼ばれる巧みなしかけというような観点から書かれた本になります。

www.youtube.com

www.youtube.com

一方で、行動経済学の死と呼ばれるエッセーが書かれるなど行動経済学の再現性の無さやその効果の薄さを指摘する声もあることを読む前に知っておきたいことです。

gist.github.com

https://gist.github.com/technohippy/68c8634700e681b5da6db01aa9996149

www.thebehavioralscientist.com

📒 Summary + Notes | まとめノート

ナッジとスラッジ

人はいつも選択に迫られております。アマゾンでものが購入しやすいもの、政府が年金制度を進めるために制度整理することなど、人が何かアクションしやすい(肘で小突く)をナッジと呼びます。子どもが勉強したくなる、どこか旅行に行きたくなるというのもその一つなのでしょうか。

一方でスラッジと呼ばれるものは人が何かしたくなくなるようなもののことを呼びます。解約しようと思ったら解約手続きが面倒でそのままにしておいたり、人の行動を防ぐような工夫でナッジの対局にあるものです。

本書ではナッジの事例を様々取り扱っていきます。

人々は選択できるということを重要視するのですがその選択を良い方向へ介入することがとても重要です。

アメリカは政府規模でナッジの考え方を取り入れ、ナッジユニットを組織しており行動科学の知見を活用したプログラムを提供しています。

en.wikipedia.org

人間は誰でも間違いを犯す

人は選択するときにバカな選択をすることがあるのでしょうか?人の判断に大きな影響を与えるものに経験則があります。経験したバイアスがアンカーとなり、自分が知っている数字や物事を基準に物事を選択することをアンカリングと呼びます。

その他にも身近に見えるものを選択することや、似たものを選択するという「利用可能性」「代表性」など選択に影響を及ぼします。

本書では事故が多いカーブにて人々がカーブがゆるいと勘違いしてアクセルを踏み込みがちなのには理由がありそこに対して線を引くことでカーブにて通過速度が早くなっているように錯覚する仕組みを利用して侵入速度を遅くする試みが紹介されています。

人間は誰でも間違いを犯すことがあり、それは世界があまりにも複雑すぎるからです。その複雑な世界においてナッジを活用して間違いを侵さないようにすることで生活をよりよくする可能性を秘めています。

ナッジの使い方

人が誰にでも間違いを犯すならナッジはとても重要な役割を果たすことができます。世界は欲望が多く、太るけど美味しいものが食べたい、支払いが不安だけれども手に入れたいものがある、などセルフコントロールすることも人は苦手です。

さらに厄介なのは、人が苦手なことに漬け込む事はお金になりますが、人間の弱さを克服することを救ってもお金にならないという課題もあります。

選択アーキテクチャーと呼ばれる良い選択をうながす仕組みが解決策の一つに考えられます。良いデザインと言ってよいでしょう。アップルのiPhoneなどは人々が使いやすいように、簡単にできるようにする、ナッジを使っています。

人々はデフォルトの考えに、誰でも簡単に、楽に使えることを選びがちです。そうするとデフォルトルールに適切な設定をしておくことも多くの人を助けることになるでしょう。申し込みフォームに自分の名前や住所が一緒に印刷されているものや、年金制度に申し込む際にデフォルトとして多くの人に良いとなる選択肢を設定しておくことなどです。

ニュージーランドのアーダーン首相はナッジのちからを使って楽しく人々に強制することなくコロナ対策を実行しました。物事は楽しくできるようにする、というのもナッジのちからです。

スラッジの罠

人々の弱さを理解した上でマイナスになるような働きかけもナッジと同様に理解しておくことは重要でしょう。

サブスクリプションの解約は人々が忘れることを利用したり、現状維持バイアスの罠によりずるずると契約を続けてしまうことが利用されています。(企業の利益につながる)

入るのは簡単なのに辞めるのには大変なものがたくさんあります。

プリンターやカミソリの替刃などは同様に初期投資は低く抑えて、インクや替刃などが大きな利益に繋がります。

会社の経理精算システムなども、会社のシステムを使って高いチケットを買う必要があり、自由に選択できるやすいチケットが買えないなど馬鹿げたシステムもあります。

ナッジの活用例:年金システム

本書で詳細にかかれている例の一つに年金システムがあります。多くの人にとって年金は手助けになり、まず加入してもらうことが大切です。年金制度導入にあたり、企業と協力して手取りの数%を年金口座にいれることを選択できるようにしましたが、手取りが低下することに抵抗のある人は多く消極的でした。

