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教養としての決済 | ゴットフリート・レイブラント (著), ナターシャ・デ・テラン (著), 大久保 彩 (翻訳), 上野 博 (監修) | 2024年書評29

昨年末シンガポールを訪問したのですが、地下鉄やバスがすべてVISAのタッチ決済で済むためにとても便利でした。聞く所によると韓国でも同様になっております。一方で日本といえばSUICAなどの決済でドメスティック対応をしている形であり、海外からの来日者がシンガポールほど手軽ではない状態になっています。

他国でクレジットカードベースで決済ができる所が多く、最近では中国でもWechatとクレジットカードが連携できるために便利になりました。香港に行った時には日本と同形式でSUICAのようなシステムにクレジットカードから充填してApple Payで支払う形です。

決済方法の違いについてなにかシステム的な違いがあるものなのかと思いクレカ含めた決済の本を読んでみました。

📒 Summary + Notes | まとめノート

決済とは

バートランド・ラッセルは「数学原理」にて決済の概念を当事者から別の当事者へお金が移動する行為と言いました。法律上では決済は「負債を免除する方法」とあります。少し哲学的な話に聞こえるのですが、負債がありその交換手段として決済があるという議論は故グレーバーも言及している話題であり、人類学者としての彼の主張はたいていの貨幣は、はじめから取引可能な負債であったということのようです。

現在では決済の手段は様々あり、古くからは貨幣、小切手、株券などあり、現在ではクレジットカード、QRコードなどの電子決済などあります。

これらは実際に銀行からお金を動かさなくてもできるのですが、それを可能にしているのは帳簿があるからです。銀行ではお金の移動が帳簿上で行われて高度なデジタル帳簿が実施されています。

決済には3つの課題があり、それはリスク、流動性、慣習と言います。

リスク:お金と商品が受け取れないリスク

流動性:銀行での一定の資本維持や、国を越えた銀行間での返金しやすさなど

慣習:周囲の人々がどの方法を用いているのかで決済手段が変わること

リテール決済では慣習の重要度が高く、その点アップルペイやクレジットカードはその課題解決の好例でしょうか。

決済の歴史

決済の歴史は古いですが今でも使っているものに現金があります。1ドルの決済にも20ドルの決済にも使えて便利な一方で、高額紙幣は市場に出回る機械は少なく犯罪によく使われています。現金は匿名性が高く、また取引コストもかからないために物理的なかさばりを除くと違法行為で使われる事が多くあります。最近ではインドの事例のように高額紙幣をなくす動きもあります。

現金はATMなどのメンテナンスコストから北欧などでは使われないような流れになってきています。先進国では貧困層になればなるほど現金の依存率が高く、キャッシュレス化の動きを進めていく一方でしわ寄せを受けやすい貧困層が居るというのも事実です。

プラスチックカード(クレジットカード)はおよそ50年前に導入され、ニューヨークのレストランで月末の後払いを実施するためにダイナースクラブが利用を提供し始めました。その後アメックスが続き、その後にバンク・オブ・アメリカマスターカードが4コーナーモデルという仕組みを生み出します。4コーナーとはカード会員、加盟店、カード会員の銀行、加盟店の銀行でありカード会員と加盟店はカード発行会社と加盟店に手数料を支払経由して決済を行う方法です。

その後クレジットカードに技術的な革新が起きます。エンボス加工したカードが誕生し磁気ストライプができ、POS端末が生まれます。さらにはVISAがPINのシステムを作り、今では遠隔決済(EC)などで多く活躍しています。

その後さらに進化したのはペイパルyアップルペイなどのモバイルウォレットです。またヨーロッパではデビットカードの利用が進み、クレジットカードはアメリカ内でその手数料は受け入れられ、中国はヨーロッパと同様に銀聯カードという独自システムとなりました。

決済システムはネットワーク効果に依存し、最適解が生き残るわけではありません。戦術した慣習の部分と大きなひも付きがありますが、その地域で支配的な決済手段があればネットワーク効果により他地域のより効率的なものが勝てない側面があります。

