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両手にトカレフ | ブレイディみかこ (著) | 2024年書評2

年始にいつもと毛色が異なる本も読んでおこうということでブレンディみかこさんの両手にトカレフを読みました。 小説は没入感高いので読むと数日その内容を考えてしまったりと脳の中に刷り込んで入ってくる感覚があり、ダヴィンチや小説好きが多く居る理由もわかるなあと感じました。

 

📒 Summary + Notes | まとめノート

ものがたり

主人公の14歳のミアは家庭事情が問題のある団地に住み、ドラッグにおぼれて仕事がままならない母親と幼い弟と生活します。スマホは持っているものの通信費の支払いもままならないために図書館で本を読んで過ごす事が多く、ある日マルクスのような髭まみれのおじさんから金子文子の本を渡されて読むことになり、本の物語と彼女の物語がリンクしながら交互に話が進んでいきます。

タイトルにある両手にトカレフはミアが書いたラップのタイトルから来ています。学校の課題でラップを書く事があり、それが評価されクラスの音楽部でビートメーカーのウィルがミアに懇願して書いたリリックでした。

ミアの家庭事情からくるストレートなリリックはリアルであり、ウィルの友達でラップをしているいかにもラッパーのように振る舞おうとするリリックは響くものが無くミアの書くものに惹かれていました。

最後にはウィルとのラップを披露することを約束し希望のように描かれております。

話のキーになるのは金子文子の物語です。おそらくある程度事実を踏まえて書いているのだと思うのですが、親から見捨てられ、引き取られた叔母の家でも恐ろしく嫌われて寒さに凍えながら意識が失われそうになるまで罰を与えられて死のうとするところで自然の美しさに気がつくという話が描かれていまいた。

ミアは家庭の問題があるために万引きしなければ行きていけない、制服も変えないからスカートも短くなる、弟はいじめられてネクタイを無くしてしまうが買うお金も無い。

1ポンドでご飯が食べる事ができる炊き出しのようなカフェシステムがありそこで飢えを凌ぐ。

著者ブレンディみかこさんについて

著者のブレンディみかこさんについて少し調べていたのですが、自身も貧しい境遇であり、また現在はイギリスのブライトンに住み、その場でのルポを多く書かれていた方のようです。

globe.asahi.com

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ブライトンはどうやらあまり恵まれた地域では無く、学力としても低い地域である一方、最近では学校で豊かな文化的活動が行われているようです。

物語の中にもラップを書く課題があったりとそういった生活背景から取り入れられているものなのでしょう。

インタビューを見ているとどうやらイギリスも社会問題が根深く、女性問題や貧困問題も顕在化しているようです。ミアのラップでは無いですが、そういったリアルが描写に現れているための没入感の高さがあるのでしょうか。

貧困問題

比較的保護主義的な姿勢が高そうなイギリスでも貧困問題は根深いようで、アメリカほどでは無いとは思いますが格差社会というのは世界どこでも存在しているのでしょうか。

自身も振り返るとクラスに風呂に入ってないと思われる友達や遊びに行くと結構びっくりするレベルの家に住んでいる友人が居たことを思い出します。

仕事で東京に出てきて比較的に棲み分けされた社会になっているように思うのですが、地方では結構入り混じっている状態が多い気がします。そんな中やはり虐め問題につながることや学力差や機会差につながるというのは中々難しい問題に感じます。

親に問題があり子供が逃げられない状態であり、親が再生施設へ行くと兄弟が分かれて新しい土地で生活をしなければならないというのは、仕方ないと思いつつ子供の感情としては辛いものがあるでしょう。

運命と言ってしまえばそうですし、そういったハングリーな経験が生み出す成功への原動力もあると思うので全てマイナスであるとは思わないものの、その負のサイクルから抜け出せない状態にハマっている子供たちが居るのも事実なのでしょうか。

金子文子

金子文子さんという存在は知らなかったのですが、多くの影響を与えた方のようで、23歳という若さで獄中で亡くなったようです。

16歳まで過酷な生活をし17歳から上京し学問意欲に掻き立てられて1920年代の共産主義の影響を大きく受けて活動家として活躍していたとされているようです。

関東大震災を機に朝鮮人が爆弾で混乱させようとしているという噂やおそらく共産主義者たちへの脅威から捕まり投獄されました。

ja.wikipedia.org

www.fumiko-yeol.com

アマゾンプライムでも映画があったので見てみたいと思います。この短い人生を生きた共産主義の波に飲み込まれた女性がなぜここまで知られているのかもっと知りたいと思います。

感想

著者のブレンディみかこさんの他の作品を見てみると貧困や女性問題など取り上げられている話題が多く、そこをリアルに見ている著者だからこその描写が考えさせられるものがあります。

個人的には格差は逃れようが無いものであるが、格差が大きくなる中で貧困の層も相対的に水準が上がるようになるしか解決できないものなのではと思っているために、相対的な格差は存在するものの絶対的な水準は上がっていく事が解なのかなと感じています。

気がつけば何十万もするスマホを一人一台持って無防備に生活しているのですが、昔を振り返るとタダ同然で携帯を入手できている状態です。仮に自分が貧困状態にあって食べるのも困る状態であって土地に慣れてない旅行者などが居れば窃盗するモチベーションになるよなとも思います。

金子文子さんという共産主義無政府主義の思想を持った方の話も出てきていたのも興味深かったです。個人的にはリー・クアンユー回顧録の影響もあり理想的ではるが実際的では無いと感じており、現にロシアや中国で失敗したというのもあると思っています。ただ、時代背景が変わればその方法ができるとも思いますし、現にビットコインのような無政府主義的な思想のプロダクトで成功している事例もあります。しかしながら、成功の原動力には壮絶なマイニング戦争や一攫千金を夢見た投機などのコミュニズム思想のかけらもないアクションがあるのは確かでしょうか。

いつも触れないような作品を読んでみると改めて自身の趣向の狭さやそれによる新しい物事へのふれあいが阻害されていると感じます。人におすすめしてもらって本を読むという事をもっと素直にやりたいと思いました。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/3NNxobV 何が私をこうさせたか――獄中手記 (岩波文庫) 文庫 – 2017/12/16 金子 文子 (著)
  2. https://amzn.to/3H0TUdG 金子文子 わたしはわたし自身を生きる―手記・調書・歌・年譜 (自由をつくる) 単行本 – 2013/3/1 鈴木 裕子 (編集)
  3. https://amzn.to/48wG0wd 金子文子:自己・天皇制国家・朝鮮人 単行本 – 1996/12/5 山田昭次 (著)
  4. https://amzn.to/3H9kiSx 余白の春: 金子文子 (岩波現代文庫) 文庫 – 2019/2/16 瀬戸内 寂聴 (著)
  5. https://amzn.to/48kobAm 常磐の木 金子文子と朴烈の愛 単行本 – 2018/4/11 キム ビョラ (著), 後藤 守彦 (翻訳)
  6. https://amzn.to/3NLVEva 思想をつむぐ人たち ---鶴見俊輔コレクション1 (河出文庫) 文庫 – 2012/9/5 鶴見 俊輔 (著), 黒川 創 (編集)