久しぶりに小説を読んでみようと言うことで台湾で有名な小説で日本語に翻訳されている向日性植物を読みました。

著者の李屏瑤さんもそうであるように同性愛者の女の子たちが主役であり、高校から社会人になる多感な時期を繊細な心の動きを時に美しく、時に哀しく描かれています。時代感のわかる描写も多く、授業中にメモを回して意思疎通していた時期から、携帯による連絡に変わる事。台北の街の様子や台湾では強く除外されていたレズビアン文化を併せて描かれています。

台湾のレズビアン文化の古書としてある鰐の手記という本が有名なようで本書でも度々出てきます。この著者の邱妙津は数年後に自殺し、また台湾のレズビアンである女子高生二人が駆け落ち先のホテルで自死するという事件もあり（彼女たちは台湾の名門校であり、その校長は彼女たちがレズビアンであるという事を断固と否定したことも含め）台湾の同性愛者に対する排他的空気はものすごいものだったそうです。

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2000年からは大きな民意の流れがあり、同性愛者に対する理解が大きく変化があり、台湾ではアジア初となる同性婚が認められました。

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このような大きな変化の中で、哀しい結末がつきものであった同性愛者たちの物語に今までにない結末の物語を書きたいというモチベーションに描かれたものが本書であったようです。元々は日本の２ちゃんねるのような所で描かれていた物語は人気を呼び出版社に持ち込むと出版しようと言うことになり、会社を辞めた後に作家デビューしました。

向日性植物

作者:李屏瑤
光文社

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📒 Summary + Notes | まとめノート

高校時代から大学時代

物語は高校時代から始まります。まだ同性愛者との認知が無い主人公の女の子は女子高に通い、そこで何人かの同性愛者の先輩やクラスメイトに出会います。

先輩との恋愛関係もありましたが彼女の受験のため距離を置くことになります。先輩の友達も同性愛者であり、家族との衝突も描かれています。

当時の台湾では同性愛者に対する嫌悪感がものすごく同性愛者とわかると家族は病院へ連れていき異常者であるような扱いをします。そこで存在を保つためには台湾大学や政治大学という名門校へ行く事が求められ受験勉強の末、彼女たちは台湾大学へ合格します。

主人公は高校時代に同性愛者であることの認識を強め、ある時髪を切ると母親に気が付かれることになり衝突がありました。さらに父親は中国に単身赴任をしていましたが次第に中国でパートナーを見つけてしまい二人は離婚へと向かうことになり、父親は中国へ移住しました。この物語では違うのですが、当時の台湾では同性愛者と分かると家族関係が崩れてしまうという問題も抱えていました。

二人暮らしを始めた先輩たちの部屋へ訪れるなど関係を続けていましたが、受験を機に距離ができ同級生と恋愛関係へと進みます。それぞれは仲もよく複数人でもでかけたりという描写が多くあります。

台湾大学や政治大学ではアンダーグラウンドでレズビアンが集まる場所があり、当時の社会性も描かれているのですが、あまり公にできないような環境であったようです。同性愛に書かれた本にメモを挟んで集まりの事を伝えるなど密かな活動でした。

卒業をするとアメリカに留学するケースも多くあったようで、自由を得るためには勉強を求められました。

社会人時代

大学を卒業した先輩たちはアメリカへ留学し二人は様々な場所へ旅行をしては主人公へ手紙を出したり電話をしたりします。たまに帰ってきた時に会ったりする機会はあったものの、一人の先輩とは壁を作り中々コミュニケーションをせず、来る連絡は全て無視してしまいます。

社会人になると忙しく働き出す一方で、高校時代に同性愛者であった友達が結婚するなどのイベントも経験していきます。その友達は高校時代の誕生日で「異性愛者になれますように」と祝っていたという話も回想されたりします。

台湾の雨が懐かしいというような描写も海外へ出ていった人ならではの表現で面白いものでした。

物語の最後は一人の先輩の病死があるのですが、それをきっかけに台湾へ戻ってきた先輩と関係を戻すことになり、二人の生活が始まり物語は終わりへと向かいます。

感想

同性愛者について、また同性愛者のコミュニティや時代背景など含め少し認識を深める事ができる内容の本でした。個人的には全ての人達はそれぞれの悩みや困難があると思っており、愛する人の性別だけでなくても、社会制度や生まれた環境、親の金銭的な余裕のあるなしなど全て違い、全てを理解するのは困難ながらも想像を膨らますことで当事者たちの事を理解しようとすることしかできないものだと思っています。

自分がただマジョリティに属し、マイノリティの事を時に認識すらしていない・生きづらさを理解できない事があるのですが、マイノリティに属す困難は今回の物語から感じる事ができました。

著者と同世代という事もあり、時代背景が自身の経験と重なるものが多くノスタルジックな文化が多く見れこんな時代もあったのかと懐かしく感じられる事も多くありました。

台湾の同性婚の社会背景など全く知らなかったので、この物語で何回も同性愛者の生きづらさの背景から最近の改革の流れ、さらにはアジア初の同性婚を認めるという政治的動きも興味深いものです。台湾は比較的外に出ていく人も多いイメージでしたが一昔前まで独裁的な政権が続いており、最近のオードリータンの活躍や性別に対する考えからもっと自由なイメージでしたがそれらは最近の事だったようで、政治への参加意識が高いイメージに繋がりました。

こう見てみると日本の保守の空気は政治にも社会制度にも蔓延しており全ての変化が遅く改革も困難で良くも悪くも変わらない生活が続いていいるのに、隣の国では色々と変化が起き、それに対する物語も描かれ広く支持されているという現実に絶望する感覚を覚えます。

物語に登場する音楽や映画、物語について下にリストしましたが、それらもまた時間を見つつ楽しみたいです。学生時代を振り返ると今の世の中は限りなく良い方向に向かっていると思いますが、より変化を遂げた隣の芝生を見ると羨ましくも思ってしまいます。