男女の賃金差に焦点をあて研究を行いノーベル経済学賞を受賞したクラウディアゴールディンの著書を読みました。
時代の変化とともに過去1世紀にあたる女性の労働環境やピルなどの技術環境を振り返りつつ賃金差の原因を見ていきます。
📒 Summary + Notes | まとめノート
5つのグループ
本書では1900年ごろからの女性の労働環境を区分けしています。
- 1900-1920年代:家庭かキャリアか
- 1920-1930年代:仕事のあとに家庭
- 1950年代:家庭のあとに仕事
- 1970年代:キャリアのあとに家庭
- 1980-1990年代:キャリアも家庭も
この中で主に注目しているのは初婚や結婚経験、出産経験、大卒経験などです。
日本でも同じ傾向にある印象がありますが、元々大学を卒業する人は男性が割合が高く女性の大卒率は少ないものでした。第1グループに至っては大卒率が5%以下でありあしただ、40%ほどまでに現代では伸びています。これは男性も似たような傾向があるのは事実で女性の割合と比例しているような傾向もあります。
興味深い考えに「男性は知的な女性を嫌う」という社会文化もあったようで大卒の女性が結婚する率は低く、一方で当時の研究が示すには大卒の女性の結婚に不幸なものは少ないともしていました。
時代が進むと女性が仕事で活躍していく時代に移り変わります。経済発展の結果として洗濯機や掃除機など家庭の仕事の時間や負担が減っていくことで家庭に時間を割かなくても良い選択肢が生まれていきます。
職場においてもタイプライターなどの機会も生まれ、女性が仕事をできる機会も徐々に増えていきます。「マリッジバー」という女性の雇用を制限する法律もあり既婚女性の雇用の壁になっていたりもしました。
1950年代になるとマリッジバーも削減していきます。既婚女性の障壁とされていたものが緩和されていきます。第二次世界大戦後の世の中はベビーブームでもありました。そうすると子育てのあとに仕事をする人たちも増え始めることにも繋がります。
第四グループになると、ピルの発明の影響を受け始めます。時間とお金の投資を必要とされる法律、医学、学問などの分野においても女性が時間を使う事ができるために活躍の場が広がります。
それに伴い上昇したのが結婚年齢と離婚率です。大学を卒業してすぐに結婚していた女性たちは働くことを選択し、結婚年齢は上昇。キャリア思考へのシフトも始まります。女性割合が多かった仕事である看護師やソーシャルワーカー、事務職、教師などから、弁護士、経営者、医者、教授、科学者などの割合が増えていく結果となりました。
第5のグループでは不妊に関する知識の発展もあり、出産を遅らせた場合のコストについての理解も増えてきました。
この年代になるとキャリアと家庭を両立させる事ができるようになってきます。
格差は中々なくならない
これらの変化が起きた後でも中々格差はなくなりませんでした。グッドイヤー社で起きた女性社員のリリー氏は女性であるということで給与が低かったことなど会社に対して訴訟を起こすなど女性の賃金差について注目が集まります。
実態として男女の賃金格差として女性は70−80%程度に留まります。さらにこれは年齢を重ねて20代から50代になるほど顕著な開きになっていきます。
様々な要因があり明確な答えは出ていないのですがいくつか原因が紹介されています。
チャイルドペナルティと呼ばれる言葉があります。女性は出産後仕事のペースを落とすなど出産をきっかけに収入が落ちてしまう現象です。さらに日本などではチャイルドペナルティがまだ北欧などに比べると大きい状態でもあります。
チャイルドペナルティが起きる理由には職場での拘束時間にもあります。インフォサービスの企業などでは職場で待機できる人材に対して給与を上乗せすることがあります。その場合、その仕事に対応できるのは男性の割合が多くなり男女間の賃金格差をもたらすことに繋がります。
また、職場に居ることで、他者との接触や対人関係(社内、社外双方)ができることで仕事の結果への変化も生じる事があるのは事実です。
パイプラインの漏れと呼ばれる現象もあります。女性の方が昇格する前にその場を去ることです。アップオアアウト(昇進するか去るか)などの職場で出世コースから外れてしまう状態にもあります。この理由は時間的な要求にこたえることができない性別の違いもあります。
現代での変化
現代では企業としてパイプラインの漏れを防ぐ方策なども生まれつつあります。明るい話は賃金格差は未だに残っておりますが減りつつあることです。
コロナ禍で始まったリモートワークなど仕事での柔軟性も理解されつつあります。
仕事や国のケアのシステムが変わりつつあることは良い事ではないでしょうか。
感想
様々な統計データから女性の賃金格差を正確に把握しそこにある問題の理由をまとめていく面白い本でした。
現代では保育システムの整備などシステムとして女性が職場復帰しやすくキャリアを諦めなくても良い制度が整いつつあるものの、実態として男性よりも女性の方が家庭へ時間を割かなければいけない傾向はあると思います。
また、身体の違いにより女性の方が繊細な体調であることもディスアドバンテージでしょう。これらを完全に埋めることを望まなくても良いかもしれませんが、少なくともその事実を理解して優秀な人たちがキャリアを諦めるというシチュエーションを減らすのは社会全体としても有意義なのではないでしょうか。
時代間の違いを見ると現代が今までで一番良い環境といえる事も分かります。一方で今まで男性というだけでどれだけ下駄を履いてる状態であったかということも理解できます。
個人的には意思決定をする人により給与を与えて欲しいと思っており、そこに男女の違いはかかわらないと思うものの、仕事に割ける時間的なビハインドがある女性であるとその決定のために十分な情報を得られにくい、人間関係を築きにくいようにも感じます。
解決策があるのかは分からないですが、本書の最後にかかれているようにまずは内容を正確に理解することから始められることのように思いました。
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