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リー・クアンユー、世界を語る | グラハム・アリソン (著), ロバート・D・ブラックウィル (著), アリ・ウィン (著), 倉田真木 (翻訳) | 2024年書評1

あけましておめでとうございます。

2023年は書評を時間ができたこともあり小学生以来100冊以上を読めた年になりました。集中する習慣をつけたいと思い始めた習慣ですが、中々集中するという行為が苦手になっておりスマホYoutubeを見てしまう事で読書のスピードも上がらなかったのは反省点です。

一方で読書を通じて様々な見聞に触れるという行為の素晴らしさも体験でき、久しぶりに近所の図書館を利用するなど公共サービスも活用したことで税金を払っている事も悪いことでは無いのかもと思えたりもしました。

2024年は集中の質を高めてより読書量を増やして、アウトプットする機会として書評もタイムリーに読んだものすべて書けるようにしたいと思います。

さて、今年1冊目の書評は以前回顧録を読んだリー・クアンユーの本になります。回顧録の時から見るとだいぶ年を重ねたリー・クアンユーのインタビューを本にしたものなのですが、シンガポールの成功を体験した後に中国、アメリカ、イスラム教、グローバル化や民主主義について各章毎にテーマを分けて内容が纏められておりとても面白い内容でした。

📒 Summary + Notes | まとめノート

中国の未来

中国は国を世界に開放し大きな発展を遂げました。共産主義社会を目指していた親とも言える立場のソ連は国家予算を軍事予算に注ぎ込み過ぎて、民生用の技術に回す事ができず大きく失敗しました。

中国はその点うまく学びとても不安定な時期を鄧小平が国を世界へ開放することで危機を乗り切ります。

2013年時点のインタビューではありますが、リー・クアンユーの視点では中国の軍事力はまだアメリカには到底及ばず、また中国自身が勝ち目の無いことを理解しているために40、50年は少なくともおとなしくして、敵をつくらず微笑んでいるべきであると言います。というのも、軍事力による支配でなくても東南アジアを中心に自由貿易圏が発達しており、中国への依存度を高めており自分たちのルールに従ってかつ国際ルールにのっとり貿易ができている外交政策で影響力を高めているからです。

中国がアメリカよりも教育・経済で発展するのかという問いについて、言語や文化的側面で可能性は低いと見ています。中国は外国人にとって習得が難しい言語の一つである上に、中国語で教育を受けた自国民たちはある種4000年の文化を処世訓が刻まれている状態です。

中国は昔から各地方に小皇帝が乱立し中央が支配的に押さえつけてきた文化があります。統治制度はインターネットやスマホなどテクノロジーにより外界との接点が増えた事により時代遅れのものになりつつあり、更に歴史的に広大な土地からの資源や労働力で支えられていた経済もグローバル化により他国の資源も必要となります。

法による統治ではなくて支配体制による統治は簡単に言うと、想像や創造を制限する文化習慣を押し付け、それを守らせることで見返りを与えるため、アメリカの創造の文化とは正反対のものです。

中国の問題は、制度の改革、企業風土の変革、腐敗の減少、新しい考え方の形成など簡単に解決できるものでは無いと指摘しています。

アメリカの未来

それではアメリカはどうでしょう?アメリカは債務超過や赤字など多く悩まされる事がありますが、2流国家に転落することは無いと見立てています。

その理由に、歴史的にアメリカは改革や再生の能力が高く、幅広い独創性、新しい発想や技術を取り入れて競争する多様性、優秀な人材を引き付けアメリカに無理なく溶け込ませる社会など強みがあります。英語のメリットも大きなものです。

過去、日本やドイツなどの大きな経済成長と反対にアメリカは何度も危機的な状況がありましたが、日本では終身雇用制度、ドイツは強い労働組合、フランスは人件費カットの保護、など保護制度と言う名目の成長を抑える仕組みができてしまっている。

アメリカはリスクや失敗を成長につきものの不可欠な要素だとし、また各国の制度を吸収しながら変化を続けています。ゼロからスタートしてのし上がるアメリカ文化は強みです。

