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悪意の科学: 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか? | サイモン・マッカーシー=ジョーンズ (著), プレシ南日子 (翻訳) | 2023年書評112

昨今、「分断」「対立」などと称された悪意のある行為が様々行われています。9.11のテロやハマスのテロ行為そしてイスラエルの入植行為からヒラリークリントンへの反投票行為など様々です。

単純に考えると進化の過程で悪意と呼ばれる行為は少なくなっても然るべきだと感じますが現代では無くなるどころかインターネットという拡声機能を使ってますます蔓延してきているようにも思います。

本書はその分断がなぜ起こるのかを悪意という観点から紐解いていきます。

英書ではタイトルが「Sprit」とあり、そちらの方が読んでいてすんなりと受け入れられるイメージでした。最後の章にはその悪意をどのようにコントロールしてうまく付き合うべきかを良し悪しの点を踏まえながら解説もしてくれています。

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📒 Summary + Notes | まとめノート

人間の4つの顔

人間の行動にはコストと利益という観点から①自分と他者の双方に利益をもたらす協力行動、②自分だけが利益を得るように行動する利己的行動、③自分がコストを負担する利他的行動、そして④自分と他社双方に害を及ぼす悪意のある行動があります。

今まで悪意のある行動意外は多くの研究がされてきましたが悪意のある行動についてはそこまで多く研究されていません。利己、利他、協力、悪意という4つの側面を持つことから様々な事象を読み解きます。

日常にある悪意

悪意は日常にあふれています。

  • 特定の候補者を落選させるためなら、対立候補が好きでなくても対立候補に投票する。
  • 自分が残業すれば他の人も残業すると思いあえて残業する
  • 後ろの人が車間距離を詰めてきたらわざとブレーキを踏む
  • パートナーに腹が立ったら、自分も空腹になるのを覚悟でまずいご飯を作る
  • 隣人に深いな思いをさせるために自分の庭に醜いものを置く

ワシントン州立大学のデヴィッドマーカスは一般人にこれらの質問をしてアンケート調査を行うと5〜10%の人が当てはまると回答しました。

ケルン大学のヴェルナーギュートは最後通牒ゲームを行いました。隣の部屋に居る二人が片方の提案した額の金額を合意すれば双方に金銭が支払われ、合意できなければ双方はお金を得る事ができないゲームです。

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オファーが0ドルではない限り、程度の差はあれ双方が得するゲームであります。このゲームでは例えば10ドルの総額であり2ドルのオファーが来ると人々は断るという事がコンセンサスです。

これはアメリカの経済学者エリザベスホフマンが金額を変えて高額にしても同様の傾向でした。これは学歴のあるとされている属性でも同様であり、ただでいくらか貰えるよりも相手の方が多く受け取っているという悪意が勝ったものでした。

面白いのはとある民族になると低額のオファーが来ても受け取り、とある民族になると拒否の度合いがさらに高まるという文化的違いや、また酔っ払った人や自制心を弱らせたグループの人たちはより低額オファーを断る傾向も見られました。

選挙活動でも悪意は見られます。マークエームズという記者は2004年に「悪意の投票者」という記事を掲載。選挙に行く人たちが特定の候補者を嫌がらせするためにわざわざ投票所へ行くと記しました。これは自分よりも知識のあり成功した人たちに対する抵抗活動と纏められています。

支配に対する抵抗

人類学者のクリストファーボームは我々が進化する中で平等主義と権力志向双方を進化させてきたと言います。狩猟採集社会では限りなく平等主義を実践していた時代であり、権力を求めるメンバーは許容できなかった結果支配する層が生まれました。平等主義のメンバーからはそのような人々は殺される事もあり、また平等主義とうたわれる社会に男女差があったなども事実です。

つまり人間は支配的側面、反支配的側面双方を持ち合わせる生き物です。

人間が正義を守るのは脳に快感が起こるからであり、MRIスキャナーで観察したところコカインを摂取できると期待する麻薬中毒患者の脳の活動と類似していたとの研究もあります。

最後通牒ゲームにおいて低額オファーが来た際に怒りの脳領域が活発化する人はオファーは拒否される可能性が高くあります。悪意を働くうえで怒りが重要な役割を果たしており、怒りを減らすと悪意も減る事が研究でわかりました。

怒りを化学物質であれ、電流であれ、コントロールすることで悪意もコントロールできるという事が解明されてきました。

最後通牒ゲームにおいては支配者に対する抵抗やそのオファーに対して手紙でメッセージを送り「欲張るな」などの安いコストを払うとより受け入れるというような結果もありました。