そこで工夫された方法に給与が上昇するごとに数%年金口座に移行できる仕組みで、手取りの減少をなく実施できる制度をしたところ、利用者が上がります。

アメリカでは様々問題はありながらも比較的うまく制度化された年金システムですが、スウェーデンではかなり問題のシステムでした。

スウェーデンは2000年に年金システムを始めたパイオニア的な位置にあり、確定拠出年金口座を作成しスウェーデンプレミアム年金プランと呼ばれます。

https://www.nli-research.co.jp/files/topics/36486_ext_18_0.pdf

加入者は適格ファンドとして認められた運用商品から最大5種類選びポートフォリオを組める状態でした。自身でポートフォリオを整理するように促されて、銘柄選択の際には多くの広告が作られて宣伝が行われました。

さらには2010年に政府がレバレッジを活用するファンドを認めるという失態もありました。

結果、宣伝では過去一時的に結果が良かった手数料の高い銘柄やリスクが高い銘柄が選ばれる事が多くなり、それを最初に選択した人たちは損をしていても現状維持バイアスに捕らわれてなかなか変更も進まない状態に陥りました。

ナッジを巡る議論

本書の最後にはナッジの批判的な内容に対して言及しています。

特にアメリカは顕著だと思うのですが、本書でリバタリアンパターナリズムと書かれているように選択することができる権利を重要に思う文化があります。

ナッジを活用というと強制や選択肢を奪うような印象を持つ批判の声もあるようですが、基本的には強制はなく、後押しするようなゆるい介入です。

強制という批判がある一方で、ナッジではなく強い強制が時には必要なのでは?という両方向の批判も受けているようです。これはケースバイケースなのですが、禁止とナッジのバランスを見て間違いを人は犯す(完璧な結論は無い)という認識をもって調整を繰り返すという事が解決策でしょうか。

感想

行動経済学という考え方ですが、ノーベル賞を受賞したカーネマンから大きな流行が生まれたように思います。

www.nikkei.com

その一方で、行動経済学の死というエッセーが書かれたり、と学問としてどうなの?というような視点は正直残るような印象です。

最近の経済学のような多くのデータを活用して事例を見て系統立てた理解をしていくという考えの足がかりになっているのは理解できるのですが、事例が限定的であったり、効果のあるなしを比較する事例になっていないことが殆どです。

www.businessthink.unsw.edu.au

Probably the best conclusion is that asking general questions like “Does nudging work?” is meaningless. It depends on what choice of behaviour you are trying to influence. The effects of nudging may be smaller and more situational than is often claimed. That sounds less sexy than a psychological intervention that acquired stardom and made government headlines. It's time for modesty. Nudges are not a passe-partout for every policy problem.

何か似たような事があったなと思ったときにデザイン思考についても同じ感覚を持ちます。

www.technologyreview.com

割とカルト的な人気があり、セクシーでかっこよく見えるデザイン・シンキングや行動経済学(心理学)はかなり複雑な因子が絡み合う事例ばかりでそもそも比較する事ができないような物事が多くなかなか事例研究から因果推論に移るレベルの整理をできないものが多いように感じます。

それじゃあ、ナッジは意味ないのか?というとそこまで言い切るほどでは無いですが、受け取る側も人の癖や事例集程度の理解で留めておくというのが良い気もします。

最近の経済学では、ここからデータを活用して行動経済学で語られていた事が再現性あるのか?というような分析研究が多くされており、経済セミナーに掲載されるような事例を統計的に判断できるようになってきた、というのは一つの大きな功績であるように感じます。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/3VbG7ZN ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?
  2. https://amzn.to/3WMl2Gt 社会科学における場の理論 単行本 – 2017/12/23 クルト・レヴィン (著), 猪股 佐登留 (翻訳)
  3. https://amzn.to/4aBJ1ex NO RULES: 世界一「自由」な会社、NETFLIX NETFLIX and the Cultu 単行本 – 2020/10/1 リード ヘイスティングス (著), エリン メイヤー (著), 土方 奈美 (翻訳)
  4. https://amzn.to/4bNq0XL 行動経済学の逆襲 単行本 – 2016/7/22 リチャード・セイラー (著), Richard H. Thaler (その他), 遠藤 真美 (翻訳)
  5. https://amzn.to/3WRX5NT ナッジで、人を動かす ――行動経済学の時代に政策はどうあるべきか 単行本 – 2020/9/21 キャス・サンスティーン (著), 坂井 豊貴 (その他), 田総 恵子 (翻訳)
  6. https://amzn.to/3XafohJ データで見る行動経済学 全世界大規模調査で見えてきた「ナッジの真実」 Kindle版 キャス・サンスティーン (著), ルチア・ライシュ (著), 遠藤 真美 (翻訳)
  7. https://amzn.to/4bNgjZd 正義論 単行本 – 1979/8/1 ジョン・ロールズ (著), 矢島 鈞次 (監訳)