優秀な人材が中国へ流れていると言われる事がありますが、優秀な人材の多くはアメリカに向います。英語という世界言語を公用語にしており、最先端の科学技術、またアメリカのドルが主要通貨である事も強みでしょう。

アメリカ政府の懸念は次の選挙で票を獲得するためには「与える」事が求められます。その競り売りは借金となり、次の世代が支払う事になる。国民に苦い薬を飲ませると再選されない。また選挙には優秀なメディア担当がつき、広告合戦でもある。このような選挙制度では、チャーチルルーズベルトド・ゴールのような大統領は誕生しないでしょう。

アメリカ文化においては、個人の権利が拡大したことにより、銃、麻薬、凶悪犯罪、ホームレス、公共の場での無作法が拡大しており受け入れがたい状態です。個人至上主義の理念は行き過ぎると機能しなくなるという事が表面化してきています。能力の低い人たちには適切に与える必要があり、シンガポールでは実施されている社会制度も多くあります。

インドの社会

インドは1つの国家というよりも32の異なる民族集団であり、たまたまイギリスが統治したことにより国家となっている。問題なのは有能な人材を育てて国のトップに就けようという意識がなく、カースト制度という文化背景から人材の棲み分けが生まれた時から始まる。

インドの経済は人口ボーナスや中国と比べると透明性が高く強みもあります。一方で、高速列車や良質な空港は無く、中国がしたような国民を農村部から都市部に移住させる必要ある中でインフラ整備不足により機会損失の可能性を孕んでいます。

また、外国の投資に懐疑的な文化もあり、内向きの経済なのですが、グローバル化が進んだ今では自立政策は難しくあります。もう一つの文化名残りは公正な分配に執着していることです。成長の初期に所得を分配することは、さらなる成長を遂げるのに必要な資本の蓄積を遅らせリスクになります。貧しい人々の生活水準を上げるには分配するパイを大きくする事が第一であるために、うまく振り分けなければいけません。

国家の経済成長

シンガポールの国政に着手した時に、アメリカのように人材が社会に溶け込め優秀な人材が来てくれること、周囲の国で起きていた腐敗ではなくクリーンな制度であること。投資家にとって信用できる投資先であること。英語で教育を受けた人材で科学技術を大切にすることを実施しました。

国民には優しく、そして少しずつ働きかけることで圧力のない浸透を心がけてきました。

国家の成長力と競争力向上の根源は人材、人口統計です。そのために政府が積極的に育児推奨し、産児制限に関与する必要がありました。移民の受け入れとともに、人的資源の獲得を実行しました。

シンガポールで足りないものには起業家精神のある人材が不足していることです。平均的な労働者としての生産性をもたらすことはできる一方で。目立つことに対する抵抗があるというアンケート結果もあり、向上心を持って集団の利益を上げる精神を持つ人材が必要です。

現在では、労働者も機械のように同じ作業をしていれば良いのではなく、自分の知識やスキルを高めなければいけません。自分を管理し、監督し、アップグレードする事が求められます。英語は必須のスキルであり強みでは無くなっています。成功したければ英語をマスターするべきでしょう。

民主主義の未来

指導者の務めは、国民に自信をもたせ、自分の脚で立たせることです。苦悩や葛藤を共有することではありません。国民の人気取りや世論調査を気にするような指導者は弱い指導者です。

民主主義の失敗がパキスタンミャンマーで見られました。制度を取り入れただけで成功するものではありません。民主主義の成功には2つの条件があります。

  • 関心をもち厳しい目をもつ有権者に選挙させ、世論のちから、つまり国家を運営するために選挙で選ばれた政治家の力で統治すること
  • いつでも政権交代させられるように、公正で有能な政党を複数置くこと

1人1票制度は一貫性に欠ける結果になることもあり難しい制度です。制度上、国民に最もアピールしやすいのは、単純かつ感情に訴える政策です。経済発展や進歩というわかりにくいものではなく、例えば、民族や言語、宗教や文化に誇りをもとう、といった単純な内容です。