ホモレシプロカンスという特的のタイプは不公平な扱いを受けるとコストのかかる罰で仕返しをするタイプも見られました。これらは善人ぶる者への蔑視も含まれます。

理性に逆らっても自由でありたい

ハーバード大学の心理学者ラムダスは人間は正しくあるよりも自由でありたいと願うものだと言います。ブレイブハート効果と呼ばれる事象を見てみましょう。

人間は自由への脅威を感じるとブレイブハート効果と呼ばれる自由を守る行動をします。それは悪意と密接に関わっており悪意のある行動を時に起こします。

一方でブレイブハート効果は良い側面もあります。人類を月に送るという計画は今までの不可能を可能にした原動力でもありビジネスや科学技術の進歩には必要な感情でした。

ただし、政治に対しては逆の場合もあります。ヒラリークリントンとドナルトトランプの選挙ではヒラリー・クリントンに投票しないように促す心理が働いたと言われています。

ピュー・リサーチ・センターの世論調査によるとトランプに投票した人のうち53%が、トランプを支持しているというよりもクリントンを勝たせたくないから投票したと回答しました。驚くべきことにこの中でコストを加味した中で、つまりトランプが勝ったら心配であると答えた人々も13%居たという調査結果でした。

この中にはトランプが大統領になることで一度仕組みを戻す、いわゆるカオスな状態になることを希望する層も一定数いました。

その他にもヒラリー・クリントンは自ら悪意を刺激したこと、悪意を刺激されたことなども効果がありました。クリントン対立候補にあったサンダースを支持していた層にはクリントンは不当に支持されておりクリントンはそれを肩入れしていると感じていました。同じ民主党支持層の中においてもサンダースを支持していた人たちはクリントンに投票する事に気が進みなかったとされています。

トランプは「悪党ヒラリー」と呼称し、自分たちの権力と金を守れるように不公平なルールを実行していると非難。さらにはヒラリー自身が「家に居てクッキーを焼いてることもできたが、職業を全うすることを選んだ」と言った発言は家事をする女性たちを見下しているという印象を持たれマイナスに作用しました。

これはアメリカに限ったことではなく、イギリスのブレクジットの際も同様です。コストを払ってでもマイナスの効果が予想されてもそちらを選択する悪意のある行動はどこでも存在しています。

悪意をコントロールする

悪意のある行動原理について様々あることを知った中で、それではどう悪意に対処すれば言いのでしょうか。

悪意は時に正義を守る手段としてとても重要な役割をします。

悪意をコントロール方法の一つに民主主義があります。悪意のあるものの意思を抑制し全体解を得るための仕組みが民主主義です。

興味深い話に典型的なロシア人とアメリカ人の農家が品評会で自身の牛が選ばれずに隣人の牛が選ばれた場合にアメリカ人は隣人よりも立派な牛を育てようと富の総量を増やす方向に自分たちも裕福になろうとしますが、ロシア人は隣人の牛が死ぬのを夢見て富の総量を減らすことを考えるという物語があります。

最後通牒ゲームにおいて低額オファーを受け取るようにするために、相手の行動のさまざまな理由を考え、より合理的に考える事も悪意の行動を抑制する手段の一つとされます。いわゆる認知反射と呼ばれるバイアスを理性で覆らせる事ができる人たちはオファーを断ることが少ない結果があります。

端的に言うと、何かあった時に反射的に理性的な判断をするか、できない場合は少し立ち止まって考えるようになるべきということでしょうか。

これは瞑想や怒りをコントロール訓練も手助けになります。

一方で、低額オファーを受け取った時に黙って損をするべきなのか?というと、正しいタイミングで怒りを使い適切に対応するべきでしょう。それは相手を破壊することではなく、相手のためを思い、相手の持っている特性を破壊するという事に眼を向けるべきである。

感想

悪意のある行動に関して幅広い研究結果や文学を用いて解説したとても面白い本でした。

人々はコストを受け入れてでも悪意のある行動を起こし、それは怒りの感情とも密接に関係しているというのはとても腹落ちしやすい内容ではないでしょうか。

酔っている際の判断能力の低下や怒りの感情があるために合理的な判断が欠如してしまうという点も納得しやすいものです。

自分自身は反射的に理性的な判断ができる人であるのかということを見る方法に認知反射で確認してみることや、それができなければ相手の行動の背景を考えて少し時間を置いてみたり、瞑想などで感情のコントロール方法を身につける事はわかりやすい対処・訓練方法に思います。

この対処を難しくする背景には人類活動がSNSに依存するようになってきたことも考えられます。バイアスのかかったものや明らかな間違えとわかるような考え方を発信し怒り感情を呼び起こすような扇動的な発言が飛び交っており接する機会が無限にあります。

こういった情報へのタッチポイントをうまくコントロールすべきであるものの、最もコントロールするべき人たちはさらにのめり込みコストを顧みない悪意のある行動を起こしているとも考えられます。

トランプの当選やブレクジットなどは一種の悪意のある行動例として取り上げられております。これらの判断が間違えであるかどうかは結論の無い話でありますが、その結果を見て数年後冷静に振り返り、トランプも意外とイケてたんじゃない?いやいや駄目だったなどと自分で思考する能力を身に着けていく事も大事でしょう。

そのためにも正しく知ることや、両方面の意見を認識するといった行為をできるように自分自身でも注意しながら感情コントロールできるように心がけたいと思いました。

📚 Relating Books | 関連本・Web

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