投資が誰にでもできるようになった大きな理由にインデックスファンド、特にパッシブな指標に連動した投資信託があります。SP500やオルカンなどは投資をし始める時にまず聞くようなワードになってきました。
本書はインデックスファンドがどのように始まったのか、始まりはシンプルな指標連動のものばかりだった所から、今では様々なテーマ型の商品が誕生し、最後には近年語られるパッシブインデックスが投資の大部分を占めることになってきた可能性としての弊害や研究結果について語られています。
現時点ではブラックロック、バンガード、ステート・ストリートの3社がその大部分を占めることになっており、ブラックロックはESG投資の観点などからSP500に環境や世の中に悪影響を与える企業が含まれており、間接的にそのような企業へ投資を促しているという批判を受けているために対応を迫られており、ESGという用語を使わない判断などもしました。
現在の投資世界を形作るインデックス投資の歴史を知るとても面白い内容でした。
📒 Summary + Notes | まとめノート
バフェットの賭け
2007年、バフェットが殆どのアクティブファンドがインデックスに負けているということを発言を株主総会で行います。当時、アクティブファンドと言えば多額の資金を獲得しヘッジファンドは全盛となり、多くの人の年金資金などを預かるようになっていました。いわゆる高給取りになっているヘッジファンドは手数料は高く顧客が多くの手数料を取られてしまうことからバフェットは手数料の低いインデックス投資の優位性を唱えます。
ここで賭けに立ち向かったのがヘッジファンドマネージャーのサイディスとプロテジェパートナーズ。2008年からはじめ2016年のリターンでの勝負を行いました。結果はというとインデックスファンドの圧勝。バンガード500インデックスファンドは10年間で125.8%のリターンを得ましたが、アクティブ投資は36.3%に留まり、そこで選択された5つのファンドにおいて一つもバンガード500を上回るものはありませんでした。
インデックスファンドの歴史
1960年代ごろから経済学者が学術的に証券価格の理論を研究していきます。パシュリエの「投機の理論」は証券価格がランダムで予測不能であることを数学的に検証したものです。
1940年代にはウォール街のブローカーをしていたフレッドシュエッドが投資業界に対する幻想を描いた本などもあり、投資のプロが何をしているのか、そこに理論があるのかなど多く研究され始めました。
徐々にわかってきたのは気まずい現実です。プロのヘッジファンドが吟味して選定した売買はダーツをして決めるような投資とあまり結果が変わらないということが見えてきます。マイケル・ジェンセンはミューチュアル・ファンドの結果を検証したコウルズの研究を発展させ、市場全体をアウトパフォームしているところがないことを鮮明化していきました。
マーコウィッツは「現代ポートフォリオ理論」を発表、シャープがCAPM、ファーマの「効率的市場仮説」など多くの投資家に影響される考えが発表されていきます。
これらの研究結果はパッシブ運用の可能性を見出すきっかけとなりました。この時代、計算機の発展もあり、より正確な計算が可能になりつつありました。シンクフィールド、レバロンなどはSP500に連動するような銘柄組み合わせを低コストで効率よく作成できないかということを考え実現に向かいます。二人それぞれ別のタイミングでパッシブ運用ができることを突き止めましたが、問題になったのは当時のヘッジファンドマネージャーにベッドすることが楽しみであった投資業界で、指数に連動する商品というものは見向きもされず資金が集まりにくいものでした。
SP500の連動型商品が成立したのはウェルス・ファーゴでした。1976年にトラッキングエラーが1〜2%程度にできる商品が成立されました。ほぼ同時期に、アメリカンナショナルバンク、バッテリーマーチと3社がパッシブ運用商品を販売しており、誰が最も早かったのか、正確にインデックスと呼べたのかというのは様々議論があるようです。
バンガード
1960年代に突如ジョンBアームストロングという正体不明の金融業界関係者が「ミューチュアル・ファンドの運用について」という論文を発表し、ミューチュアル・ファンドはダウ・ジョーンズの指数に大幅にアウトパフォームをしていると強調したパッシブ運用を揶揄する内容を世に出します。後にわかったのはパッシブ運用の巨塔となったバンガードの創業者ボーグルが著者でした。なんと最初はパッシブ運用の否定派でした。
ボーグルはウェリントンと呼ばれるファンドで働いていましたが、会社を追い出される自体になり、新たな会社としてバンガードを設立します。ボーグルはサミュエルソンのコラムを読み、後年のモットーである「戦略の前に仕組みありき」と感化され、インデックスファンドという仕組みをバンガードの軸にしました。
バンガードは当時新興ファンドであり、「低コストのパッシブ運用」というのは伝統的な高コストのアクティブファンドと差別化要素になります。簡単に言うと、ボーグルはそこまでパッシブ運用に対して希望を抱いていたといよりは、追い出されたファンドから独立したタイミングで成功するために必要であった戦略がたまたまあたったという感じに見えます。
この本を読んで初めて知ったのですが、「ウォール街のランダムウォーカー」の著者マルキールもバンガードのパッシブ運用に感銘を受け働くことになったようでした。
1979年、401Kプランが導入され、アメリカ国民の年金を株式ファンドへ投入されることが大幅に増えることになります。この波にバンガードはどこよりもうまく乗ることができ、30億ドルほど運用額が達すると、1980年代にはその額は400億ドルにも達しました。
SP500に連動する商品が中心でありましたが、その後バンガードはインデックス投資の商品の多様化を進めていきます。より大きな市場全体に投資するVTSMなどが生まれていきます。
ステート・ストリートとブラックロック