リー・クアンユー個人としては40〜60歳の子供を持つ世代は比較的に子供の未来を考えるために30歳以下の気まぐれな若者よりも真剣に判断しようとする傾向があるために、それらの世代に2票与えて60歳にて返還するという制度が良いと考えています。

リー・クアンユーの考え方

  • 完全に平等なものは存在せず、生き物は生まれながらに平等ではない。非常に競争意識が高く、ソ連や中国の共産主義がうまく機能しなかったのは富を平等に分配しようとしたからです。
  • 旅に出ると、その社会や行政がどのように機能しているかを観察する。なぜうまくいっているのか考える。そして書物意外からヒントを得る。有識者との議論は相手が蓄えた知識や経験、エッセンスを引き出せるため重要視している。
  • 大英帝国の最果てにいるイギリス人たちは、暴力をふるう必要がなかった。テクノロジーや商取引や知識の観点で、イギリス人は優れていた。シンガポールに侵攻した日本人から、権力の意味、権力や政治の関係を知り、生活のために人々が権力機構にからめとられることを学んだ。
  • 若者世代は横暴な敵国に苦しめられた記憶がない。
  • 文明社会がいかに脆弱か私はしっている。
  • 私が取り上げたいのは、単純かつ明快な書き言葉、英語の重要性だ。小説家のアーサー・ケストラーヒトラーの演説が話し言葉ではなく書き言葉であったら、ドイツ人は戦争に突き進まなかっただろう、と鋭い指摘をしている。
  • 私はわずか20年で、時代遅れの貿易をしている国を国民が食べていける国に変えなければならなかった。豊かさを分かち合う以前に、富を築く必要があると思っていた。富を築き、向上心や意欲をかきたてるには、成果をあげたい、リスクを冒しても利益をあげたい、そうしないと何も手に入らないと国民に思わせる事が不可欠だ。
  • 欲求を持つことも必要だ。第一に、自分が何を手に入れたいかを考え、第二に、望みのものを手に入れるためにどう自分を律したり準備をしたりすればよいのか考える。第三に、気概や体力だ。
  • 中国の停滞はその傲慢さと自己満足が原因だ。イギリス使節だったマカートニー卿は1793年、産業革命の驚異を手土産に北京を訪れる。清朝皇帝の乾隆帝は、心を動かされなかった。「我々に足りないものは何一つないし、貴国の製品は一つも欲しくない」と言い放った。
  • アメリカの起業家精神には4つの特徴がある。①国が個人の自立と独立独歩を重視すること②新規事業を始めたものを尊重すること③企業や確信の努力が失敗しても受け入れること④大きな所得格差を容認すること
  • 人材を探す際にはシェル社のチェック法が最適であり「ヘリコプター資源」と呼ばれる3項目①分析力②論理的に事実を掌握する能力③エッセンスを引き出して基本事項に集中する能力
  • リーダーとして尊敬できる人物は、ド・ゴール、鄧小平、チャーチル

感想

シンガポール建国の父リー・クアンユーの示唆に富む内容の本でした。生涯にわたり外国から多くの学びを得て各国の利点や問題点を理解しながら自国に対して何ができるかという視点にて、民主主義の良さを教授し社会主義的な側面も取り入れながら大きな発展を遂げた事実は他には無い唯一の成功事例として目立ちます。

アメリカが自然発生的に発展した一方で、叡智を集結させて自国の立場を理解したある意味人工的な発展はシンガポール意外には無いのではないでしょうか。

本書ではイスラム原理主義に関するインタビューもありその内向的な考えやテロに対する恐怖に対して、原理主義的ではない平和を願う本来のイスラム教の考えを持つ人達の活躍も期待する回答もありました。

選挙のような美人投票システムの問題点も理解して、有権者が優秀になり多くの人が投票する必要性も説いています。

今年は多くの国で選挙が行われるためにまた変化の多い年になりそうですが、世界が少しでも良い方向へ向かうことを願っています。

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