ケニアではエムペサと呼ばれる決済手段が銀行口座を作れない貧困層に大きく広まり誰しもに使われるものになり、中国ではアリペイやウィチャットペイが大きなキャンペーンや利便性もあり大きく広まりました。

決済の経済学

決済には見えない手数料が多く潜んでいます。クレジットカードは加盟店が手数料を払い、ATMの引き出しの手数料は消費者が、為替取引にも手数料があり、隠れたコストがあります。決済の収益は現在、個人消費者、企業、銀行ほぼ当分されているようですが、消費者が購入する商品やサービスに決済するための手数料が上乗せされている事は認識するべきでしょうか。

テクノロジー革命

フィンテックと呼ばれる業界は一時期バズワードとなりました。ジャック・ドーシーはスクエアにて決済端末をスマホに繋いで決済できるようにしました。決済はレガシーインフラに支えられている点や、各国の規制があるために成約が多い分野です。

ネオバンクと呼ばれるイギリスのMonzo、Starling、RevolutやドイツのN26など低金利と低手数料の銀行が従来の銀行と差別化を行いました。日本でもSBIなどや楽天などが代表的でしょうか。

従来の銀行は大きな資金を持つ高齢者を多く顧客に持ちますが、ネオバンクは若年層が多く薄利である側面もあるようです。

クレジットカードにはアクワイアラーがおり加盟店から手数料を徴収しています。アクワイアラーは決済端末が幅広いキャッシュレス決済に対応した端末を提供し、また詐欺などのペイバックシステムも用意しているために加盟店にとっても利益のあるサービスを提供しています。

アクワイアラーが大きなビジネスチャンスとなりフィンテック企業は決済システムの安全性やマネーロンダリング防止機能を強化しました。最近では大手クレジットカードでもポルノ、麻薬、犯罪などの決済可能性のあるものに対して厳しく制限をしています。

決済の摩擦を減らそうと革命を起こしたのはアマゾンのワンクリックペイメントやアップルペイなどでしょうか。通常決済時に不正防止のためにカード番号やCVVコードの入力が求められていましたがアマゾンのワンクリックは文字通りクリックするだけで注文が完了するようになりました。

最近ではBNPL(今買って後で払う)のテック企業も増えてきました。クレジットカードの規制は多くありますが、BNPLの規制は整備されておらず、見えにくい負債をプラスして支払ったとしても今買うという決済手法が広まりつつあります。

アメリカのVenmoは小額の現金を互いに送り合うアプリで幅広く使われています。Venmoは多くの決済データを集積することを目指しているようですが、現段階では決済データでマネタイズはしておらず今後の活用を見据えているようです。

感想

決済システムの枠組みから、フィンテックや規制の話、また決済システムをハックした犯罪など幅広い話題に振れられる本でした。決済システムはローカルルールがかなり多くあるため規制との兼ね合いでビジネスモデルが大幅に変化してしまいますが、その中でも国際ブランドとなっているクレジットカードVISA、マスターの強み、またアップルペイの地位確率の凄みを感じる事ができました。

決済の摩擦(心理的ハードル)を減らすことを考えると普段持ち歩いているスマホでパスワードの入力など無くタッチするだけで支払えるというのはスマホハードウェアを持っている企業の強みに感じます。最近フォートナイトとの裁判になっていたアップルストアの手数料もプラットフォーマーの強みを存分に活かしてますよね。

決済サービスについて無知な所が多いのでいろいろ勉強していきたいです。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2022/12/special/lazarus/ 北朝鮮ハッカー集団「ラザルス」とは何者か?
  2. https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/kess/i14.htm RTGS(即時グロス決済)とは何ですか?
  3. https://www.boj.or.jp/paym/outline/kg73.htm コルレス・バンク
  4. https://kabukiso.com/column/otoku/neobank_campaign.html ネオバンク
  5. https://www.sbpayment.jp/support/ec/card_beginner/about-acquirer/ アクワイアラとは?その仕組みと役割を解説
  6. https://amzn.to/3x9TzDD 波乱の時代 上 単行本 – 2007/11/1 アラン グリーンスパン (著), 山岡 洋一 (翻訳), 高遠 裕子 (翻訳)
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