パッシブ運用は新たなステージに向かいます。ETFと呼ばれる上場型の投資信託の登場です。これはアメリカの税制でも売却しない限りキャピタルゲイン税の支払いがないことなど多くのメリットがありました。1993年にSPDRと命名されたSP500連動型のETFがステート・ストリートから発表されます。夏には3億ドルを達成し運用コストの回収に成功しました。
ETFは多様化を進め、MSCI指数に連動するもの、ナスダック100に連動するものなど様々増えていきました。
他には2008年に起きたリーマンショックをきっかけに、バークレイズはその北米部門を買収することになった一方で自身も資金調達の必要性が大きくなりバークレイズの資産運用部門を売りに出す必要性が出てきます。ブラックロックはETFの市場獲得のためにこの話に飛びつき買収に踏み切ります。
ブラックロックは1999年に全身のブラックストーンから独立したフィンクとシュロスタインにより開始されます。バークレイズのiシェアーズシリーズを手にすることになったブラックロックはヘンリー・フォードが自動車業界で成し遂げたことを投資の世界で実現し、どこよりも効率的に仕事をすることで、最大規模のインデックスファンドとなります。
近時代のインデックスファンド
聖書の教えに忠実なネッツリーは中絶やポルノと関連のある企業に対する投資を行わないで済む「聖書の教えに即した責任ある投資」シリーズのETFを開始します。エネルギー、鉱山、ゴムメーカーなどの企業を投資対象から外すなど行いました。テーマ型のETFの登場です。テーマ型のETFは爆発的に増え今では4000社ほどに及びます。
ETFなどのインデックス投資は今では投資規模の大部分を占めるにまで拡大していますが、これによる市場への悪影響をうたう声も増えていきました。ユニリーバはイギリスとオランダに拠点を置く企業であり本社をオランダに移動することを発表すると、イギリスの指数から除外されなければならないためにイギリス指数に連動したインデックスからも除外されることになるため多額の投資資金が流出することを懸念し本社機能の移転を断念。市場規模の小さい新興国ではインデックスファンドが所有する割合が大きいために、国の格付け変更によるインパクトが増大しました。
マイケル・グリーンやユージン・ファーマ、エリオットなどインデックス投資による弊害を度々提唱しています。この議論は研究の世界でも多く取り扱われて現在でも明確な答えは出ていない状態です。
感想
インデックスファンドの黎明期のアゲインストな空気、インデックスファンドの設立や年金との関係から大きな拡大をしていく様子が鮮明に記録されているとても面白い本でした。今では当たり前のように言われている市場平均への投資も当初はアクティブ投資全盛で目物ファンドマネージャーへの投資が人気だった時代には懐疑的に思われていましたが、経済学者やバフェットなどの活動により今では投資規模の大部分を占めるにまで至ります。
現代でこれだけインデックス投資が増えるとたしかに弊害が多く生まれつつあるという事もよく分かります。ポジショントーク的な側面も多いと思いますが、市場規模の小さい、規模の小さな銘柄にとって指数への組入れに応じて株価が大きく動くという現象はテスラの際にも起こりました。ただし、この影響は日に日に減ってきているという研究結果もあるようです。最終章には多くの研究論文の引用もあり、日頃ブルームバーグで見るような意見のより正確で中立的な視点から著者がコメントしているものも多くあったのも勉強になったので、参照文献も目を通したいと思いました。
📚 Relating Books | 関連本・Web
- Bloomberg podcast https://www.bloomberg.com/podcasts/series/trillions
- 現在の世界情勢、市場が織り込んでいる以上に危険-エリオット創業者 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-10-19/S2SACST0AFB401
- https://amzn.to/3X9mktu 投資家のヨットはどこにある? (ウィザードブックシリーズ) (ウィザードブックシリーズ 175) 単行本(ソフトカバー) – 2010/12/10 フレッド・シュエッド・ジュニア (著), 岡本和久 (読み手), 関岡孝平 (翻訳)
- https://amzn.to/4eaavKy ウォールストリート流株式投資必勝法 単行本 – 1987/8/1 L.エンゲル (著), B.ボイド (著), 宮本 倫好 (翻訳)
- https://amzn.to/3TienkA 証券投資の思想革命―ウォール街を変えたノーベル賞経済学者たち 単行本 – 2006/12/1 ピーター・L. バーンスタイン (著), Peter L. Bernstein (原名), 青山 譲 (翻訳), 山口 勝業 (翻訳)
- https://amzn.to/3Xz6GJz 大暴落1929 (日経BPクラシックス) 単行本 – 2008/9/25 ジョン・K・ガルブレイス (著), 村井 章子 (翻訳)
- https://amzn.to/3XfAqtE アルファを求める男たち――金融理論を投資戦略に進化させた17人の物語 単行本 – 2009/9/25 ピーター・バーンスタイン (著), 山口 勝業 (翻訳)
- https://amzn.to/3ZiuiTU 金融工学者フィッシャー・ブラック 単行本 – 2006/4/20 ペリー・メーリング (著), 今野 浩 (翻訳), 村井 章子 (翻訳)
- https://amzn.to/3XytkS5 チャールズ・エリスのインデックス投資入門 単行本 – 2017/12/1 チャールズ エリス (著), 鹿毛 雄二 (翻訳), 鹿毛 房子 (翻訳)
- https://amzn.to/3ZiulPA 航路を守れ: バンガードとインデックス革命の物語 単行本 – 2021/1/25 ジョン・C・ボーグル (著), 石塚順子 (翻訳)